METAL GEAR NEXISーNew generation gearー 作:saver
第1話『
2025年4月ーーSOPシステム崩壊から11年、並びにインフィニット・ストラトス公開から10年後
アメリカ合衆国 テキサス州
イカルガ・アームズテック社IS技術開発部門テキサス本部
「おはようございます」
「よおナツメ、今日も元気そうだな」
小銃を携行した警備員に挨拶をした
日に焼けた健康的な小麦色の肌が朝日に照らされている
「いよいよ一週間後か、朝の潤いが無くなっちまうぜ」
「愛しのナオミさんがいるじゃないですか」
「ナオミはそりゃあ世界一だが、それとこれとは話が別さ」
「それなら早く指輪でもあげて喜ばせてあげてくださいね、ナオミさん待ってますよ?」
暫く立ち話を続け、キリのいいところで切り上げる
ゲートを潜った先はそこらの国家施設より警備が厳重なイカルガ・アームズテックの研究開発施設だ
私ですらも"テキサス州の何処か"としか知らされてないこの施設はISとその関連技術が研究されている場所で、出雲の本社施設に次ぐIAT社の要所、第二の心臓である
「おはよう」
<◼︎◼︎◼︎ーーー>
ブモウ、と牛の様な鳴き声をあげたのはメタルギア IRVINGだ
鳴き声に関しては、発声部位があるわけではなく部品同士の擦れ合いだったかそんな理由で鳴き声のように聞こえるだけなのだが、おはようと返してきた気がする
施設内を50機が随伴兵と共に警備していて、対ISは言わずもがな、昨今流行りのサイボーグ兵士相手ともなれば勝負にならないが、日々アップデートと改良を重ねる彼らは頼もしい存在だ
因みに、先の警備員もサイボーグ兵士である
SOPシステムの崩壊と秘匿されていた技術の解放は、傷つき倒れた兵士に新たな戦場を与えた
退役した兵士が社会に馴染めず孤立する、なんていうのはよく聞く話である
住んでいた世界が違いすぎることによるギャップは相当なものだろう
上官と、仲間と、部下と共に切磋琢磨し、味方と国民を守り、敵を倒し殺し殺され、築き上げた生涯はとても大きく、そして重いものだ
老いた兵士は体をサイボーグ化し、身体の一部を失った兵士は失った部分を取り戻し、ただの人の身では辿り着けない境地と力を得て、再び戦地へ舞い戻る
魂を落としてきてしまったあの場所へ、あの戦場へと還るのだ
途中、自販機で買ったコーヒーを飲みながら端末を開き、今日の予定を確認する
午前中は9時からいつも通りにISの戦闘訓練、明後日に行われる展覧会の打ち合わせが13時から、そしてなにより来週に迫った最重要任務ーーIS学園潜入、もとい編入に向けてのブリーフィングだ
こちらの高校を飛び級で卒業している上、大学レベルの学力はあると自負しているし、ISの技能や知識は他の国家代表候補と比べても遜色ないとは自他共に認める所である
しかも国家代表候補生兼IAT社専属テストパイロットであるからして、本来ならばISの基礎から学ぶIS学園に行く必要はない
しかしながら、これはIAT社上層部の決定事項だ
自社製品の宣伝とIS学園内での諜報活動ーー要は他国や他企業、なにより初の男性IS操縦者である織斑一夏の調査をしてこい、との事である
ただ、上司の一人が言うには、“君に足りないものは一般的なスクールライフの思い出さ”との事である
まぁ、私本来の目的を達成する為の人脈確保と考えれば、実際悪くない話だ
しかもIS学園に属する間もIAT社の社員であるには違いないので普通に給料が出る上、特別勤務手当なるものまで発生するのだから美味しい事この上ない
そんなことよりも、だ
「ベッドにでも連れ込めばいいのかな、これ」
これは、私にマタ・ハリの真似事でもしろというのだろうか
確かに先日渡された資料で確認した彼の顔は一般で言う所のイケメンであるが、中身が伴わなければただの案山子だ
そもそも私の好みはステイサムやシュワルツネッガーのような頼れる男である、ちょっと危ない雰囲気があるとなお良し
その点で言えば織斑一夏は不合格だ、ワイルドさに欠けるというよりも、精一杯吠えているが愛嬌たっぷりの子犬のような印象を受ける
「君の身体を買うというのなら、だいぶマニアックだな」
「おはようございます主任、朝から失礼な台詞をどうも」
「おはよう棗君、最初に下品な台詞を口にしたのは君だがね?
