俺達はあの後、俺の後をついてきていたアズリカ先生に現場を目撃され、公理教会への引き渡しの為に監禁部屋に入れられた。
その監禁部屋の中で、ユージオの片目が無くなっていたことに気づいた。本人の話によると、激しい葛藤の後に気が付いたら目がはじけて剣を振るっていたとか……
「……本当に残念です。今年度の代表剣士はあなた達のうち2人で、もう1人もいずれ整合騎士に成りえると確信していたのですが……」
「ははは……本当にすみません、アズリカ先生」
「俺達もそのつもりだったんですけどね」
心意のことやら剣の記憶やらを教えてくれたアズリカ先生には本当に頭を下げるしかない。まあ、キリトも軽口を叩けるレベルには回復した様だ。
アズリカ先生は俺達の言葉にほんの少しだけ口許を緩めると、続いてユージオを見た。その目は、険しく細められ、その直後に薄緑色の球体を取り出した。
(……あれは、確か学院で栽培してる花の結晶だったか?)
決して安価な物ではなかった筈だが、アズリカ先生はそれを躊躇いなく砕くと、治癒術式を詠唱し始める。
「目を開けてみなさい」
アズリカ先生に言われてユージオが恐る恐るといった様子で目を開ける。すると、失われていた筈の片目がそこにあった。
「あ、ありがとうございます。アズリカ先生……」
「いえ。それより……ユージオ修剣士、キリト修剣士、そしてアルス修剣士。あなた達を迎えの者に引き渡す前に、これだけは言っておきます」
キリトとユージオの肩に手を置き、俺を真っ直ぐに見つめながら、アズリカ先生は今まで見せた事のない、躊躇ったような表情を浮かべた。
「あなた達はこれから、禁忌目録に背いた事による咎を受けるでしょう。ですが、忘れないで。禁忌目録……いえ、公理教会それ自体さえも、神ならぬ人が作ったものだということを」
「え……そ、それはどういう……」
ユージオは反射的に聞き返していた。
だが、アズリカ先生が右眼を抑えて痛みに耐えながら何かを語ろうとしている事に気付き、黙って視線を向ける。
「……ユージオ修剣士は私には破ることのできなかった封印を破って見せた。あなたなら私の行くことのできなかったところまで行けるかもしれない……あなたの友を信じなさい」
ユージオは頷く。
「キリト修剣士、あなたが何者なのか……ついに分かりませんでした。ですが、あなたが公理教会に辿り着いた時、きっと何かが起こる、私はあなたがきっと何かをしてくれる。私はあなたの無事を信じています」
キリトも頷く。
「そして……」
アズリカ先生は最後に俺を見る。
「アルス修剣士……あなたはキリト修剣士以上によく分からない存在でした……学生の身で心意技を会得したり……あなたが何を為すのか。私には想像も付きません。ですが、全てはあなたの
「……はい」
そして俺は返事をする。
キリトは一度俺を見て、
「アズリカ先生…まだ俺やアルスの事を全てはお話しすることはできません……」
と言った。俺はキリトのやりたいことが分かったので乗る事にする。
「ですが、全てが終わって公理教会から脱出することができたのなら、お話します。先生の知りたいこと全てを話に戻って来ます」
キリトに目配せする。
あいつは頷いた。
「「ですから、それまでは内緒です!」」
俺とキリトは人差し指を立てて自分の口許に持って行き、笑いかける。
……見間違えじゃなければアズリカ先生の頬がほんの少しだけ朱色をしていた。
——
「飛竜……と言うことは整合騎士かな?」
「さあな、会ってみれば分かるさ」
普段は学生で賑わっている広場は人気が無く、代わりに雄々しい飛竜がいた。
そして、騎士がいた。
見るからに荘厳な鎧、青いマント、そしてマントの上にかかる長い金髪……
「北セントリア帝立修剣学院所属、ユージオ上級修剣士です」
「同じくキリトです」
「……同じくアルス上級修剣士です」
キリトが省略したので、取り敢えず身分だけは入れて名乗る。
……あの髪どこかで………
そんな疑念が俺の中で渦巻いている。
「セントリア市域統括、公理教会整合騎士——アリス・シンセシス・サーティです」
ドクンと心臓が鳴る。
今、目の前の背中を向けている騎士はなんと名乗った……?
「……アリス……?君なのか……?……アリス……なのか…………?」
ユージオは目の前の騎士の名前を呟きながら前に出る。キリトが手を出してユージオを止めようとするが、それをすり抜ける。
「アリス……?」
ユージオが一歩踏み出し、騎士の肩に触れようとした時、ユージオは吹き飛ばされた。
「ユージオ!」
キリトがユージオを起こす手伝いをしている。
今なお背中を向けている騎士の右手が真横に伸ばされ、いつの間にか一振りの長剣が握られていた。しかし、抜き身ではなく、金張りの鞘に収められている。
(あの一瞬でユージオを殴ったのか!?)
