METAL GEAR NEXISーNew generation gearー 作:saver
久々の一万字越えでちょっとばかり長くなりました。
世界情勢に日本以外の国家も追加しましたので是非。
横浜沖に存在するIS学園、その管理域は今世界で最も不可侵なエリア、その一つだ。
多くの一般人に混じって国家代表候補生というVIPが幾人も集う世界でも類を見ないほどに稀有な場所であり、限られた数しか存在しない超兵器[インフィニット・ストラトス]が多く収容され、そこいらの軍事施設よりも厳重な警備と監視が敷かれている為だ。
並大抵のステルス能力では種別のみならず国籍すら看破され、直ちに迎撃されてしまうであろう厳重な警備網は偵察衛星や最新兵器、特殊部隊並みの高度な訓練を受けた警備員と他ならぬISにより行われ、非合法に忍び込んだ間者は意図的に見逃されたものを除いて帰還した者はいない。
そんな海域の中で、悠々と泳ぎ回るものがいる。
それは尾を持ち、脚があり、翼があり、頭があった。
それを見た人はペンギンだと言うかもしれない、或いはシャチだと言うかもしれない。
だが、それのいずれでもない。
なぜなら、その身体は鋼鉄ーー正確には鉄の十倍ものユゴニオ弾性限界を持つセラミック装甲と均質圧延装甲による積層装甲ーーで出来ているからだ。
ペンギンのそれと似た形の翼には大型のクローアームと備え付けられた火器類は発見した侵入者を容赦なく海の藻屑と変えるだろう。
シャチの頭だと言われれば見えなくもない頭部と背中に装備された最新鋭のアクティブソナーから発せられる機械音と共に守護すべき学園に対する不届き者がいないかを常を見守っている。
その名はメタルギアGRACE。
日本国自衛隊において[20式水陸両用二足歩行戦車]と呼ばれ、学園周辺に計30機が6機ずつローテーションで警戒網を形成する最新型のメタルギアで、IS学園防衛の要だ。
「くぁ……ふぁ」
「飯尾さん……やめてくださいよ、眠気が感染るじゃないですか」
そんなメタルギアのコックピットの中には2人の男がいた。
長時間の任務を想定した特別仕様のコックピットには冷蔵庫、給湯器、簡易トイレが備え付けられている。
そこで欠伸を嚙み殺すことなく零し、淹れたばかりのコーヒーをボトルからチビチビと啜る男性と、それを窘める男性。
彼らは上官と部下の間柄であるようだった。
「しょうがねえだろ、ローテ組んでるって言ってもこんな狭っ苦しい所に野郎と2人っきりだ、退屈で死んじまうよ」
「退屈は人を殺しません、堕落させるだけです」
いくら広いとは言っても、機動兵器のコックピットである以上その広さは推して知るべしである、戦車よりはマシと言うだけで狭いには違いないのだ。
「禅問答してるんじゃねえんだよ刈谷、ンなこたどうでもいい
俺はこんなクソみてえな仕事終わらせて、ベッドに飛び込みたいんだ」
「そりゃ同感ですが、せめて仕事中はキチっとしてください」
「わっーたよ……なあ、分かったからタバコ吸っていい?電子タバコなんだけど」
「スティックチョコパンの封を開けた時の窒素ガスみたいな臭いがするから嫌です」
「具体的……」
「そもそも精密機械満載の密室でタバコって時点で論外です」
生え散らかした無精髭をなぞる壮年の男、
彼らは防衛省が組織した
陸上自衛隊、警察、民間警備会社から選び抜かれた精鋭へ更に訓練を課し、それを耐えて課程を修了しなければならないが、手取りは50万円は堅く、賞与も最低額が100万円、週休3日、福利厚生も万全とあって人気の職である。
飯尾は元警察の
「空調はしっかりしてんだ、いいじゃねえかタバコくらい」
しかしながら、ここは世界に名を轟かすIS学園であり、世界的に見ても治安の良い日本である。
立場やその他諸々の事から鑑みても、ここに喧嘩を吹っかけるアホはいやしないーー飯尾はそう考えていた。
「冗談は私服のセンスだけにしてください、もし計器類が壊れたり誤作動起こしたらどうするんですか?自衛隊と違って予算は潤沢なので壊れても変えすぐに回って来るでしょうが、報告書作って提出するの飯尾さんなんですからね」
