アルスとキリト、ユージオが公理教会に連行され、セルカが故郷のルーリッドの村に戻ってから2ヶ月後。
ノーランガルス修剣学院に残り、剣を降り続ける少女達がいた。
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「やあぁぁぁぁッーーーー!」
「せあぁぁぁぁッーーーー!」
学院の中で2人のうら若い少女達の気合が響く。
焦げ茶色の髪を揺らす少女はロニエ・アラベル。
赤い髪を揺らす少女はティーゼ・シュトリーネン。
2人とも、もう既に学院から席を消されたアルスとユージオの傍付き錬士である。
「ぜぇ…ぜぇ……。はぁ、…はぁ……、そろそろ、休憩にしない?」
「そ、そうね。先輩も『適度な休憩は大事だぜ』って言ってたものね」
2人は剣を振るう。
自分達の為に禁忌を犯し、連行された3人の指導生を助け出す為に。
もう一度会えたのなら、自分達はここまで強くなったのだと胸を張る為に。
・・・それぞれの胸に秘めた思いを伝える為に。
「先輩達が連れて行かれてから2ヶ月……よね」
「・・・まだそれくらいなのよね、先輩……無事だよね……」
禁忌を犯した者は最終的に処刑される。
・・・でも、2人は信じていた。
あの3人がそう簡単に死ぬはずがないと。
「あっ!そろそろ掃除の時間じゃない!?」
「……あ、急ぐわよ。ティーゼ!」
2人はパタパタと駆け出す。
今は主が居ない部屋の掃除をする為に。
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ロニエ視点
「失礼します」
先輩達の使っていた部屋の談話室でティーゼと別れて、私はアルス先輩の部屋に入室する。
ここに来ればまた、先輩と会える気がして。
誰も居ない部屋。使われた痕跡の無い寝台、締め切られた窓掛け……先輩はベットとカーテンって呼んでいたっけ。
もう誰も使われていないこの部屋には沢山の思い出があった。たった2ヶ月の短い時間に沢山の思い出を育んだ。
傍付きに指名された時の顔合わせもこの部屋だった。
剣だけじゃなく、神聖術を教えてもらう時もこの部屋。
先輩が無茶して倒れて、看病したのもこの部屋。
神聖術を失敗して、爆発させて髪がボサボサになったのもこの部屋。
時には学院の座学についてもこの部屋で教わった。
先輩が病気で倒れて、看病しながら心配と不安で泣いてしまったのもこの部屋。
数えきれない。
沢山の思い出が詰まったこの部屋。
「アルス先輩……」
先輩達が連行された直後の予定では、この部屋……いや、この専用寮は封鎖処分される予定だった。でも、アズリカ先生の鶴の一声でそれらは取り消されて、代わりに私達がこの専用寮の管理をする事になった。
・・・先生がこの寮の管理を私達に任せてくださっているのはきっと気遣って下さっているからだろう。
先輩達がいなくなった直後にこの部屋を訪れた時は暫くは1人で泣きじゃくってしまった。
その日は、先輩のベットの中で泣きじゃくるうちに眠ってしまった事をよく覚えている。
ちなみに、ティーゼはユージオ先輩の部屋。
キリト先輩の部屋はフレニーカが手伝ってくれている。
お陰様でこの専用寮は埃1つ落ちていない。
だが、この専用寮は今後2度と使用される事は無いそうだ。
・・・何というか、寂しいな。
———
掃除を終えた。
あの部屋に残って居たい気持ちは確かにある。
でも、あの部屋にはあの部屋の主人がいるべきだから……。あの部屋にいる時は、あの人に居て欲しい。
「ロニエ……暗い顔をしてるわよ」
「あなたもよ、ティーゼ」
2人で肩を落としながら、溜息を吐く。
楽しかった思い出を思い出そうとしても、その度に、あの人が……アルス先輩がいない事を思い出してしまう。
私とティーゼは自室へ戻る為に渡り廊下を歩く。
でも、その道でとある2人組を見かけた。
「「ひぃっ!?」」
