……どうしてこうなった?
目の前には湯気の上がる風呂、そしてそれに浸かる整合騎士。
「悪りぃがもう少しだけ待ってくれや」
「あ、はい……」
何故……?整合騎士アリスの言葉通りなら俺は最高司祭とやらに処刑される筈では?
「長げぇこと飛竜に跨ってたもんだから身体中が強張っちまってな……」
目の前の俺を連行してきた整合騎士……ベルクーリ・シンセシス・ワンが何故か俺を最高司祭に引き渡すではなく、階段を下って風呂に来た。
そんな思考を弄んでいると、「いい湯だった」などと言いながらおっさんが風呂から上がる。
「さて……待たせたな」
「別に待ってねぇよ」
服を着て、黒藍の死剣と全く飾り気のない両手剣を手に十数メートル先に立つ。
「……何故、俺を最高司祭とやらに引き渡さない?それがあんたの任務だろうに」
「別に大したことはねぇよ。最高司祭殿がお前さんを試せとさ。それに、お前さんの目が気になった」
そう言って黒藍の死剣をこちらに放ってくる。
それをキッチして、腰に帯びて抜刀する。
「……見ねぇ構えだな、少年……もしやお前さん、連続剣の使い手かい」
……連続剣を知っている?
俺の疑問が顔に出てたのか、見透かした顔で言う。
「なぁに、昔戦った事のあるダークテリトリーの暗黒騎士に連続剣の使い手がいてな。こちとらそんな器用な技はこれっぽっちも使えねぇもんだから苦労させられたぜ」
「成る程な……んで、俺にどうしろと?正統派の技だけを使えと?」
思えば敵とここまで会話したのはSAOでのヒースクリフくらいだな。
「別にそういうことじゃねぇよ、ただ……俺も最初から奥の手を使わせて貰うぜ」
奥の手……?
そんな事を考える俺をよそに佇まいを正し、剣を掲げるように剣を構える。
「最高司祭殿の命令だ、命までは取らない。
——整合騎士長、ベルクーリ・シンセシス・ワン、参る!!」
笑みの消えた口で響き渡る程の声で名乗りを上げる。
やはり聞き覚えのある名前だ。
あれは確か……いや、今は集中だ。
(来るか……?)
ドスンと一歩踏みしめて、その豪腕で剣を真横に構え、そのまま振り抜く………剣が陽炎のような物を纏っているように見えた。
「……っ!」
奴が剣を振った後、湯気を切り裂きながら剣風が迫ってきたので、真横に飛び、着地してソニックリープの構えを取る
(ただの素振りか?)
整合騎士の長の完成された技が織り成すであろう境地の一端を剣を振る動きだけで感じることができたが、それだけとは思えない。
「うおぉぉぉぉーー!!!」
確実に踏み込み、ソニックリープを発動させ、突進を試みる。
その直後、先程の剣風が壁にぶつかり、背後から風が吹く。その風は一瞬だけ湯気を全て消し去り、それにより、俺は違和感に気付けた。
奴がさっき剣を振った場所に陽炎が揺らめいている。
「くっ……!」
咄嗟に踏ん張り、速度を落とす。
一度発動したソードスキルは中断できない。
速度は落ちたが、止まらない。
そして俺の体が陽炎のに重なる。
——その刹那、体が真一文字に斬られ、その衝撃で吹き飛ばされる。
「がっ——!?」
背中から着地する。
「今のは流石に焦ったぞ、あんな勢いで突っ込んで来るとは思わな………ほぅ、
俺は起き上がりながら自分の胸元から切れたギガスシダーの枝を取り出す。
「いやー、世の中どんな物が役立つか分からないもんだな」
言いながら内心で焦り、今の現象について考える。
「武装完全支配術か?」
「まあな、俺の剣は時を穿つ。ちょいと先の未来を斬ったのよ」
俺が問うとベルクーリが答える。
そういえば武装完全支配術と心意技は整合騎士の技だったな……迂闊だったか。
(そして
剣とは通常であれば正しい場所を正しい瞬間に斬る。それが普通だ。
未来を斬るという事は瞬間の方を延長するという事か……。斬ったと言う事実を延長し、斬撃をその場に設置する。
(つまり、近接戦では無敵に近い)
あの剣が通った場所が全て必殺の空間になる。射程は短いが体を斬り裂く地雷を設置しているようなもんだ。
(単発秘奥儀……単発技の威力。そして威力はあまり無いが、高い命中率の連続剣……単発技の威力と連続剣の命中率が両立されているのなら……剣技としては無敵だろう)
俺も武装完全支配術は使えないわけでは無い。と言うか、クラース相手に使った斬撃を飛ばす力が武装完全支配術の一端だからな。
(いや、切り札はある)
俺は内ポケットの白い宝玉を取り出す。
「やってみるか………システムコール——」
(まあ、
さて、後は名を呼ぶだけだ。
「俺が最初に暗黒騎士の連続剣を見たのは、整合騎士の任についてから間も無い頃でなぁ。最初はぐぅの音も出ないほどやられたもんさ。そんでほうほうの体で逃げ帰ってから、なんで負けたのかを出来の悪い頭で随分と考えたよ」
俺の詠唱が始まったと同時にベルクーリは剣を着物の帯に挿して俺に時間を与えるかの如く、通常路で腕組みをしてのんびりとした口調で喋りだした。
「まあ、考えるまでもなく、単純に俺の剣が一発の威力のみを求めたものに対して連続剣は相手の技を捌きながら相手に攻撃を当てる技。どちらが実戦に適しているかは一目瞭然だよな?」
ひん曲げた口からふんっ!と息を吐き、言葉を続ける。
「——しかしそいつが解ったところで、すぐさま連続剣の修行を始められるほど、俺はきようじゃねぇんでなぁ。まったく、最高司祭殿も整合騎士を召喚されるならもうちっと融通の利く奴にしておけばいいのによ」
……召喚……だと?