それより用事があるって話だけど、どうしたのかな」
「身体とこの子のメンテナンス、早めてもらいたくて」
「ん?まだ数日ほど間があった筈だけど、何処か痛んだりするのかい」
「痛むほどではないのですが、調子が悪い気がして」
「ふむ、特に大した用事もないし、問題はないか」
主任の研究室へ入ると、そこへ座れと指で指示する主任に従い、服を脱いでベッドに腰を下ろす
ISスーツを着ているから、なにも真っ裸になるわけではないものの、やはり少々恥ずかしい気もする
私のISスーツは一般的なものーー俗にハイレグレオタードと称されるそれとは違って、ハイネックのスク水みたいなものであるが、それでもだ
しかし、一般的なアレを着込んでいる連中の気が知れない
恥じらいだとかそういった感情はないのだろうか
「〜♪」
若い頃に流行った歌だと言っていた曲を鼻で奏でながら手慣れた様子でキーボードを叩く男性ーー主任こと伊野部 進は、IAT社のサイボーグ技術部門を取り仕切る人間で、過去は職業軍人で医務官だったようだ
そして、11年前には"あの戦い"にも参加していたらしい
その後紆余曲折を経て退役、この会社へ再就職したとの事である
脊椎に沿って取り付けられたプラグへケーブルを差し込み、私が寝そべると小慣れた手つきで義肢のメンテナンスハッチを開ける
私の身体は殆どがサイボーグだ、耐久性と柔軟性、利便性に特化させたサイボーグ義肢は手首が360度回転したり、関節が本来曲がらない方向に曲がったり、指先が変形して小道具になったり、膝や肘が伸びたりする
見た目もサイボーグ感丸出しで、とても女の子に繋げて良いシロモノでは無い気がするが(事実装着した当初は嫌だった)、これが使ってみると中々に便利なものである
ドライバーやカッターみたいな、欲しい時に限って手元にない道具とか特に
他にもISと物理的に繋がる為のプラグとか色々ある
「うん、やはりヒトの感覚ってのは馬鹿にならないねえ、関節の部品が磨耗してるよ」
「右の?」
「右肩だね」
「やっぱり」
「まあ、目立った部分はここだけだねえ、あとは定期メンテナンスの範囲内だ
NCMSも問題なし、プラグの交換も必要なさそうだね」
「そもそも最近は派手なことしてませんから」
「飛行型メタルギア5機との戦闘を派手じゃないと言い張るかい」
慣熟教育まで終えた正規軍人や、それこそシュミレーターでしか対戦をした事がないが、"恐るべき子供たち"による操縦や、SOPで管理されたAIで完璧なコンビネーションを取られれば厄介極まりない
しかし、そんじょそこらのパイロットが駆る有人メタルギアなど、一般戦力なら兎も角としてISからすれば子供騙しにもならない
それこそ、余程特別な状況でなければ
「あの程度で落ちたらISパイロットの名折れです
そもそもアレ、前に戦った量産型RAYとサイボーグ兵士の方がよっぽど強かったですし」
「アフリカの件かい?アレはまあ、プロだからねえ」
「メタルギアは兎も角として、あのサイボーグ兵士とは2度とやりたくないですね
生身でシールドエネルギーを10%も食う斬撃を繰り出す兵士がただのプロで済むものですか、アレは所謂達人ってヤツですよ」
誤解と紆余曲折の果てに戦ったアイツ、あの時は本当に死ぬかと思った
物資と要人護衛の任務があったとはいえ、本当に人間かと疑いたくなるレベルで強かった
実戦で片腕持っていかれるのはアレが最後だと願いたい
「なるほど達人ねえ、確かに……っと、はいチェック終わり
部品交換はこっちでやっとくけど、代わりの腕、つけとく?」
「いえ、結構です」
代わりの腕、と言ってプラプラと揺らしているのはどう見ても古き良きロボットアームだ、先行者みたいなやつ
そんなのをうら若き乙女につけようってんだから何を考えているのか分からない
「そうかい、じゃあ1時間後くらいにまた来てくれーーっと、そういや支部長が呼んでたよ?」
「支部長が?」
「そ、支部長が」
「了解です、それでは」
「ほいじゃ、またあとで」
主任の研究室を出て暫く歩き、区画の一番奥に位置する支部長室に辿り着く
