そして、神話になったりならなかったり。 作:週休七日
英雄の恩恵が…足りない……。
転生の間では一人の女神が慌てふためいていた。勿論、アクアである。
「マズいんですけどマズいんですけど!あの魂どっかいっちゃったんですけどー!」
間抜けなことに自らが溢したジュースにより魔方陣に影響が出てしまい、転生させるはずの魂がどこか預かり知らぬところへと旅立ってしまったのである。
「せっかく気分が乗ったからいろいろとレクチャーまでしてあげたのにぃ……」
「うぅ……これゼッタイ上に知れたら怒られるわよね?カクジツに怒られるわよね?うぅー!」
「取り消してぇー!さっきのシッパイ取り消してぇー!うわぁぁあん!」
誰にともなく駄々をこねて床を転がり回る女神アクア。しかし、次にはピタッと動きが止まる。
「……取り、消す?そうだわ!そうよ!消しちゃえばいいじゃない!なかったことにすればいいのよ!さっすが!わたしったら頭イイ!」
人間だって都合の悪いことは揉み消してるものね!そんなわけで自己を正当化しながら資料を処分して不祥事の揉み消しにかかる女神の姿がそこにはあった。
人これを隠蔽と言う。無論、バレたらアウトである。いや、バレなくてもやってしまった時点で普通にアウトであるが。
「ハァ……」
そして、一体の天使が溜め息を吐く。ダメだこの女神。早くなんとかしないと。
▽▽▽
駄目だあの女神。早いところなんとかしないと。おっと、なんか電波拾った。
………………ふむ。知らない天井だ。うーん、この……テンプレェ感……。ゆっくりと体を起こしてみる。特に問題はないようだ。
どうにも怪物を倒したあたりから記憶が曖昧なのだが。まあ、張り詰めていた緊張がとけたがために気を失って倒れでもしたのだろう。
それで、おそらくは誰かが助けてくれて、こうやって屋内まで運んでわざわざベッドに寝かせてくれたと……。
なんともありがたいことだ。人の優しさってあったかいなぁ……。
神は人に試練を与えるというが。それにしてもハードだった。女神アクアのせいで散々な目にあってしまったものだ。
それにしてもがんばった。ちょーがんばった。
あー、生きてる。生きてるって素晴らしい。
ビバ命!
それもこれも短剣のおかげだ。いやぁ、白い少年様様である。今度会ったらなんか奢ってあげよう。……お金持ってないけど。
いや、まあ、短剣を複製して適当に売り払えば多少のお金ならできるだろう(恩を仇でなんとやら。
命を拾うきっかけをつくった短剣(売却予定)をもう一度複製してみようと「武具複製」を行使した。
サクッという小気味のいい音とともに足と足の間、ベッドに深々と短剣が突き刺さる。
……おう、これはいろいろと要練習だな。
「へぇ、それがアイズたんの言うとった『剣を作り出す魔法』か?」
唐突に声がかかる。いつの間にか部屋の扉が開いている。
ひどくスレンダーな女性が腕を組んで扉近くの壁に背中を預けて立っていた。印象的な赤毛と糸目が特徴的だ。
……まさか見られているとは思わなかった。しかし、別段見られたところでである。特に困るわけではない。
女性はこちらの手元の短剣を指して訊ねる。
「それ、魔法やないな。じぶん何者や?」
たしかに、これは魔法じゃない。
それと、何者かと訊ねられたところで、しがない転生者の一人だとしか答えようがない。
別に珍しくもなんともないだろう。女神アクアの話では、この世界には特典持ちの転生者がゴロゴロしているそうではないか。
…………それだというのに、未だ魔王の一人も倒せていないなんて……。まさか本当に文字通りゴロゴロしているのか…………。
……流石にそれはないか。たぶん。めいびー。普通に魔王が強いだけだと信じたい。これ以上考えるのは止そう。
特別に正義感などは高くはないが転生させてもらった手前、申し訳程度にでも魔王討伐を志してやるのが建て前というやつだろう。
というわけで、魔王討伐のために特典使って武器屋でも営もうと思っているのだが。
魔王討伐を目指すとは言ったが、自分で魔王を倒すとは一言も言ってないしやりたくもない。
おっと、だいぶ話が逸れてしまった。
だが、おおまかにはそういうことである。
女神アクアより特典を授かり魔王を倒す任を受けた転生者。
うーん、字面だけ見ればご立派な勇者様なのだが……。女神アクアがアレなだけにまったく中身が伴っていない気がする不思議。
「女神アクア?特典?転生者?魔王?けったいな単語並べてなにを言うてんねんじぶん?」
……え?