……ウンベール修剣士とクラース修剣士だ。
ちなみに、今の短い悲鳴は私達ではなく、彼らの物だ。
「も、もう何もしない!ち、近付かないから……っ!頼むから助けてくれっ!!!!」
「う、ウァァァァァーーーーっ!!!」
・・・あれから、変わったことがもう1つある。
先輩達が連行されたあの日、中庭で瀕死のクラース修剣士が発見された。
原因は分かってる。
あの日、先輩が連れて行かれる直前にアルス先輩に斬られたから。
……たぶん、いや。確実に私達を守る為にやったのだろう。
クラース修剣士は学院の先生方が手を尽くしたことで、奇跡的に助かった。
けれど、あの日以来、ウンベール修剣士とクラース修剣士は私とティーゼ、フレニーカを見ると怯えるようになった。その様子は、私達が見ても気の毒に思える程の怯え様で……。
「「ひぃぃぃぃーーーっ!!!」」
私達が唖然としているうちに、2人は悲鳴をあげながら自身の寮へ逃げる様に走り去る。
「あの2人は相変わらずの様ですね」
「アズリカ先生……」
走り去る2人をぼんやりと眺めていると、背後からアズリカ先生がこちらに来ていたらしく、あの2人を見て軽く頭を抱えていた。
「どうしたんですか、この様な場所に先生がいらっしゃるなんて」
「ええ、あなた方2人に伝えるべきことと、渡す物がありまして」
そう言って、胸元を弄り、やがて一通の封筒を取り出し、それを私達に渡した。
「これは?」
「あなた方宛に届いた物です。中身は確認してません」
「・・・失礼します」
一言断って、封を開けて中身を見る。
差出人は…………。
「「セルカ!?」」
セルカが学院を出て帰郷したのは2ヶ月前。
その帰郷を手伝う為に、アラベル家とシュトリーネン家から出資して、最速の馬車を手配した。
・・・・成る程、確かに往復が終了する頃だ。
手紙を確認してみると、無事にルーリッドの村に着いたことが書かれていた。
「良かった、無事に着いたのね」
「ええ。何というか、久し振りにいい知らせを聞いたわ」
何となく、久し振りにホッとした。
頬を緩ませていると、アズリカ先生が言葉を続ける。
「それから、風の噂ですが、気になる噂を小耳に挟みました」
「噂、ですか?」
ティーゼの声に先生は小さく頷き、周囲に誰も居ないことを確認して息を吸い込んで言葉を紡いだ。
「公理教会……いえ、整合騎士団が壊滅したそうです」
「・・・え?」
予測もしていなかった言葉に頭が付いて行くことができずに、素で聞き直す。
「2ヶ月前、整合騎士団が壊滅したらしく、公理教会が上手く機能しなくてこの央都セントリアの重要機関が混乱に陥ったのです」
「2ヶ月前……」
2ヶ月前に整合騎士団が壊滅した……。
・・・その時期にあった出来事。
そんなのは1つしか思い浮かばない。
「アルス先輩達が……壊滅させた……?」
私の呟きにアズリカ先生は静かに首を振る。
「あくまで噂です。誰も事実は知らない、でも……公理教会傘下の重要機関の機能が停滞したことは疑いようの無い事実です」
「でも、可能性はある。そういうことですよね!?」
私はいつの間にか握り拳を作って、アズリカ先生に詰め寄る形で身を乗り出していた。
アルス先輩が生きているかもしれない。
それだけでも、今の私にとってはこれ以上は無い朗報だったから。
「アルス先輩もユージオ先輩もキリト先輩も。もしかしたらその整合騎士団を壊滅させた戦いに参加した可能性があり、生存しているかも知れない。そういう事ですね」
意外に冷静なティーゼの考察に先生は控えめに頷く。恐らくだけど、確証が無いから断言はできない。でも希望が無いよりは良いと判断して私達に教えて下さったのだろう。
お礼を言おうと頭を下げようとした時、少し野太い。威圧感があるが、どこかで温かみを感じる声が聞こえた。
「その嬢ちゃんの推測は当たってるぜ」
・・・どこかで聞き覚えのある声。
どこだ?
