SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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いやー……お待たせしました。
リアルで修学旅行があったり、テストがあったりと……私情で申し訳ありません。

話が変わりますが、UAが9000を超えていました!
その他にも、お気に入り、評価をしていただき、ありがとうございます!!


25話 対話

「うんとこしょっ!どっこいしょ!!」

 

途方もない程に広く、日の落ちてきている空の下。

俺はどこぞの巨大なカブを引き抜く童話にでも出てきそうな掛け声と共にセントラル・カセドラルの壁を登っていた。

 

「おーい、大丈夫そうだから登ってこーい!」

 

「わ、分かりました!」

 

先程から神聖術でハーケンを作り、それを壁の隙間に差し込み、鉄棒を生成し、足場を作る。そんな手順を繰り返した後に俺の数メートル下にいるアリスに声をかけ、俺と彼女を繋いでいる鎖を引っ張って彼女を引き上げる。

 

「……すみません、同盟といいながら一方的に寄りかかる形になってしまって……」

 

「気にしなくてもいい。………ただ、一つだけ頼みがあるんだ」

 

「頼み、ですか?」

 

俺を見上げながらアリスは首を傾げる。

 

「後で話を聞いてくれないか?その時に話すから」

 

「はぁ……分かりました」

 

そう言ってアリスは俺から視線を外し、壁を見上げる。

それに続いて俺も上を見上げると、何か足場のような物が見えた。

 

—距離、16m72cm—

 

唐突にまた数値が頭に浮かんだ。

……さっき武装完全支配術を発動させてから頭に距離……というか、座標が流れてくる。

 

「……ん?」

 

ただ、影はもう一つあった。

羽のあるシルエット。SAOやALOで見たガーゴイル型とも言うべき形の悪趣味な像だった。

 

「なぁ、アリス……あのいかにもダークテリトリーからの産地直送的な魔獣の像はなんだ?」

 

「そ、そんなのわたしが聞きたいです!!あれはダークテリトリーの……私たちはミニオンと呼んでいますが……しかしこんな高いところになぜ?見るものなど誰もいないのに……」

 

アリスの顔に動揺の色が浮かぶ。

まあ、ダークテリトリーを敵と認識している整合騎士、そしてその整合騎士たちが使えている公理教会の誰にも見えないテラス部分にそのダークテリトリーの魔獣の像があったら動揺もするか……。

 

「まあ、そろそろ日も落ちてきたんだ、とりあえずあのテラスに登ろう」

 

夜営するにもこの状況じゃ夜明けまでもたないだろう。

 

「システムコール……ってあれ?」

 

「ん?どうしました?」

 

「いや……これ以上、鉄棒を生成するのは厳しそうだ」

 

「……恐らくですが周囲のリソースが枯渇したのでしょう。器物の生成には多くのリソースを消費しますから」

 

成る程……そうなると手詰まりか?

……いや、さっきアリスが使っていた形状変化の術式を試してみるか。

俺はコートの内ポケットからギガスシダーの枝3本を取り出す。

 

「システムコール——」

 

俺は記憶を辿り、あの時にアリスの使った術式を唱える。

すると、枝が淡い光を放ちながら形を変え、ハーケンになった。

 

「よしっ!成功だ!!」

 

「…………」

 

あれ?アリスの反応が薄い。

 

「アリスさん?なぜ絶句してるんです?」

 

「い、いえ。少し驚いただけです……まさか一回見ただけで詠唱を覚えたのですか?」

 

「そんなに珍しいことかね?」

 

俺が本格的に神聖術を覚えたのは修剣学院の傍付き時代だけどユージオも似たような事を言ってたっけな。

まあ、上級修剣士への進級試験は型で落としたからキリトよりも下位なんだがな。

 

(だいたい、無型の剣聖に型の美しさを求めるなよ……)

 

試験で俺が型を間違えた結果は型で50点……それでキリトに散々弄られ、ユージオには憐れむような目を向けられた。

「無型の剣聖も型が出ると形無しってかww」と笑われた時は本当に泣きそうになった。

 

