SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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94話 200年の終わり

後に大戦と呼ばれるあの戦いから幾つかの歳月が流れた。実際には200年あまりの時間が流れていた。

 

その間に起こった様々な出来事は文字に起こすと異常な文字数に膨らみ、記録し切れないので割愛するが、世界は、緩やかに平和になった。

 

「アルス、またここに来てたのか」

 

「キリト……」

 

1人になるとつい、俺はここに来てしまう。かつて"彼女"とその愛剣が陽光を浴びていたあの場所。きっと、俺は会いたいのだろう……アリス。でも、彼女だけじゃない。会いたい奴らはまだまだいる。

 

俺は200年経っても変わらず落ち着きのない相棒の側に歩み寄り、200年前に分かれた友たちを思い返す。

 

ユージオ、ティーゼ、そしてロニエ。

彼女らは今、ディープフリーズ状態でカセドラルの天蓋に眠っている。俺がそうした。理由は簡単、彼女らにキリトやアスナの生まれたリアルワールドを見て欲しいから。

 

要するに、3人を現実に送る為である。

 

……本当に長かった。

 

当時は忙しかった。レクスとした約束を守る為にカセドラルの連中を説得したり、何度か意見が割れて地形が変わるレベルの喧嘩を繰り返したり。本当に、本当に。

 

でも、俺のやるべきことはまだ終わってない。

 

レクスとの約束は果たした。もう、この世界に亜人と呼ばれる異種族と言う概念は無く、世界を分っていた壁もない。

 

でも、この世界は所謂仮想現実。

俺たち生きているAIにとっての現実であっても、精巧に作られた世界でしかないと言うべきか。

 

200年前の戦争で大量に侵入してきたリアルワールド人たち。彼らの残した爪痕は当時の被害だけではなく、この世界に重大なバグを残していったのだ。

 

大戦負けのこの世界は言わば無菌室。チリ一つ菌一つない世界だったのに、そこにずかずかと土足の暴漢たちが押し入ってきたことで余計な"菌'が入り込んでしまった。

 

俺のやるべきこととは、それらの菌を全て削除すること。この世界の新たなるアドミニストレータとして、この世界を脅かすモノを殺す。

 

「俺、まだ現実世界(そっち)には行けなさそうだわ」

 

「なら、俺も残る。きっと王妃もそう言うだろう」

 

「駄目だ、本来フラクトライトの保存容量は150年分。もう50年も過ぎてるんだ、これ以上、お前らをこの世界に居させるわけにはいかない」

 

実はこの前、菊岡と連絡を取った。

そろそろキリトたちをこの世界からサルベージできるらしい。それがもうすぐ。あと30分後のこと。

 

カセドラルのコンソールからキリト、アスナ、ユージオ、ティーゼ、ロニエをログアウトさせる。

 

無論、これは菊岡にも連絡済みだ。

 

「だが……」

 

「俺を信じろ。なんなら、一旦外に出てまた俺を迎えに来てくれ。その頃には全て終わってるはずだ」

 

「……」

 

俺はキリトに背を向けて天蓋へ向かう。

そこに眠る、懐かしい友達を起こしに。

 

◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️

 

3人の前に立ち、術式を唱える。

かつて対峙したチュデルキン元老長。俺が心意で捻り潰した彼と同じ技を使うのだからなんとも皮肉だ。

 

背後には見守るアスナと何故か帯剣した相棒。

 

俺は彼らの視線を受けながら術式を完成させるとゆっくりと後ろに下がる。

 

「痛っ!?」

 

まるで立体的な壁の壁画の様に保存されていた3人がユージオから目が覚める。

 

まあ、ユージオは着地に失敗して膝から落ちていたが。

 

「おはよう、3人とも。約200年ぶりの目覚めはどうだ?」

 

「えっ、あっ、えっ?」

 

「本当に200年経ったんですか!?」

 

……あぁ、本当に懐かしい。

学生時代に戻った様な懐かしさがある。

 

焦茶の髪の彼女に視線が止まると何十年ぶりかの涙が溢れてきた。

 

「あ、アルス様!!?」

 

「ロニエ。様禁止。世界の管理者命令。あと……ごめん」

 

