METAL GEAR NEXISーNew generation gearー   作:saver

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第2話『The girl falls to "Outer heaven"(少女は天国の外側へ堕ちる)

放課後

 

各所がメカニカルな意匠を放つのはこのIS学園において珍しい事ではないが、他ならぬ生徒によって魔改造が繰り返される整備課が有するエリアを除けば、この場所が1番メカ好きの心を踊らせる場所だろう

それは広大な敷地の中でも一位二位を争う程の巨大さを有するISアリーナだ

既存兵器の多くを凌駕したIS同士の戦闘に耐えるフィールドバリアとバリアジェネレーター、IS発進用カタパルトとメンテナンスドック、整備課直通の大型エレベーターと、様々な設備が整っている

 

「うおおおおおお!」

「ほら!足元がお留守です!」

「クソァ!毎度思ってたけどこれ絶対に初心者メニューじゃないだろ!」

「世の中荒療治の方が効く場合だってあるんです!実戦形式で鍛える他にありません!戦場では度胸と経験を兼ね備えた戦士が生き残るんですよ!」

「そうだぞ一夏!男は度胸だ、腹を括れ!」

 

そんなアリーナでは現在、三つの打鉄が縦横無尽に駆け回っていた

一夏と、箒と、棗だ

 

一夏が必死に飛ぶ中、背後から葵を振りかざして迫るのは箒、そして縦横無尽にフィールドを駆け回り四方八方から攻撃を仕掛けるのは棗である

 

「畜生!棗は箒と違うと思ったのに!」

「それはどういう意味だ!?」

「ほら!集中してください!」

「あああああああああああああああ!!!!!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

あの後、恙無く授業を終えて小休止に入り、用を足そうと廊下に出た時、再び棗がやってきた

 

「一夏さん、少々提案があるのですが」

「なんだ?」

「こう言っては申し訳ないですが、ISの操縦は殆ど初めてでしょう?

それで、少しばかり稽古を、と」

「ああ、それはーー「それは不要だ」そ、箒に頼んでるんだ」

 

会話に飛び込んできたのは箒だった

何かあったのか、どこか不機嫌な様子だ

 

「改めまして、日野棗です」

「ああ、篠ノ之箒だ……一夏の稽古なら私がつけるから間に合っているぞ」

「そうでしたか、それは失敬……」

「一応、目的を聞こう」

 

苛々は未だつのるようで、どこか落ち着かない様子だ

腹の具合でも悪いのだろうか

 

「目的も何も、老婆心とか親切心とか、そういった類のモノですよ」

「本当か?下心が透けて見えるぞ?」

「お、おい、箒......」

「大丈夫ですよ、一夏さん」

 

流石に言い過ぎではないかと思い止めに入るが、それは他ならぬ棗によって静止された

 

「……ここで変に誤魔化すのは愚策ですね

まさかこんなボディーガードがついているとは、誤算でした」

「ほう、本性を現したか女狐め」

「実は本社からの指示という奴でして、要は恩を売って織斑一夏の懐に潜り込めってところです」

「本社?」

「ああ、先も申し上げましたが私、国家代表候補という以前に企業の所属でして」

「イカルガナントカって会社か」

 

名前はどこかで聞いたことがあるがよく覚えていない、なんの会社だっただろうか

ISを有するからして、軍需企業なのは間違いないが

 

「"ふとした怪我の絆創膏から国民を守るミサイルまで"、イカルガホールディングスです

厳密に言えば、子会社のイカルガ・アームズテックですが」

 

そう言って懐から取り出したのは名刺入れだ

そこから二枚取り出し、俺と箒に手渡す

そこには『イカルガ・ホールディングス イカルガ・アームズテック社専属パイロット 日本国家代表候補生 日野 棗』と書かれている

 

軽く調べてみると、どうやら江戸時代から存在する工業系企業のようで、戦前に蓄えた莫大な資産、人脈を通して企業の吸収合併を繰り返していたとのことだ

最近では経営難に陥ったアームズテックセキュリティ社を完全子会社化した事でも話題になっていたようだが

 

「何を作ってるんだ?」

「アレとかですね」

「......アレって、月光か!」

 

棗が指差した方向、そこにはグラウンドの外周沿いを警備員と共に歩くメタルギアIRVINGである

正面と側面には“SECURITY”と記され、紺色と黒のボディにパトランプが特徴的な警備用で、頭部に備え付けられている機関銃も非殺傷性のゴム弾だし、側面に取り付けられたグレネードランチャーにもペイント弾や催涙弾が詰まっていると聞く

“ナマモノっぽくて気持ち悪い”と不評だったが、高い柔軟性と耐久性を両立した脚部は鋼鉄製のカバーを装着することで悪評を解消したものだ

 

「ウチの主力製品、IRVING Mk-ⅡのS型です

アレがなければATS社もどうなっていたことやら......っと、話がズレましたね

まあ女狐だろうと泥棒猫だろうと結構なんですが、親切心というのは本当ですよ

同じ日本人として一夏さんには頑張ってもらいたいですし、流石にいきなり英国の国家代表候補生ーーしかもセシリア・オルコットとやりあうのは酷だなと思いまして」

「......そんなに強いのか」

「私も最後に戦ってからだいぶ経っていますので、今がどうだというのは一概に言えませんが、当時から凄かったですよ

当時はお世辞にも射撃安定性能に優れているとは言い難い機体にも関わらず、ライフルの銃口やミサイルの発射口を狙撃してきましたから」

「なんだそれ……」

「今思うと、名前もちょっと変えるだけでゴルゴ13でしたしねぇ

狙撃手は彼女にとって天職なのかもしれません」

 

棗曰く、一部では現代のシモ・ヘイヘとかスロ・コルッカの再来とか色々言われ放題な程度には射撃――特に狙撃の腕は有名であるらしい

IS以外でもバイアスロンの強化選手リストに載っているそうだ

ISパイロットに必要な知性、決断力、操縦の腕、容姿全てが揃ってミス・パーフェクトと呼び名も高いとかなんとか

 

「なんだ、自分より弱いみたいな事言ってたのに、結構高く買ってるんだな」

「そりゃそうですよ、驕り、慢心、油断、それらは全て敗北へ繋がる要因です

――実戦では、それが命取りになりますから」

「……そうか」

 

妙に実感のこもった台詞だ、と感じる

過去に何かあったのだろうか

 

「まあ、レディは秘密の一つや二つあったほうが魅力的といいますし、詮索はナシと言うことで一つ」

「自分で言うのかそれを……」

「あぁ、それと話をもう一度戻しますと

期間は短いので大した事は教えられませんが、少なくとも基本的な立ち回りとかを覚えておけば少しはマシになるかな、と

見た所それなりに鍛えている様ですが、ISと生身ではだいぶ勝手が違いますし

餅は餅屋とも言います、箒さんはISの操縦時間は如何です?」

「お前、分かって言っているな?」

「一応、これでもISの操縦時間ならそこいらの国家代表候補生に負けない自信があるので」

 

それを最後に箒と棗の間を沈黙が支配する

ややあって、鋭い眼光を放っていた箒は思案するように眼を閉じ、その後言葉を紡いだ

 

「必要以上にベタベタしたら容赦せん」

「仕事上の下心はありますが、それ以上はありませんよ

なので箒さんの思っているような事にはならないかと、そもそも私の好みはワイルド系ですので」

「そ、それ以上とはなんだ!それ以上とは!」

「ふふ、気がつかないとでも?」

「ぐ、ぐぬぬ」

「なんの話だ?」

「一夏は気にするな!」

「これは自分で気がついた方がよろしいかと思います」

「?」

 

なんの話をしているのか分からないが、女の子には女の子なりの事情があるのだろう

そう結論づけていると、棗が再び口火を切った

 

「時に、一夏さんと箒さんは剣道をやっていたと聞きましたが」

「ああ、そうだけど、それがどうしたんだ?」

「てゆうか何故知っている」

「とある情報筋によるリサーチ、というやつです」

「……そうか」

 

棗が己のプライベートについてどこまで知っているのか気になったが、深くは聞かないことにした

これは多分、藪蛇ってやつだ

 

「まぁそれはさておき、一夏さんは相手の面を打つ時、どの位の間合いから振り降ろすとか、考えはしても意識して行動することってありますか?」

「……ないな、そういえば」

「何事にしてもそうですが、物事をある一定のラインまで修めると考えずともそれを行うことができますね?