支部長は極度のヘビースモーカーで、部屋の外からでもタバコの臭いが滲み出ていた
こういった施設では館内禁煙が普通の筈なのだが、どうなっているのだろうか
「日野 棗、入ります」
「入れ」
「失礼します」
「よく来てくれたな、長い話でもないが、まあ座りなさい
君はコーヒーでよかったね?」
「ありがとうございます」
案の定紫煙を吐き出していた支部長ーージャスティン・バーラッドは吸いかけのタバコを揉み消すと、淹れたばかりのコーヒーを差し出した
「最近どうかね?」
「まずまずといった所ですね
訓練は順調、任務も完遂、お給料いっぱい、私幸せ」
「それは結構」
軽く雑談を交わし、お互い一息ついた所で支部長は主題を切り出した
「しかし朝から済まないな、こちらも少し急だったのだ」
「急、と言いますと?」
「IS学園への入学の件、これを早めることになった」
「はあ」
大方IS学園に関する事だろうとは予想はついていた
なにぶん不確定要素の大きい任務である故、予定が早まるのは仕方のない事だろう
しかし、次に告げられた一言は予想を超えるものだった
「明日からだ」
「は……は?」
「ここに日米両政府からの書類もある、ただちに準備をしてくれたまえ、3時間後にはここを発ってもらう
F-35を使って空中給油を挟みつつ最速で横田へ向かう、そこからはヘリで移動、日本時間で20時には学園に着く手筈だ
明後日の展覧会には優理君に出席してもらう」
「えっ、いや、え?」
優理君こと、優理・アンダーソンはIAT社が進めるIS開発計画であるNG2計画ーー"New Gneration Gear project"における初号機のパイロットだ
新時代の歯車を謳うこの計画に参画するテストパイロットは全て私と同様に四肢の一部を欠損していたり、脳以外で障害を持つ者が集められている
「落ち着きたまえよ、すまないと言っただろう
だが、これも上の決定だ」
「……はあ、しかしまた、なんで急に」
「先日、協力者から情報があってな
なんでも、任務のメインターゲットである織斑一夏と、英国代表候補生のセシリア・オルコットが入学早々対決するらしい、日程は6日後だ
なんでも、クラス代表を決めるのにモメたようでな、くだらん話だ」
「あー、なるほど」
その決闘騒ぎに一枚噛むなりなんなりしてこい、という話であるらしい
ISのうまい乗り方でも教えて恩でも売ろうかなあ……
「話が早いようで助かる……して、相手の方だが」
「英国の国家代表候補生セシリア・オルコット……"BTシステム"を搭載した純英国産第三世代ISの1号機であるMODIS-BT01[ブルー・ティアーズ]のパイロットですね」
「当時[ブルー・ティアーズ]は完成していなかったが、一度戦ったことがあったな?」
「ええ、思い出したくもないですが」
当時英国が有していたのは純国産第2世代ISの改良型である[KoRT13]シリーズ
騎士甲冑のような見た目が特徴で、名前の通りアーサー王伝説をモチーフとしたISであり、大口径エネルギーキャノンと実体剣を主武装としていた
その射程は実に150km、威力も最大出力ならば着弾点がMOABの直撃を受けたような有様になってしまう凄まじいものである
セシリアはその計画の試験機、謂わば2.5世代とでも言うべき機体を扱っており、細かな射撃は苦手とする機体で無理やりスナイパーライフルを運用していたのもあって楽勝かと思われたが、予想に反して手痛い反撃を受けた苦い記憶がある
「……君の私情は抑えてくれると助かるのだがな
過去はどうあれ、現在英国は光学兵器分野では頭一つ抜けた存在だ、そこの技術も上手い事やってくれると助かる」
「善処します」
正直、うちの会社はIS開発に出遅れたってレベルでもないので、藁にもすがる思いなのだろう
上手いことやれって言うのも、要はそうゆうことだ
「しかし、IS操縦経験がそこらのガキに劣る男に専用機とはな、まったく羨ましいよ」
「とんだポンコツだったりして」
「バカを言うな、ああは言ったが仮にもメイド・イン・ジャパンだ、[打鉄]の倉持技研製だぞ?