整合騎士は大会やらで優秀な成績を残した奴がなるんじゃなかったのか?
「そんで足らねぇ頭で考えて出した答えがコイツさ」
そう言いながら全体が鋼の無骨な剣をかしゃりと鳴らす。
「この剣はともとも、セントラル・カセドラルの壁に備え付けられていた、《時計》っつう神器の一部だったのさ。いまじゃ、同じ場所にある《時告げの鐘》が音で時間を知らせてるけどよ、大昔はその時計ってヤツが丸く並べた数字をでっけえ針で刺してたんだぜ。なんでも、世界が生まれた頃から存在したっつう代物でよ……最高司祭殿は、《システム・クロック》……とか妙な呼び方してたっけなぁ」
時計……それにシステム・クロックと来たか……
それにこの世界が生まれた頃から存在したって事は優先度もかなりの物だろう。
「司祭殿いわく、『時計は時を示すに非ず、時を創るのだ』……って。意味はまるで解らなかったけどな。ともかく、その時計の針を剣に鍛え直したのがコイツってわけだ。アリスの嬢ちゃんの《金木犀の剣》が空間っつう横方向の広がりをぶった斬るのに対して、こいつは時間っつう縦方向を貫くのよ。銘は《時穿剣》……時を穿つ剣だ」
「『時計は時を示すに非ず、時を創るのだ』……か。言い得て妙だな。だけど俺の意見は違うけど」
その司祭はどんな奴なんだろうな……。
「ほう、じゃあお前さんの意見を聞かせて貰おうか」
「……時計が時を示すからこそ、時間という概念を正確に知る事ができるんだ。そうでなければあやふやな時間という概念を確認する術が無い。確認できない、有るか無いか解らない概念なんてあっても無いようなものだろ?それを明確にするという意味では時計が時を創るという表現でも合ってると思うけどな」
あくまで持論だが。
「……悪りぃ、どちらにせよ俺には解らねぇや」
「そうすか……」
じゃあ聞くなよと言いたくなる衝動を堪える。
まあ、話を戻すと時間では勝てないなら空間の広さで勝負するしかない。
「話を戻すが、俺の時穿剣の力を見た連中は遠距離攻撃を仕掛けてくる。俺より後に召喚された連中が武装完全支配術で遠距離攻撃を選ぶ傾向にあるのは……まあ、少なからず関係してるだろうな。あいつらは、あれでなかなか負けず嫌いだからよ。しかし言っとくが、俺は連中との立会いで負けた事はいっぺんもねぇぜ。もし俺に勝ったら、その時からそいつが騎士長だって言ってあるしな。ま、アリスの嬢ちゃんにはいつかやられるかもしんねえけどな。ともかく俺も楽しみなのさ……最高司祭殿が連中では無く、俺に試せと言われるお前さんの力が、技が、どんな代物なのかよ」
「……それでこんなにたっぷりと時間をくれたのか?」
かなり余裕だ。これが騎士長としての絶対的自信、強者の余裕か……。
(このおっさん相手に俺の実はどれくらいの通用するか……試したい!)