ISでもそれと同じことが言えまして、スペックや理論などではなく、己が体の延長線上としてISを知り、振るうのです

勿論、だからと言ってスペックや理論、戦術等を学ばなくても良いというわけではありません、そこまでやって一人前という事です

剣道だって、どんなに強くても防具の着け方や作法を知らなければ一人前とは言えないでしょう?」

「なかなか知ったクチをきくじゃないか」

「私も、武道を嗜むものですので」

「ほう?……いや、確かに」

 

俺も箒も、それを意外だとは思わなかった

棗の体運びは隙のないものだし、履いているブーツは踵が高くなっていてヒールのようであるが、体軸のブレは見受けられない

明らかに何某かの武道、武術を習得している者のそれだった

 

「既存武道を組み合わせた我流ですがね、そこいらの連中には負けない自信があります

尤も、最近はISの訓練やらなんやらが忙しかったので、公式戦での記録は遥か昔のものですが」

「へぇ、それじゃあヴァイパーも近接格闘型なのか?」

「まあ、そんな所です……社外秘なので、詳しいお披露目はもう少し先になりますが」

「セシリアと戦う時にって事か」

「はい、既に手配は済ませていますーーというより、済ませられた感じですがね」

「……手配?」

「我が社は多数の契約を多数の組織と結ぶ事、つまりはIS市場における我が社の地位確立を目的としています、私はその広報活動の一環としてIS学園へ入学しました

まぁ、少々事情が変わって入学が遅れたり、早まったりとてんやわんやでしたが」

「ほう」

「それでまぁ、広報活動ですからアピールを行わなければならないのですよ

“ウチの製品を買いませんか?”って、つまりーー今回のクラス代表決定戦は各国軍首脳部を筆頭とした、我々IAT社製ISの購入、或いはレンタルを検討している組織の重鎮へ生中継されます」

「……はぁ!?」

「あ、一応言っておきますけど許可は取ってありますよ?

元より、学園内で行われるISに関連したイベントは大なり小なりそういった用意がされる筈ですし、青田買いってヤツですね」

 

IS学園は日本にあり、日本政府によって管理運営されているが、実際には国連――引いては国連安全保障理事会の管理下にある

世界の財産であるIS、それに触れる事が許されたパイロットや整備師、研究者の卵達、これらは一国の手によって管理されるべきではない

 

たった一機で一軍を撃破可能な、一個人の手によって操作される戦術機動兵器、それがISだ

既存の核抑止力に基づく冷たい戦争を終わらせたのがメタルギアであるならば、10年ほど前までは常識だったメタルギアとPMCによる代理戦争を終わらせたのがISなのである

 

高校野球のドラフト会議が如く、無所属の卵達を手中に収めるべく、或いは既に買われたものを奪い取るべく思惑を巡らせる土地、それがIS学園のもう一つの姿だと棗は言う

 

「な、なんかイメージ崩れるな……」

「テレビとかじゃ有名パイロットとかってアイドル扱いですし、モントグロッソみたいな競技大会しか放送しませんからね

そもそもISは国家機密の塊みたいなものなので、おいそれと公開できるモノではないのですが―っと、また脱線しちゃいましたね、私の事情やら世界情勢やらはどうでも良いんです

今問題なのは一夏さん、あなたなんですよ

あなた自分で言いましたよね?”悪しき前例にはなれない”、と

ならば特訓あるのみです、これからの数日間でちょっとくらいマシな動きができないと、セシリアに指一本触れることすら叶いませんよ」

 

そして、俺にとって地獄の四日間が幕を開けたのだ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

――そうして、冒頭に至るわけである

 

「コヒュー……ゼヒュー…」

「ふむ、まあこんな所でしょう、“1時間耐久IS鬼ごっこ”お疲れ様でした」

 

棗は鬼ごっこと言うが、アレは決して鬼ごっこなどではない

通常、鬼ごっこは鬼がタッチをすれば交代するものだが、今回のは交代がない

更に、あちらは銃火器刀剣何でもありなのに、こちらに許された攻撃は迎撃のみで能動的な攻撃は一切許されない

そして何より、1秒以上の停止は禁止、つまり“止まったら負け”なのである

因みに、ルール違反を一つでも犯した場合、要は負けた場合は“棗ポイント”なるけったいなシロモノが溜まっていき、最終的にはポイントに応じたお楽しみコースが待っているらしい

こんなものは鬼ごっこではなく、一方的な蹂躙か虐殺に違いないのである

 

「ふむ、本日の棗ポイントは6ポイントですか、最初は“何もできない三流”だったのが“ちょっとはデキる二流”へランクアップと言ったところですね

代表決定戦まであと3日、それまでに一夏さんを“相手に食い下がることができる二流”まで持って行きますので覚悟しておいてください

ではいつも通り、あとの事はお任せしますよ、篠ノ之さん」

「ああ、わかった……それと箒で構わん、この前は邪険に扱って悪かったな」

「では私の事も棗と……それと、アレは私にも非がありますので」

 

そう言って箒と棗は握手を交わす、いつの間にか意気投合しているようである

棗もなにか武道をやっているようだし、武を嗜むもの同士、なにかと気の合う部分があるのだろう

 

「……?」

「箒、どうかしたのか?」

「いや、感触が……」

「ああ失礼、最近ではカミングアウトすることもなかったのですっかり忘れていました」

 

そう言って、棗は今まで片時も外すことがなかった手袋を外す

露わになったのはーーサイボーグの掌だった

 

「……!」

「ご覧の通り義手です、正確には機械と生物の中間、サイボーグですね

てゆうか今まで箒さん一緒に着替えましたよね?」

「……棗は首から下を全部包んでるISスーツを制服の下に着込んでいたじゃないか」

「あ、そういえばそうでした」

 

――サイボーグ化

 

SOP崩壊後、ここ数年で飛躍的に発達した軍事技術発端の先進医療技術だ

手足その他を欠損したか、老衰や諸々の要因によりリタイアを余儀なくされた兵士への社会復帰政策、或いは部隊復帰策として講じられていたものが一般に開放されたもので、嘗ての手足と同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮できる事から需要は大きくなっている

ここ日本でも筋肉の出力や材質等に制限付きで限定認可されたのが記憶に新しい

 