200年前、カセドラルの中心人物となった俺の秘書として活躍してくれたロニエ。彼女は公共の場では俺に様を付けていた。体裁を保つ為と言ってたっけ。

 

懐かしくて、実際に流れた月日と彼女との間に生まれた何月と言う壁で切なさが胸を締め付け、思わず捲し立てる様に言うとロニエを抱く。

 

懐かしい、温もりだった。

 

「……もう、しょうがない人なんですから……」

 

ガキの様に彼女を抱きしめて啜り泣く俺を甘やかす様にロニエが頭を撫でてくる。

 

それから30分くらいして落ち着いた俺は告げる。

 

「リアルワールドと連絡がついた。あと30分後に時間の同期が行われ、そこでキリトとアスナはサルベージされ、君たち3人はログアウトする」

 

「ちょっとまって、その言い方だとアルスは違うみたいに聞こえる」

 

「ゆーちゃんの癖に鋭いな。その通り、俺はこの世界に残るよ」

 

残らねばならない。カーディナルの意思を継ぐ者として。ベルクーリの志を継いだ者として。レクスと共に世界の垣根を取っ払った者としてこの世界の行く末を見守る。

 

「先輩が残るなら私も!」

 

「駄目だ。君には君の役割がある。それを忘れるなロニエ。同じように俺には俺の役割がある。それだけだ」

 

「……悪い、やっぱり納得できない」

 

キリトが言った。

 

俺はその言葉に少しの嬉しさと切なさを覚えて剣を呼び出す。きっと、彼が剣を帯びてここにいたのはそれが理由だと思ったから。

 

"新月の剣"。かつて大戦で時穿剣と黒藍の死剣が融合して産まれたこの世界最高の優先度を持った愛剣を心意を持って呼び出す。

 

「アルス、俺はお前を止めたい。その為ならもう一度刃を振るっても惜しくない」

 

「奇遇だな、キリト。俺もお前のその気持ちは嬉しいが、お前を止めたい。その為ならこの刃を振るってもいいと思えるよ」

 

やっぱり落ち着きがないと思う。もう200歳とか言ってるくせに。いや、それは俺も同じか。200年以上、キリトと過ごしたが…喧嘩したらこれして剣を交えて分かり合えるまで斬りあったっけ。

 

「キリト、俺でお前と喧嘩するのは何度目だ?」

 

「さあな。覚えちゃいないよ、なにせ昔から喧嘩は多かったろ?」

 

そうだった。アインクラッドにいた頃から実を言うと喧嘩は多かった。殆どが下らない理由の喧嘩だったけれど、今もこうして彼と向き合っているのだから、喧嘩するほど仲がいいとはこう言うことを言うのだろう。

 

まぁ、それで一度も仲直りできなかったことはないわけだし。

 

「……だな」

 

剣を抜く。

 

アイツとの最後の喧嘩。

俺の胸は懐かしさと達成感と、勝っても負けても、変わることのない自分の運命に酔った切なさで満たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UW大戦と呼ばれたあの戦争。

多くの血が流れた。

 

半ば無菌室のようだったこの世界に外から来た人間たちが侵攻して来たことでこの電脳世界にウイルスの様な物が生じ、そこからバグが産まれた。

 

そのバグは本来ならこの世界に存在するはずのないmobを出現させたり、異常気象を発生させたりと様々な被害を残す。

 

俺の200年はそれらのバグへの対策で追われる日々だった。

 

mobが現れたのならそれを駆除し、異常気象が起こったのならそれを止め、被害が出てしまった地域を修繕する。

 

星王が二つの星を治めている間、俺はずっとバグの処理に追われていた。

 

200年が経った今、キリトたちの役目は終わる。

 

だが、俺の役目は終わらない。

 

この世界を残す為に。

 

また、アリスがこの世界に来れるように。

 

この世界を無事な形で残す。

 

それが。俺のやるべきこと。

 

もとがカーディナルシステムから生じた俺はどうやらこの世界のシステムに組み込まれてしまうらしい。まあ、それもある意味当然。なにせ、リセリスと統合したことで俺を構築するデータはカーディナルシステムのそれに更に近づいたのだから。

 

だから、俺はこの結末でいい。

 

みんなと過ごしたこの世界を守り続けるシステムになる。

 

