霧散したのは触手だけではなかった。
深淵の天使のような姿もまた、その場でアルス以外の誰にも分からないまま霧散して行く。
「これは……!?」
「やれやれ、ようやく効果が出てきたか」
人の形に戻ったガブリエルは自身の手を見つめると続け様にアルスに睨み付けた。
「貴様っ、なにを……!?」
「そうだな、強いて言うなら……
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所は変わって数分前、アンダーワールド各地。
全ての知性を持つユニットの前に一枚のパネルが現れた。
突然の出来事に騒然となる世界。
ある者は神の啓示、ある者は悪魔の侵略。
そんな声が響き渡る中、パネルの中ではとある映像が流れていた。
それは、三人の剣士が深淵の天使と争う画。
とてもそこに流れている映像が現実のものとは思えない。そんな現実離れした戦場が映し出されたパネル。
『ははは!無駄だ無駄だ。私は深淵、この世界の全てを喰らい尽くす者!』
その言葉に畏怖を覚えた者たちは3人の剣士に願う。勝利を。この世界に救済をと。
一つの願いが心意となり、アルスたちの戦場へと向けられる。一つが二つになり、二つが三つに。その映像を見て恐怖した者、アルスたちをよく知る者、事情をある程度把握している者たちは願った。
"どうか、3人に勝利を"と————。
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「俺たちだけじゃ勝てないなんてのはここに来る前から分かってた。だから手を打った。ここに心意が集まる様に」
「でも、そんなどうやって?」
戦場に訪れた僅かな沈黙。それを破ったのはアルスの声。その声に質問をしたユージオは心底分からなそうな顔をしていた。
「簡単なこと。所謂Live配信って奴だ」
「Liveってまさか、お前の切り札って……」
「半分正解で半分外れ。実はLiveはここに来る途中までで術式を組んで発動させてた。お前たちに時間を稼いでもらって放とうとしていたのはブラフ。演技だ。無論、俺の術式が正しく起動しているかの確認兼ねてしっかり攻撃式を撃ってある」
そこまで言うとアルスはガブリエルに告げる。
「どの世界の人間もテレビとかには影響されやすいんだな。あんなに禍々しかったお前の心意がこんなに弱くなった」
そう、アルスに迫る触手を消したのはアルスの術式で戦場を知った者達による3人の剣士へ送られた願い。
例えガブリエルが強大であっても、集団では敵わない。ましてや個人と世界中の人間の総意とでは如実。
「さて、ガブリエルだったな?一つ問答をしよう」
「なにを……」
「たった1人の軍人と世界中の人間が戦争をしました。さて、どちらが勝つでしょうか?」
「————っ!?」
「想像、したみたいだな」
アルスはこの数度の攻防でガブリエルの心意の強固さの秘密に迫った。彼の心意は経験に奴まで裏付けされたモノ。つまりは実際に現実で戦闘を経験したモノが持つ自信。
そして、ガブリエルに傷がつかなかったのはその自信と経験故にVRの世界であるここでは自分は決して死ぬことはないと言う確信。
その確信は彼自身の強化と絡み合い、増長し、あれだけ強大な力を持っていた。
だが、今。ガブリエルの中で一つの理論が動いた。
この世界の人間の総意によってガブリエルの力は半ば剥奪された。つまり、たった1人では世界相手に敵うはずがないという現実同様の摂理があることを実感してしまったのだ。
よって、ガブリエルはアンダーワールドは現実と変わらない世界であると。世界中の人々の心意で封印された自分の力を持って知ったのだ。
もう、ガブリエルに攻撃が届かないだなんてことは起こらない。何故ならガブリエルにもこの世界にも不条理があることを気付かせてしまったから。
無論、ここまで全てがアルスの計画通りだった訳ではない。だが、完全無欠の化け物はもうこの世界には居なくなっていた。
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「キリト」