「両肩から先と、太腿の付け根から先、両眼は完全にサイボーグ化しています

ぶっちゃけ、人の手が加わっていない部分とか脳くらい……あ、視神経の関係で手が入ってます、無いですね手が加わってないところ」

「どうして……いや、不躾だった、ごめん」

「……いいんですよ

これは過去に事故で失いました、その時両親も一緒に……まぁ、こうなった経緯は兎も角、この身体はなにかと便利ですから……ふふふ、私脱ぐと凄いんですよ?」

 

凄いってどういう意味なんだろうか

それってスタイル云々じゃなくてサイボーグの身体がって事じゃないのか

 

「そ、そうか……」

「あ、引いてますね?ドン引きですね?そう言う反応が一番傷つきます……」

「え、あ、いや、すまない!」

「冗談です」

「ええ……」

 

茶化されてしまったが、棗の知られざる事情は気になった

サイボーグ化手術は高額な手術費用や、手術後も通常の義肢とは比べものにもならない程大掛かりな定期的なメンテナンス、そもそも国によっては認可が降りていない等々諸々の理由で手を出し難いのも確かなのだ

それを棗は人体の殆どをサイボーグ化しているという……ご両親がお金持ちだったのだろうか、企業所属とか言っていたし

 

まぁ、気不味過ぎて聞くに聞けないのだが

 

「それでは、私は本社への報告とか色々ありますので、失礼します」

「あ、ああ、また明日」

「……ま、また明日、な」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「さて」

 

柄にもなくアレコレ語ってしまったが、取り敢えずやらねばならない事を片付けてしまおう

自室へ戻り、制服を脱いで下着のみになると、コーヒーを用意して報告書を書くためにパソコンを開く

毎日提出しろと言われているわけではないが、進展があった場合に送れとのことだ

その点からいえば、ここ数日はある程度の進展があったと判断できる

 

内容は織斑一夏、並びにその友人である篠ノ之束博士の妹である箒と良好な関係を結ぶ事が出来た事

セシリア・オルコットは昔と大して変わっていなかった事

ことISの腕前に関して言えば篠ノ之箒がそこいらの一年生と大して変わらない事

織斑一夏に関しては想定通り、気合は十分であるが腕は三流以下である事

何もできない三流を相手に食い下がれる二流へ鍛え直し始めた事

 

「……こんなところ、か」

 

すっかり冷えたコーヒーを流し込み、腕時計を確認すると時間は21時を回ったところだ

 

「……む」

 

下腹部に感じる違和感――正体は空腹だった

そこで、うっかり夕食へ行くのを忘れていたのを思い出す

 

――まだコンビニは開いていたはずだ

 

そう思い立って

服を着て財布を手に立ち上がった時、携帯端末にメールが届く

内容を確認してみると、タイトルは“近況報告”とある

添付されていたものは主任を筆頭とするテキサス支部の面々が写ったフォトデータと、申し訳程度の書き込まれた“近況報告”の文面だった

 

「……」

 

もはや意識せずとも行えるようになった義眼の情報解析モードを立ち上げ、画像データと文面に隠された暗号を読み取る

この“近況報告”とは、ただの日常的なものではない

主任と私、それと幾人かのみ知る極秘の内容だ

解析の結果は“調査に進展なし”といったものだ

 

「……ッ」

 

ああ、また幻肢痛(ファントムペイン)

機械と生物の間となった身体が疼く

喪くした両親との記憶が蘇る

まるで、錆びた五寸釘を打ち付けられているかのよう

 

「……ア゛アァッ!!」

 

それが煩わしく、八つ当たり気味に壁を殴る

ISを展開していない状態では痛みはない、ただ壁にぶつかった感触が脳へ信号として送られるのみだ

 

「……夕飯は、いいか」

 

興が削がれた、とでも言おうか

もう食べ物を口にする気などなくなってしまった

ボタンを留めかけていた制服と下着を脱ぎ捨てると、シャワールームに入る

こういう時一人部屋は便利だ、誰にも気を遣わなくて済む

バルブを捻ると、ザアッと温かいお湯が降り注ぐ

1日の汚れを流すシャワーは、僅かながらに手足と家族の幻肢痛を洗い流してくれる、そんな気がした

 

「……なんて、無様」

 

だが鏡に映った己の顔は、とても人前に出れるようなものではない

ムシャクシャした気分を少しでも紛らわすために、いつもより多めのシャンプーで髪を洗い流した

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日、昨日の事で鬱屈としながらも気分をなんとか切り替え、今日も一日頑張るぞいと気合い入れた直後、SHRで織斑先生はトンデモない事を言い出した

 

「突然だが、オルコットと日野は午後イチで戦ってもらう、クラス代表決定戦の一回戦だ」

「「えっ」」

「なにか問題でも?」

「いえ、殺るなら殺るで心の準備というものが」

「私も同感ですわ……」

「貴様らの事情など知るか、こちらにも都合というものがある」

 

曰く、アリーナの予約状況やらなんやら、ジャッジの手配やらなんやら、色々とあるらしい

 

「そもそもクラス代表を決定するというのに揉め事を作り出したのはオルコットの筈だが?」

「うぐ」

「そちらの都合に付き合わせておいて、こちらの都合は飲めないか、いい度胸じゃないか……」

「うぐぐ」

「ふふふ、無様ですねオルコットさん

その無様に免じて降参を受け入れても良いですよ?」

「なっ、お猿さん風情がなにをーー」

「煽るんじゃない馬鹿者、そしてオルコットも乗っかるな」

「「あいたあ!」」

 

二本の電子チョークが弾丸が如く飛翔し、ほぼ同時にとセシリアの額に着弾した

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

昼休みを終えたアリーナの観戦席には学内誌のネタにする為であろう報道部の部員や、なにかと噂の一夏を見物に来た生徒が何人か見受けられる

 

そんなアリーナの一角、強固な防護壁に覆われたカタパルトルーム

そこに佇む一機のヒトガタと女性

 

「ハイパーセンサー異常無し、NCMS異常無し、シンクロ率99.78%、感度良好、正常値」

 

薄暗い室内に佇むヒトガタは艶消しの黒い装甲で覆われており、まるで闇夜に溶け込む暗殺者のようである

アンロックユニットが背部のブースターユニットらしきもの以外存在しない上、大きさは一般的なものよりも少し小さい

だが、赤く発光する鋭いツインアイや、ハイパーセンサーであろうヘッドユニット側面からせり出したブレードアンテナにより、威圧感は十二分であった

 

「アーティフィカルマッスル可動に問題なし、スラスター1番から10番よし」

 

ISスーツが覆い隠しているお陰で今は見えないが、着替えを始めた時には彼女の体を見て驚かされた

なにせ腕と足がサイボーグな上、背中にも背骨に沿うようにして機械が取り付けられていたーーいや、アレは埋め込まれているのだろう

書面では確認していたが実際に見ると凄まじいものであった

ヒトガタの側に佇む女性――織斑千冬がヒトガターーIS"ヴァイパー"を見た感想はそんなところだ

 

「ウェポンユニット、雷切、梓、日輪、葵、問題なし」

ヴァイパーに身を包むのは日野棗

ほんの一週間前に編入してきた学生だ

ルーティーンであろうか、本来ならば勝手に行われるシステムチェックを手動で行なっている

これも彼女が抱える事情によるものなのだろうと、千冬は結論づけた

 

「全システム、グリーン……よし」

「日野」

「なんでしょうか?」

「お前は、何故ISに乗る」

「何故、ですか……」

 

