METAL GEAR NEXISーNew generation gearー   作:saver

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大変遅くなりましたがやっと投稿です。
ゴーレムの性能とか学園側の対処とか色々悩みました。



第9話『War machine 2』

IS学園の表層ーー学舎部分の下には様々な区画が存在する。

教員用ISの格納庫と表層への射出用カタパルト、日々累積される様々なデータを収容するサーバールーム、非常時に職員と生徒が避難するシェルター等、多岐に渡る。

そんな区画の一角、IS学園統合管制室は存在した。

 

「パトロール04乗員のベイルアウト確認!救難信号感知!」

「ドローンを出せ!乗員の回収を急がせろ!待機中の部隊は全機対IS戦闘パッケージへ換装を完了次第出撃!

教員の出撃はまだなのか!?」

「先のハッキングで教員用のIS格納庫が閉鎖されています!解除を受け付けません!」

 

普段ならば、学園の美少女達をプライバシーを侵害しない程度に合法的な手段で眺めるのが主な仕事である。

しかし、今日ばっかりはそんな事をしている場合ではなかった、IS学園創立以来初となる武力行使事案への対処に追われているからだ。

 

「アンノウンからISコア反応を検知!コア波形計測、照合開始します!」

「何処の馬鹿者だ!?コアナンバーは!?」

「……ッッ!アンノウン、コア波形が照合できません!未確認コアです!」

「未確認だとォ!?」

 

学園近海を巡視するメタルギア部隊が発見したアンノウンーー未確認のコアを持つISは既に防衛識別圏を突破して上陸、先んじて防衛線を構築していたメタルギア部隊と乱入した国家代表候補生と交戦を開始していた。

 

「クソッ……なんだこの状況は!」

 

IS4U指揮官の女性ーー向島 冴(むこうじま さえ)は苛立つ。

10年前、一介の幹部の身であったが衛生科から空自のIS運用部隊へ異動願いを出し、厳しい選考の後にISパイロットになり、5年前からは教導隊主任教官の任に就き、つい先日IS4Uへの栄転が決まり、仲間と教え子達に華々しく送られたものの、四月一日に着任してから半年と経たずにこの状況である。

 

パトロール04の撃破、防衛線構築から間も無く交戦開始、苦戦を強いられているタイミングで一年生の国家代表候補生が乱入し、今に至るが混乱の最中にも程がある。

配属当初はぬるい職場だと感じたものだが、まさかこの様な事態に陥るとは思いもよらなかった。

 

「待機中のGRACE、IRVING全機、対IS戦闘パッケージへ換装完了、出撃用意良し!」

「全武器の使用を許可!自衛隊は!?」

「中即団IS部隊が第3種発令!到着まで15分!」

「百里のライトニングⅡがスクランブルとの情報!」

「メタルギアならまだしも、IS相手に通常戦力で相手になると思っているのか!?悪戯に隊員を殺すだけだと何故分からん!中即だけ寄越して百里のは追い返せ!木更津にも来るなと伝えろ!

それと係留部との連結解除を用意!コアも戦闘モードへ移行!」

「よろしいのですか!?委員会の承認がーー」

「生徒が死んでからでは遅い!死ななければ私と大臣の首が飛ぶだけで済む!」

「しかし!」

「つべこべ言うな!全ての責任は上が取ると言っている!」

「あーもう知りませんよ!」

 

聞き分けの悪い部下を叱咤し、指示を出す。

現状、全てが後手に回っている状況だというのに、総理も大臣もあるものか。

ここの生徒が、国家代表候補生やら政府要人の姪やら経済界の大物の孫やら、何かあれば死ぬよりも酷い目に合わされること請け合いな小娘がここには掃いて捨てる程いるからして、私の首一つで事が丸くおさまるなら安いものだ。

 

「須野田防衛大臣、あなたが悪いんですよ……」

 