この男性の声を聞いた事があるはずだ。
この学院のどこかでこの男性と会った事があるはずだ。
私は声のした方に顔を向ける。
「てか、お前さんらは一体どこからそんな情報を仕入れてくるんだ?一応は機密情報なんだがな」
薄い青色の髪と瞳。同色の着物。
腰に帯びた鋼色の無骨な大剣。
・・・思い出した。
「あなたは……整合騎士の……。たしか、ベルクーリ・シンセシス・ワン様……でしたよね?」
「ん?ああ。俺はベルクーリだが……あ、そういう事か。お前さんらは確か、アルスを連行する時に見送ってたひよっこ錬士だな」
2ヶ月、アルス先輩を拘束し、公理教会へと連行した整合騎士。
「それで、あんたがアズリカだな?」
「は、はい。騎士様が一体どのようなご用件で当校に?」
畏まったアズリカ先生の態度に応えるように佇まいを正して、右手を差し出した。
「ベルクーリ・シンセシス・ワンだ。整合騎士団の騎士長をやっている。今日は折り入って話があって来訪した。許可無き来訪を詫びる」
「いえ。騎士長みずからご足労いただき恐縮です。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ああ。実は、2ヶ月前。3人の咎人が起こした動乱により、整合騎士団の半数は戦闘不能。最高司祭も戦死して、公理教会は上手く機能していない」
最高司祭が戦死……。
一体何があったというのだ。
「だが、恐らく近いうちにダークテリトリーと全面戦争が始まるだろう。あれから2ヶ月。騎士達は復帰したが、それでも戦力が圧倒的に足りない。そこでだ。義勇兵を募りたい。この学院からも何名か出して貰えないか?」
「しかし……」
「俺とて、叶うのなら未来ある若者を危険に合わせたくは無い。だが……この若者達が生きる世界が存続しないのでは根本的に意味が無い。無茶を承知で頼む」
騎士長は頭を下げている。
・・・アズリカ先生もそれに狼狽えているが、この学院の教師としてはその辺を決めかねるのだろう。
でも、私にとってはそれ以上に気になる事がある。
「あの、騎士長殿。一つ、お聞きしたい事があります」
「なんだ?」
聞きたい事を上手く聞き出すために、できるだけ失礼の無いように、姿勢を正し、表情を作る。
私とて貴族の娘だ。
上手くやってみせる。
「先日、公理教会へと連行されたアルス上級修剣士に付いてお聞きしたい事があります」
アルス先輩の事が分かれば、キリト先輩達のことも分かるだろうし、公理教会で何があったのかも分かるだろう。
「・・・先に聞きたい。お前さんはあいつの何なんだ?」
「ふえ?」
予想外な返答に間抜けな声が出た。
でも、アルス先輩の事を知っているような反応だ。
「私は、アルス先輩の………後輩で、弟子です」
・・・一歩踏み込んだ事を言えない自分の小心者加減が少しだけ悲しくなったが、それ以上に騎士長殿が驚いたような表情を浮かべた。
「へぇ〜!お前さんがアルスの……成る程。それならあの日、あいつを見送っていた事に説明が付くか」
「あ、あの!アルス先輩は………!?」
その先に続く言葉が「無事だったですか?」なのか、「生きておられるのですか?」なのか。私自身にすら分からない。
でも、私の言葉の続きを汲み取ってくれたのか。
騎士様は答えてくれた。
「アルスなら生きている。キリトの坊主もユージオ少年も無事だ」
——アルス先輩が生きている。
その一言が耳に入り、言葉の意味を脳が理解すると同時に強張っていた体から力が抜け落ち、その場にへたり込んでしまった。
でも、それはティーゼも同じで、小声で「ユージオ先輩……良かった……!良かった………!」と繰り返していた。
そんな私とティーゼの様子を見て微笑を浮かべた騎士様は話を続けた。
「あの少年達は大したヤツらだ。整合騎士を薙ぎ倒し、立ち塞がる者を正面から打砕き、最高司祭をも超えて見せた。確かにアルス達は反逆者かもしれねぇ。だが結果的にヤツらは人界を救ったんだぜ」
「人界を……?」
話がよく分からない。
アルス先輩達が整合騎士達を正面から打砕いたことは分かった。最高司祭様を超えた事も理解できた。でも、それで何故に人界が救われるのだろう。
当然だが、先輩達が生きている事が何よりも嬉しい。でも、最高司祭様をアズリカ先生の話からすると殺害した。ならば、人界が救われる事は無いのでは?