「まあ、俺の傍付き時代は置いといて」

 

「お前は何を言ってるのです……」

 

とりあえず手元のギガスシダー製のハーケン2本をベルトに刺して固定し、もう1本のハーケンを上に向かって投げてまた登る。

 

 

そしてその時、異変が起きた。

テラスの上にあるミニオンの像が動き出した。

 

「強制負けイベントか……」

 

ミニオンの数はおよそ3体。

空を飛びながらミニオンが迫るなか、俺はSAO時代にキリトから聞いた話を思い出していた。

 

———

 

「キリト……その青なのか白なのかよく分からない剣はなんだ?」

 

「ん?ああ……こいつはダークリパルサーって言う新しい相棒さ」

 

俺とキリトがホームで会話をしている。

 

「見たことない剣だけど……プレイヤーメイドか?」

 

「ああ。手に入れるのに苦労したぜ……なんせドラゴンの巣穴に落ちたんだから」

 

苦笑しながら言うキリト。

 

「いや!落ちたなら連絡しろよ!」

 

「悪い悪い……なんせ他のプレイヤーも一緒にいたもんだからさー」

 

キリトが他のプレイヤーと行動……?

 

「キリト……もしかしてそのプレイヤーは女の子だろ」

 

「ぎ、ギクッ!?」

 

この反応は図星だな。

憐れアスナ……キリトに落とされた女子がまた1人。

 

「それで?どうやって脱出したんだよ?」

 

「それがさー壁を駆けあがろうとしたら助走距離が足んなくて落ちた……そんで戻ってきたドラゴンの背中に剣をこう……ブスッ!とさしてライドしながら戻って来た」

 

「お前のその柔軟な発想?を少しでいいから俺に分けてくれ……」

 

———

 

それであの頃に話したような状況が今、この場にある訳だ。

 

「アリス、賭けになるけど乗るか?」

 

「なんだか嫌な予感がしますが……いいでしょう」

 

その言葉を聞き、俺はニヤリと笑みを浮かべ、手元のハーケンを掴み………先頭きって突っ込んでくるミニオンに向けてブン投げた。

 

[ギイィィィィィィイ!?]

 

おお……割と深く刺さったっぽいな。

いかにも痛そうな悲鳴が聞こえたもん。

 

「んじゃあ!行くぞ、しっかり摑まれよアリス!」

 

「しっかり摑まれって………キャァァァァァァ!?」

 

ハーケンを突き刺したミニオンが俺たちをぶら下げて空を飛ぶ。そして俺たちが見たテラスが見えると俺はアリスをテラスに向けて投げた。意外にも女子っぽい悲鳴を上げた後、「むぎゅっ!?」という声が聞こえたがあえてスルーだ。

 

「ておわぁっ!?」

 

アリスを投げ飛ばした後、ミニオンのナイフのように鋭い尻尾で俺を攻撃してきた。

それを躱したのは良いが、手が滑り、一直線に落下し始めた…………が。

 

「こっのおぉぉぉぉぉおお!!」

 

これまた逞しい雄叫びを上げながらアリスが俺と彼女を繋ぐ鎖を引っ張りあげる。

 

「ふげっ!?」

 

引っ張り上げられたのは良いのだか、釣り人よろしく俺を釣り上げたので壁に背中を打ち付ける形で着地した。

 

「ほら!這いつくばってないで早く抜刀なさい!来ますよ!!」

 

「とりあえず、ありがとな!」

 

礼を言って黒藍の死剣を抜刀する。

アリスも金木犀の剣を抜刀してミニオンへ向く。

 

直後、ミニオン達が飛びかかってきた。

そのうち一体は俺がハーケンを突き刺した個体……で俺に襲い掛かってきた。

 

——距離、5m

 