着任してから早々に意見具申した即応可能なISとパイロットの常駐案、それを蹴ったのは防衛大臣の須野田だ。

教員がいるだろうと、あの織斑千冬もいるのだろうと、1機200億円もするメタルギアがいるじゃないかと、反IS思想が透けて見える蹴飛ばし方だった。

メタルギアとISの公式戦闘記録はないし、あの白騎士事件以降ISと戦った事がある人間などほとんど皆無に等しい。

そもそも、白騎士事件とて戦闘というには程遠いものであったと、当時のパイロットから聞いているからして、教員や織斑千冬が戦えない状況も想定した防衛プランも検討すべきだと、そう思っていた。

 

「メタルギアとて無能ではないが、こうも奇襲されては形無しか……結局は生徒のISに頼っている、無様ね」

「司令!」

「なんだ!?」

「アンノウン以外の高熱源体を感知!熱圏、当艦直上440km!我が方を指向しています!」

「ミサイルか!?」

「不明です!対象弾着まで10カウント!9、8ーー」

「総員対衝撃防護ォーーー!!!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

『IS学園教員及び生徒へ伝達します、只今当学園へ所属不明のISと思わしき未確認機が接近中、全ての行事と授業は中止し、生徒は警備部隊員の誘導に従って速やかに指定されたシェルターへ避難してください、教員は直ちにISを着用し指定位置にて迎撃用意

繰り返しますーー』

 

「「……は?」」

 

正直、最初は意味が分からなかった。

以前ニュースかなにかで、IS学園は世界で最も安全な場所、とか謳われていた気がする。

そこへ未確認ISの接近?シェルターに避難?教員はISで迎撃用意?わけがわからなかった。

 

「うおっ!?」

「ちょ、これ……」

 

だが、その疑問も轟音と地震ーー恐らくは何かが爆発によって吹き飛んだ音と揺れがアリーナを襲い、観客席が波立つ。

その直後、バシュンやらダダダやら、最近になって聞き慣れた音が聞こえてくるーーこれは、ミサイルや機銃の音だ。

鈍いと言われる俺でも流石に分かる、どうやら本当にヤバい事が起きているらしい。

 

「鈴!俺たちも急ごう」

「……そうね、勝負はお預けか」

 

残念そうな鈴を尻目に、アリーナから出るべくピットへ向かう。

閉じているシャッターを開けるべく、緊急用開閉ボタンへ手を伸ばしーー

 

『触るな!!!』

「「!?」」

 

スピーカーから鳴り響いた千冬姉の声に反応しビクリ、と体の動きが止まる。

これは普段俺たちの素行を叱る声ではない、此方の身を案じた必死の叫びだ。

 

『二人共そこから動かず、何が起きてもいいように準備しろ!』

「ハァ!?シェルターに行くんじゃねえのかよ千冬姉!」

『学園のセキュリティシステムがハッキングを受けている!ソレのせいでアリーナ管理システムが乗っ取られ、バリアが攻性を帯びた!触れればISでもタダじゃ済まんぞ!』

 

[白式]のハイパーセンサーを使って確認すると、確かにバリアの性質はIS同士の戦闘から観客を守るものではなくなっており、人間の致死量を大きく超えた電流が流れているのが分かる。

しかもその特性をサーチしなければただのフィールドバリアとしか表示されないのがタチの悪さを際立たせていた。

 

試合前に鈴が言っていたように、ISのスキンバリアーや絶対防御も万能ではない。

龍咆のように人体へ直接ダメージを与えることが可能な兵器には相手は電流を流すものも存在するのだ。

 

「これって……」

「閉じ込められた!?でも、なんで」

『目的は分からんがロクなことではあるまい、兎に角言う通りにしろ、いいな!』

 

それっきりスピーカーからの音声は途切れ、観客が逃げ去ったアリーナに二人きりとなってしまった。

 

「……取り敢えず」

「気を抜かず休憩ってとこかしらね……」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

突如として鳴り響いた武力攻撃を告げるアラートに観客席は混乱の境地に達した。

セシリアさんや私を含む一部の生徒が冷静になれと声をかける努力も虚しく人波に流され、廊下へと押し出されてしまい、皆ともはぐれてしまったが大丈夫だろうか……しかしまあ。