「最高司祭は……ざっくりと言うと、何百人もの人間を材料に剣の人形を作り出してダークテリトリーとの戦争に臨むつもりだったらしい」
それをもう1人の最高司祭から聞いたアルス先輩達が阻止するためにたった3人で立ち向かい、セルカのお姉さんもそこに加えた4人で戦い抜いた。それが騎士様から聞いた戦いの全容だ。
「特に……というか、俺はアルスとしか戦わなかったんだが、アルスの奴が凄まじくてな。戦いが始まる数時間前まで学生してた癖に心意を使うわ、神聖術は無詠唱で発動させるわ、剣の記憶を解放させるわで度肝を抜かれたぜ。それから———」
騎士様のお話は続く。
だが、その話の8割はアルス先輩の物で、どんな風に戦ったのか、自分が敗れた理解の考察や、その戦いで先輩の事を気に入ったなど……。
最初の方は、私もティーゼも恐らくアズリカ先生も続きが気になり、頷きながら話を聞いていたのだが、話が進むにつれて頭が痛くなるような内容になって来た。
大浴場での決闘。
騎士長殿がセルカ達の故郷である、ルーリッドの村を拓いた人であった事。
アルス先輩とセルカのお姉さんがセントラル・カセドラルの壁を破り、外壁を登った事。
頭が痛くなり始めたのはこの辺だったと思う。
でも、アルス先輩に関することはまだ終わらない。
アルス先輩のことを話す騎士長殿は失礼かもしれないが、まるで、息子を自慢する父親の様だった。
「「先輩………」」
「アルス修剣士……」
ティーゼはどこか遠い目を空に向け。
アズリカ先生は表情は誇らしげであったが、頭を抱えて。
私は……。
先輩がまた遠くに行ってしまった様な、手が届かない所に行ってしまった様な不安に駆られると同時に、そんな人の後輩であり、弟子であることを誇らしく思っていた。
「・・・だが、今のアルスの容態は分からん」
そんな私達に騎士長は微笑みを止め、口を引き結んで唇を噛む様に言った。
・・・容態……?
先輩は体調でも崩してしまったのだろうか。
そんな気の抜けた事を考えてしまった私を打ちのめす様な真実を騎士長殿は告げる。
「アルス達は確かに最高司祭を越えた。だが、代償は大きく、戦いの最期にアルスは眠りについた。数日眠るような優しいもんじゃなく、俺の知る限りは1ヶ月は眠っていた」
「一月前にアリスの嬢ちゃん達と共にルーリッドの村に戻ったからその後は分からんが……」と騎士長の言葉は続いた。
一月前……恐らく、セルカが着いた直後くらい。
なら、セルカなら現状を知っているかもしれない。
聞きたい……先輩が目を覚ましたのか。
先輩は、2月前まで浮かべていた笑顔を浮かべているか。
・・・けれど、手段が無い。
いくら私が貴族の娘だからと言っても、家督を持っているわけでは無い。そうなんども北の最果てまで便を手配することは不可能だ。
「でも……先輩らしい……です……」
息が詰まる。目頭が熱くなり、嗚咽が溢れそうになる。
胸が締め付けられ、圧迫される様に痛い。
「すまねぇ……本来なら、俺がやるべき役割だったってのに、あいつに押し付けちまった」
「いえ……騎士様が謝る事ではありません。きっと……先輩なら……私の好きなあの方なら、こう言うでしょうし、その場に居たのなら必ず無茶をする。
そういう人なんです。アルス先輩は…………」
そう、先輩はそういう人だ。
手が届かない場所に手を差し伸べる様な聖人では無い。けれど、手が届く所になら、どんな無茶をしても手を伸ばして、傷だらけの手を差し伸べる。
きっと……いや、胸を張って断言できる。