俺は、この場に満ちた心意で作った剣を実体化させてキリトに投げ渡す。そのデザインは敢えて、かつて彼の背中に携えられていたもう一本の剣と同じにした。
「行け、俺とユージオがサポートする」
「っ、あぁ!」
駆け出すのはかつて共に何度も死線を潜り抜けた懐かしい姿。そこには心意で再現された俺たちの"黒の剣士"がそこにいた。
「行くぞユージオ」
「うん!」
彼の背中を守る為に駆け出す。
ガブリエルの力はほぼ封じたが、全て封じられた訳ではない。その狂気は寧ろ大きくなり、世界からの拒絶すら超えて黒い触手を放ってくる。
「俺たちで止めるぞ!」
「任せて!」
左から来る触手をユージオが、俺たちの教えたアインクラッド流で全て切り裂き、右から来るのを俺が持ち得る凡ゆるソードスキルで斬り刻む。
「くっ、このっ!」
ガブリエルが咄嗟に出したのはアサルトライフル。
そこから放たれる弾丸をキリトの前に出て全て剣の刀身で受け止め、手首を捻り、そのまま弾丸の如く弾き返す。
「なんだと……!?」
「"剣聖"舐めんなよ」
戦場を知っているであろうガブリエルの身体を俺の弾いた弾丸が貫き、鮮血が噴き出す。
「スイッチ行くぞ!」
「うん!」
俺は右に向かって飛び退き、背後から迫っていた青薔薇の鶴を回避する。
「咲狂え、青薔薇っ!!!」
氷の蔦は恐ろしい速度でガブリエルの四肢に巻き付き、その天命を吸い取りながら動きを拘束する。
「この程度の拘束にっ……!」
「やらせると思うか?止まれ、時空!」
微かに残った心意と力任せに氷の蔦を砕こうとするガブリエル。その四肢に巻き付いた青薔薇の座標を凍結し、時間を停止させた。
これでもう、奴が逃れられる術はない。
「行けっ、キリト!」
「トドメをさせ!」
「うぉぉぉぉぉ————ッ!!」
漆黒の瞳が黄金に輝き、技を繰り出す。
その太刀筋はかつてアインクラッドで何度も受けたことのある技。何度も何十回も熟練度上げで練習台にさせられた忘れもしないあの奥義。
流れる様に叩き込まれる連撃がガブリエルの身体を切り裂く。
「これで、終わりだぁぁぁぁーーーーっ!!!」
最期の一撃は
それを受けたガブリエルは断末魔を挙げて、そのアバターを爆散させる。同時にキリトの心意の剣も砕け散り、心意も空間リソースも使い果たした俺たちはそのまま倒れ込む様に空を見上げまで仰向けになった。
「……これで、終わったんだよね?」
「あぁ、間違いない。今回Pohとその一味でアンダーワールドにログインしてた奴らの脳は高出力パルスで焼き切っておいた。二度とこの世界には来ないよ」
「それ、現実にも戻れず死んでるよな?」
「さてな、よく言うだろ?殺していいのは殺される覚悟のあるやつだけ。アイツらは少なくともこの世界の人間を殺したんだ。死んで報いを受けるべきだ」
多分、俺がやったことは自己満足だ。
きっと彼らにとってこの世界はただの仮想現実でここの人たちはみんな造り物でしかないのだろう。
でも、俺はこっち側の人間だ。
俺たちは確かにAIだ。でも、生きてる。アリスの温もりが教えてくれた。ロニエの心が伝えてくれた。キリト達との思い出が育ててくれた。
俺たちは生きてる。
AIは生きてるんだから。
だから、殺されそうになれば逆に殺し返す。
俺たちだって人間なのだから。
あーあ、これからきっと大変だ。
さてさて現実に行ったアリス達がどうなるのか、俺たちがどうなるのか。問題は山積みだけど……。
「少し、眠いや」
少しくらい休むのも悪くないだろう。
ガブリエルとの戦闘を最後にこの戦場で起こっていた戦いは終結した。さぁ、レクスとの約束。ベルクーリへの義理。やることがいっぱいだ。
後書き
はい、後書きです。
ガブリエル、呆気なく死す。
完全に強引な倒し方でしたが、自分的にありだと思います。ほら、二次創作ですし。自分の中で理屈があればそれでいいと思える様になりました。
作者の成長というよりも開き直りですが、ご容赦を。
さて、次回からエピローグになります。
まずはキリトENDです。
キリトENDは俗に言うトゥルーエンド。
ロニエ、アリスの個別ENDはIFルート扱いということで……。