 

「面倒なことになりましたね」

 

IS学園への武力行使、それが意味する所を理解出来ない輩がこの世界に存在するとは思いもよらなかったーーいや、分かって尚の行動であるならば一体全体どんな奴なのか……案外、私の敵と繋がりがあるかもしれない。

 

「……ふむ」

「そこのあなた、何をしているんですか!?早く!」

「ーーすみません、少し考え事を」

「早くしーーキャア!?」

「なっ!?」

 

突如として、轟音と共に眼前の天井と壁が崩壊した。

そこには先程はぐれた箒さんを始めとする教員と生徒が複数、見た所専用機持ちはおらず、このままでは瓦礫に押しつぶされてしまうだろう。

 

「チィッ!」

 

私の後方に誰もいない事を確認し、崩れ落ちる天井を蹴飛ばす。

そのまま空中で一回転し、スラスターを目一杯ふかして通路が崩壊した原因であるメタルギア、その首を雷切で両断。

更にまた一回転し、首が泣き別れた胴体へ全力のアッパー(昇龍拳)を繰り出し、回転をつけた勢いを全身のスラスターで余すところなく利用した空中連続回し蹴り(竜巻旋風脚)を放ち、メタルギアを通路から押し出した。

その後、ワイヤーテールで頭部を掴んで落下の勢いを殺す。

この三つの動作を完了するまで1.24秒ーー絶好調だ。

 

「まったく、本当に面倒な……!」

 

あとコンマ1秒、[ヴァイパー]の展開が遅れていたら箒さんもろとも押し潰されていたところだ。

本来ならば無許可のIS展開は厳重注意では済まないが、今回ばっかりは大目に見て欲しいものだ。

突っ込んできたメタルギアはどうやら学園に配備されたGRACEのようである。

 

「ーーフンッ!」

 

ガコン、とコックピットハッチをこじ開けるとパイロットが項垂れている。

一人はピクリとも動かないが、命に別状はなさそうだ。

 

「ーーき、きみは」

「無理して喋らなくて結構、今は大人しく救助されてください」

 

気がついたパイロットが息絶え絶えといった様子で言葉を絞り出すが、それを制止してシートベルトを引き千切り、二人を引っ掴むと、近くにいた箒さんと教員に受け渡すーーさて。

「皆さんはパイロットの方をお願いします」

「棗はどうするんだ!?まさかーー」

「教員の方もスクランブルするでしょうが、それまでの時間稼ぎといったところですね

いくらメタルギアとはいえ、学園の戦力だけでISの相手は少々酷ですので」

 

瓦礫の先に見えるのは見たこともない黒衣のISへ絶え間なく砲火を浴びせるGRACEとIRVINGの軍勢だ。

だが、その様子は善戦しているとは言い難い。

アレでは教員が到着するまで持つかどうか怪しいものだ。

 

「なに、数分もすれば教員は引き継いで撤退しますのでご安心くださいーーそれでは」

 

ポッカリと穴の空いた壁から身を乗り出し、外へ出ると一気に駆け出して勢いをつけて飛んだ。

PICがある以上助走などつける必要はないのだが、気持ちの問題である。

 

「む、些か急いだ方が良さそうですね」

 

見れば、黒いISは脚部を破損し転倒した防衛部隊のメタルギアに向かって物騒なものーーおそらく大口径レーザー投射機をチャージしている。

あの距離から直撃を貰えば例え主力戦車の3倍は硬いメタルギアと言えどもタダでは済まないだろう。

 

「ーーならば!」

 

幸いにも、黒いISは此方には見向きもしない。

この隙に一発お見舞いしてやろう。

そう思うが早いか、全速力で吶喊して一気に黒いISへ肉薄する。

流石に気がついたか、頭部を此方に向けるがーーもう遅い。

 

「イナヅマァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

姿勢を反転して飛び蹴りの姿勢を取り、右脚の爪先をドリルのように高速で回転させ、全重を乗せ全速力でーー

 

「キィィッーーーーークッッ!!!!」

「ーーーーー!!」

 

ーー蹴り飛ばす!!