また座標が頭に浮かぶが、距離を知れても黒藍の死剣の天命はまだ不完全な発動でも武装完全支配術を使うのは厳しそうので、近づいてきたところを叩き斬る。

そんな算段を立てていると、横のアリスは……。

 

「遅い!はあぁぁぁぁーー!!」

 

問答無用で《天山烈波》を発動させてミニオンを切り裂いていた。

 

「あら、そちらはまだ終わってないようですね。お手伝いは必要ですか?」

 

「……気遣ってくれてありがとなっ!!」

 

彼女を見ていたらありがたい一言(煽るような表情で)を頂いたので返答しつつ、《バーチカルスクエア》で飛んできたミニオンを殺す。

 

「ふぅ……一丁あがり!」

 

返り血を少し浴びてしまったが。

 

「お前の剣は何度見ても珍妙ですね」

 

「ん?こいつがか?」

 

剣が珍妙とか言われたので思わず黒藍の死剣を掲げてしまう。名実ともにこの剣と《勝利の白剣》は俺の愛剣達なので珍妙扱いされたら立ち直れないぞ……。

 

「あ、いえ。その剣は綺麗だと思いますよ?珍妙なのはお前の剣術です」

 

「珍妙って……まぁ、お前達から見たらそうなのかも知れないけどさ……」

 

とりあえず剣は綺麗と褒められたので良しとしよう。

……アインクラッド流剣術もとい、連撃ソードスキルがこの世界では広まってないし珍妙なのも仕方ないしな。

 

「ところでミニオンの血は厄病を招くと言います。返り血を早く拭き取りなさい」

 

「ん?ああ。了解」

 

そう言ってコートの袖で返り血を拭き取ろうとすると……。

 

「お待ちなさい!手巾の一枚も持っていないのですか!?」

 

「え、もっていないけども……」

 

アリスに止められた。

不思議に思い、首を傾げているとアリスがスカートのポケットに手を突っ込み、ハンカチを取り出して俺に押し付けてきた。

 

「全く……本当にあの記憶の通りですね……」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもありません!早く血を拭きなさい、手巾は私がお前を斬る前に返しなさい」

 

……あなた、ここを登り終えたら俺を斬る気満々ですよね?どうやって返せば良いのです?などと返答しようかと思ったが、そんな事を言ったら口論になりそうなので止めた。

 

「……日も完全に落ちましたし、今日はここで休みましょう」

 

「そうだな、夜明けまで待ちますか……」

 

そう言って腰を下ろすが、お互いに距離をとってしまう。そして無言のまま時が流れた。

 

——30分後

 

ぐぅぅぅぅ……っと腹の鳴る音でその沈黙が破られた。

音の発信源は二つ。そう……俺とアリスだ。

 

「腹、減ったな?」

 

「うっ……そ、そうですね」

 

今こそ出番か?

俺はコートの内側からロニエの弁当を取りだした。

え?落ちなかったのかって?細けぇことは良いんだよ!

 

「お前……弁当を持って私や小父様と戦っていたのですか!?」

 

「えっ?あ、うん。俺が連行される時に後輩が持たせてくれたんだ」

 

ロニエ……元気だろうか。

何か事あるごとに泣いていたので心配だ。

 

「……もう口を挟むだけ無駄なようですね」

 

「まあ良いじゃないか!腹減っているところだったんだから」

 

もちろん全て残さずに頂きました。

 

———

 

そして再び無言タイムが始まるかと思ったら。

 

「それで、お前の話しとは何なのです?」

 

「話し……?ああ。覚えてくれてたんだな」

 

アリスが日が落ちる前に俺の口にした言葉を覚えてくれていたようで話しかけて来た。

 

「当たり前です……それで、話とは?」

 

「ああ。君はセルカって名前を聞いた言葉があるか?」

 

俺はセルカの事を聞く事にした。

ベルクーリは過去を知り、少なからず動揺していた。なら、アリスに過去の話をすれば説得できるのでは?と思った。

……それに、セルカの事を思い出して欲しかった。

 

