臼井君が晴香部長に恋心を抱く話   作:shin1

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まさかの1年以上ぶりの投稿になりました。
アニメ1期11話、再オーディション直前のシーンまでの部分です。

この1年で、第二楽章とホントの話が刊行され、「リズと青い鳥」が公開され、来年の「誓いのフォナーレ」の詳細が徐々に明らかになるなど、ユーフォ界隈も動きが多くありましたね。
何とか動きを追ったり、第二楽章とホントの話の感想ブログ(http://ch.nicovideo.jp/mumip/blomaga/ar1467346)を書いてるうちに、気付けば1年以上放置してしまったこの話。果たして読んで下さる方がいらっしゃるのか心配ですが、1人でも読んで下さる方がいるならば、なんとか完結させられるように頑張ろうと思います。

それから、ずーっと気になっていたんですが、臼井君の一人称を全話共通で「僕」に変えてみました。こっちの方が臼井君のキャラに合ってるかなぁと。


臼井君が晴香部長に恋心を抱く話8

小さい頃から目立つのが苦手だった。

中学生になって吹奏楽部に入ったのも、タンバリンとかトライアングルとか、そういう脇役みたいな楽器をやりたいと思ったからで、サックスとかトランペットみたいな花形の楽器には全然興味が無かった。

なのに、いざ吹奏楽部に入ってみたら打楽器は人数が一杯だからって理由で入れなくて、顧問の先生に「あなたはこの楽器が向いてる」って言われて入れられたのがクラリネットパートだった。

クラリネットなんて、名前くらいしか聞いた事なかった。クラリネットは、細かい音符がいっぱいあるし、メロディもたくさんあるし、音も高いから凄く目立つ。下唇の裏が切れて血が出て痛いし、練習もきついし、練習も合奏も楽しくない。部活辞めちゃおうかな。コンクールの頃までそんな風に思ってた。

コンクールが終わって、1年生のバスクラの部員が辞めてしまい、バスクラは3年生1人だけになった。3年生は秋の文化祭で引退だから、このままではバスクラが居なくなってしまう。そこでクラリネットの1年生から1人バスクラに転向する事になった。僕は、今の自分の状況を変えたいと思ってバスクラ転向に名乗りを上げた。元々B♭クラを吹きたくてクラリネットパートに入った部員ばかりだったので誰も転向したがらなかったから、すんなり転向が決まった。

バスクラは、音量があまり出ないから埋もれがちで、メロディも多くないし、その数少ないメロディもバスクラ単独はほとんどない。当然ソロもほとんどない。知名度もB♭クラよりずっと低い。でも、実際吹いてみて、バスクラの良さ・重要性が良く分かるようになった。バスクラの音が芯となり、他の低音楽器がそれを包み込み、安定した土台となる。中高音がその土台の上に折り重なり曲が形成されていく。

この何十人もが奏でる音楽の中心に自分が居るんだ。トランペットの華麗なソロも、サックスの重厚なハーモニーも、聴衆が気を向ける事が少ないこのバスクラが芯になって支えてるんだ。

バスクラは自分にとって運命の楽器だと思えるほど、自分はバスクラを深く愛するようになった。

バスクラはとても高価な楽器で、社会人になったらきっと続けることは出来ないだろうと思って、だから、高校でも大学でも吹奏楽部に入って、出来るだけ長くバスクラを吹き続けたい。出来るだけ長く吹奏楽をやりたい。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

中学校の時はB♭クラの担当だった。

B♭クラは、音色が豊かで、メロディもソロも多くて、吹奏楽では花形楽器の一つ。コンクールではそこまで目立った成績は残せなかったけど、それでもメロディを吹いたり、クラパートで綺麗な和音を奏でたり、ソロを吹きこなしたりするのが楽しかった。

高校でもクラリネットが吹きたくて吹奏楽部に入った。でも、編成の都合でバスクラに回されてしまった。中学でずっと吹奏楽部だったから、バスクラが重要な楽器なのはもちろん知ってる。けど、バスクラはやっぱりB♭クラに比べるとどうしても地味。3年間B♭クラを吹いてた自負もあったから、最初バスクラに回るように言われた時は正直ショックだった。

「なんであの娘はB♭クラなのに、私はバスクラなんだろ・・・」

当時の北高吹奏楽部は、だらけた雰囲気が蔓延ってて、とても良い空気とは言えなかった。その空気にも影響されて、そんな風に思う事もあった。

バスクラには、同じ学年に臼井という男子部員が居た。臼井はバスクラが大好きなやつだった。バスクラはB♭クラと吹き方が違ってて、戸惑ってる私にアドバイスをくれたりした。そのお陰なのか、夏ころにはバスクラにもだいぶ慣れてきて、思うような音が少しずつ出せるようになってきた。その頃から、バスクラを吹くのが段々楽しくなっていった。

やっぱりB♭クラのみんなが羨ましく思う事もあるけど、バスクラも・・・低音楽器も、悪くないな。中高音を下支えするのも、割と良いもんだな。そう思うようになった。

 

 

 

 

 

 

宇治文化会館、大ホール。

ステージ上には、合奏体系に並べられた打楽器と複数の円弧上に並べられた椅子。そして譜面台。その上には各々の楽譜。椅子と譜面台の列に取り囲まれる位置に、指揮台と指揮者用の譜面台。

それらを背にして、ステージ最前、すなわち最も客席側に立つ、2人のトランペッター。中世古香織と高坂麗奈。2人の視線の先は、滝を中心に部員が集まっている客席中央部。

 

 

「では、これよりトランペットソロパートのオーディションを行います」


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