 

「……やりすぎましたか」

 

思いのほか綺麗に決まった飛び蹴りで黒いISは錐揉み回転をしながら港湾区画へと突っ込んだ。

おそらく倉庫であったであろう建物は跡形もなく崩れ去り、土煙りをあげている。

 

 

「ま、人命には変えられませんしねーー学園防衛部隊各機へ、日本国家代表候補生、日野棗、助太刀しますよ」

『なに!?生徒は避難をーー』

【言ってる場合か!!こちらMGS(Metal-Gear Squad )リーダー、助太刀に感謝する!

各機、破損レベル小破以下を除いて全機退がれ!ISの攻撃の邪魔だ!動ける者は弾薬を充填して後方支援に回るぞ!』

 

翼腕部をもがれた者、尻尾がない者、脚部が破損した者、破損度合いと部位はそれぞれだが、少なくない消耗を強いられているようだ。

考えてみれば、公式では初となるIS対最新鋭メタルギアの戦闘である。

無論、第三世界を筆頭に小規模な戦闘こそ繰り広げられているが、使われているメタルギアは第二世代機にも劣るものである為、カウントするのも馬鹿らしい。

しかしなるほど、精鋭揃いの防衛部隊も、実戦経験がなければこんなものか。

 

「さて、何方か存じ上げませんが随分と派手好きなご様子……よくもまあ、IS学園を相手にここまで立ち回ろうと思ったものです」

 

それはさておき、件の黒いISに目を向ける。

相当な強さで蹴り飛ばした筈なのだが、大きな損傷は見受けられない。

 

「ーー」

≪警告、警告、警告≫

≪コアナンバー、コア波形、照合失敗、未確認コア≫

 

返答はなく、頭部バイザーのアイセンサーがピカピカと光るのみである。

答える気がないのか、喋れないのかーーいや、こいつ、なんだ?この違和感は。

それも未確認コア?なんの冗談だこれは。

 

「……まあいいでしょう、いろいろ聞きたいことはありますがーー先ずは一曲、フラメンコでも如何です?」

「ーー!」

 

先ずは様子見で接近してから右ジャブからの左ストレートを放つ、此方の攻撃に対して黒いISは両肩のレーザーで迎え撃つが、そんな攻撃に当たるほどヤワな訓練はしていない。

最低限の身動いでレーザーを躱すと、レーザーが大気を焼く独特の臭気が鼻をつく。

この距離で射撃は不利だと感じたのかやたらと大きな拳を振り上げてくるが、その手を掴み取って地上へブン投げた。

黒いISは学園施設の壁をゴリゴリと削りながら慣性を殺し、距離が開いたからか両肩に加えて両腕、計4本のレーザーを此方に連射してくる。

 

「ハンッ!そんな精度では!」

 

射撃に不慣れなのか、偏差射撃が得意でないのか、詳しい事情は知らないがどうも照準が実戦的ではない。

せっかく高威力のレーザーなのにどうも画一的というか、愚鈍なまでに教科書的な射撃だ、捻りがないとも言う。

事実として、こんな考え事をしながらでも相手の攻撃を躱し、カウンターを決める程度には余裕がある。

 

「攻撃の出力は条約違反、あれ程の攻撃を耐える装甲……なのに、なんてチグハグな」

 

ここまで戦って分かったことがある、やはりというかなんというか、こいつには生気がない。

以前、雷電が言っていた"気"の概念……当時は理解出来なかったが、兎に角この黒いISからは、生きた気配を感じない、気の流れが存在しないのだ。

少しでもISに乗ったことがあるならば生じる筈の癖や個性が無い。

間近に攻撃が迫っているというのに恐れない。

こいつにはーー感情がない。

 

「せいッーーヤァ!(無人機……?いや、そんなワケが無い、ISコアは生体にしか反応を示さない筈だ)」

 