「ッ⁉︎その名前をどこで聞いたのです!?」

 

「うわっ!?」

 

アリスと隣り合って座っていたが突然激しく反応した彼女に半ば押し出される形で迫られた。

 

「いったいどこで!?」

 

「と、とりあえず話すから落ち着いてくれ……」

 

「あ、す、すみません……」

 

落ち着いたアリスと再び並ぶように座り、息を吸う。

 

「さて、どこから話せば良いかな?」

 

「……その、セルカという子と私はどの様な関係なのです?」

 

そのやっぱり気になるよな。

 

「妹だよ、君の」

 

「妹…ですか……実はお前と斬り合っていた時に見た記憶でずっと頭の中に引っかかっていたんです」

 

……セルカ。良かったな、君の姉はたとえ記憶を弄られても君の事が気になっていたみたいだぜ。

 

「アリス」

 

「はい、なんですか……?」

 

説得を諦めるわけじゃない。

ただ、セルカと俺の隣の彼女をもう一度だけでも良いから合わせてやりたい。

 

「セルカについて、俺の知る事を話すよ。

信じなくても良い……ただ、いつか。あの子に会いに行ってあげてくれないか?」

 

「……分かりました。信じるかどうかは話しを聞いてから決めます。ただ、あの子に会いに行く事は約束します。いつの日か、必ず……」

 

「その言葉を聞いて安心したよ……」

 

ここで「ふぅ……」っと息を吐き、今までこの世界に来てからセルカに出会い、俺がここまで連行されるまでを思い出す。

 

「俺とセルカが出会ったのはルーリッドの村の教会なんだ……訳あって、俺とキリトは記憶が無くてな、そこでユージオとセルカと出会った。その時からちょくちょくセルカに姉がいたという事は聞いていたよ」

 

思い出すなぁ……もう2年前なんだもんな。

実は記憶を無くしてるだけでずっと前は一緒に遊んだりしたこともあったなんてあの頃の俺が知ったらどんな顔をするだろう?

 

「それから天職を終えた俺たちは整合騎士を目指して剣士を天職にする為にルーリッドの村を出たんだ。その時にセルカが俺たちを追って央都へ行く的な発言をしていた……そんで2年経ったある日……と言っても、2ヶ月前だけどな。修剣学院の上級修剣士になった俺たちの下に手紙が届いた。内容は△月○日に修剣学院の前に来いと言うもので実際に向かったら、セルカがいた。流石に驚いたよ、でも、あの子は傍付き錬士確定の順位だったからな。俺たちの中で一番順位の高い上級修剣士である、キリトがセルカを傍付き錬士に指名したんだ」

 

ああ、本当に懐かしい。

あれから2ヶ月しか経ってないんだもんな。

ロニエと約束したっけ。

「君が強くなれたと思えるようになるまで、俺が君のそばで君を守るよ」って。

結局、約束を守れなかったけど、ここに連行される直前にした約束は守れるように頑張ろう。

 

「そして昨日、事件が起きた」

 

「事件…?」

 

今まで神妙な顔で黙って聞いていたアリスが口を開く。

俺はそれに頷き、昨日の出来事を語りだす。

 

「セルカたちの友人である、フレニーカとという娘はウンベールという上級修剣士の傍付き錬士なんだが……」

 

「ウンベール……ああ、お前たちに斬られた貴族の学生の内の1人ですね」

 

「そうだ。フレニーカが女生徒として耐え難い命令をウンベールから受けていると言う相談をセルカたちから聞いた俺たちはウンベールへ抗議に向かった……その後に、セルカと俺とユージオの傍付き錬士も抗議へ向かったんだ……俺たちがそれを知ったのは彼女たちが抗議へ向かった後だったよ……」

 

本当に焦った。

もしも、ロニエ達に何かあったらと思うと不安だった。

 

「あの時はロニエ……俺の傍付き錬士なんだが、彼女達がいつもの時間になっても来なかった。その時、フレニーカがセルカと共にウンベールに抗議へ向かった事を知った」

 