その衝動に身を任せ、右手に剣を持ち、左手に白い宝玉を握る。
「ふふっ……来るかよ、少年」
そう言うと向こうも剣を握り直す。
「はああぁぁぁぁーー!!」
黒藍の死剣の力を発動させながら、地面を踏み付けるようにして踏み込み、前に飛びながら剣を振るう。
「ぬうんっ!!」
ベルクーリが剣を振り、斬撃を設置する。例の如く剣風が発生し、俺を押し戻そうとするが、心意の腕で自分の跳躍力をブーストして勢いを増す。
「せあぁぁぁぁーー!!!!!」
気合を込めて剣を振り、黒藍の死剣の力で斬撃を延ばし、ベルクーリの設置した斬撃に当て、それを無効化する。
「なにっ!」
それにより、ベルクーリに少し驚きの表情が浮かぶ。
「はぁぁっ!!」
「おうっ!!」
たが、眼前に迫る俺を見て、それを消し、俺が剣を振るうと同時に剣を振るう。
二つの気合が響き、剣がぶつかる。
時穿剣と黒藍の死剣の能力が発動するが、お互いに打ち消しあう。
「オブジェクトID・ホワイトライダー・ジェネレート!!」
ここで俺は左手の白い宝玉を黒藍の死剣と同じ形の剣にして呼び出す。
「ぐおおぉぉぉっーー!!」
「でりゃぁぁぁぁぁーー!!」
再び剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
そして鍔迫り合いになるが、両手に握る黒藍色の剣と純白の剣の力を
「エンハンス・アーマメント!!」
武装完全支配術を完全に発動させることにより、複数の斬撃を全く同じ瞬間に発生させる……いや、複数なんて生易しいものでは無い。数千、数万、数億だろうか。
「ぐっ!ぐああぁぁぁぁ!?」
そして、そんな数の斬撃を全く同じ瞬間に食らったら誰でもあろうと耐えられないだろう。さしものベルクーリも絶叫する。
鍔迫り合いをしていた時穿剣は弾き飛ばされる。
「ここだあぁぁぁぁっーー!!」
黒藍の死剣でベルクーリの胸を穿つ。
勢いでそのまま浴槽に倒れこむ。
「ぐっ……まさか、ここまでやるとはなぁ……」
………ベルクーリ。
ベルクーリ・シンセシス・ワン……!?
(やっと思い出した……)
ベルクーリとは、かつて最果ての洞窟の白龍から宝剣……青薔薇の剣を盗みだそうとした男で、ルーリッドの村の誰もが知る英雄の名だ……。
「まだだ!」
それでも目の前の男は抵抗を止めない。
「大人しく……しろッ!!!」
低く怒鳴り、心意の太刀でベルクーリの手足の筋を斬る。
「心意の……太刀だと……なぜお前が使える!?」
「俺の事よりあんたの事だ、あんたは整合騎士になる前、何をしていた!」
こいつがルーリッドの村に伝わるベルクーリなら……答えに近づけるかもしれない。
「
「他の騎士の事は知らない…….だが、あんたの事は知っている——青薔薇の剣、最果ての洞窟の白龍、ルーリッドの村、《ベルクーリと北の白い竜》……全てあんたの盗もうとしたもの、物語になったもの、そしてあんたの拓いた村だ!!」
そう目の前のおっさんに向かって叫ぶ。
「……お前さんの話を、簡単に、信じるわけにはいかねぇ……。だが……俺も、自分が、天界から召喚された、神サンの騎士だっつう話には……長いこと、吞み込めねぇもんを……感じて、いたんだ……」
そう言うベルクーリはいつの間にか脱力していた。
「……いってぇ!?」
俺は無言でベルクーリの胸から黒藍の死剣を引き抜き、背を向ける。
「………お前さんの仲間は下に向かえば会えるはずだぜ」
「なんでそれを俺には教える?」
背中を向けた時、おっさんがキリト達がいる場所を教えて来たので質問する。
え、信じるのかって?まあ、ここで嘘をつく理由は無さそうだし?
「そうさなぁ……オレ個人がお前さんを気に入ったからよ」
「………俺もだよ」
そして俺は歩き出し、階段を下った。
……疲れた。
——
手足の筋を切られ、治療することすら億劫になったベルクーリはその場を去っていくアルスの背中を見ながら、さっきまでの戦いを思い出していた。
剣を構える前までの目と戦い始めた時の目。
(戦いで余計な考えをしないのはいいことだが……)
剣を構える前の目に映っていたモノ……無意識のうちに何かを渇望するような目。
「………その目は危うい。いずれ身を滅ぼすぞ少年……」
そんなベルクーリの呟きはアルスの耳に入ることはなかった。
戦闘描写……多少はマシになったかな?
後半は何処となく燃え尽き始めてしまいました……
なにはともあれ、閲覧ありがとうございました。