無論、当のIS学園では各国の思惑やらなんやらが交錯しているだろうが、自分の任務はIS学園の警備である為に関係はない。
こうして欠伸をかき、愚痴の一つや二つを漏らしてもバチは当たらない、そう考えていた。
刈谷も飯尾を窘めてはいるが、概ね同じ考えである。
ここに照準を向けると言う事は、世界を敵に回す事に他ならないのだから、余程の歴史的大馬鹿者が相手でない限りは有事など起こるはずは無い。
事実として、ここに勤め始めてから早くも5年が経つが、下着泥棒の1人ですら入ったことがないのだ、故に気が緩むのも当然である。
そんな事を考え、緩んでいたからなのだろうか、突如としてコックピットに機械音が鳴り響いた。
「んぁあ!?」
「は、反応!?」
飯尾がルーチン的に前方へ発したアクティブソナーが感知した反応。
クジラでは無い、クジラはこんなに小さくない。
イルカでも無い、イルカはおろかシャチだってこんなのは無理だ。
かと言って何処かの原潜でもない、東京湾の浅さじゃメタルギアでもないと隠密潜行なんて不可能だ。
そしてメタルギアでもない、水中でこんな速度はありえない。
「70ノット以上だと……?」
「まさか魚雷!?」
近代の魚雷はキャビテーション現象を利用したスーパーキャビテーションを用いることで200km/h以上を平気で叩き出すが、これはそれよりも遅い。
だが、それでも海洋生物と言うには早過ぎるし、反応が小さ過ぎた。
更に言うならば、原潜並みの探知範囲を有するGRACEの警戒網に引っかからなかった隠密性……。
そう、これはまるでーー
「いや、魚雷じゃない…・これは、まさかISだと言うのか……!?」
「どこの世間知らずだ!?脳ミソが火星まで吹っ飛んでんのか!?
ここがどこだか、まるで分かってねえのかよ!」
「翼腕部、脚部を巡航形態より戦闘形態へ移行完了!ローテ中各機へ警報送信!」
「パトロール04から本部!
≪HQ了解、学園全体に緊急警報を発令する、パトロール04は直ちに警告と迎撃を用意せよ≫
「パトロール04了解!」
「航行中の所属不明機へ告ぐ、貴機は日本国並びにIS学園の主権領域を侵犯している!直ちに所属と目的を述べ、こちらの指示へ従え!繰り返すーー」
刈谷は無駄だと分かりつつも警告を再送し続ける、無論返答はなかった。
こんな所に、こんな状況を作ってまで侵入してくる奴が、何かの間違いで来る筈がないのだから。
「……ッ!パトロール04から本部へ、アンノウンから返答を認めず!退避しつつ迎撃をおこなーー」
「敵機更に加速!100ノット!こちらを指向しています、回避間に合いません!」
「ーー自爆装置作動!!」
急接近した敵機の迎撃はおろか回避も間に合わないと判断した飯尾は自爆装置を機動させ、緊急脱出装置を作動させる。
「ベイルアウト!」
そしてややあって、轟と水中に巨大な火の玉が産まれ、海底のヘドロ諸共海水を吹き飛ばし、大きな水柱を東京湾に作り上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ーー時は少しばかり遡る。
例によって例の如く、アリーナは観客でごった返していた。
しかし、前と違うのはこれがクラス内部での抗争ーーもといクラス代表決定戦ではなく、学園公式の試合という点だろう。
「落ち着きませんね、箒さん」
「そ、そんな事はない!私はいつも通りだ!」
そう言うも体は正直と言うべきか、先ほどから貧乏揺すりが止まらないあたり、これから鈴さんと戦う一夏さんの事が心配なのだろう。
因みに、セシリアさんは報道対応に追われておりまだ来ていない、開始までには間に合うだろう。
結局、[甲龍]の事は殆ど分からず終いだった。
自主トレをする鈴さんを盗み見てはいたが、やはりクラス対抗戦を意識してか、やっていたのは基本的なマニューバや、無闇矢鱈に大きい青龍刀を用いた近接コンボの錬成である。
特徴的過ぎる非固定浮遊部位の肩部スパイクアーマーの用途が気になる所だが、その正体は終ぞ掴むことは叶わなかったのだ。
