METAL GEAR NEXISーNew generation gearー 作:saver
次回は長くなる予定。
「転校生ですって?1-1に?」
「いえ、2組ですよ、中国の国家代表候補生、凰鈴音だそうで」
翌日、行きがけで出会ったセシリアさんと共に教室へ向かう中、先日の凰鈴音の事を話してみる。
ことIS関連では情報収集に余念がない彼女ならば、本社が知り得る以上の事を何か知っているのでは、と思ったからだ。
「凰鈴音……聞きませんわね」
「あなたなら何か知っているかと思いましたが、やはり知りませんでしたか……まあ、仕方がないですかね、昨年までは国家代表候補生リストにもいなかったそうですから」
「……たった一年で勝ち上がってきたと?」
本社に問い合わせてみた所、凰鈴音のIS適性はAランク、どういった経緯かは知らないが昨年になってから国家代表候補生選抜チームへ入団、流石は中国だけあって数千人規模で存在するチームメイトを怒涛の勢いで勝ち抜き、[甲龍]と言う名の専用機を入手するに至っているようだ。
そして王大人こと王尚真と頻繁に行動を共にしているのが確認されており、やはりお気に入りであるらしい。
「それにしても、そんな事をなぜ?」
「昨日のトレーニング中、受付の場所が分からず迷子になってるのを発見したものですから」
「これはまた、なんとも間抜けな代表候補生もいたものですわね」
「この広さです、多少迷うのも無理はないですよ」
経歴から察するに努力型の天才とでも言うべきか、もしかしたらセシリアさんと気が合うかもしれなーー
「……いや、万に一つあれば良さそうですね」
「何がです?」
「何でもありません、こちらの話です」
箒さんとセシリアさんとは一夏さんを取り合うな仲になるであろう事は、昨日の発言から想像に難くない。
箒さんとセシリアさんに加えて凰鈴音までも加わるとなると本気でハーレムの様相を呈してくるのだから恐ろしい。
……まあ、仮に勝ち上がっても
「しかし2組のクラス代表も気の毒ですわね」
「2組に国家代表候補生はいませんでしたからね、凰鈴音も奪う気満々でしたし」
基本的に国家代表候補生は1クラスに一人、二人いれば多い方だ。
国家代表候補生は各国軍のエリートが指導にあたる場合が殆どである為、IS技術を競い合うイベントが多数あるが故、クラスが保有する戦力に偏りができないようにする為の措置だと聞いている。
本来ならば私とてその例外ではないのだが、私の場合は日本政府と強い繋がりがあるIATだからこその1組編入と言えるだろう。
要は"日野棗を1組に編入しないと大変なことになるぞ"、と脅したわけである。
自国の企業とはいえ、防衛省はメタルギアに関わる戦力供給、その殆どをIATに依存している為に倉持工業、徳川重工に並ぶお得意様なのだ。
機甲特科は2019年に陸上自衛隊が対IS防衛戦略に基づいて
19式と20式が搭載可能な武器は多岐に渡り、二足歩行故に舗装路は勿論のこと悪路の走破性能やペイロードも潤沢とあって、多方面から色々騒がれていた記憶がある。
そんな雑談をしている内に教室へ辿り着く。
HR前である教室の中はクラスメイトがガールズトークに花を咲かせているが、その話題の中心はやはりクラス対抗戦だ。
「頑張ってね織斑君!」
「主に私たちのスイーツの為に!」
本格的なIS訓練が始まる前の実力指標構築を主とし、副としてクラスの団結を深めるとかなんとか、そんな感じのフワフワしたイベントである。
ただ、優勝商品として食堂のデザートフリーパス半年分がクラス全員に対し配布される為、このように意地でも勝ってもらってデザート代を浮かそうと躍起になるのだ。
「……まあ、当事者以外はこんなもんですよねえ」
「ですわね」
一夏さんの周囲を取り囲む女子はクラスの殆どである。
箒さんとごく一部の生徒を除いてデザートに目が眩みすぎだ。
「こうゆうのは気合いだよ!気合いがあればなんとかなるよ!」
「お、おう」
「まったく、男がそんな気の抜けた返事をするんじゃない
弱気になるな、絶対に勝ちに行け」
「そうだよ、専用機持ちはウチ以外だと4組だけだし楽勝だって!」
一夏さんがそんな気の抜けた返事をし、箒さんに叱られている時、聞き覚えのある声が教室に響いた。
「ーーその情報、古いわよ」
「え?」
教室の入り口に立ち、腕を組んで壁にもたれかかっていたのは、やはり凰鈴音だった。
……もしかしてカッコつけてるのだろうか、あのポーズは。
「2組も専用機持ちが代表になったの、そう簡単には勝たせてあげないんだから」