しかも世界唯一の男性操縦者に与えられる機体だ、ハリボテを贈るわけにもいかんだろう、日本政府の威信に関わる」
「それもそうですね、まあ当然と言えば当然ですか」
その考えは一週間と経たずに否定されるのだが、それは2人の知らぬ所である
「ーーふぅ」
そんなこんなで、お世辞にもフレグランスとは言い難い支部長を出て溜息をつく
「3時間後とはまた、随分やってくれますね」
懇意にしていた方々とのパーティだとか、新居に向けての買い出しだとか色々予定していたのに全て台無しではないか
買い出しに限って言えば、有給を使って観光がてらニューヨークまで繰り出そうと思っていたのに
予定に関わっていたメンバーには支部長から連絡を入れてくれるとはいえ、やることは山積みだ
部屋にあるものは決して多くはないが、最低限の荷造りだけで時間いっぱいになってしまいそうである
「ああ、行きたかったなあタイムズスクエア……はぁ、特急料金でも請求してやろう、うん、そうしよう」
この時期日本はどんな風だったかな、学園では制服だと聞くが私物の服や靴は何を持っていこうか、あれ?F-35って単座じゃなかったかなーー
そんな事を考えながら、廊下を駆けた
◆◇◆◇◆◇◆◇
結果のみ語れば、この時期の日本はまだ冬の肌寒さが残る春先で、私物も多くは持ち込めず後日郵送となった
F-35を降りてからはヘリに乗り換え、IS学園敷地外のヘリポートへ着陸、そこからは専用のモノレールに乗って正門に辿り着くと、諸々の手続きを済ませた後に案内だという教員に従って自室へ入る
持ち込めた最低限の荷物を適当に仕分けると、手渡された案内書類に目を通すこともなくベッドに突っ伏した
「つ、疲れた……」
約4時間あまりとはいえ、お世辞にも乗り心地が良いとは言い難いコックピットーーとは名ばかりの兵装格納スペースにISを生命維持に問題がないレベルで最低限展開して詰め込まれるのは気分が悪いとかそもそも乗り心地とかそんなレベルで済む話ではない
いくらISの展開に色々と制限があり、急な話で手続きも出来なかったのであろうとはいえ、迎えに着たVTOL機に乗って空軍基地に着いた途端
「Hey!見てくれよ、お嬢ちゃんの為にファーストクラスシートを用意したぜ!」
と、言われて態々カーペットを敷いた上でF-35のクソ狭い兵装庫部へエスコートされた時はこの軍人達をどうしてくれようかと思った
極め付けは汚い文字で"機内サービス"と書かれ、ダクトテープで雑に固定されたビニール袋の中に賞味期限ギリギリの軍用レーション、先週の週刊誌、昨年有名な映画雑誌において"エド・ウッドの再来"と称され、ラジー賞を総ナメした映画のDVDまで入っていたのだからその時の気持ちは推して知るべしである
「最ッッッ高ですねド畜生!」
「そうだろ!?そう思うだろ!?」
「この映画どうやって観るんですか?口に入れれば観れるかな?ウィ-----ン」
「ワハハハハハハハハハ!!!」
しかし、人をコケにした真似もここまで来ると笑えて来るもので、一周回ってテンションMAXで乗り込んでやったし、"機内サービス"は全部食ったし読んでやった
いや、寧ろ此方の無理なお願いを聞いてもらっているのだから、あの程度の嫌がらせは受けて然るべきだろうとは思う
そもそも軍属の人たちからすれば私は目の敵というか、食い扶持を減らした張本人に他ならないのだから仕方ない……か?