ISに乗る理由

一昔前ならばいざ知らず、今の世の中で大きな意味を持たない言葉だ

それは政治であり、金であり、様々な利権でもある

 

夢と答えるものもいるだろう、これが義務だと答えるものもいるだろう

だが、乗り続ければ乗り続ける程に汚い鎖が己を雁字搦めにし、汚泥に浸かっていくものだ

 

しかしそんな中でも、稀に真っ白な洗濯物のような、綺麗な意思を持ち続けるものもいる

今年の学生にはそういった確固たる意思、気骨を感じるものが多い

 

「変な事を聞きますね、何か問題でも?」

「お前の経歴、調べさせてもらった」

「……プライバシーの侵害ですよ」

「公的機関に、よりにもよってこのIS学園に偽装した書類を送りつける奴が悪い

IS学園のバックにはICPOを筆頭とした警察機関、CIA、モサド、MI6等の諜報機関がいるんだ、知らないわけではあるまい?」

 

では果たして、この少女はどうなのだろう

南ア、南米、中東等の紛争地域を中心に20回以上戦場を乗り越え、命のやり取りをし、運に味方されずともその場を切り抜けられるであろう実力もある

事実、IS学園内で全力を出した彼女の相手が務まるのはごく一部だろう

それこそ、日野が殺人を戸惑わないのであれば私が出ねばならない程に

 

「……それもそうですね、して、何か問題でも?

企業や国家間の諜報活動など珍しいことではないでしょうに」

「それだけではないだろう」

 

IS学園において"原則"禁止されている行動を、なんの苦もなく言ってみせる胆力もある

 

「それ以外でしたら自己紹介でも言った筈です、世界さいきょーー「あくまでも通過点、違うか?」……」

 

棗は紡ごうとした社交辞令を辞め、一度目を閉じ、此方を睨みつけ、言った

 

「――復讐ですよ、両親と私の手足をもぎ取っていった奴と、その親元を根絶やしにする為です」

「……月並みだが、復讐など負の連鎖しか生まん」

 

返ってきたのは予想通りの言葉

過去に両親が事故死したのは知っている

その事故は本当に事故だったのか疑わしく、搭乗していた旅客機には反IS団体に加えISの代替技術を研究する技術者が乗っていたことも

それをIAT社から知らされ、その事実が彼女を駆り立てているであろう事も、予想はしていた

 

「だが、そんな復讐をご両親が望んでいると思うか?

失ってしまったものは取り返せない、だがお前にはーー」

「ああ、そうですかーーで、それが何か問題でも?

聞き飽きましたよその台詞、どうせ"明るい未来を"とか"安全な道を"とか言うんでしょう?」

「……ッ」

「それに対する答えはただ一つです

死んだ両親がどう思うだとか、知った事じゃありません、死人に口なしです

そう、どうだっていいんですよ、どうでも良いことです」

 

そこにあったものは、闇だ

知り合ってから長いわけではないが、普段のあっけらかんとした表情、昼行灯は何処へやら、底無しの闇がそこにあった

瞳には何も写さず、ひたすらに渦巻くのは憎悪の感情ただ一つ

そんな、年頃の少女がどうやっても宿してはいけないであろう暗闇の瞳で己を見つめたまま棗は言葉を紡ぐ

 

「あなたからすれば私を思いやっての言葉かもしれませんが、余計なお世話にも程があります

両親がどう思うかですって?

なにを勝手に他人の心を代弁してやがりますか、思い上がるのも大概にした方が宜しいかと思います

復讐は成し遂げればスッキリします、毎晩憎悪で腹わたが煮え繰り返る事もなく、嘗ての手足に走る幻肢痛悩まされることもなく、穏やかに眠り、爽やかに朝を迎える事ができるのです、その日の朝食はさぞかし美味しい事でしょう

負の連鎖しか生まないですって?相手に勝る暴力を以ってして、連鎖の芽が潰えて無くなるまで徹底的に根絶やしにすれば良いのです」

 

その時、棗の姿――ヴァイパーの背後に蛇を幻視した

ゆらゆらと揺らぐ、陽炎のような歪みの中で、こちらを睨みつける蛇の顔を

 

「今の人生もそれなりに楽しいですが、消えて欲しい人が消えてくれればもっと楽しくなるんですよ

心の片隅に渦巻くこの感情を消し去れれば、新しい世界が見えるんですよ……!

私の大事なものを踏み躙っていった愚か者をこの世から抹消し、私は未だ見えぬいつかの明日を迎えたい、これ以上に理由が必要だって言うの……!?

それが間違っているって言うなら、どんな感情で、この喪くした家族の、失くした身体の幻痛を慰めろって言うのよ……!」

 

首だけを向けていた棗は、ゆっくりとこちらに向き直り、暖かみなどカケラも感じられない冷たい瞳で睨みつける

 

「理解出来ないならそれで結構、邪魔さえしてくれなければそれで構わない

でも、私の歩む道を、この復讐を邪魔するのなら――」

 

――その時は、容赦はしない

 

言葉にこそしなかった

だが、突風のように全身に叩きつけられる明確な殺意、敵意

負の感情が嵐となって襲いかかる

 

「……ッ!」

 

声を上げる機能などついていない筈のISが、キシキシシューシューと鳴いている

それがヴァイパーの排熱機構が振動で音を鳴らしているのだと、そう気が付いたのは後の話だ

この時、手の震えを御し、後ずさろうと震える足を抑えられたのはなんという幸運だったろうか

だがその時の私には、棗が毒牙を剥き、今まさに眼前の獲物へ喰らい付かんとする巨大な毒蛇に見えて仕方がなかったのだ

 

そしてその時、私は思い出した

世界最強と謳われて以来、実弟を拉致されて以来、久しく感じることのなかったーー恐怖を

 

「……」

「まだなにか、言いたい事が?」

 

だが、それと同時に棗への印象は猜疑から哀愁へと変化した

 

「……いや、私からはもう何も言えん」

 

ああ、なんということだろう

どうして、世界はこうにも彼女に残酷であるのか

己の全てを奪った仇を討つ鬼となった彼女へ与えられたISの名は、“メタルギア”

それがヴァイパー……“蛇”の名を冠するなど、なんという皮肉だろう

 

嘗て、世界への復讐の為、反抗の為、支配の為、戦いの連鎖を止める為に使われた“機械の歯車”

 

嘗て、己に忠を尽くし、復讐に身を燃やし、運命に立ち向かい、世界を食らわんとした“蛇”

 

その、蛇の名を受け継ぐお前は、どこへ行こうというのか

 

『日野さん、開始時刻です、カタパルトへ』

 

お互い睨み合ったままの沈黙を打ち破ったのは無機質なアナウンスだった

棗はまた眼を閉じ、ため息を一つついてカタパルトへ向かう

 

「今のは忘れていただいて結構です、てゆうか忘れてください

あまり、他人に話した事のないものですので……それと、感情的になって不躾な物言い、失礼しました」

 

カタパルトへ脚部を固定し、射出姿勢を取る

千冬はまた思い出した

それは白騎士事件の直後、一度だけ会った壮年の男性

束と友人であったというエメリッヒ博士――嘗て、蛇にオタコンと呼ばれた男

博士は私にこう言った

 

「これは決して語られることのない物語だ」

 

「スネークは嫌がるだろうけど、僕達以外に誰も覚えていないなんて……残酷すぎると思う」

 

「語り部にならなくてもいい、覚えていてくれるだけでもいいんだ

“こんな奴がいたんだ”って、そんな風にね」

 

