最近、雪が降り始めました。皆さん健康に気を付けましょう!
夜明けを迎えた。
俺はアリスを背負って壁登りを再開している。
「うぅん……」
……寝息がたまに色っぽくて困ってしまうがな。
あともう少しで95階の筈だ。
「うおぉぉ……‼︎」
低く叫び、もはや何十回と繰り返したか分からない懸垂の要領で壁を登る。
……ん?ここから少し上に壁が無いスペースがある。
—距離、12m
成る程、あと12mか。
なんだかこの距離やら座標が頭の中に流れる感覚にも慣れて来た。
———
「ぐっ……どっこいせぇぇぇいい‼︎」
やべぇ……本気で疲れました。
背中にアリス(鎧、金木犀の剣込み)を背負って登って来たので本当に疲れた。
「うぅん……ん〜?」
「あ、起きた……?」
ちなみに今の体勢としてはアリスを背負ったまま床に倒れている。
「きゃあぁぁぁぁ!?」
「ふごっ!?」
……その結果として、突然立ち上がったアリスに踏まれ、その直後、蹴りを入れられて壁に激突した。
「り、理不尽なり……」
「あ……す、すみません!?気が動転してしまいました」
「うぅ……だ、大丈夫だ。問題ない」
腰の《黒藍の死剣》を杖にして勝ち上がる。
因みに、俺が起きた時に《黒藍の死剣》と《金木犀の剣》の天命を見たら大分回復していた。
「……あの、この眼帯は?」
「ん?ああ……流石に夜だったし、目の出血を止めるのが精一杯だったからな、応急処置として着けといた」
アリスの右眼を覆い隠すように黒藍の布が巻かれている。
ついでに言うと素材はこのコートのあまり汚れて無い部分だ。
「あ、ありがとう……ございます」
「……?」
なぜ、顔を赤くする?
……汚ねぇコートで眼帯を作りやがって!的な感じで起こってるのかな?
いや、流石にそれは無いか……。
「それで……どうしますか?
アドミニストレータと戦うことを私は決めた訳ですが……。あなたは相方2人との合流が目的なのでしょう?」
「そうだな……取り敢えず、アドミニストレータと言うのが最高司祭で間違い無いな?」
昨日から気になっていた。
アドミニストレータとは何なのかを。
……昨日、アリスが高らかに宣言した後、アドミニストレータって何なのよ?と聞く前に彼女が眠ってしまったので聞くことができなかったのだ。
「はい、最高司祭アドミニストレータ……それがこの公理教会の長の名です」
最高司祭アドミニストレータ……。管理者とか、統率者とかそんな感じの意味だったか?
「……とりあえず、キリト達と合流しよう。
最高司祭…整合騎士たちを従える奴ならきっと戦力は多いほうがいい」
「あの、確かに戦力が多いほうがいいと言うのは同意しますが……あの2人はどれほどの実力を持っているのです?あなたが私と同等以上の実力を持っていることは分かっていますが……」
あれ?さりげなく俺、アリスに認められてた?
同等以上は言い過ぎな気がするけど嬉しいな。
「あの2人の実力は本物さ。それこそ俺と同じくらいだと思ってくれて構わないよ」
「ほう……それは頼もしいですね」
何だろう、「ほう……」の間が少し気になる。
まるでいつか戦ってみたい的な意味合いが篭っている感じがする……。
「それじゃあ、下へ向おう。キリト達も上を目指して登って来ているはずだ」
「はい、行きましょう」
俺達は互いに頷き、下の階へと続く階段に向かって歩き出した。
その背後に忍び寄る不気味な影に気付かずに。
———
「……そういえば、ここの階にベルクーリのおっさんがいるはずだな」
「それは本当ですか!?」
階段を大分降ったところでベルクーリと戦った大浴場のある階に辿り着いた。
「ああ……浴槽の中に放置しちまってたけど大丈夫かな」
そう口にしながら扉を開けると、一応浴槽から出て横になっているおっさんがいた。
「小父様!!」
アリスがベルクーリに駆け寄る。
……ルーリッドの村長には悪いが、本当に親子を見ているような感じだ。
「ぶぇっくしょい!!」
アリスがしばらく声をかけていると、これまた随分と豪快なくしゃみをしてベルクーリが目を覚まし、のそりと体を起こした……俺が切った手足の健はまだ治してないみたいだが。
「あーー……寒いのか熱いのかよくわからん。
ん、そこにいるのは少年か?」