「お、お前、鈴か?」
「久し振りね一夏、中国の国家代表候補生として、2組のクラス代表として、今日は宣戦布告に来たってワケよ」
フッと小さく微笑むと、トレードマークであろうツインテールが揺れる。
昨日から思っていた事だが、その背格好で威張っても子供が意地を張っているようにしか見えない。
もう少しタッパがあれば様になっただろうに。
「なにカッコつけてんだ?メチャクチャ似合ってないぞ」
「んなっ……!?な、なんてこと言うのよアンタは!」
この空気の読まなさ、流石であると言わざるを得ない。
誰しもが思ってたけど言わなかったことを平然と言ってのける鋼のメンタル、ある種の尊敬にすら値する。
「一夏さん、少しは空気読みましょう?」
「え、読むところあったか?」
「……まあこのニブチンは置いといて、昨日ぶりですね」
「あ、昨日はありがとね」
「いえ、お気になさらず……それよりも」
「へ?」
うしろうしろ、と指を指す。
これまた可愛らしい声を上げ、後方を振り返った先にはーー
「通路を塞ぐな馬鹿者、もうHRの時間だ、自分のクラスへ戻れ」
「ち、千冬さ」
「織斑先生と呼べ、それと聞こえなかったのか?通路を塞ぐな、そして自分のクラスへ戻れ」
「……はい」
ションボリのグローバルスタンダードがあるとすれば、これがお手本だと言わんばかりの雰囲気を醸し出す彼女は、山田先生とは別ベクトルで小動物っぽさがある。
「……高校デビュー失敗ってヤツですかね」
「あんなデビューは御免ですわね……てゆうか一夏さん、あの小娘は誰ですの?少々お話を伺いたく」
「そうだ一夏、ヤケに親しそうだったがアレはーー」
「知るか、お前らもさっさと席に着け、叩かれたいのか?」
「「席に着きます!」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ーーであるからして、ISのーー」
「(先程の女子は何者なのだ……一夏と随分親しげだったが)」
篠ノ之箒は授業に集中できずにいた、先の転校生ーー凰鈴音と一夏の関係が頭から離れないのだ。
「ーー昨今の世界情勢からしてもーー」
「(アレはまるで幼馴染か旧友のソレだ、幼馴染と言えば私の他にないアドバンテージだと思っていたが)」
あの気安さ、振る舞い、全てが己と一夏の関係には無いものだった。
箒は確信した、凰鈴音と名乗った中国の国家代表候補生、奴は私の恋敵であると。
「ーーメタルギアとISはーー」
「(ならば打つべきは先手必勝、相手より先んじる他にない)」
しかしだ、よく考えてみれば凰鈴音がどうであろうとなんだろうと大した問題ではない、重要なポイントはそこではない。
私には奴にもセシリアにも無い極大のアドバンテージがある。
そう、私と一夏は同じクラスな事に加えて同室なのだ。
二人きりの時間など幾らでも作れる、そうなればあんな事もこんな事も可能なのだ。
「(まったくしょうがない奴だ、またISの事を教えてやるとしよう)」
フン、と鼻を鳴らして上機嫌に腕を組む。
そうだ、己が有するアドバンテージは不動にして盤石である。
ならば何を心配する事があろうか、そうだ、今夜にでもーー
「ーー之、篠ノ之、聞いているか?」
「えっ、あっ、はい!」
「そうか、ならばISとメタルギアの関係性を答えろ、国際的な、第三者的な視線でな」
「……すみません、呆けていました」
「フンッ!」
「ぃだぁっ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ーーなお、これについては明日ーー」
「(まったく!なんなんですのさっきの女子は!)」
セシリアは焦れていた。
その影響か、ノートに走らせるシャープペンシルが綴るものは昨日までの育ちの良さが伺える綺麗な筆記体の英語はなく、ロシア語のカルテもかくやなミミズ文字であり、とても英語とは思えなかった。
「ーーして、こういった場面ではーー」
「(国家代表候補生が来るのは良い、競い合う相手が増えるのはやり甲斐がある、でもこと今回に限っては最悪ですわ!)」
ヤケに一夏と親しげだった中国の国家代表候補生、凰鈴音。
現時点でさえ箒と棗というライバルがいるというのに、一昔前のソ連が如く"ISパイロットは畑から取れる"を地で行く事に定評がある中国のISパイロット選抜デッドレースをたった一年で勝ち抜いたエリート、そんなオバケみたいな奴が一夏争奪戦に加わるなど冗談ではなかった。