そうして語り出したのは、蛇の話

嘗ての師を討ち、世界を救い、世界から消された原初の蛇

様々な思惑の中で誕生し、偽物でありながら本物であった蛇

原点を超え、兄弟を超え、最強であろうとした蛇

支配からの解放を望み、誰かのコピーではなくただ己を確立しようとした蛇

縛る因果を断ち切って、命をすり減らして運命と戦った蛇

 

そんな、話に聞いただけの蛇を、彼女の背中に幻視したーーそんな気がした

 

「(博士……)」

「メタルギア・ネクシス[ヴァイパー]――」

「(……私に、新たな“蛇”を導くことは、できるだろうか)」

「――出るッッ!!」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

アリーナは喧騒に包まれていた

一部の界隈ではそこそこの有名人であるセシリア・オルコットと完全無名とはいえワンオフの専用機――それもメタルギアの名を冠するISを駆る日野 棗によるクラス代表決定戦

勝利者は世界唯一の男性操縦者である織斑一夏と戦う権利を得る

クラス代表決定戦とはいえ、報道部によって知らしめられた結果、その注目はIS学園中に広がっていた

無論、アリーナ各所に取り付けられたカメラによってアリーナ内部は余すところなく学園中に中継され、観客席に入りきらなかった、或いは見に行けなかった生徒・教員は画面に釘付けである

 

家庭科部による公認の出店は飲食物で荒稼ぎ、極秘裏に行われているトトカルチョでは千円札が飛び交っていた

 

『それでは選手入場です!

青コーナー、世界女子バイアスロン選手権射撃部門U-17準優勝!世界競技射撃選手権ビッグボアライフル部門優勝!IS公式戦記録実質無敗

!イギリス国家代表候補生、セシリア・オルコット!』

 

カタパルトからISが勢いよく飛び出し、空中で綺麗に静止

バレエ選手のようにお辞儀をするのは長大なレーザーライフルを構えた青いIS、セシリア・オルコットのブルーティアーズだ

 

「キャアアアアアアア!」

「セシリア様ァ――!」

「踏んでー!罵ってェー!」

 

ファンサービスのなんたるかを心得ているのだろう

ハイパーセンサーが拾ってしまったピンク色の声は聞かなかったことにして、黄色い歓声へセシリアは客席に笑顔を振りまき、手を振る

初日における一夏との一件があるとはいえ、それでも世界に名を轟かせるセシリアのファンは多い

 

『続きまして赤コーナー!ISパイロットとしての経歴一切不明!謎のヴェールに包まれたミステリアスレディ、日本国家代表候補生にしてイカルガ・アームズテック社所属テストパイロット、日野棗!』

 

そのアナウンスと共に、それは勢いよくカタパルトから飛び出すと、クルリと一回転の後、ガチンッと大きな金属音を響かせて着地した

右膝を突き、左足は立て、左腕はなだらかに曲げながら後方へ

 

「あ、あのポーズは!?」

 

そして握り締めた右拳を真っ直ぐ地面に突き立て、凛と前方上空のブルーティアーズを赤く輝くツインアイが睨め付け、立ち上がるその姿

 

「わ!急に叫ぶな!アレがどうしたって言うんだ!?」

「分からないのか箒!あれはーー」

 

一夏にとって、それは時間が止まっているかの様に錯覚する程カッコよく、控えめに言って最高だった

そう、その勇姿はまさしくーー

 

「ーーあれは、スーパーヒーロー着地!

スーパーヒーロー着地は高い位置から飛び降りるか、飛行を停止して着地する際に片腕を後方に大きく反らせた片膝立ちの姿勢をとる事で成り立つ

主にヒーロー系の作品において主人公が登場する際に多用される技で、膝と腰に多大な負担を掛ける諸刃の剣だ……」

「なぜそんな事をする?」

「カッコいいからだッッ!!」

「そ、そうか……」

 

フィールドに降り立った棗は着地姿勢から立ち上がり、仁王立ちとなる

そして大きく見得を切って声を張り上げた

 

「改めて、名乗らせていただきましょう!

ーー1つ、己が拳を疑わず!

ーー2つ、その身が成すは明鏡止水!

ーー3つ、残すは敵(かたき)が骸!

我が氏は日野、名は棗!

我がISの名はメタルギア・ネクシス[ヴァイパー]!!

流派、日野示現流!!

見よッ!我が拳はァッ!!熱くッッ燃えているッッッ!!!」

 

棗が戦隊モノか香港映画のスターもかくやなポーズをどこかで聞いたことがある台詞と共に吐く

 

「「「………」」」

 

フィールドと観客席は一夏とごく一部の生徒、教師を除いて静まり返った

そんな静寂をよそに、棗は全身装甲型である故に頭部のほとんどを覆い尽くしていたフェイスカバーをガシャガシャと騒がしく展開させ、素顔を露わにする

棗は己の行動を半濁しつつウンウンと頷き、どこか満足げにポーズを解くと、グッと拳を握りしめ、呟いた

 

「キマった……!」

「なにがですの!?」

「いえ、万物の評価は見た目と第一印象が9割と言いますし、ヴァイパーのお披露目は上手くいったな、と」

「絶対に頭のおかしい奴が出てきたとか思われてますわよ」

「え、そうですか?カッコよくないですか?」

 

この瞬間、当の本人である棗、興奮冷めやらぬ一夏、整備課を筆頭とするごく一部のオタクを除いて会場の思いは一致していた

 

「「「(頭のおかしい奴が出てきた……)」」」

「カッコいいと思ったんですけどねえ……」

「貴女、存外面白い性格ですのね……」

『あの、もうよろしいですか?』

「「どうぞどうぞ」」

 

棗とごく一部の人間たちの趣向をイマイチ理解できず、困惑気味の司会が開始を促すと、雑談もそこそこに、それぞれ開始位置に着く

先のぐだぐだした空気はどこへやら、両者に緊張が走るのが目に見えるようであった

 

「スゥッ……ハァー……」

「……」

 

そして、ゴングは鳴る

 

『これより1-1クラス代表決定戦を開始します、司会は報道部、審判は世界IS委員会公認ジャッジの資格を有する山田麻耶先生がお送り致します!』

『では改めてご紹介しましょう、青コーナーはイギリス国家代表候補生、セシリア・オルコット、使用IS[ブルーティアーズ]

英国が有する光学兵器技術の粋を結集して建造された次期主力IS開発計画の一号機

公式戦では36勝1敗2引き分け、敗退した一戦もチームの機材トラブルによる不戦敗、実質無敗のエースパイロットです』

『赤コーナーは日本国家代表候補生、日野 棗、使用ISメタルギア・ネクシス[ヴァイパー]!