恐らくーーというか確実に[甲龍]は近接戦闘タイプだろうから、アレは近接戦闘を行う上で何がしかの役割があるのは確実である。
推進機なのか、武器を格納しているのか、はたまた凶悪な見た目にそぐわぬショルダータックルでもキメてくるのか、推察は出来るがどれも決め手に欠けるものだ。
中国と言えば、現国家代表の
前回のモンドグロッソで披露した、両手と脚部にマウントしたチェーンソーを自由自在縦横無尽に振り回して相手を切り刻む"
「まあ別に実戦ではなく試合なのですから、命を落とすような事は万が一を考えてもあり得ませんし、その万が一の事態が起きてもここの医療スタッフは優秀です」
「だから心配などしていない!」
「私は箒さんが心配しているなどと、一言も言ってませんけどね」
「うっ……」
やはり図星のようで、箒さんは恥ずかしげに俯く。
わかりきった事ではあるが、一夏さんを取り巻く恋愛事情は複雑怪奇であり、まるで下手な三文芝居でも観ている気分である。
しかも不愉快なのは、そこに私が組み込まれているらしい事だ。
「(まさか、セシリアさんのみならず箒さんからも恋敵であると認知されているとは)」
これはつい先日報道部の人間から知った事であるが、私は
甲斐甲斐しくISの手解きをしたり、普段一緒にいる時が多い事からそう判断されたようだがとんでもない、勘違いも甚だしい。
ISの手解きをするのは一つでも多く貸しを作って少しでも多くの情報やツテを入手する為である。
普段一緒にいる時間が多いのも、それに付随してあわよくば[白式]を手離したタイミングで情報を解析する為だ。
何度も言うようだが私の好みはタバコや葉巻、大型バイクや車が似合うハードボイルドでシブい年上の男性であり、決して一夏さんのような優男ではない。
やれオジコンだジジコンだと言われようが知った事ではない、人の好みは千差万別十人十色が世の常なのだ、理解できないならそれで結構である。
……そりゃあ、面と向かって大真面目に"あんな事"を言われてしまえば、一夏さんを大なり小なり意識してしまうのは仕方のない不可抗力であり、本心ではない(と、思いたい)。
私としては、箒さんにしろセシリアさんにしろ、秋風が立ち扇とならなければ良い。
更に愛、屋烏に及ぶとなって全てが丸く納まれば最上だ。
直接自分に関係のある事ではないとはいえ、周囲がギスギスするのは気持ちが良いものではないのである。
良い日常とは健やかな精神、健全な環境からなるものだ。
不安要素なんて一つでも少ない方が良い……目指す未来も、歩んだ過去も血塗れなだけに、心からそう思う。
「……ま、どうあれ男子3日会わずば刮目して見よなんて言いますし、彼の成長に期待する他にないのでは?私たちに出来るのは祈るか応援するだけです」
別に会ってないわけではないし毎日顔を合わせてはいるのだが、心情的な問題である。
「それは、そうだが」
「彼にしても、そんな心配してあたふたしてるより、いつもの調子で応援の一つでもしてくれた方が嬉しいと思います」
「……うむ」
そう頷くと、箒さんは漸く貧乏揺すりを辞め、いつもの凜とした表情を取り戻す。
「すまないな、みっともない所を見せた」
「いえ、ご友人を心配されるのは当然のことですから……っと、始まるようですね」
照明が消え、アリーナの中央がスポットライトに照らされる。
そこにはいつの間にやら1人の女性がマイクを持って立っていた、報道部の部長である。
真っ赤なタキシード、蝶ネクタイ、右目の眼帯と珍妙な格好であるが、その姿は薄ぼんやりと透けており、立体映像である事が伺える。
『ISがその名を世に轟かせて早10年、様々なISが産まれ、消え、その遺伝子を継いだISが産まれてきました
アメリカが、ロシアが、中国が、そしてこの日本も、その雌雄を決するべく凌ぎあってきたのです
その戦いの最高峰こそ、かの種別国家対抗戦モンドグロッソ
ですが、戦いの舞台はモンドグロッソのみに非ず、そして先鋭はモンドグロッソに非ず、ではその先鋭はなんなのか?