内心で驚愕していると、
「……次に許可なく私に触れようとしたらあなたの手を斬り飛ばします。私にはお前達の天命を7割減少させる権利があります」
まるで氷のように声で振り返りながら言う騎士。
再び心臓が鳴る。
……その顔を、俺は、知っている気がする……
「あれが《アリス》なのか?」
キリトの問いにユージオは無言で頷く。
「取り敢えず、今は指示に従おう。公理教会の中ならそれなりのことは知ることができるはずだ」
俺が提案し、2人が頷く。
「修剣士ユージオ、修剣士キリト。そなたらは私が公理教会に連れて行き、しかるべき罰を受けるでしょう」
騎士アリスはキリトとユージオにそう言うと俺に視線を向ける。
「そして修剣士アルス。そなたはそこの2名とは少し事情が違う」
「……どういう事かお聞きしても?」
事情が違うという発言に違和感を覚えて聞き返す。返答は期待してなかったが、予想外に答えてくれた。
「……どういう訳か最高司祭さま直々にお前を処断する。という事になっている」
最高司祭……確か公理教会のトップだった筈……なぜ、俺を?
「私が連行するのは修剣士キリト、並びに修剣士ユージオの2名だ。修剣士アルス、お前には別の迎えが来ます。その間に剣を取りに行きなさい」
「なぜ剣を持つ必要があるんだ?その最高司祭さまは俺に曲芸でもさせる気かね?」
と軽口を叩いたら、
「これ以上私がお前に話すことはない。さっさと剣を取りに行きなさい」
会話を打ち切られた。
俺は言われた通りに剣を取りに向かった。
キリト達ともすぐに会えるだろう。行き着く場所は同じだからな。去り際にキリトとユージオに目配せした。それに2人は頷き返してくる。それを確認して俺はその場を後にした。
——
俺はライオス達の部屋に来た。あの後は俺らの剣や壁に突き刺さったギガスシダーの枝を放置したままだったからだ。
「さて………どうすっかな」
あの騎士……アリス・シンセシス・サーティ。彼女がユージオの幼馴染で、セルカの姉………
(最果ての洞窟で俺やキリトに語り掛けてきたのは………)
それに、ゴブリン達と戦った時に流れ込んできた記憶……そしてその記憶とは瓜二つなのに別のようになっていたアリス。
(何が何だかよく分からなくなってきた……)
そんな事を考えつつ、さっきから部屋を見渡しているが、青薔薇の剣も黒藍の死剣も《黒い奴》も見当たらない。
取り敢えず、ギガスシダーの枝を回収して広場に戻る事にする。
内ポケットに白い玉もあるし、ギガスシダーの枝が7本ある。武装としては文句なしだろう。
——
広場に戻る道……俺は認めたくない……いや、見たくない光景があった。
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら黒に近い藍色の剣を胸抱えて歩く焦げた茶髪の少女……そしてその少女が抱える剣を伝って赤い液体が地面にポタポタと落ちている。
周りを見渡すと彼女が通ったであろうところに赤い液体……恐らく血液が落ちている。
「ロニエ……ッ!!」
彼女の……己の傍付き錬士の名を呼ぶ。
「ああ……先輩、よかった……間に合いました……」
「なんでこんな……」
「先輩に……剣をお返ししたくて」
そう言って黒藍の死剣を震える手で差し出してくる。
「………ッ!」
剣を受け取り、それを見る。
柄から刀身の納まっている鞘にかけて彼女の血で濡れている。
それだけで彼女がどれだけの覚悟で、黒藍の死剣をここまで運んでくれたのかが分かる。
「ロニエ……ありがとう!」
勢いでロニエの手を握ってしまう。
「せ、先輩……?」
握ったので、周りのリソースを集めて手の怪我を治療する。
「くくくっ……見せつけてくれますな」
「………貴様」
ロニエを治療していると、2度と聞きたくない声が聞こえてつい殺意が湧いてしまう。
まあ、昨日のうちに斬り殺してやろうかと思っていたのに逃げられちまったからな
「ロニエ、ティーゼ達の所に行ってくれ……」
「先輩……」
ロニエが何かを言おうとして口を閉じる。
「分かりました……でも、怪我はしないで下さいね」
そう言って彼女は広場の方へ歩き出した。
……ん?なぜに広場?