国家代表候補にも関わらず公式戦記録は無し、しかし“その筋”の情報によりますと非公式戦での戦果はかなりのもの、訓練時間も2000時間を超えるベテラン!更にセシリア選手とは過去に対戦して以来のライバルなんだとか!特徴的な名前の事もあり、期待度も大きいです!良い試合が期待できそうですね!』

『オッズは棗選手が無名な事もあってかセシリア選手が圧勝、ほぼ0:10のようです』

『一応言っておきますが賭け事は禁止!禁止ですよ!』

『では、カウントを開始しましょう!5――4――3――』

 

カウントが開始されると共に、お互いの雰囲気に力が籠る

セシリアは愛銃であるスターライトのグリップを握りしめ

棗も拳を軽く握り、構えをとった

 

『――2――1――』

 

客席も一気に静まり返り、緊張が走る

 

『――バトルッッ』

「地に伏しなさいな、私とブルーティアーズの円舞曲で!」

『――スタート!!』

 

フライング気味に先手を打ったのはセシリアだった

ドドドッ、とレーザー特有の大気を焼く音が響く、両手に構えたスターライトMk-Ⅱによる3発制限点射

一方、棗のヴァイパーは得物を有していない

多くの観戦者はあの攻撃を回避し、武器をこれから取り出すものだと思っていた

しかし、棗の取った行動はその予想に反したものであった

 

「ーー生憎、私はフラメンコが好きなもので」

「ッ!?」

 

セシリアが放った先手に対し、棗が行なった行動は多くの者を驚愕させた

スターライトMK-Ⅲによる射撃を身を捩る事で回避、そのまま捩った勢いを使って右足を大きく前に踏み込んだその刹那、展開された背中のバーニアユニットが大きく火を噴きーー棗は流星となった

 

「ーーヤァッッ!!!」

「なっーー!?」

 

繰り出したのは拳による突きだ

さながら弾丸が如く飛び跳ねた[ヴァイパー]は腰を大きく捻り、速度が十二分に乗った右拳を突き出す

拳が向かう先は[ブルーティアーズ]ーーいや、セシリアの頭部だ

装甲に守られていない、シールドバリアがあるとはいえ防御が比較的薄い場所を狙ったピンポイント攻撃

 

「せやァッッ!!」

「クッ!?」

 

近接格闘型と射撃戦特化型、こと試合においてどちらがアドバンテージを制し易いかは火を見るよりも明らかだ

通常、IS間戦闘は射撃戦が主である

棗の[ヴァイパー]や、織斑千冬の[暮桜]のように近接戦闘を主体とするパイロットやISはいないわけではないが、その大凡は並みの使い手であり、千冬のような使い手は稀だ

 

――だが、棗はその“稀な使い手”であった

 

「相変わらず野蛮な!」

「瀟洒な戦いなど!」

 

セシリアは左後方へ急加速して事無きを得るが、その距離は未だに棗の距離である

 

「ハッーートァッ!!」

「……ッ、カンフーごっこもここまでですわ!見くびっては困ります!」

 

だが、攻撃を受け続ける程セシリアは弱くなかったし、そこで焦らず次の一手を繰り出せるだけの胆力があった

棗が蹴りを繰り出すタイミングで機体を急旋回させ、メインスラスターをいっぱいに吹かして安全圏まで一気に距離を取る

格闘戦主体の相手に背中を見せるという行為は本来ならば愚行であるが、この時ばっかりはセシリアへ運が味方をした

振りの大きい上段回し蹴りであった為に追撃が出来なかったのだ

 

「お行きなさい!!」

 

棗の周囲を取り囲むBIT(Bluetears Innovation Trial)は計4機

 

「出しましたね、虎の子!」

 

ビットは棗と絶妙な距離を保ちつつ、別々の方向から、別々のタイミングで射撃を行う

それも時に小刻みに、時に大胆な動きを見せるのだから捉え難い

 

「ええい!ちょこまかと!」

「どの口が!」

 

そう、ビット含め制圧射撃に近い物量の狙撃という悪夢のような状況にも関わらず、棗は直撃を貰っていない

 

「直撃さえしなければ!」

「掌からシールドを!?」

 

その殆どを最低限の身のこなしで避け、どうしても避けられないものはエネルギーシールドをごく小規模かつ短時間に限定展開することで、機動戦闘を行いながら隙を最低限に収めつつ直撃を回避していた

 

――尤も、直撃を受けていないという点で言えばセシリアも同様であるが

 

「(なるほど、一夏さんの二の次とはいえ、上が情報を欲しがるのも当然か)」

 

セシリアの[ブルーティアーズ]はお世辞にも機動戦闘に適した機体ではない

細かな操作と集中力を必要とする精密射撃、それと同様の操作を思考、或いはマニュアル操作で行う遠隔操作兵器、これらは本来相反するものであり、同時運用など狂気の沙汰である

しかしそれを両立させようとしているのが[ブルーティアーズ]であり、このセシリア・オルコットという百年に1人と謳われた天才だった

未だ完成には至らないものの、全兵装を利用したオールレンジ攻撃をその手に掴むのはそう遠くないだろうし、その片鱗はすでに見えている

 

「(しかしセシリアの奴、ここまで腕を上げているとは)」

 

彼女が駆る[ブルーティアーズ]は安定性と索敵に特化した構成である

無論、ISとして最低限有するべき性能は持ち合わせているが、各々好みのカスタムとチューンナップを施された[打鉄]や[ラファール]の方が速いだろう

しかしながら、いかなる状況でも射撃時の安定を確保する為に全身に小口径のサブスラスターが満載されており、それを利用したある程度の機動戦闘は可能なのだ

だが、AIによる照準補正を受けているのは明白とはいえ、ビットに加えて全身のスラスターを制御するだけのマルチタスクを有するのは棗にとって予想外の出来事であった

 

「毒蛇風情が、落ちなさい!」

「そう易々とは!」

「ならば、これはいかがです!?」

 

スターライトMk-Ⅲの砲身が展開し、銃身が半分ほどに短くなる

消炎制退機すらなくなり、それは宛ら大砲のようである

小さくなった愛銃を片手で構え、引き金を引くとーー

 

「なァ!?」

「……ふふ、スターライトMk-Ⅲはあくまでもレーザー投射機の根幹部分を指す名……変形させれば銃種の変更も可能でしてよ!

スナイパーキャノンを主軸とした可変式レーザー投射銃!この状況対応能力こそ、スターライトMk-Ⅲの真骨頂!」

 

まさしく流星群が如く降り注ぐレーザー散弾

精密操作が不要な近接面制圧射撃への変更、これによってビットのオールレンジ攻撃はより熾烈に、精密に、確実に[ヴァイパー]の装甲を削りに襲いかかる

不意打ち気味にもらった被弾は全弾直撃こそ避けた為に致命打ではないが、近接格闘戦を主体とする棗にとって決して軽視できるものではなかった

 

「しかし、散弾では!」

 

確かに攻撃範囲は拡大し、ビットの攻撃制度は跳ね上がった

しかし、言うならばそれだけだ

元より射撃間隔は短くない、それを埋めてなお余るビットの射撃が厄介だが、十分に回避と防御は可能だ

だが、どうやって己の距離まで接近するか、それが問題だ

 

引き撃ちに対して追い縋るこの状況は好ましくない

機動力だけで考えるならこちらが上だ

しかし、オールレンジ攻撃と散弾がそれを許さない

 

「散弾だと馬鹿にできるのなら実践してみせなさい!やれるものならば!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……す、すごいな」

「射撃戦のプロに対する近接格闘戦のプロ、モンドグロッソでも何回か見た事がある

だが、あの歳であそこまで出来るならば大したものだな

学園の教員でも、あそこまでヤレるのは追い詰められた山田先生くらいのものだろう」

「どういう事だよ?」

「――追い詰められた狐は、ジャッカルよりも凶暴だ」

「……窮鼠猫を噛むってことか?」

 

なんとなく、言いたいことはわかる

だがその例えはあまりにも詩的というか、千冬姉らしくないと感じた

 

「まあピンとこないのも当然か、私もこの例えは分かりにくいとは思う」

 

やはり、口調から察するに誰かからの受け売りであるらしい

 

「まぁ要は、腹をくくって覚悟を決めた者は藁にもすがる思いで勝利を画策し、生存を望み、手段を選ばず、何よりも強いーーそういう事だ、覚えておくといい」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

«シールドエネルギー残量60%»

«注意、危険域に突入»

「……!」

 

シールドエネルギーは残り6割、普段の作戦ならば最低でも7割は残している

ISとの戦闘が久しいというのもある、普段は奇襲に近い戦法で戦っているのもある

相手が己の戦法を知った相手だというのもある

 

だが、そんなものは言い訳にはならない

事実として、私はセシリアに苦戦している

 

ロジカルに考えろ

 

私が勝利を掴む為に必要なことは?