今でも鮮明に思い出せる。

雨の中を剣を帯びて走り回っていた時のことを。

 

「キリト達はウンベールの部屋へ向かった。俺はセルカ達が戻っていないかを確認する為に初等錬士の寮へ確認しに行ったよ……でも、そこには戻ってなくてな。俺はウンベールの部屋へ向かった。開け放たれていた窓から部屋を見た時、俺の目に映ったのは縛られているセルカ達とそれに迫るクラース、既に腕を撥ねられたウンベールに剣で鍔迫り合いをしているキリトとライオスだった」

 

「……」

 

「あのクズどもがセルカ達に何をしようとしていたかは大体わかるだろ?後は知っての通りさ」

 

ここまで長々と物事を語ったのはいつぶりだろう?

……ただ、一つだけ気になることがある。

クラースはあの後、死んだんだろうか?

 

……まあ、どうでもいいか。

ロニエ達が無事ならどうでもいい。

 

「……一つ質問してもいいですか?」

 

「……どうぞ」

 

アリスがおずおずといった感じで声を出した。

 

「セルカはどうしていましたか?」

 

「……ずっと頑張っていたよ。姉様の様に立派になるんだって神聖術の勉強してさ、一人前のシスターになるんだって……いつかまた、姉様に会うんだって」

 

「……そう、ですか……」

 

アリスは俯く。

その直後、微かに嗚咽が聞こえた。

 

「……アリス?」

 

目を見ると、目の両端に涙をためて、必死に嗚咽を抑えようとしている。

 

だが、その直後、嗚咽は止み、自分の手で右眼が目を抑えるようにしゃがみ込んだ。

 

「分からない……私は一体、誰なのか」

 

アリスの様子がおかしい…。

右眼を抑える彼女はこころなしか震えている様に見える。

 

「君はアリスだろ⁉︎」

 

「……私はアリス……でも、何も思い出せない!お前からセルカの事を聞いて、お前との斬り合いで過去の自分の記憶の様なものを見た!それが自分の物だと言う自覚もあるのに……‼︎何故、私はそれを忘れてしまっているのか!」

 

「まずい」と本能的な物が叫んでいた。

そんな俺の隣で彼女は立ち上がり、セルトラル・カセドラルを睨みつける様に見上げる。

 

「うっ……なんでこんなにも右眼が熱くて痛いの?」

 

「それは抑止力なんだと思う……ユージオも同じだったらしい。良いか、何も考えるな!恐らく、それ以上の事を考えようとすれば右眼が吹っ飛ぶぞ‼︎」

 

俺も立ち上がり、キリトとユージオから聞いた事を現場に当てはめてアリスを落ち着かせる為に肩を揺する。

 

 

それから少ししてアリスはしゃがみこんだ。

 

「ああっ……右眼が、焼けるようです……!それに……何か、文字が見える……⁉︎」

 

「えっ……?」

 

アリスの苦痛に満ちた言葉に反応してアリスの顔を見ると、その整った顔にある右眼に《SYSTEM ALERT》の文字が映っていた。

 

「駄目だ!本当に右眼が弾け飛んでしまうぞ!?考えるのを止めるんだ!!」

 

慌てアリスの小さな顔を両手挟み込む。

咄嗟に説明して後悔した。どんな人間でも、考えるなと言われてそれをすっぱりと考えるのを止められる筈がない……寧ろ逆効果だろう。

 

「くっ……うぅっ……!」

 

アリスが苦しそうな声を上げる。

彼女の手がフラフラと俺の肩を掴む。彼女が小さく悲鳴をあげるたびに肩を掴む彼女の手に力がこもり、ギシギシと音を鳴らす。少なからず痛みはあるが彼女の感じている痛みはこれの比ではないだろう。そう思うと少しでも痛みを和らげることができるならとアリスの頭を片手で撫でる。

 