そんな事を考えつつ、荷解きと身辺の整理をしているとドアがノックされる
ドアを開けると、先の案内人が私のキャリーバッグを持って立っていた
別クチで送るとは聞いていたがこんなに速いものなのかと感心しつつバックを受け取る
やはりあんなでも軍か、仕事がはやーー
「……なにこれ」
嫌でも目につく大きさの物体
キャリーバッグの側面に括り付けられたビニール袋
嫌な予感は見事的中ど真ん中ストレート、その中身は機内サービスと同様に賞味期限ギリギリのレーション詰め合わせだった
「……国家権力があるのだから、使わなければ勿体無いですね」
やっぱり何があろうと仕方なくない、絶対にタダじゃ済まさん
中東の反体制ゲリラ最前線コースをお見舞いしてやる
そう決意すると、機内サービスをゴミ箱へ投棄し、携帯電話を手に取った
◆◇◆◇◆◇◆◇
ーー翌朝
シャワーを浴び、手足のチェックを済ませ、アイロンをかけてパリっとした学園の制服に袖を通し、新聞に目を通しながら野菜を挟んだベーグルとコーヒーで軽めの朝食を済ます
場所が日本で、目を通しているのが日本語の新聞で、テレビに映るのはバラエティ色の強い日本のニュース番組で、身を包むのが私服ではなく制服であること以外はいつも通りの朝、時間は7時
8時には私のクラスへ案内してくれる教師が来るはずだから、だいぶ余裕のある時間帯だ
しかし、この学園は宗教上の理由とか人種への配慮がどうたらこうたらなんとかで、公序良俗の範囲内で制服の改造が認められているが、色々と弄りすぎて逆に格好悪くなっていないかと心配になる
まぁそんなことを考えていても仕方がない、デザインしてくれた友人と悪くないと感じた己のセンスを信じるとしよう
そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた
「は、入ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
聞こえてきたのは幼さの残る可愛らしい声
隣室の住人でも挨拶しにきたのかと思い、少しばかり身構えるが、それは杞憂に終わった
「はじめまして、山田麻耶と言います
この学園の教師です」
「これはどうも、本日より転入します、日野棗です
して、ご用件はなんでしょうか」
「はい、本当なら8時からの予定でしたが、学園内の案内も済ませてしまった方が楽かと思いまして……あの、ご迷惑でしたか?」
アワアワとこちらを気遣う、癒しという概念が服を着て歩いているような女性ーー山田麻耶と名乗った彼女はIS学園の教師だと名乗った
その名前には聞き覚えがある、確か専用カスタムを施した[ラファールR]を駆る優秀なISパイロットであった筈
堅実にして王道、良く言えば完成された、悪く言えば教科書通りのパイロットだと聞いている
しかし教科書通りということは、その分野における理想形を我が物にしているという事に他ならないし、様々な理想形を組み合わせ、応用し、相手にとって最悪のパターンを作り上げて戦ってくるという事でもある
以前、彼女と交戦したISパイロットはこう語っていた
ーーマヤがパイロットである内はいい
しかしマヤが指揮官か教官であったなら、それはたまらなく恐ろしいーー
教科書通りに動く1機のISに対処する事は容易でも、それが2つ、3つ、4つと増えればどうなるか……正直ゾッとする
事実として、彼女の適性はパイロットよりも指揮官向きであるとした報告もあるくらいだ
ただまあ、今見て感じた彼女に対する人物像が正しいのであれば
「あ、あの!なんか私失礼なことしちゃいましたか!?アメリカ的になにか問題があったりとかしませんでしたか!?」
この人はどんなに間違っても指揮官向きじゃない、どちらかと言えば後者の教官ーーいや、先生向きだ
それも軍隊の士官学校ではない、ISを乗り回しているよりも子供達と笑いあっている方が余程似合っているのではなかろうか
そういった意味では、このIS学園の教師はお似合いであろう
「……いえ、なにも問題はないですよ
本当に、お気遣い感謝します」
この人、腕はいいんだからもう少し自分に自信を持つべきじゃないかなあ……
私は学生で、あなたは教師でしょうに
流石にビビりすぎだろう
「学園の案内、よろしくお願いしますね」
「……!は、はい!」
「では、少し待って頂けますか?サッと片付けちゃいますので」
一気に雰囲気が明るくなったのが目に見えるようだ
小動物を相手にしている気分である
手早く部屋の片付けを済ませ、教科書とノートに筆記具、己の専用機を手に部屋を出た
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ーーさて、これで学園内の主要施設は終わりですね
これまで紹介した場所以外にも色々とありますが、それはその都度教わった方が良いでしょう」
「ひ、広いですね……」
「疲れちゃいましたか?」
「いえ、少し驚いただけです」
居室練、教室練、体育館とトレーニングルーム、食堂、購買、図書館、IS用アリーナ、IS用整備施設
小綺麗でSFチックな内装は清潔感に溢れていたし、随分な金をかけたのは想像に難くない
「(しかし、驚くべきは……)」
それは、世界最高峰と言っても過言ではないセキリュティだろう