だが考えれば考える程、眼前の黒いISは無人機にしか見えない。

体のブレ、反射、何からなにまで機械的で、出来の悪いコンピュータと戦っている気分だ。

何らかの手段でマインドコントロールをしたパイロットが駆っているにしても、あまりにも個性がないように見える。

 

「(このご時世で管理外のコアなどありえない、生体にしか反応しない筈のISで無人機などありえないーーだが、そもそもの前提が間違っているとすれば?)」

 

管理外のコアは存在する。

コアの生体認証は突破できる。

そしてこの学園に攻め込めるだけの度胸その他諸々……これだけ考えれば、誰がやったのかは自ずと浮かんでくる。

 

「(しかし解せない、篠ノ之束がここを襲撃してなんの旨味があるというのか)」

 

誰かを殺したいのなら、毒殺なりなんなりもっと別のやり方がある。

仮に襲撃を仕掛けるにしてもIS学園にいる間でやる意味が分からないし、夜間に仕掛ければもっと楽にことを済ませられる筈だ。

あの天災がそれを考えつかないとは思えない。

ならば、こうして"襲撃をする事"そのものに意味がある……?

 

「ーーなるほど、余裕はなさそうですね」

 

この形で行われる襲撃に意味があるのなら、この戦いは長引かせるべきではない、悪戯に時間をかけては相手の思うツボだ。

教員を待つ為の時間稼ぎなど言っている場合ではなく、この場で私の手によって撃破すべきーーそう判断した。

 

「それならそれで、やり方を変えるべきですか」

 

そう思い、黒いISのレーザーを回避しながら接敵するが流石に学習したのか、後方へ回避行動を取りながらの射撃ーー俗に言う引き撃ち(カイト)の戦略を取っている。

 

「月並みですね」

 

引き撃ちは常にこちらを見据えながら後退し、一定の距離を保ちつつ射撃を繰り出す戦術だが、その対処は簡単だーー相手の後退速度を上回って接近すれば良いのである。

尤も、引き撃ちに対する戦法のセオリーは本来弾幕や煙幕等による撹乱であり、相手の弾幕を掻い潜って接近するのは常人のやることではないのだが。

 

「(ここが港湾区画でなく、ビル街か渓谷ならばもっとやり易かったのですが……無い物ねだりは良くありませんね)」

 

倉庫やガントリークレーンを足場にして踏み込み、瞬時加速の加速もつけてジグザグな軌道を取り、コースを読ませず、尚且つ高速で接敵する。

やり方を変えると言っても、戦法を変えるわけではない、そもそも私の武器は手足のみ、その武器を繰り出す手段が少し変わるだけだ。

 

相手は無人機だ、確証は無いが確信はある。

織斑先生が聞いたら激怒しそうなものだが、そもそもIS学園に攻め入った時点で人権など無いのであるからして、私がアレをどうしようと問題は無いはずだ。

 

「狩らせてもらいますよ、伽藍堂」

雷切を構え、黒いISに疾駆する。

狙うは頭部と胴体、相手が人間であるにしろ無人機であるにしろ、コアユニットがありそうな部位はその二つだからだ。

万が一読みが外れて無人機ではなく人間であった場合は少々面倒な事になるが手錠が死体袋に変わるだけだ、尋問が出来ないのは残念だが何も問題はない。

そもそも読み通り無人機であるならば自壊するなりなんなり、追跡されないよう処置はしているはずだから意味がない。

 

「シッーー」

 

黒いISから放たれたビームを瞬時加速で躱し、側面に回り込み、地面を思いっきり踏み込んでぶった斬る。

道筋は見えた、相手の死角にも回り込んだ、地面を踏みしめたーーあとは、斬るだけ。

 

その瞬間だった。

 

「なっーー!?」

 

ドン、と大きな揺れが襲う、立て続けに2回だ。

地震にしては揺れが少ないが、無視できる大きさではない。

そして後方から伸びる閃光、私の後ろにあるものはーーISアリーナだった。

 

「ッーー!!」

 

思わず後方を振り返ると、ISアリーナの天井には大きな穴が空き、そこからもくもくと黒煙が立ち上っている。

 

「やはり、陽動……!」

 