そういう事ができる人なんだって。
自然と、涙は引いていた。
先輩を思うたびに泣きそうになっていた事が嘘の様にスッと痛みが、涙が引き、代わりにやるべき事が分かった。
「騎士様……義勇兵が必要なのですよね」
「あ、ああ」
「私がやります」
私が名乗りをあげると、ティーゼ以外の騎士様と先生が驚いた様に顔を歪めた。
「お前さんを……駄目だ。それでお前さんに何かあったら俺がアルスに叱られちまう。それに、初等錬士では死にに行く様なもんだ」
騎士様の言葉が終わると同時に、左手に持っていた《白金樫の木剣》を右手に持ち替え、アインクラッド流奥義《バーチカル・アーク》を騎士様に向けて放つ。
「「なっ!?」」
私の突飛な行動にティーゼと先生が声を上げるが、騎士様は動じる事なく、一撃目を避け、木剣を人睨みする事で、心意を発動させたのか、木剣を半ばから折り、二撃目を不発させた。
「・・・いきなり何しやがる?」
騎士様の威圧する様な声色。
アルス先輩と出会っていなければ、心意を見た時点で私は怯えて竦んで、動けなかっただろう。
でも、私は先輩と出会った。
先輩が心意を使っているのを何度も見たから驚く事はなく、あの人はこれ以上の威圧や殺気を向けられて尚も立ち向かったのだと考えると、震えは止まり、恐怖は治まった。
「私は、アルス先輩の弟子です。先輩方には及びませんが、数少ないアインクラッド流の使い手です。先輩の剣が、先輩の教えてくれた神聖術が私を守ってくれます!絶対に、死んだりしません……!」
私は、胸に手を当て、訴える。
これが今の私にとって一番大きな障害。
先輩ならきっと、その戦争に姿を見せる。そんな確信があった。
なら、私は先輩を守りたい。
初めて出会った時は見ず知らずの私達を助けてくれた。
この学院に入学して、どこに行けば良いの分からなかった私やティーゼ、セルカに道を教えてくれた。
3ヶ月前、蒼い騎士から私達を守ってくれた。
2ヶ月。辱められそうだった私達を守ってくれた。
そして、いつの間にか、人界を救ってくれてた。
・・・私は何か一つでも返せているだろうか。
いつの間にか出会い、いつの間にか一時の時間を共に過ごして、気が付けば手を伸ばす間もなく居なくなってしまった。
いつも守られていた。
まるで私の手を引く様に先輩から手を握ってくれていた。そして、私を守るために手を離した。
今度は、私が、私からその手を握りたい。守るために握りたい。もしもその手を掴めたら離さない。
「(良い目をしている……アルスの様に何かを渇望する様な瞳。だが、あいつと違って危うさを感じない)」
私は、アルス先輩に会いたい。
会えたら伝えるんだ。この気持ちを。
「わ、私もっ!義勇兵に志願します……っ!!!」
「て、ティーゼ?」
「私もユージオ先輩の弟子です!アインクラッド流も少しですが使えますっ!」
私の隣に並ぶ親友を見る。
・・・覚悟の籠った目をしていた。
騎士様は私やティーゼを交互に見た後に、何かに葛藤する様に頭を掻きむしった後に、深い、とても深きため息を吐いた。
「騎士様、彼女達は確かに初等錬士ではありますが、実力は上級修剣士並みです。その上に、2ヶ月前までは傍付き錬士達の中でも最下位の11位と12位でしたが、今では1位と2位です。たった2ヶ月でそこまで上り詰める向上心もあります」
「ほぉう……、確かにそいつはスゲェや」
関心した様な息を吐くと、今度は腕を組んで考え始める。
それから数分後。騎士様は、諦めた様な表情をした。