指紋、虹彩、IDカードとパスワードからなる四重認証、所によってはそこに声紋まであるのだから恐ろしい
数メートル感覚で設置された監視カメラは学園内を余す所なく見張っているし、武装した警備員の数も尋常ではない
拳銃と短機関銃は当たり前、空中はステルス迷彩を施したドローンに加えて対空レーダーが睨みを利かせている
海中にもなんらかの警備があるはずーー確か、REYの発展型であるGRACEの整備部品や消耗品がIS学園向けに発送されているのを見たことがあるから、おそらくはGRACE、最低でもREYがいるのだろう
まあ、世界各国の要人とISを預かるのだから当然といえば当然である
因みに、これらを山田女史が見せてくれたわけではない、こちらが勝手に調べただけだ
こうゆう時にサイボーグの身体は便利なもので、義眼である私の目は望遠機能が搭載されているし、視界に写ったものをある程度解析できる機能がある、諜報活動にはもってこいだろう
スパイ映画の主人公にでもなった気分だ
「では時間もちょうどいいですし、教室に行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「緊張してます?」
「まさか、アフリカーー」
「アフリカ?」
「……いえ、IS適性試験の方が緊張しましたよ」
「適性試験ですか、懐かしいですねー」
危ない、アフリカで非合法な要人救出任務をやった時の方が緊張したなんて言いそうになってしまった
国家代表候補とはいえ、流石に非合法作戦に参加してたなんて口が裂けても言えない
「さて、ここがあなたのクラスです
少し待っててくださいね」
そう言って山田女史は教室に入っていき、ややあってから"入れ"と手招きした
教室へ入ると年頃の女の子がいっぱい、更に男子が一名
いったい私がどんな人物なのかとコソコソ話をしている者もいる
申し訳ないが私が普通の女の子である、手足がサイボーグなこと以外は
「はじめまして、日野 棗といいます
訳あって入学が遅れましたが、よろしくお願いしますね」
簡単に自己紹介を済ませると、拍手で迎えられる
さて、この中の何人が敵なのか味方なのか、疲れるなあ
◆◇◆◇◆◇◆◇
「突然だが、転入生だ」
その一言により、ホームルームが始まったばかりの教室は僅かながらの喧騒に包まれる
どんな娘なのか、織村一夏のようにまた男なのか
綺麗系か可愛い系か、専用機はあるのか否か、話題は尽きない
「静かに」
しかし、教員である織斑千冬が放った一声と机を叩いた音により、一瞬にして教室は静寂を取り戻した
彼女を怒らせると面倒だと、ここ数日で学んだからだ
「なんでも日程調整に手間取ったようでな、故にこのタイミングでの転入ーーというよりも入学となったそうだ、仲良くしろ」
「するように」や「しましょうね」ではなく「しろ」と命令形なのが彼女の性格をよく表していると言えるだろう
「山田先生」
「はい」
山田先生が扉が顔を出し、手招きをすると1人の少女が入ってきた
「はじめまして、日野 棗といいます」
「(……へぇ)」
その時彼女ーー日野 棗に対して織斑一夏が抱いた第一印象はそこまで強烈なものではなかった
彼女が不細工だと言った話ではなく、印象に残り難いからだ
「訳あって入学が遅れましたが、よろしくお願いしますね」
長い黒髪に切れ長の目、ニコニコとした表情は作り笑いにも見えるし、素の表情にも見える
それとこう言っては悪いが、スタイルも至極普通だ
唯一気になる点としては白手袋をはめている事だろうか
防寒用としては頼りない上、手袋をはめるような季節でもない
「(……でも、それ以外は普通だ)」
もとより、篠ノ之箒やセシリア・オルコット、何より実姉である千冬を筆頭に女傑のバーゲンセールな生活を送る上、周囲は女だらけのIS学園に身を置く世界で唯一の男、それが織斑一夏という男である
そんな彼にとって、極々普通の日本人女性といった風貌の彼女は余りにも印象が薄い
一夏のみならず、良くも悪くも個性的な面々が揃う生徒の多くは、ごく一部を除いて殆ど同様の印象を抱いていた
しかし、次の言葉でその印象は覆ることとなる
「日本の国家代表候補生で、スポンサーはイカルガ・アームズテック社、専用ISは同社製IS、メタルギア・ネクシス[ヴァイパー]
好きなものは格闘技とゲーム全般、嫌いなものは退屈と不躾な人です
目標は世界最強、ブリュンヒルデ」
ざわ、と教室の空気が揺れる
セシリア・オルコット、織斑一夏に続いて事実上クラス3人目の専用機持ちであり、国家代表候補生なのもそうだが、なにより学生を驚かせたのはその名前だ
ーーメタルギア
歴史にその名を刻む"歩兵と兵器を繋ぐ歯車"
公開された情報によればその祖先は冷戦時代に遡り、幾度となくあらゆる武装勢力や国家が利用したとされている
大小用途様々なバリエーションが存在し、最近では警察も専用仕様機を導入した月光もその1つだし、陸自と海自が最新鋭機を導入したのは記憶に新しい
そんなモノの名を冠するISが登場したのだ、驚くなという方が無理な話だろう
「ーー騒ぎたいのは理解してやるが、静かにしろ」
その喧騒も織斑千冬が教壇を叩いた事により終わりを告げる
「さて、山田くんとの挨拶は済んでいるな?