な、なんだろうか。この嫌な予感は。
ち、因みにと、少しばかり訊ねてみる。ここはアクセルという街ではないのか。そうでなかったにしても、アクセルという街の名前に聞き覚えはないだろうか。
「ここはオラリオ。迷宮都市オラリオや。アクセルなんて街は聞いたことないで?」
ほ、ほぅ……ふぅん……そーう来るんだー……へぇ……ふぅん…………。
なんとなく全部察したぞ。
ふぁっきんくそめがみ。
▽▽▽
とにかく一から十まで説明を行ってみた。痛いやつだと思われる可能性も捨てきれないが、こういうとき一番大事なのは真摯になることである。目を見て話せば伝わる、というか伝わってほしい(願望。
「……なんやえらい不運な話やな」
滑稽無糖な話だと思うだろうがどうか信じてほしいと締め括った話に対する返事がこれである。
まさかこうもあっさりと通じてくれるとは思わなかった。やはり目を見て話せば(証明。
一応、念のためにこんな与太話のような説明を信じるのかと訊ねてみる。
「信じたるで」
おおう、即答ですか。普通は疑うところだろうに。
「神は人の子の嘘を看破できる。つまり、嘘なんて吐けへんのや。さっきから小僧はほんとのことしか言ってへんようやしな」
あっ。そっかぁ……。神かぁ……。納得した。神は普通じゃないから仕方ないなぁ……。それにしても、神かぁ……。
「そうや。自己紹介遅れたけどウチはロキ。ロキファミリアの主神ロキや。よろしゅうな」
女性で……神……つまり女神……女神、女神かぁ……。
「いや、女神っちゅう柄でもないんやけどな。って、ちょっ、どないしたん?急速に目が死んでいってるんやけど?」
いや、まあ、あまり気にしないでほしい……。ただ、ちょっと、女神アクアとの未知との遭遇もといファーストコンタクトを思い出しただけなのである。
▽▽▽
ダンジョンと呼ばれる場所にて共にリアル鬼ごっこに興じたあの怪物はミノタウロスという名前らしい。
聞いたことあるぅ…………ゲームとかで(無知。
なんでも、本当はもっと下層のモンスターであって、普通はあんな上層にはいないらしいのだが。女神ロキのファミリアの人間が戦闘中に取り逃がしてしまった結果、ミノタウロスは上層まで逃げて来ていたのだとのこと……。
ほぅ、ほう。それはそれはなんとも……。
いや、なに。謝罪の言葉はいらない。誰だって失敗のひとつやふたつやみっつ平気でして生きているものだろう。
助けてもらった恩もあるわけである。……若干マッチポンプ染みてはいるが。
ところで、ところでだ。
右も左もわからない、この路頭に迷えそうな子羊に是非ともひとつご教授願いたいのだが。
参考までに、こういう場合にお金を請求したらどのくらいもらえるのだろうか。いや、参考までにだ。あくまで参考までにである。
ただ、ちょっと武器屋開くにあたって開店資金とか必要だなぁと思いました、まる
…………。
……………………。
ロキファミリアとやらに入ることになった。なにを言ってるのかわからないとは思うが(以下略。
転生オリ主ものって始めて書いたけど案外難しい……。