「分かった……お前さんらの義勇団への入団を認める。……すまねぇ……な」
どうやら、諦めたのは私達への説得のようだ。
「いえ、気にしないで下さい。これは私達のやりたいことですから!」
「はぁ……。お前さん、名前はなんと言う?」
「はい、ロニエ・アラベルと申します」
「ロニエ、か。覚えておこう。流石というか、なんと言うか……。お前さんはアルスの弟子なんだな。肝の座り方といい、行動といい。アルスそっくりだ」
「お褒めに預かり、光栄です!」
それは最高の褒め言葉だ。
「いや、これは褒めてるのか……?・・・褒めてるか」と小声で呟き、何かを思案するような表情を浮かべた。
「ロニエ、お前さん……ひよっとして、アルスに……?」
「・・・・ふぇ……!?」
騎士様の言葉の続きと、意味がわかり、唐突に顔が熱くなる。
・・・自分の事ながら、さっきまでの威勢が嘘の様だ。
「・・・まじかよ……嬢ちゃん、すまねぇ……。俺ぁ、とんでも無い伏兵を送り込んじまったかもしれねぇや……」
騎士様は何かを呟くと、直ぐに佇まいを正し、再び威圧感を出した。
「今、この時を持って。諸君ら2名の入団を認める。言うまでもなく、戦場は危険だ。詳しい日時は後日に通達する。来るべき日に向けて励む様に!」
「「はっ!!」」
騎士長の号令に、授業で習った敬礼で返すと、騎士長は満足そうに頷いて、「じゃあ、またな」と言って踵を返し、去って行った。
騎士長が去り、静まり返ったこの場所で、私とティーゼは体から力が抜けて、再びへたり込んだ。
アズリカ先生は未だに頭を抱えている。
「ロニエ……あんたどうしたのよ?いきなり義勇兵に志願するし、騎士長に剣を向けるし……アルス先輩みたいだったわよ。なんというか、全体的に」
「だって、先輩に会えるチャンスだし、気が付いたら体が動いてたのよ……」
治まっていた恐怖と震えが今になってやって来た。
・・・うん、私がアルス先輩だったのなら、絶対にあの人には勝てない。絶対に。
「ロニエ初等錬士……貴女にこの台詞を言う日が来るとは思いませんでした」
「・・・え?」
「そこに正座なさい」
・・・正座……?
「お説教のお時間です」
「まあ、仕方ないわよね。頑張りなさい、ロニエ」
まるで他人事のように言うティーゼがそのまま去ろうとするが、私はこの流れを知っている。
先輩達の部屋の談話室で、アルス先輩とキリト先輩がユージオ先輩にお説教される時の流れだ。
「何を他人事のように言ってるのですか、貴女もですよ。ティーゼ初等錬士」
「えっ!?」
「当たり前です!勝手に義勇兵に志願したことには変わりありませんから!」
私達は、先生にお説教された。
・・・先生の表情はどこか懐かしそうで、瞳に涙を浮かべていた。
きっと、先輩達にも同じ様にお説教をして来たのだろう。
私は、先生のお説教を受けながら、目は覚ましていないが、アルス先輩は生きている事。それが頭の中でぐるぐると回っていた。
アルス先輩……。
絶対に、また会いましょうね。
後書き
はい。本編、平和な日々の裏側エピソードその1です。
ロニエの性格がだいぶ逞しくなっていますが、アルスの影響とい事にして下さい。
……いきなりベルクーリに剣を向けるロニエ。
アルスを連行した彼に少し思う事があったのでしょうか。まあ、原作のロニエにも似た様な部分がありそうですが(笑》
似た様な感じで次回の番外編はアリス達がアルスを連れてルーリッド村に向かう直前のベルクーリ視点ですかね。
次回もよろしくお願いします!