――セシリアに肉薄することだ

 

接近するのに必要なことは?

――ビットを落とすことだ

 

そこから導かれた結論、ビットを落とすのに必要なことは、即ち

 

「――肉を切らせて、骨を断ァつッッ!!」

「被弾を!?」

 

回避しながら分析した

普段はちょこまかと動き回っているビットだが、射撃の瞬間に僅かながら動きが静止する

そのビットに向かって真正面から突進し、思いっきりブン殴ればーーーー

 

「殺ッッーーたァ!!!」

「クッ……まだ、まだ一機だけです!」

 

撃破対象のビットに向かうのだから、正面からの射撃は防御できる

しかし、それ以外のビットからの攻撃は防ぐことができない

無論、当たらぬように心がけてはいるが、1発か2発は被弾を覚悟しなければならない

ヴァイパーは接近戦に特化した機体なのだから、装甲強度はそれなりではある

だが、ビットの射撃は当たっていい攻撃ではない

だが同時に、直撃すれば硬直が免れない散弾よりは、優先度が低い!

 

四方八方から飛び交うレーザーを受け止め、身を捩って回避し、避けきれず被弾しながらもーー二機目!

 

「二つァ!!」

「カミカゼ!?」

「墜ちる気など!」

 

シールドエネルギー残量は5割を切った

もはや猶予はないが、せめてあともう1機落としたい

だがセシリアもバカではない

照準補正を切ったのだろう、精密射撃を旨としていたビットの射撃は回避しやすくなったものの、射撃回数を増した故か、射撃時の停止時間も短くなり殴打や蹴りによる攻撃は難しうなる

 

「では私も隠し球といきましょう!」

 

尾骶骨付近に存在する格納スペース

そこから射出したものはーー

 

「尻尾!?」

「伊達や酔狂では!」

 

格納していたのはワイヤーテールだ

月光が有するマニピュレータと同様のもので、その細さとは裏腹に結構な重量物を持ち上げることができる優れもの

 

「そォーーーーれッッッ!!!!」

「クッ……味な真似を!」

 

先端のマニピュレータでアンロックユニットビットを掴み、慣性と遠心力に任せて振り回す

ワイヤーテールの出現により驚いたのだろう、一瞬の硬直が生じた隙に4機目のビットに叩きつける

1機目と2機目を撃破した感触から強度はそれほどでもないと分かっていた

それならばこれの方が効率が良い

 

そして、ビットを全て撃墜したこの状況――イケる!

 

「トドメです!」

「……ッ!ガトリングモード!」

 

スターライトの方針が再び変形し、六本の筒が機関部に接続される

セシリアが叫んだ通り、それはガトリングガンーーいや、ガトリングキャノンとでも言うべき大きさのソレは、轟音と共に見た目にそぐわぬ弾幕を射出する

 

しかし、それだけだ

一方からの射撃しかないのであれば、[ヴァイパー]に避けられぬものなどない

 

スターライトによる弾幕を掻い潜り、一気に接敵する

精密照準でなく、弾幕もう薄くなった今であればーー殺れる!

そんな確信に近い予想と共に突撃をするーーしかし

 

「フッ」

「!?」

 

セシリアの表情が変わる

此方をなんとか倒さんと苦心する苦い顔が、まるでたちの悪い悪戯が成功した時の子供のような薄ら笑いに変わったのだ

 

「この時を、待っていましてよ」

「――ッ!」

 

悪寒が走る、経験から導かれた直感、第六感と言われるもの

この時、私は確信が覆った

 

「とくと味わいなさい」

«AISミサイル発射を確認、多弾頭ミサイル»

 

セシリアが放ったもの、それはミサイルだ

4機だと思っていたビットはその実6機であり、ビットのクレイドルか何かだと思っていたものは、クレイドル兼ミサイル発射プラットフォームだったのだ

 

«回避不能、危険、危険、危険»

 

AISミサイルと分類されるソレは、ISが軍事業界に台頭してから開発された対IS兵器、その一つである

通常、ハイパーセンサーによる非人的な知覚能力や機動力ではミサイルなど意味を成さない

だがAISミサイルは違う、撃ちっ放し(Fire and forget)能力を有するだけでなく、ISが発する独特の磁場を感知した上、ハイパーセンサーと同期して相手の速度、機動力をミサイルが計算し、自身の速度を調整しながら対象へ向かっていくのだ

 

それが、20発

私の速度とミサイルの速度、距離、ミサイルの機動性、どこからアプローチしても回避は叶わない

しかも多弾頭ミサイルを撃ってきているのだから、余計にタチが悪かった

 

――嵌められた

 

そう思った直後、爆発が私を包み込んだ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ミサイルの直撃ですら防ぐフィールドバリアが大きく揺れる

客席では爆発とその衝撃波で悲鳴が巻き起こっていた

 

「な……!」

「最後の最後で隠し球か、なかなかヤレる女じゃないか、セシリア・オルコット」

 

千冬は、見直したぞとでも言いたげに淡々と告げる

 

「シールドエネルギーは半分、そしてほぼゼロ距離から多弾頭AISミサイルの直撃……並みのISならタダでは済まんな」

 

300m四方のフィールドは未だに爆発による煙が立ち込めていて状況は見えない

しかし[ブルーティアーズ]は未だ健在であり、[ヴァイパー]は吹き飛ばされたのか姿が見えない

 

「こ、これで終わりなのか……?」

 

ジャッジである山田先生は「ふええ」とか言いながら慌てつつも、状況確認に奔走している

あれ程の爆発、殆どゼロ距離で直撃した[ヴァイパー]がもしも絶対防御が発動させているとすれば医務班の出番であるからだ

 

そうこうしている内に煙が晴れてくる

セシリアはスターライトと残りのビットを構えてはいるが、その表情は今までにない程に勝利の核心に満ちている

 

「フン、言っただろう、並みのISではと」

「[ヴァイパー]は特別製ってことか?」

「……この世において、“蛇”と“歯車”の名を同時に冠するモノが、そう易々とやられはせんという事だ

目的は兎も角、日野の意志の強さも含めてな

まぁ、これでやられるようなら奴もその程度だったということだ……私の心情も杞憂で済む」

「……あっ!」

「……やはり杞憂であってはくれないか、これから苦労させてくれそうだな、あいつは」

 

煙が完全に晴れたその先、フィールドバリアの側に佇んでいたのは、黒い装甲をパージした[ヴァイパー]の姿だった

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……冗談でしょう?」

「ネイキッドモード……搭載された時は正気の沙汰ではないと思いましたが、使ってみると案外良いものですね」

 