「……ひどい…」

 

暫くの間そうしていると短くか細い声で彼女が声を出した。

 

「私は……私たちは記憶を弄られただけでは無く……大切な、幼馴染との……思い出も…………妹との思い出も奪われた………そのうえ、私達は感情さえも……考える事さえも……誰かに操られる……なんて……」

 

まるで魘される様に声を出すアリスの手に今まで以上の力がこもる。そこには怒りが……悲しみが篭っている事が手に取るように分かる。

 

「これを……この赤い神聖文字を、私の眼に焼き付け、記憶を奪ったのは……最高司祭……様、なのですか……?」

 

その問いにまたしても咄嗟に答えてしまう。

 

「いや、神聖文字を焼き付けたのは……恐らくこの世界の神……の様な存在だろう。記憶を奪ったのは最高司祭でまちがいないだろうがな」

 

「……神………」

 

その単語をつぶやくと同時に音もなく、透明な雫が彼女の目から零れ落ちる。

 

「私たち整合騎士が、神の創りたもうた世界を守るため、無限の日々を戦い続けても……神は信じてくださらないのですか……。私から家族の、妹の思い出を、幼馴染との思い出を奪い、その上このような封印すら施して……服従を強要する、なんて……」

 

記憶を奪われ、騎士として生きてきた彼女の脳裏にはどれほどの衝撃と混乱、そして絶望がうかんでいるのか……俺には想像さえもできなかった。

息を詰め、無言で見守る俺の目の前で突然アリスの瞼が勢いよく見開かれた。

 

碧い右眼を横切る真紅の文字……だが、それを意に介する様子もなく、ただまっすぐ空を——黒雲の隙間に浮かぶ青白い月を凝視した。

 

「私は、人形ではない!」

 

声は掠れていた。

それでも、彼女の凛とした声はしっかりと夜空に響いた。

 

「確かに今の私は、記憶を弄られ、造られた存在かもしれない。でも、私にも意思はあるのです!私はこの世界を……世界に暮らす人々を守りたい、家族を、妹を、忘れ去ってしまった幼馴染を守りたい。それが、私の果たすべき、唯一の使命です‼︎」

 

右眼の文字列が、キィィィィン、と甲高い金属音を放ちながら輝きを増して行く。虹彩の外周に刻まれるバーコードも、高速で回転し始める。

 

「アリス……!」

 

俺はもうずぐ起きるであろう出来事を予測し、叫ぶ。

アリスは俺に視線を向けることなく、押し殺した声で囁いた。

 

「アルス……私をしっかり押さえていて」

 

「………分かった」

 

俺は返答するしか答えを持ち合わせていなかった。

金色の鎧の中で、細かく震えているであろう肩に抱き寄せるように抑え込む。少しでも、この震えが止まるように……。

 

「最高司祭アドミニストレータ……そして名を持たぬ神よ‼︎私は、私の成すべきことを成すために……あなたと、戦います‼︎」

 

漆黒の夜空にアリスの凛とした声が響く。

……そして、彼女の右眼は、パシャ、という音とともに、赤い暖かい血を飛ばしながら破裂した。

 

 




後書き

はい、今回の文字数は8127字!
なんと言いますか……中途半端に終わらせるのも嫌だなーと思いまして、ダラダラと書いてしまいました。申し訳ありません。


ここで原作との違いを説明させていただくと……。

①アリスがアルスとの斬り合いで自分の過去の記憶を垣間見たことにより、原作よりも説得がしやすかった。

②騎士アリスを原作と違い、《仮のアリス》と言う表現をしなかったことでアリスはアルスが現在の自分も受け入れていると知り、茶々を入れることなく、話を聞いていた。

これらのことでアリスは自分の過去の記憶を自分の物だと受け入れて守る対象にアルス達も加わった。という感じです。

これからもバリバリと書いて行くので生暖かく見守って下さい。感想等もお待ちしておりますので!
閲覧ありがとうございました!!


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