[ヴァイパー]のハイパーセンサーはアリーナにいる[白式]と[甲龍]の反応をキッチリ捉えていおり、そしてーー

 

「もう一体!?」

 

流石に驚きを隠せなかった。

一機だけでも国際問題待った無しである所属不明のIS、それの二機目が現れた。

しかも、アリーナ内部の反応が忙しなく動き始めた辺り、交戦を開始しているのだろう。

 

そしてその反応に気を取られていたら私は、ハイパーセンサーが掻き鳴らすアラートに気がつかず。

 

「マズーー」

 

私の眼前に迫る荷電粒子砲に視界が覆われるのに、そう時間はかからなかったのだ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「外、すごい音だな」

「そうね……」

 

あれから五分あまりの時間が経った。

外から響いてくる爆発音や衝撃は依然止まらず、激しさを増しているように感じる。

 

「アレ、何とかならないかしら」

「なにが起こるか分からないからやめろって千冬姉にこっ酷く叱られたばっかだろ」

「でも待つだけって、性に合わないのよね」

「だろうな」

 

そう言いつつも鈴は動かない。

凰鈴音は冷静でさえあれば何が起きているのか、何が起こるのかも分からない状況で無謀な行動をする程、思慮の浅い少女ではないのである。

 

「あのさ、鈴ーーうおァ!?」

「な、なに!?」

 

ズンッ、とアリーナが揺れる。

思わず上を見上げたのは、震源が上だったからだ。

 

「んなっ」

「アレってーー」

 

アリーナの天井には大穴が空き、青空が覗いている。

可動式のドームは溶断されたかのように赤熱し、その表面を輝かせていた。

その先、奴はいた。

 

≪接近警報、接近警報、接近警報≫

 

黒光りするメインフレームと同様、パイロットも黒いスーツに身を包んだISは今時珍しいものの、棗の[ヴァイパー]で見慣れてきた全身装甲型だ。

それは高電圧のバリアーをいとも簡単にすり抜けると、二人の前に降り立つ。

 

≪コアナンバー、コア波形、照合失敗、未確認コア≫

「なんだって!?」

「……冗談でしょ?」

 

一夏と鈴は驚愕した。

なんらかの妨害で相手がどこに属するものか、或いは正体が掴めない事はあるが、ハイパーセンサーがこの距離で敵を誤認する事はありえない。

外見ならばいくらでも誤魔化しようはある、事実として鈴は祖国が隠密活動用パッケージを開発してある程度までは実戦運用に耐える状態まで持ち込んでいるのを知っているからだ。

コア波形やナンバーも専用の妨害装置さえ使えば問題はない。

だがそういった類の妨害は無く、更に世界に存在するコアの数は498個で、開発者である篠ノ之博士が増産しない限り増える事はない。

これが意味する所は二つ、篠ノ之博士が新規のコアを製作したか、何者かがコアのブラックボックスを解析してコピー品を作り出したかだ。

 

「(しかも奴はあのバリアーをすり抜けてきた……って事はアレが今現在の状況を作り出した元凶……或いはその仲間って事か?でも、それはーー)」

「ホラ、ボサッとしないの!来るわよ!」

「ッ!」

 

そうこうしているうちに眼前の黒いISはその大きな腕を構え、此方へ突進して来る。

胴の前でクロスした腕の先からはバチバチと紫電を纏うレーザーブレードと思わしき物が展開されていた。

 

「ぬおお!?」

 

両腕のレーザーブレードによる猛攻を雪片で受ける。

その一撃は重く、速い。

 

「だけど、鈴よりは軽い!」

「太ってなんかないわよ!」

「そういう意味じゃねぇよ!」

「フン!まあいいわ、それよりあの黒いのをさっさとやっつけるわよ!なによ、図体と武器ばっかり大きくて弱っちーー」

 

その刹那、瞬時加速で移動した鈴の右後方、つまり先程までいた場所に黒いISのレーザーが着弾した。

 

「ーーそう、な……」

 