「(国家代表候補生である華々しい経歴は、大きなリードポイントであった筈なのに……!)」
己は恋愛事に疎いどころかポンコツである自信がある。
そんなところで自信を持ってどうするのかという話であるが、事実なのだから仕方がない。
両親が他界してからというもの、色恋沙汰にかまかける暇など無かったし、そもそも理想の男など一夏が現れるまで見たこともなかったのだ。
篠ノ之博士の妹とはいえ、箒が有するリードポイントは同室である事と幼馴染である事のみ。
ならば真の敵は同じ国家代表候補生である棗であり、彼女さえなんとかすればこの恋路は価値も同然であると思っていた。
しかし、その牙城は今朝崩れてしまったのである。
「(こんな時こそ思い出すのです、師匠に教わった"射撃さしすせそ"を!先んじて撃て、しこたま撃て、すかさず撃て、背中から撃て、そして引導を渡してやれ……これですわ!)」
国家代表候補生になったばかりの頃、私に射撃のなんたるかを教えてくれた謎のアジア人女性。
彼女の腕は凄まじく、トレードマークのポニーテールがリコイルで揺れるその都度、敵が1人また1人と倒れていくのである。
本業は大火力砲撃による殲滅らしいが、その延長線として存在する通常の射撃もお手の物で、ワンショット・ワンキルを確実に実践する様には美しさすら感じられた。
今でこそ引退してしまったが、そんな唯一師匠と仰ぐ人物の言葉、それを実践すべき時だと確信した。
「ーーつまり、イニシアチブを取れば良いのですね師匠!」
「私の授業中に他の考え事とは良い度胸だな、死ね」
「あいたあ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は変わって昼休み。
件の転校生について質問責めにされている一夏と共に食堂へ行く。
流石は天下のIS学園とだけあって、学校の学食とは思えないほどのレパートリーと品質である。
メニュー表は壁を覆い尽くしており、そこらの定食屋よりも多いのではなかろうか。
その癖に値段は学食らしいリーズナブルな値段なのだからありがたい。
……特に、前回のトトカルチョで今月の食費を溶かした私としても、ありがたい。
「今日は……オーソドックスにカレーにしましょうか」
「棗はメニューに拘りとかないのか?毎日変えるけど」
「食に関する拘りは人並みだと思いますが、これだけメニューがあるので、折角ですから毎日違うものを食べてみようかと」
「へえ、箒なんか毎日きつねうどんだし、セシリアも洋食ランチなのにな」
「別にいいだろう、私はきつねうどんが好きなのだ」
「私は単に選ぶのが面倒ですので……あと、日替わりを頼んで苦手なものが出てきても困りますし」
武士は食わねど高楊枝な上、食えればなんでもいいとか思ってそうな箒さんに関しては兎も角、リアル貴族出身のセシリアさんは好き嫌いが多そうだと勝手に思っているのだが、実際のところどうなのだろうか。
「遅いわよ一夏!」
そんなことを思いつつ、席に向かっていると何かと噂の転校生、凰鈴音が現れる。
やはりというか、お互いに名前やらあだ名で呼び合う程度には仲が良いらしい。
……その片方は感情の趣が違うようだが。
「……もしかして待ってたのか」
「なによ!悪い?」
「いや、ラーメンのびてんぞ」
「……!!!」
もしかしてアホの子とかそういった属性に分類される人なのだろうか、一夏さんの言葉通り凰鈴音が持つトレーに鎮座するラーメンは、汁を吸って些かのびているように見えた。
「まあいいや、なんなら一緒に食おうぜ」
「そ、そうね!そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわ!」
セシリアさんとはまた違ったベクトルの上から目線で告げる凰鈴音は先程までの不機嫌っぷりはどこへやら、一転して上機嫌になる。
「「……」」
その一方で、やはり箒さんとセシリアさんは徐々に機嫌が悪くなって行く。
眼前で恋敵が狙っている男と仲良くしていればまあ、そりゃあ機嫌も悪くなるか。
しかし、その男こそ天下の朴念仁もとい朴念神こと我らが織斑一夏であるからして、彼女たちの殺意など察するまでもなく華麗にスルーしてしまうのであった。
「そういや丸一年ぶりになるのか、元気だったか?」
「元気じゃないように見える?無病息災ってヤツよ」
「おばさん元気か?てゆうか代表候補生になってたなんて知らなかった、いつなったんだ?」
「日本に行くって報告した時に泣かれたこと以外は元気よ、そんな事よりアンタこそなにやってんのよ、ニュースで見た時ビックリしたじゃない」