担任の織斑千冬だ」
「はじめまして、改めまして日野棗です、よろしくお願いします」
「……」
「なにか?」
「いや、今までのやつとは印象が違うな、と」
「私、過去は参考にこそしますが縋るほど興味はないので」
「……言うじゃないか、気に入った」
流石の一夏もこれには驚きを隠せなかった
織斑千冬のファンでない者は、特にISに関わる人間ではこの世に何パーセントいるのかも怪しい
その実姉に対してこの対応とは、どれだけ肝が座っているのか
「質問を受け付ける、手短にしろ」
実姉が発したその言葉を皮切りに、日野棗はあれやこれやと質問責めに会うが、その迫力に気圧されずテキパキと答えていくあたりだいぶ大人びているようだ
「では、これでHRを終了する
次の授業はIS概説の続きを行う、0900時の開始次第宿題を回収するから遅れないように
では、解散」
それからややあって怒涛の質問タイムは終了し、授業前の小休憩に入る
お茶を飲んで一息ついた所で、件の転校生である日野棗が己の机に寄ってきた
「はじめまして、織斑一夏さん」
「ああ、はじめまして
日野……棗さんでよかったっけ?」
「ええ、一言挨拶をと思いまして
色々大変みたいですね?クラス代表決定戦だとか」
「そうなんだ、まあ啖呵切ったのはこっちだし、逃げる気なんか毛頭ないけどな
やらなきゃならねえ時があんだよ、男には」
数日前、クラスの代表を決める際にセシリアの発言で端を発したクラス代表決定戦
相手は英国の国家代表候補生、対して自分はドが付く素人
箒にアドバイスや稽古をつけてもらっているが、はてさてどうなるものか
「……ふむ」
「なんだ?」
何か含みのある頷きと共に、日野棗はニッコリと笑みを浮かべた
納得、期待、様々な感情が読み取れるが、なんだと言うのだろうか
「いえ、世界初の男性パイロットと聞いてどんな人物かと思いましたが、想像より男らしい方で安心しました」
「どうゆう意味だよ?」
「ああ、気を悪くしたのなら謝罪します
ですが決して悪口のつもりではないんですよ?
今のご時世、男がISパイロットになるという意味をしっかりと分かっているようでしたので」
「当たり前だ、これから俺みたいにISに乗れる男が出てくるかもしれないんだ、悪しき前例になるわけにはいかないだろ?スタートダッシュはしっかりキメないとな」
こういうのは気合が大事だ
ただでさえ技量と経験で負けているのだから、気持ちだけは勝たねばならない
「その意気です、頑張ってくださいね」
「しっかしアレだ、えーと、日野さん?」
「棗で結構です」
「そっか、じゃあ棗……その、ISが随分すごい名前だよな」
「ああ、メタルギア・ネクシス」
「そうそう、ヴァイパーって言ったっけ?」
「自慢の相棒ですよ」
そう言って胸元から取り出したのはメタルギアを表しているのであろう、歯車の形をしたネックレスだ
「どんなISなんだ?」
「具体的な情報は控えさせていただきますが、まあ少なくとも何処ぞの狙撃バカよりはいい性能だと言っておきましょう」
「狙撃バカ?それってーー」
「ーーちょっと、よろしくて?」
それって誰のことなんだ、と問おうとした所で横槍が入る
それは長い金髪を揺らして現れた女性は、セシリア・オルコットだ
「あら、お久しぶりですセシリアさん」
「ええ、ご機嫌麗しゅう
1年ぶりにお会いしたのに気が付いてないのか、私の事を無視してお猿さんにお尻を振っていらっしゃるようでしたので、放っておこうと思ったのですが……少々癪な言葉が聞こえましたので」
「私が気がついていないとでも?