ドンッという大きな音と共にアリーナの壁へ着弾した極太レーザーは壁を焼くのみに留まらず、ISの攻撃に耐える設計である筈の装甲板をドロドロに溶解させている。

 

「「(アレは当たったら、死ぬ))」」

 

サァッと血の気が引き、お互いに半ば確信に近い予想を胸に抱く。

 

「どうすんだよ!あいつ怒ったぞ!」

「知らないわよ!」

 

怒ったかどうかは兎も角として、奴の攻撃が厄介なことには変わりはない。

レーザーブレードとレーザー砲、スタンダードではあるが一撃の火力が尋常ではないからして当たればそこでお終いだ。

鈴も応戦しているが、衝撃砲による牽制も相手が鈴の照準よりも早く動いている以上は意味をなしているとは言い難い状況だ。

 

你很烦人(あいつムカつく)!」

「落ち着け鈴!あいつの思うツボだ!」

 

一夏は思わず母国語が飛び出す程度にイラついているらしい鈴を宥めつつ、戦略を練る。

千冬姉や棗も言っていた、“状況は目で見るのみでなく、心で視るのだ”と。

 

「(奴の挙動、予備動作、攻撃、なにかヒントがある筈だ)」

 

目で見て捉え、心で視て判断する。

悪戯に物事を見て判断するのではなく、良く観察して掌握すれば自ずと最適解は見えてくる。

 

「ーー、……鈴!」

「なによ!」

「あいつ、どう思う!?」

「どう思うって……どうもこうもないわよ!イキナリ現れて攻撃してきた失礼な奴で、私達の敵!

それ以上になにか必要だっての!?」

「違う!感情じゃなくて理屈でどう思うかって言ってんだ!」

「ハァ!?」

「あくまでも仮説だがなーー」

 

一夏は稚拙ながらも鍛えてきた観察眼と知識……千冬姉、箒、セシリア、棗、鈴から教わった全てを総動員して俺は“奴は無人機である”という仮説を立てた。

 

「なに言ってんの!?荒唐無稽にも程があるわよ!?」

「でもそれ以外に考えられるか!?ここはIS学園で、俺は世界唯一の男性操縦者、お前は中国の国家代表候補生だぞ!日本と中国どころか世界までも敵に回すのに有人機なんか使ってられるか!?ここには千冬姉だっているんだぞ!」

「でも、ISのコアは人間にしか反応しない筈じゃ!?ありえないわよ!」

「無人機も研究されてるってなんかのニュースで見たぞ!可能性はゼロじゃない、ありえないなんて事ありえねぇんだよ!」

「ーーッ(たしかに、無人機は祖国でも研究されている技術、それに奴の挙動……あまりにも正確すぎるしワンパターンすぎる)」

 

鈴の導き出した答えは結論は同じでも一夏とは違っていた。

たった一年で中国国家代表候補生まで上り詰めた天才である彼女は相手の一挙一動を見逃さない。

ハイパーセンサーの補助あってこそのものだが、相手の癖を見極めるべく観察を怠った事はない。

故に、あの黒いISの挙動がたった1mmのズレも生じさせない程、機械的すぎる正確性を有していることも把握していた。

どんなに鍛えた人間でも連続して動き続ければ筋肉に乳酸が溜まるし、動悸が早まって呼吸は乱れやすくなる。

そういったバイタルパターンは時が立つにつれて変化するものであり、既に五分以上経過したこの状況でそれはあり得ない事だーー相手が生きた人間ではなく、ロボットであれば話は別であるが。

 

「(こんなに激しい戦闘をしておいて少しもブレない照準、同じ軌道の斬撃……確かに、無人機と言われれば納得がいく)」

 

鈴は後にこのISを“AI制御された自動車工場でも見ている気分だった”と語る。

 

「ーーそれなら、容赦は要らないわね」

「そういうこった!キメるぞ!」

「私が龍咆で牽制するから思いっきりぶった切ってやりなさい!」

「合点だ!」

 

エネルギー残量を確認しながら瞬時加速で加速と減速、三次元躍動旋回を繰り返して相手を撹乱しつつ急接近するが相手のAIも馬鹿ではなく、その都度機械的な回避をしようとするがーー