そう、世界各国の選び抜かれたエリートである国家代表候補生とその専用機!厳しい選考をくぐり抜けたパイロットの卵達が集うこのIS学園!ここで行われる様々な対抗イベントこそ!その時代の最先端を行くのです!
そして、ここにその戦端を開く一大イベント!学年別クラス対抗トーナメントの開催を!!ここに宣言します!!
それでは、一年生の部、第一回戦選手、入場ッッ!!』
ワァァッ、と大きな歓声が上がる。
観客は元より、司会の報道部員からしてボルテージは最高潮だ。
「……暑苦しいな」
「いいんじゃないでしょうか、私は好きですよああゆうの」
うん、やはり司会とはああでなくてはならない。
場を盛り上げるのが彼女達の役割だ。
『先ずは一年一組!女の世界に一人きり、白き鎧に身を包み、刀担いでやって来た!その手握るは実姉が誇るかの剣!世界最強に俺はなる!世界唯一の男性ISパイロット!織斑一夏だァーーーーッッ!』
総合格闘技の謳い文句のような紹介と共にカタパルトから飛び出したのは白銀のIS、我らが一夏さんの[白式]だ。
特に変わりはないが、胸部アーマーと肩部非固定浮遊部位には日本所属であることを表す日の丸の識別章と"表向きには"[白式]を製作した倉持技研と、その親組織である倉持工業のロゴマークが記されている。
一夏さんから進んで記したとは思えない、恐らくは何処からか要望があったのだろう。
……私の予想通りアレを作ったのがかの"天災"であるならば、己の作品にロゴマークなぞ貼り付けられたらキレそうなものだ、何事なければ良いが。
『続きまして一年二組!師との契りを胸に抱き!滾る熱情烈火の如く!来たぞ中国四千年!!中国国家代表候補生!!凰鈴音だァーーーーッッ!!』
[甲龍]も[白式]同様、中国の識別章と協賛企業のロゴマークが大きく記されている。
ふと思ってパンフレットに記された特記事項に目を通すと、"参戦者は国家代表候補生であるか否かに関わらず所属を明らかにすること"とある、どうやら識別章をペイントするのは決まりであったらしい。
協賛企業、或いは開発企業のマークは単に宣伝の意味合いがあるのだろう。
所属が決まっていない生徒はIS学園のエンブレムを刻印する事が義務付けられているようだ。
『選手出揃いました!既にお互い睨み合い、気合十分といった所でしょう!それでは長らくお待たせしました!!』
義眼でズームし、一夏さんを見てみるとなにやら喋っているようだ。
相対する鈴さんも口を動かしているからして、回線を使って話しているのだろう。
その様子はなにやら剣呑だ、ここ数日で何かあったのだろうか。
『それではァ!ISファイトォーー……レディーーーーーゴォーーーー!!!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「一夏、今からここで土下座して謝るってんなら、ちょっと痛めつけるくらいで許してあげるけど?」
そう高圧的に宣言する鈴は露骨に怒っている、やはり先日の発言が不味かったのは明らかだ。
「言っても雀の涙だろ?必要ねえよ、全力で来い」
しかし、原因を作ったのは自分だが手を抜かれるのはゴメンだ。
俺は手を抜くのも抜かれるのも嫌いなのだ。
勝負とはいつでも全力で、真剣にやってこそ意味が生じるものである。
「一応警告しておくけど、ISの絶対防御は完璧じゃないーーシールドエネルギーを突破する威力さえ出せればパイロット自身にダメージを与えられる」
それは脅しではない、本当のことだ。
いつか棗が話してくれた事だが、世界にはパイロットへダメージを与える事だけに特化した兵装も存在すると聞く。
無論、それは協定違反であるしこの学園においても禁止されているのは勿論だ。
だが、殺さない程度に甚振る事は可能である、という現実に変わりはない。
事実として、棗はセシリアに対してそういった攻撃を仕掛けていたそうだし、セシリアも同様であるとのことだ。
「……男に二言はねえ、全力で来いって言ってんだ」
「フン、そういう強情な所は変わんないのね、美人侍らせてヘラヘラしてるのかと思ったけど、安心したわ」
『既にお互い睨み合い、気合十分といった所でしょう!それでは長らくお待たせしました!!』
「時間ね、お喋りはここまで……それじゃ、お望み通り全力で三枚におろしてあげる」