ネイキッドモードは“裸”の名が示す通り装甲を全てパージし、速度と機動性に特化させた状態だ

その代わり耐久力はガタ落ち、今までのようにレーザーの直撃を貰ってしまえば即ゲームオーバーだ

 

「黒いからって生命力までゴキブリ並みにする事はなくってよ?」

「言うに事欠いて人の事を害虫呼ばわりですか、いい度胸ですね」

「それよりあなた、その身体……」

 

それよりとはなんだ、思ったがセシリアの言葉も仕方がないと合点が行く

以前戦ったあの時は[打鉄]を纏っていたし、今よりも野暮ったいISスーツを着ていたから見えていなかったが、今は私専用に建造、チューンナップされた[ヴァイパー]を身に纏っている

それの装甲を脱いだのだから、本来見えない部分まで丸見えになるのは自明の理だ

 

どう見てもISスーツやISの装甲ではない“機械の体”

まるで真っ黒な人体模型のような四肢はカーボンナノファイバーを蜘蛛の糸の様に編み、それらで組まれた人工筋肉とチタン合金で構成された金属骨格によるものである

そしてそれらが、義肢が如く棗の体に繋がっているとなれば驚きもするというものだ

セシリアからは見えないが、背中も背骨に沿う様にして金属製のパーツが並び、[ヴァイパー]と物理的に繋がっているのだ

 

そう、これはまるで肉体とISを直接接続しているかのようなーー

 

「まぁこの辺りは追々話しますーー今は、この戦いに集中しましょう」

 

そこまで考えたところで、棗の言葉によりセシリアの思考は中断される

 

「……私とした事が、失礼いたしました」

「貸しにしておいてあげますーーさて、立ち上がっては見たものの、正直限界なのでこの一撃で終わらせるとしましょうか」

「あら、奇遇ですわね

私も次の一撃で幕を下ろそうかと考えていたところです」

 

言うが早いか、お互いに必殺・必中の攻撃を繰り出すべく構える

セシリアはAISミサイルを再装填し、スターライトをスナイパーモードへと切り替える

ミサイルで進路を制限し、そこを狙い撃つ算段なのだろう

 

ーーなるほど、普通に考えたら“詰み”ですね、これは

 

[ブルーティアーズ]のシールドエネルギーは6割を残した状態だ

直撃ではなかったがジワジワ削った甲斐があったようである

 

しかし、6割だ

このタイミングで仕留めきれなければ勝利は無い

こちらはオワタ式も良いところであり、ミサイル1発の直撃ですら許されない

宣言通り、“二の打要らず”を実践しなければならないだろう

幸いにも手はあるのだ、ここは一つ、分の悪い賭けと洒落込もう

 

「雷切、起動」

 

気合いを入れる意味を込め、音声認識で両腕に装備された武装を起動する

 

「エネルギー、充填」

≪エネルギー充填、完了≫

 

これは、徒手接格闘戦に特化した[ヴァイパー]が有する数少ない武装の一つ

 

「フゥーーー……」

「……」

 

西部劇の早撃ち勝負が如く、お互いに獲物を捉え、武器を構えたまま動かない

発汗機能などない筈なのに、緩く握った拳が汗ばんでいるように感じる

セシリアも、スターライトのグリップを何度も握り直していた

何をキッカケに動き出すのか分からない、特大の緊張感に包まれたフィールド、この空気を打ち破ったのはーー

 

「はぁッーー」

 

山田先生のクシャミだった

 

「――ックショい!!!」

「墜ちなさいッ!!」

 

再び先手を打ったのはセシリアだ

スターライトから放たれるビームを間一髪で回避するが、その先に待ち構えるのは無数のミサイルだ

 

「輝け、日輪ッッッ!!」

「!?」

 

直後、フィールド内を甲高い爆音と視界全てを埋め尽くす光が放たれる

 

セシリアは混乱した、棗が何か奇妙な武器を取り出したかと思えば、突如として視界が狭まったのだ

これは、つまりーー

 

「ハイパーセンサーが!?」

 

ISに標準装備された技術の中で、最もISをIS足らしめている技術の一つがハイパーセンサーである

パイロットの周囲360度をカバーする全天周モニター

どんあ遠くの敵であってもいち早く察知するレーダー

非常に高度な操作を要求されるパイロットをサポートするハイテク技術の塊、それがハイパーセンサーだ

これがなければ、パイロットは己の眼でしか視界を確保出来ず、敵を察知することは叶わず、ISは旧世代のパワードスーツとなんら変わりなくなってしまうのだ

 

棗がビームを避ける刹那、ノンフレームで[ヴァイパー]の拳に現れたのは拳銃のようなものだ

“ようなもの”というのは、その外見が一般的な拳銃とはかけ離れたものであるからだ

黄色と黒のフレーム、大口径の銃口、両側面に大きくせり出したドラム状の部位、そして何より目を引くのは撃鉄が備わっているであろう部分に奇妙なレンズのようなものが鎮座している、まるでオモチャである

 

だが、その外見とは裏腹に銃口から放たれた光弾は亜音速で[ブルーティアーズ]の前方まで進むと突如として爆発し、ハイパーセンサーを麻痺させたのだ

無論、[ヴァイパー]は対策済みである

 

「そんな、ハイパーセンサー用のジャマーだなんて!」

「言ったでしょう、戦いに瀟洒ではと!」

「クッ……でも、AISミサイルなら!」

「遅い!」

 

放たれているミサイルは多い

だが、通常形態ならいざ知らず、ネイキッドモードとなった[ヴァイパー]はーー

 

「ミサイルを踏み台にした!?」

「セシリアさん、あなたに足りないものァ!それはァ!情熱!思想!理念!頭脳!気品!優雅さ!勤勉さァ!そォして何よりもォォォォーーーーーー速さが足りないッッッ!!!」

 

――速い

 

「雷切――――」

 

ミサイルを足場にし、踏みつけながら一気に吶喊し、接敵する

セシリアからしてみれば一瞬にして現れたかのように見えたのだろう

“馬鹿な”という表情をしている

 

「――――抜刀ッッッ!!!!」

 

両肘に纏わりついていた紫電が一層強くなる

肘のカバーが開くと、そこから姿を露わにしたのは刃だ

全長50cmほどの刃は対IS用としては頼りなく見える

だが、棗が両腕を振りかざし、肘打ちのようにしてセシリアの眼前で腕をクロスした瞬間、空気を揺らす轟音と共に刃が回転した

振り子運動の様に一点を支点とし、電磁誘導を以って繰り出された刃はセシリアのシールドを十文字に切り裂く

 

その衝撃と威力は60%の余力を残していたセシリアのシールドエネルギーを削り切り、そこから、だめ押しの中段回し蹴りで蹴り飛ばす

 

ブルーティアーズは為す術もなくフィールドの端まで吹き飛ばされーー

 

『セシリア・オルコット、[ブルーティアーズ]、シールドエネルギー0!勝者、[ヴァイパー]!日野棗!』

 

ブザーが試合の終了を告げた

 

 

 




戦闘中の台詞が概ね富野節ですが、勢いが出て好きです。

追記
原作だとブルー・ティアーズってビットの試験機的な意味合いが強くて、良くも悪くも英国面丸出しな感じですが、こっちのバージョンだとセシリアが棗との戦闘を経て仕様にアレコレ口出しした結果、ブルー・ティアーズ改とかスターライトMk-Ⅳみたいな感じになってます。

10月11日
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