大嫌いなブランドの香水がプンプン臭ってきましたから、勿論気付いていましたとも
ああ、私の前で無様に負けを晒したあの時から、下品に膨らんだ胸以外何1つお変わりないようで何よりです」
「あの時はお互い専用機ではありませんでしたし、今はそう上手く行かないと思ってくださいまし
それより貴方こそ、ラグビーボールみたいなお尻以外枯れ枝のような体はそのままでしてよ?
それと、胸に関しては下品ではなく魅力に溢れたと仰っていただけます?」
「ではその魅力たっぷりの胸、もぎ取って差し上げましょうか
ISに乗る時邪魔でしょう?視界も下半分が見え難いでしょうに」
「いえ結構ですわ、私は貴女のように野蛮な殴り合いは好みませんの
狩りは優雅に軽やかに、射撃戦で行うものですわ」
冷戦ーー現状を表すならばその言葉がピッタリであろう
2人ともニコニコ笑顔であるが、彼女らが纏う雰囲気はまさしく一触即発である
「ああ、そうそう、一つアドバイスを差し上げます、整形外科を受診してみては如何?
その貧相な体つきもシリコンを詰め込めば少しはマシになるでしょうに」
「――OK、そのクーパー靭帯パパッと引き千切って無様に垂れさせてやりますから今すぐ表に出なさい、ライミー」
「いい度胸です、穴あきチーズにしてロンドンのドブに捨ててさしあげますわ、
2人は火花が幻視される程、穏やかに罵り合いながらガンをつけあっている
流石にまずいと感じた一夏と他のクラスメイトはなんとか2人を止めようと仲裁に入ろうとするが、それは第三者の武力介入によって先んじられる事になる
「「あいたあ!」」
「極めて個人的な問題を国際問題に発展させようとするんじゃない、馬鹿者共が」
ゴパンッ、と鈍いとも乾いたとも分からない破裂音と共に炸裂したのは出席簿による一撃である
千冬が手首のスナップを利用した目にも留まらぬ制裁を2人にお見舞いしたのだ
「「っづぅ〜〜〜〜〜ッッッ!」」
「授業を始める、さっさと席に着け」
「しゅ、出席簿の角で殴らなくてもいいではないですか先生……」
「暴力反対、ですわ……」
「ほう、今の言葉が理解出来ないとは、お前らの頭には紙屑でも詰まっているのか……?
確かめるのも一興か」
「「席に着きます!!」」
「よろしい」
指をゴキリ、と鳴らした所で2人は猛ダッシュで各々の席に着く
「授業を始める前に聞いておくことがある
日野、クラス代表に立候補する気はあるか?」
「ーー、クラス代表……ですか」
数拍置いた返事には驚きの感情が伺える
それもそうだろう、入学初日も来てから1時間と経っていない中でのクラス代表立候補の提案だ、驚くのも無理はない
「そうだ、お前は遅れて入学してきたからな
上から一応聞いておけとの達しだ」
「うーん……」
「急かすようで悪いがな、この場で決めて「では、やりましょう」……そうか、分かった」
「んなっ」
ガタンッ、という音と共に奇天烈な声をあげたのはセシリアだ
驚きのあまり椅子を跳ね上げて立ち上がったようである
「ど、どういったおつもりで?」
「どうするも何も、立候補しただけですよオルコットさん」
「あなたの事です、どうせクラス代表決定戦の事はご存知なのでしょう?」
「ええ勿論、公衆の面前であなたをボコボコに出来るのなら良い機会ーーおっと、本音がウッカリ」
「この……!」
「お前達、そんなに頭の中身を覗かれたいのか……?」
「「いえ、そんな事は」」
お前ら本当は仲が良いんじゃないのか、と疑いたくなるような光景だ
ああいったモノを"宿敵と書いて友と読む"も言うべき関係なのだろう
「「それは違います(ますわ)!!!」」
「喧しい」
「「あいたあ!!」」
やっぱり仲良しじゃないか、てゆうか心を読むな、と思う間も無く再び千冬の制裁が下されるのにコンマ1秒とかからなかった
その内、棗のイラストもうpします
10月9日
誤字修正と一部改訂