「ああ、こいよ……その素っ首、貰い受ける」
格好つけてこんな事を言ってみたが、セシリアの時にあそこまで善戦できたのは奇跡の産物だ。
二度も奇跡は起きない……しかし、俺とてあの時からなにも成長していないわけじゃない。
『それではァ!ISファイトォーー……レディーーーーーゴォーーーー!!!』
なんか前回と掛け声違くない?なんて思う暇もなく、開始のゴングが鳴り響くと共に[甲龍]はこちらへ急接近、二刀の巨大な青龍刀のようなものーー正確には
黙って見ているほど俺も馬鹿ではない、同様にスラスターを目一杯吹かして雪片で撃ち合う。
「ぜェアッッ!!」
「なんの!」
刹那の鍔迫り合いの後、互いに撃ち合うーーが、撃ち合いなんて生易しいものでは無い、幾合かの打ち合いの果てに雪片は双天牙月に弾かれ、大きな隙を晒してしまう。
「まずッーー!」
棗とセシリアによる教導でなんとかモノにした
何故か、などと考える程難しいものではない、そもそも[白式]と[甲龍]ではパワーが違い過ぎたのだ。
「伊達に中国の最新鋭機じゃねえってか!」
「一昔前とは違う、"メイド・イン・チャイナ"は高品質の代名詞って事よ!」
双天牙月は鈴の持ち方、振るい方によって自在に角度を変えながら斬り込んでくる。
それが二つ、ただでさえパワー負けしているのに二刀流を完全に使いこなしているとあれば消耗戦どころの話ではない。
更に三次元躍動旋回を続けている事によって目が回りそうなほど小刻みに動いている故、このままでは撃ち負けるのは必須だ。
「(なら一度距離を取って体制をーー)」
「ところがギッチョン!」
「なッーー!?」
瞬時加速で距離を取った時だった。
[甲龍]の両肩部スパイクアーマーが、まるで龍が顎を開くが如く展開し中心の球体部が発光したかと思うと、途轍もない衝撃が[白式]を襲う。
しかもまるでプロボクサーにブン殴られたかなような衝撃、これは一体ーー
「これ、ジャブだから」
「い、いったいなにが!?」
不敵な笑みを浮かべた鈴の宣言、そうだ、
「があっ!?」
不可視の攻撃により襲った衝撃はシールドエネルギーを貫通し、己の体を打ちつける。
衝撃に押されるまま、慣性に従ってフィールドバリアへ叩きつけられ、地表に落下した。
霞む瞳で確認したシールドエネルギー減少値は76、ビットの直撃ですらここまででは無かったというのに。
「ちょっとマズイ、かな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……なるほど、PICによる空間圧縮で擬似的な砲身を形成、発生する衝撃波に指向性を持たせて砲弾として射出するーー差し詰め、衝撃砲と言ったところですか」
PICはごく空間に存在する素粒子は干渉して慣性、重力を無効化するものであるが、まさかそれを武装へ転化させるとは……さすがは中国、目の付け所が違う。
「ですわね、BITと同様の第三世代兵器……それもシールドエネルギーを貫通する事を前提とした、パイロットを直接攻撃可能なISファイト国際条約第五条違反ギリギリの特殊兵装……恐らく、"衝撃を叩きつけるだけだからセーフ"とでも言って審査をくぐり抜けたのでしょう」
「……つまりどういう事だ」
「ざっくり言うとド○えもんが使う空○砲のもっとすげえヤツですね」
「なるほど!」
「ざっくりしすぎでは……?」
珍妙な例えではあるが、これ以上に明確な例えは思いつかない。
青狸のアレ然り、穴を一つ開けた段ボールの箱の中に煙を充満させ、箱を叩くと煙が飛んでいく、で○じろう先生のアレとかだ。
[甲龍]の衝撃砲はこれと原理的には同じである……と思われる。
正直化学やら科学の方は専門外なので、よく分からないのが正直なところだ。
「しかし、物騒な空○砲もあったもんですね、それなりに重装甲な[白式]をああも吹き飛ばすとは」
「不可視なのも合わさって厄介極まりないな……」
「アレで色着いてたら意味ないですからね、素人には何が起こってるのか分からないでしょうが」
「ですわね……まあIS学園の生徒たる者、完全な原理の理解とまではいかずとも概ねどのような兵器であるかの予想くらいはつくでしょうけども」
セシリアさんはチラリと箒さんに目を向ける、箒さんはバツが悪そうに目を背けた。
