「ユージオ上級修剣士殿、ご報告します!本日の掃除、完了いたしました!」
背筋が痛々しい程にピンと伸ばしている赤毛の女の子……ティーゼ・シュトリーネンが僕の傍付き錬士になってから一週間が過ぎた。
僕等……いや、あの型破りな相方達の事だから断言はできないけど、少なくとも僕は傍付きになってから2ヶ月はガチガチに緊張してビクビクしてたっけ……
できるだけ優しくしようとしてるけど、やっぱり緊張は簡単には取れないよね……。
「ありがとう、ティーゼ。ご苦労様、今日はもうこれで寮に戻っていいよ。……で、ええっと……」
ティーゼから、同じ様に背筋を伸ばしている焦げ茶の髪をした少女……ロニエとルーリッドの村からの知り合いのセルカへと目を向ける。
「ごめんね、2人とも……あいつらにはいつも掃除が終わる頃には戻って来いって言ってるんだけど……」
そう言うと、2人はそれぞれの表情を浮かべた。
「い、いえ!報告を完了するまでが任務ですから!」
と、ティーゼと同じ様にガチガチな様子のロニエ。
「いいのよ、ユージオ。キリトの傍付きに指名された時から覚悟はしてたから……」
と、どこか呆れた様な表情を浮かべるセルカ。
……ココだけの話、僕達は傍付きのこの子達にどう接したらいいか分からない事がある。まだ一週間だが、あいつら…主にアルスが掃除の時間に居なくなるのはそれが原因だろう。
大声では言えない……と言うか、僕の内心に止めておきたい本心としては、あの型破りな相方達にも苦手な物があって安心している。
「えっと……ロニエ。セルカは多分大丈夫……というより、諦めてるからいいんだけど。この先、アルスに着いて行くと苦労するよ、絶対に。君が望むなら先生に掛け合って見るけど………」
「と、とんでもありません!」
ユージオの提案に、ロニエは首をぶんぶんと振った。
その時、開け放たれていた窓から人が入ってきた。
「おいおい……人の留守中に酷いことを言うなあ〜ユージオ。アルスが聞いたら泣くぞ?」
「……なぜ、君はそんな所から入って来るんだ?それに、アルスはどこだい?」
入って来た人物は僕の相方その1。キリトだ。
だが、相方その2。アルスがいない。
「ああ……アルスならさっき、「俺はこっちね、なんか新しい道を見つけたからこっち通る」だとさ」
……なんだろう。嫌な予感がする。
「……ロニエ、あなたの足下……揺れてない?」
「……え?」
ティーゼの声に反応したロニエが足下を見ると、確かに揺れている。
「きゃっ!?」
ロニエが軽く悲鳴をあげると同時に彼女が一辺が3メルの正方形のタイルごと持ち上がる。
「お?こんなところに出るのか」
ロニエを持ち上げたタイルの下にはタイルを頭で持ち上げるアルスがいた。
——
キリトと跳ね鹿亭に行った帰り、面白そうな道を見つけたのでそこを通って帰ってみた。専用寮の外に見つけ辛い道があった。その道は何故か階段もあったり、狭く、暗い。
道が途絶えたので、天井を頭で押してみると少し重いが、動いたので、そのまま持ち上げてみると、
「きゃっ!?」
……上から悲鳴が聞こえたり、見覚えのある部屋があったりで驚いた。
「お?こんなところに出るのか」
「アルス!?なんでそんなところから!?」
「いや〜。よく分からん」
ほんと、何なんだ?この迷路……
「あ、あの、先輩……」
「ん?何だね、ティーゼ君?」
「上………」
上?っと不思議に思い、目だけで上を見ると……
「ロニエ?」
「は、はい。アルス上級修剣士殿、本日の掃除、完了しました!」
俺の傍付き錬士 ロニエがいた。
まさか、絡まれてるのを助けたり、セルカと一緒にいたので案内した子達が俺やユージオの傍付きになるとは思わなかったな。
「あ、悪い。ロニエ、もう一度下に戻るからその間に降りてくれるか?」
「は、はい!」
ロニエの返事が聞こえたので、もう一度下に戻り、少ししたら上がる。
「フゥ……なにはともあれ、ロニエ、ご苦労様。いつもありがとな」
「い、いえ!これも傍付きの仕事ですから!」
まったく……仕事でもやな顔せずにやってくれるから感謝してるんだけどな。
そこで、キリトと一緒に買って来た、跳ね鹿亭の蜂蜜パイを袋から3つ取り出して、キリトとユージオに一つずつ放って、一つを咥えて、袋をロニエに渡す。
「寮に戻っはら、ひぇあらいうがいをひてからみんなで食べなさい」
と言うと、
「わあ!ありがとうございます!上級修剣士殿!」
「頂いた物資の天命が減少しないよう、全速で寮に戻ります!」
「ありがとうね、アルス!」
そう言うと、パタパタと早歩きで部屋から退出し、きゃー!と14〜16歳くらいの歳相応な声が聞こえた。
「……サンキュー、キリト。おかげで助かったわ!」
「おう、まあ、蜂蜜パイを奢ってもらったし、良いってことよ!」
「……傍付き錬士と仲良くなるのは良いけど…アルス上級修剣士殿とキリト上級修剣士殿、僕らの目的が何なのか忘れじゃないでしょうね?」
ユージオか呆れたような顔で聞いてくる。
「ふっ…忘れてるわけないだろ?」
「ああ!当然だな」
そして俺達は壁に立て掛けられた白黒の2人振りの剣……とゴブリン製の錆びた剣をみる。
——
「あと三つ……ようやくここまで来たんだぜ?まずは、卒業検定試合で他の上級修剣士9人に勝って、学院代表の座につく。そして帝国剣武大会で騎士団だの近衛隊のおっさん達もぶっ倒す!最後に四帝国統一神前大会で俺達のうち2人が勝ち残り、そしたら、お前と俺かアルスは整合騎士になれる。堂々と、正面からあの塔に乗り込めるんだ」
「まあ、負けても、その次に勝てば良い」
「うん……。あと1年……僕らのうち誰かが負けても……いや、僕は負けないけど!それで……やっと…」
——やっと、会える。8年前、目の前で連れ去られた金髪の幼馴染に。
3人をここまで導いた運命の剣たちが傍らにある限り、僕ら決して挫けることはない。ユージオやキリトがそう確信した時、アルスは……
(……そろそろ、この錆びた剣からおさらばして自分の剣が欲しいなぁ……)
と、青薔薇の剣と"黒い奴"の隣に並ぶゴブリン製の錆びた剣を見て思った。