「大罪人アルス。公理教会より先に私が貴様を裁いてやろう」
「……こんどは逃げないんだな?クラース」
そんな疑問を隅に追いやり、剣を抜いて俺を斬る気満々なクラースを見る。
「貴様を裁いた後で嫌がるアラベル家の娘を痛ぶるのも悪くないな— —!!」
「そうか………」
……やっぱり貴族とはどちらかと言うと外道や下衆が多いみたいだな。完全に頭に来た。
「なんだ?斬られる覚悟でも「いや、お前が死ね」……え……?」
聞く価値も無いと思ったので全部言い切る前に黒藍の死剣を引き抜き、数メートル先のクラースめがけて振る。
クラースは間の抜けた声を上げたが無理も無い。
なぜなら—————クラースの左肩から右脇腹へかけて血が吹き出しているのだから。
黒藍の死剣……いや、青い馬と白い馬の力だ。
「あ……がっ………」
倒れてガクガクと痙攣するクラースの頭を掴む。
「お前が死のうと別にどうでもいいが……ロニエに手を出すつもりなら話は別だ。俺はキリト達と違って気が短い。今後、俺たちの傍付きに手を出したら公理教会だろうと最果ての地だろうと関係ない。地獄の底からでも貴様を殺してやるからな」
クラースの耳元で脅し、掴んでた頭を離す。
——
広場へと続く道を歩きながら手元の黒藍の死剣を見る。
その剣の柄と鞘には未だにロニエの血が残っている。
(……あれが俺の本質、なのか?)
あの時、俺の頭の中は真っ白になっていた。
「アルス!」
「アルス先輩……」
「先輩……」
「ん?ああ……セルカにティーゼとロニエか」
いつの間にか広場に着いた。
……なぜここにセルカとティーゼにロニエが?
「さっき……キリト達を連れて行った人……間違いなく姉様だった」
なるほど……ライオス達の部屋に青薔薇の剣に黒藍の死剣、《黒い奴》が無かったのはこの子達が俺たちに剣を届けるために持ち出したからか……
「ああ、俺も見た。アリス・シンセシス・サーティ……それが彼女の名だ」
「……姉様、まるで別人みたいだった」
セルカの表情が暗くなる。
そうだ。俺の事は今はどうでもいい……
「大丈夫。キリトもユージオも……アリスも必ず連れ帰る。だから、セルカは先にルーリッド村に帰っててくれ」
「ルーリッド村に?」
「俺たちは禁忌を犯した以上、央都には居られない……もし、可能性があるとしたら北の果てにあるルーリッド村くらいだ」
ユージオとアリスの出身地で開拓されている土地も少ない。もし、村で追い返されても最悪の場合は木なりなんなりで家を作れば何とかなる……筈だ。
「……分かったわ……キリトとユージオ……そして姉様をお願いね」
「ああ。任せろ!」
キリトもユージオも……アリスも放っておく事はできない。
「先輩……わたし………」
「ロニエ……君と出会ってからまだ2ヶ月くらいしか経っていないんだよな」
それだけ楽しかったってことか…最初てあった時は変なのに絡まれてる時、二回目は学院の案内で、そして俺の傍付き錬士になった。それも凄い偶然の連続でだ。
ここまで来ると、流石の俺も運命を感じるな。
「わたしは頑張っていつの日か必ず整合騎士になって先輩を助けてみせます……もし、先輩が先に脱出に成功したなら絶対に会いに行きます………そしてその時が来たら……私と………」
ロニエは顔を赤くしてそこまで言うと、少しだけ俯いて顔を上げる。
「いえ、これから先は……次にあった時に言いますね!」
「何だろう……かなり気になるな」
別に今でも良くね?
「アルス……あんたは少しくらい察する事を覚えなさい!」
「アルス先輩……今のは駄目だと思います」
……どうやら俺はやらかしたらしい。
なんて事をしているうちに何かが羽ばたく音が聞こえてくる。上を見ると飛竜がいた。そしてその飛竜から人影が落ちて来る。
「よっと……おい少年!お前さんがアルスかい?」
青い浴衣のような服を着たおっさんが降って来た。
何より目を引くのが無駄な装飾を一切施していない剣だ。
「……迎えが来たか」
「先輩……これ、お腹がへったら食べて下さい」
「本当、なにから何までありがとな、ロニエ」
「………いってらっしゃい、アルス先輩」
「ああ……、行ってきます」
本当に俺には勿体無いくらいできた後輩だ。
「あれ……俺は無視かい?」
「あ、いや、すまん。無視した訳じゃないんだ。
……北セントリア修剣学院所属、アルス修剣士です」
「おう、ご丁寧にどうも。俺はベルクーリ・シンセシス・ワンだ」
ベルクーリ……?なんか聞いた事のある名前だ。
なんて考えてる間にベルクーリは俺から剣を取り上げ、俺を飛竜に繋いで飛び立った。
ああ……主人公と物語の方向性が見えなくなってきました。ところで話は急激に変わりますが、昔見てたテレビの番組や漫画、やっていたゲームが急に懐かしくなることってありませんか?つい最近、某サイトでカエル型宇宙人のアニメを見てから懐かしくなってマラソン鑑賞してたりしています。
閲覧ありがとうございました!