「こっちを見なさいな、箒さん」
「私は、理科が苦手だ」
「そんな自信ありげに宣言されても……」
どうやらーーというか割とわかりきっていた事だが箒さんは理屈的な事には弱いらしい。
一夏さんへモノを教える時も「ここでズバーンとやる」とか「これをここでシュッとやって後はサッーとやる」とか、ものすごく擬音が多い上に抽象的な表現が多い。
正直私も何を言っているのか分からなかったし、一夏さんも困っていた。
「棗さんならどうしますの?」
「私ですか?……そうですね、初撃を避ける自信はありませんが、慣れれば動きにブラフを仕込んでフェイント、衝撃砲のリロードを読んでその隙を突きます
なるべく二の打ち要らずと行きたいところですが、鈴さんも相当な腕前ですし、そう簡単にはいかないでしょうね
セシリアさんなら圧勝ーーとはいかずとも殆ど一方的に倒せるのでは?」
「空間湾曲によるレーザーの空間減衰値の変化がどの程度かにもよりますが……7割程度は残せるかと」
「あとは衝撃砲の狙いがどうなっているのかだ、セシリアのビットのようにある程度の自動照準が可能なのか、完全マニュアル操作なのか」
「マニュアル半分、オート半分ではないですかね
本人の視野外にも撃ってますし、照準補正をつけているのでは」
「そもそも精密照準する必要があるようには思えませんわね
アレ、圧縮率によっては連発も可能かと」
考えれば考えるほど厄介な兵器だ。
PICによる空間圧縮など殆どエネルギーを食わないだろうから低燃費、圧縮率によっては連射も可能、砲身と砲弾は不可視、射程こそ不明だが
実弾もバラマキ系なら衝撃砲で威力を落とされるだろうから、対策するなら高火力にして高速、そこに接近対策の牽制、精密性無視の広範囲殲滅、この程度ではなかろうか。
「ウーン、やり合いたくないですねえ、[甲龍]とは」
「同感だな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
やばい、詰んだかもしれない。
「……さーて、どうすっかな!」
既に何回あの不可視の攻撃を受けたかも分からない。
シールドエネルギーはもとより、身体の節々が痛む。
なんとか回避出来るようにはなったが、それだけだ。
「なかなかやるじゃない?[甲龍]の[龍咆]をここまで回避するなんて……ま、回避だけで対策は出来てないみたいだけど」
「原理はなんとなく理解した、あとはなんとかしてやるさ」
とは言ったものの、龍咆というらしい不可視の攻撃、恐らくはPICで空間圧縮をし、その余波で攻撃をしている衝撃砲とでもいうべきシロモノだが、砲弾だけならまだしも砲身まで不可視なのはかなり厳しい。
しかもこの龍咆、射線そのものは直線とはいえ砲身の射角と方向に限界がないようで、いくら死角に潜り込んでも撃ってくるから厄介だ。
「(その上で鈴本人の腕も相当……棗とセシリアが言ってた通りか)」
セシリアと棗曰く、鈴は"数千人と繰り広げる中国国家代表候補生選抜デッドレースを一年で勝ち上がってきた正真正銘の化け物"らしい。
そんな実感は無かったのだが、考えてみれば昔からオリンピックやらなんやら、数々の分野で国家主導の元で選手の選抜と育成を行なっているのだから、ISにおいても同様の事を行っているのはおかしい事ではない。
それを引っ越してからの一年ちょっとで他の候補生を追い抜いて専用機を取得し、IS学園入学の切符までも入手したというのだから、確かにエリートなのだろう。
「(だからって、諦める理由にはならねーな)」
確かに鈴は凄まじい腕前で無制限機動と全方位への軸回転、ISに関する基礎と応用を高いレベルで習得している。
ある一点に以外で俺は鈴に敵わないのだろうが、その一点だけは負けられない。
「(気持ちだけは、負けられないッ!)」
棗は言っていたように、最後まで諦めず、不可能を可能にするビジョンを思い浮かべ、それを実行する為の一手を掴む、これが今の俺に出来る全てだ。
「おい、鈴」
「なによ、今更土下座する気にでもなった?」
「本気で、全力でいくからな、首洗って待ってろよ」
左手で首をトントンと叩いて首を切る仕草をし、精一杯の強がりで笑みを作る。
「ーー!……なっ、なによ、そんな当たり前の事カッコつけて言ったワケ!?