リセリスからは世界の民を、クィネラからは世界の守護を、ベルクーリからは志を継いだ。

 

後悔はないと言ったら嘘になる。

 

でも、心残りはない。

 

楽しかったよ、キリト。

アインクラッドの第一層でお前と会えてよかった。

 

お前と一緒にいたから今の俺がある。

 

ただのAIではなく、人の心を持ったシステムとして俺は稼働し続けるだろう。終わりなく、限りなく。

 

苦しみはあるだろう、悲しみは数え切れないだろう。

それでも戦い続けるだろう。

 

俺は、そのためのシステムになる。

 

さよならだ。キリト。

 

お前ならAIと人との垣根をなくしてくれると信じている。

 

それが、俺の最後の願い。

さらばだ、黒の剣士。

 

我々の道はここで別れ、途絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ふと、目が覚める。

まず耳に入るのは複数のアクチュエーターが動作する音と少し電子音混じりの複数の寝息。

 

無防備に眠りかける幼馴染2人と3人の後輩がその発生源であり、目を開けるとその体にコンセントが繋がっている光景などはもう慣れた。

 

「おはよ、今日も賑やかになりそうだよ。アルス」

 

机の上に飾られたALOでとった仲間達の集合写真にやや強ばった顔で映る親友に語りかけて朝方始まる。

 

……俺の中に、アイツはいない。

 

もう、俺達は繋がっていない。

 

俺はリアルワールドに。

 

奴はアンダーワールドに。

 

それぞれ別の道を歩み出したから。

 

アドミニストレータとの戦いでアイツの意識データはカーディナルシステムの一部に上書きされ、俺とのフラクトライトの共有は断たれた。その時点で二重人格のように俺の中に存在していたアルスは俺の心から切り離され、向こうに留まる運命だったらしい。

 

「……向こうじゃ、どれくらい経ってるのかなぁ」

 

ポツリと呟く。

 

きっと、気が遠くなるほどの年月が経っているのだろう。

 

現在、菊岡たちがアルスのサルベージに全力を注いでいる。俺も昨日、送られてきた座標メールでアンダーワールドへの道を手に入れた。

 

「なにがさらばだ、今度は耳引っ張ってでも引きずり帰ってやるかんな。覚悟してろよバカ野郎」

 

俺は言い残して部屋を後にする。

 

待ってろ、お前の帰りを待ってる奴らの執念を見せてやる……!

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……」

 

ため息をついた。

 

「んだよ景気悪いな、ペイル。そろそろロッタ達が来るぜ?」

 

「わぁってるて、ちょっと昔を思い出してた」

 

「昔っていつよ?」

 

「UW大戦」

 

「うわ懐っ!?」

 

こうしているとふと昔を思い出すのは年寄りの証だろうか。となりに並び立つ黒鉛色の相棒の言葉に適当に返すと俺は歩きだす。

 

「このメタリックな体はいつまで経っても慣れないな」

 

「えー、かっこいいじゃんかよ。黒藍色が鈍く光る良いボディじゃんお前の剣と同じ色だぜ?」

 

「そんなこと言ってるからお前は本体が剣の人とか言われんだよ」

 

「お前まで言うなよ!?俺にはグラファイト・エッジって名前が————」

 

いつまでも変わらない物がある。

俺はこの相棒といつまでも共にあるのだろう。

 

この仮想と現実の入り乱れた世界で————。

 

 

 




後書き

はい、後書きです。
これが一つのキリトエンドです。アルスは結局、リアルワールドには戻らず、アンダーワールドに発生したバグを処理するシステムとして稼働する道を選びました。

そんなアルスを喪失したキリトはキリトでアンダーワールドに向かい、アルスを無理矢理にでもサルベージする方法を探しています。

そして最後は……一体誰視点なんでしょうなぁ。
ただ、ペイルと呼ばれた人物はグラファイト・エッジさんの古い友人で、付き合いが1番長い人物だそうです。この作品ではね。

それでは閲覧ありがとうございました!
一応、ロニエ、アリス、そしてもう一つのキリトエンドを投稿予定ではありますが、今回で【無型の剣聖】は完結とさせていただきます。

次回以降はIFルートということで!


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