 

「ダブルだもってけェーー!!」

 

しかし、それは[甲龍]の衝撃砲が許さない。

出力と射程が抑えられた代わりに連射が可能となった龍咆が無人機を襲う。

 

「ママが見ても分からないくらいボッコボコにしてやるんだから!!」

 

物騒な台詞と共に発射される衝撃砲、通常出力であれほどの衝撃を与える龍咆が出力が抑え気味であると言えども連打される状況など考えたくもないが、それが味方となっているこの状況ほど頼もしいものはないと一夏は感じる。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァーーーーーーーー!!!」

 

重機関銃の連射の様な轟音と共に龍咆の連打を繰り出す鈴の覇気は凄まじいものであるが、それが一夏へ1発キメる事が出来なかった、その原因を作ったお邪魔虫への八つ当たりである事を一夏は知らない。

 

しかしーー

 

「クッ……見た目に似合わず!」

「速い……!」

 

だが、最高のコンビネーションを発揮しつつある二人を以ってしても黒い無人機を御しきる事は叶わなかった。

ずんぐりとしたがいけんにそぐわない機敏さ、そしてなにより繰り出す攻撃一つ一つが全て致死のものである事、それが勝敗を決することを阻害しているのだ。

 

「速いしヤバいってなると……」

 

一夏の脳裏に浮かんだのは棗とセシリアの戦い、その中盤だ。

ビットとスターライトの猛攻、それを棗が掻い潜ったあの時である。

 

「……鈴!死なない程度に強いの1発頼む!」

「!?……何するかは聞かないでおくわよ!」

 

その言葉の意味を瞬時に理解した鈴は、呆れ顔しつつも龍咆の砲身を形成し直し、チャージした。

一夏は鈴を信じ、レーザーの雨を回避しながら黒いISへ突貫する。

 

「今だァ!鈴!」

「分かってるわよ!」

 

先ずは1発衝撃砲を発射、黒いISはそれを瞬時加速で回避するが、そこまでは織り込み済みだ。

今までの戦いでこいつが二段も連弾も使ってこないーーいや、使えないことは分かっている。

故に、瞬時加速を使った後では致命的な隙が生じているのだ。

しかし、一夏と黒いISとの距離はまだ離れており、幾ら瞬時加速に一家言あるい一夏と言えどもその距離を埋めることは不可能だったーーそう、一人では。

 

「一夏ァーーーーー!!!!」

 

鈴が放ったもう一門の衝撃砲が放たれるが、それは黒いISには当たらない。

何故ならその射線上には一夏がいるからだ。

 

「ぐッーー!?」

 

背後からの衝撃は凄まじいもので、メキメキと骨が軋む音がする。

だが、一夏は衝撃砲によって生じた慣性と己の瞬時加速を合わせ、音を超え、零落白夜を起動した雪片で黒いISを真っ二つに切り裂いた。

 

「ーーーー!?ーーーーーー………」

「肉を切らせて骨を断つ……ってな、学ばせてもらったぜ、棗」

 

胴を両断された黒いISは力無く地面へ落下し、沈黙した。

鈴と一夏は恐る恐る残骸へ近づいて双天牙月と雪片でチョンチョンと小突き、完全に死んだーー機能を停止した事を確信する。

 

「お、終わったな」

「そ、そうね……」

「「ハァーーーーーー…… ……」」

 

この後、ショートした配線がバチンと火花を散らした事でヒィと小さく悲鳴を挙げた事を、一夏は見なかった事にしたのは余談である。

 




気がついたら年の瀬ですね、せいばーです。
大変遅くなりましたがWar machine 2、如何でしたでしょうか。
設定との噛み合わせやら今後の展開の伏線やらコミコミでやっていたら前回の投稿からこんなに時間が……次話は年始の休み中に投稿したいと思っているので、よろしくお願いします。

因みに序盤に出てきた向島冴のイメージCVは榊原良子さんか小山茉美さんです。

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