フン!一夏には私との格の違いって奴を思い知らせてやるんだから!後で泣いて謝っても許さないんだからね!」
何故だか鈴の顔は赤いが、口調から察するに俺の気概に押されでもしたのだろうか。
しかしそんなのも束の間、双天牙月を一本に連結させ、宛らバトンのように振り回して構え直す。
今までのように龍咆で牽制を繰り返しつつ、大本命の双天牙月で斬り込むつもりだろう。
瞬時加速で衝撃砲を使われる前に吶喊し、零落白夜で一気にケリをつける、それしか方法はない。
瞬時加速からの踏み込みは棗からして"国家代表候補生のソレに並ぶ"と褒められた得意技だ。
これなら、イケる!
「オラァ!」
目一杯スラスターを吹かし、連続した瞬時加速で[甲龍]に肉薄する。
「うそ、この距離で躱した!?」
そして、個別連続瞬時加速が成功した事で己の左右を轟音が通り過ぎ、肌がビリビリと揺れた、衝撃砲が着弾せず通り過ぎた音だ。
[甲龍]の龍咆は全方位に向けて発射が可能であるが、肩部アーマーを基点としている以上、前方に指向した場合はどうしてもその射線はV字になり、円錐状の隙間が生じる筈。
そこに上手く入り込めれば勝機はあると踏んだわけだ。
「言ったろ、全力で行くぜって」
「一夏……」
吹けば息がかかりそうな距離、連結した双天牙月はこの距離なら使えない。
衝撃砲だってチャージは間に合わない。
あとは、居合の要領で零落白夜を発動してーーーー切るッッ!!
バシン
「「へ?」」
そんな音と共に、アリーナが暗転した。
「へぶ!」
「あぅあ!?」
あまりに突然なことだった為か、俺は雪片で切ることも忘れ鈴に突っ込んでしまう。
IS同士の激突、その衝撃は凄まじいものであり揉みくちゃになって地表へ落下してしまった。
「いってー……なんなんだよ……」
「いたた……って、きゃあーーー!あんたどこに頭突っ込んでんのよ離れなさいよ!」
「す、すまん鈴!」
「ぎゃぁーーー!突っ込んだまま喋るナーーー!!」
そんな騒ぎを他所に、暗転したアリーナが薄暗く照らされる。
その刹那、各所の警報機がけたたましく鳴り響き、アナウンスが流れた。
『IS学園教員及び生徒へ伝達します、只今当学園へ所属不明のISと思わしき未確認機が接近中、全ての行事と授業は中止し、生徒は警備部隊員の誘導に従って速やかに指定されたシェルターへ避難してください、教員は直ちにISを着用し指定位置にて迎撃用意
繰り返しますーー』
「「……は?」」
冒頭の警備員二人組は今後もちょくちょく出てくると思います。
CVは飯尾が大塚芳忠さん、刈谷は杉田智和さんイメージで。
それと言ってませんでしたが、棗のイメージCVは水樹奈々さんです、シンフォギアの防人みたいな声色で。
そして今回の戦闘ですが、[甲龍]を[ブルー・ティアーズ]同様魔改造してやるぜって思って考察してたら、[甲龍]ってクロス〜ミドルだとアホのように強い事が発覚した上に鈴もポテンシャルが凄まじいことに気が付いてノータッチで終わりました。
次回も今週中には投稿予定です。
誤字指摘、感想評価等お待ちしております。