「そ ん な こ と よ り !!いい加減貴女と一夏さんがどういった関係なのかお話願いたいのですけど?」
「そ、そうだぞ一夏!まさか付き合ってるのか!?」
「付き合ってるのかどうかについては兎も角、そこは私も気になりますね」
遂にしびれを切らしたのか、セシリアさんと箒さんは棘のある口調で凰鈴音を問い詰める。
会話からして幼馴染で、それなりに仲良しという事は分かるが、それ以上は分からない。
だが、そんな雰囲気も意に介さず凰鈴音は顔を赤らめ、頬を覆ってクネクネと気持ち悪い動きを始めた。
「べ、べべべ、別にあたしは一夏と付き合ってるワケじゃ」
「そうだぞ、俺は別に鈴と付き合ってるわけじゃない、ただの幼馴染ーー」
「フンッ!!」
「あだぁ!?」
ドカッと打撃音が聞こえた後、一夏さんが机の下で足を抑え、ぬごおおと呻いている。
どうやら向かいの席に座る凰鈴音が蹴ったらしい。
「……幼馴染だと?」
「うごぉぉ……あ、ああ、鈴は小5からの幼馴染だよ
ほら、箒って小4の時に引っ越しただろ?それと入れ替わる形で出会ったんだ、そんで中2の時に家の都合で引っ越したから、ちょうど一年ぶりくらいなんだ……ああ、そっか、するとアレだ、お互いに面識ないのか」
今更かよ、というツッコミはしないでおく事にした。
「……篠ノ之箒だ、私の方が先に一夏の幼馴染だった、そこを間違えるなよ」
「凰鈴音よ……幼馴染に年季とか後とか先とか関係ないわ、重要なのはその密度よ」
「では、私も……セシリア・オルコット、英国の国家代表候補生ですわ、一夏さんとはそれはもう濃密な時間を」
「フン、一時間弱戦ったり口喧嘩してただけだろうに」
「なんですってーー」
「ーー改めてまして、日野棗です
日本の国家代表候補生兼、IAT社専属テストパイロットです
それと、一夏さんと同様に鈴さんとお呼びしても?」
「ご丁寧にどうも……じゃあ、あたしも棗って呼ぶわ
棗は他の2人とは印象違うわね、仲良くできそう」
いつも通り剣呑な空気になってきたので言葉を断ち切るようにして自己紹介をする。
2人には、ここで喧嘩すんじゃねえ、と言外に言ってみたが、取り敢えず黙ったので意思はちゃんと伝わったようだ。
「そうあえばアンタ、クラス代表なんだって?」
「ああ、まあ、成り行きでな」
器を抱え、だいぶ男前にスープを飲み干した鈴さんはそう聞くと、一瞬間を置いて意を決したように口を開いた。
「……まあ、なんてゆうの?お、幼馴染のよしみで、ISの操縦を見てあげても、い、いいんだけど?」
顔を逸らし、俯き加減に視線のみを向けた言葉はだいぶ歯切れが悪い。
それが相当な勇気を振り絞った言葉であるのは明白だった。
「マジか、そりゃありがたーー」
「聞き捨てならんぞォ!」
「聞き捨てなりませんわァ!」
「うわぁ……」
だが、その言葉の根本にある意味を察したのは一夏さんではなく、私を含めた3人だけである。
そして、2人の怒気すら孕んだ言葉は続けざまに紡がれる。
「一夏にISの操縦を教えるのは私の役目だ!百歩譲っても私と棗の役目だ!」
「そもそも貴女は2組でしょう!敵の施しは受けませんわ!」
意見が一致してんだかしてないんだか、どちらかにして欲しいというのは欲張りだとして、鈴さんは第三者からしたあの言葉が持つ意味を分かってるのだろうか……分かってなさそうだな、3人とも見事に頭に血が上っていると見える。
恋は盲目と言うが、目の前でそれを証明する光景を目にするとは。
「棗さんも何か言ったらどうですの?」
「分かってますって……鈴さん、クラス対抗戦の事はご存知ですよね?」
「うん、知ってるけど」
「ならば、鈴さんの立場からしても一夏さんに塩を送る真似は要らぬ反感を買うだけかと思います……1組にしろ、2組にしろ、ね?
何かと焦る気持ちは分かりますが、鈴さんとしても良いことばかりではないはずです」
「……そうね、あたしも頭に血が上ってたみたい
今のところは引くわーー今は、ね」
そうして、鈴さんはトレーを手に席を立つ。
その顔は妖しく微笑んでいて、その表情が意味するものが箒さんとセシリアさんへの挑発行為なのは明らかだった。
「退屈は無味無臭の猛毒……ですが退屈しないのも度を過ぎればまた毒となる、それもまた然り、ですか」
「何言ってんだ?」
「フンッ!!」
「あだぁ!?」
セシリアの師匠誰だろうなーアジア人女性でポニテで広域殲滅が得意な人かー誰だろうなー。
感想その他らお待ちしております。