「うっす、1日ぶりだな」
何故か目の前にいるアリスではなく、俺に声をかけてきたのであいさつをしておく。
「何故お前さんがここにいるんだ?俺の記憶が確かなら、俺を倒した後に下の階に向かったはずだったと思うんだがなぁ……」
「アルスは小父様を倒した後、私と出会って私とも戦いました。その結果、壁が壊れてしまいまして……壁をよじ登って戻って来たと言うところです」
アリスがそう説明すると、ベルクーリは目を見開き、数分間の間、たっぷりと絶句した後に。
「あ、アリスの嬢ちゃん!!?」
と驚いていた。
だがその直後、アリスの右眼に巻かれた眼帯に目を向けて肩を竦めた。
「……そうか、アリスの嬢ちゃんは《右眼の封印》を破ったんだな」
「はい……自分の過去を知り、教会の実態が分からなくなり、私は今、自分の成すべき事をするべきだと考えました」
アリスの説明にベルクーリは目を細めた。
それが弟子の成長を喜んだものなのか、
整合騎士として道を外してしまったと嘆いているのか……それは俺の知りえない事だ。
「そうか……本来、整合騎士長としてお前さん等を止めなけりゃぁならないんだろうが……俺は生憎、そこの少年に敗れた身…口を挟む事はしねぇさ……それに、俺はお前さん等が何を成すのか見てみたくなった。頑張りな、若者よ」
……それはエールだった。
整合騎士長としてではなく、1人の人生の先達者としての。
俺達がその言葉を噛み締めていると……耳障りで耳をつんざくような声が聞こえた。
「オ、ホォーッ!ホオッ、ホオッ、ホオッ!
いけません、いけませんねェ、騎士長殿。お前に与えた任務はまだ終わっていませんヨォ!!」
声のする方を見るとピエロのような格好の丸っこい肉の塊……もとい、肉ダルマが腕を組んで立っていた。
「元老長……チュデルキン……てめぇみたいな俗物が……剣士の戦いで決まった決着に口を出すんじゃねぇ!!」
ベルクーリがそう怒鳴る。
……元老長と言ったか。それが何なのかは分からない。
「ホォッ!ホォォォォォゥ!意気がりますねェ。
まぁ、最高司祭猊下はそこの小僧の力を知る事ができてご満悦のご様子でしたしねェ……。そう考えるとォ、お前の任務は終了したと考えてもいいかもしれませんねェ!」
そう耳障りな声で叫ぶ元老長が突如、右手を上げて、
「邪魔な物もあるようですしィ……ここで眠っときなさい」
—ゾクリ
何か嫌な予感がして俺は……。
「逃げろ、アリス!!」
《心意の腕》で下の階へと続く扉を開け放ち、アリスを突き飛ばした。
「アルス……?きゃぁぁぁ!?」
そして扉を閉めて、無詠唱で氷結術式を発動させて扉が開かないように凍らせる。
「ちっ!サーティは逃しましたか……いや、むしろ好都合かもしれませんねェ!」
「何が言いたい!?」
アリスを逃した。
だが、それが敵にとって好都合とはどういう意味だ……?
「システム・コオォォォル!ディープ・フリィィィィーーズ!インテグレータ・ユニット、アイディー・ゼロ・ゼロワァァァァン!!」
全く聞き覚えのない術式だったが、文字列が短いのであまり威力がないように———思えた。
「ぐっ!?」
突如として、ベルクーリの体がみるみる暗い灰色に変わっていく。まるで石に変わっていくように。
……ディープ・フリーズ。成る程、そういう事か。
現在の状況を冷静に分析できる程度には正気を保っていると言うべきか、錯乱しかけていて頭が回転していると言うべきか……。
「少年……!諦める……な……!」
「おっさん!!!」
俺に諦めるなと言葉を残してベルクーリは石になった。
—まただ。俺は、いつもそうだ……SAOでコペルが死んだ時も、《月夜の黒猫団》か壊滅した時も……俺は弱くて……そのくせ、誰かが死んだのに……冷静に考えている—
「フゥ!何が諦めるなですか、お前のようなジジィは要らねぇンですよゥ、1号」
目の前の肉ダルマの言葉がカンに触る。
「てめぇ……ベルクーリはあんたらの仲間だろ!?」
「仲間ァ?ハッ!こんな骨董品!もう必要ないんですヨォ!!」
「……テメェェェェェ!!」
気がつけば《黒藍の死剣》を引き抜き、元老長に斬りかかっていた。
——標的との距離、17m37cm
「ホォッ!ホォォォォォゥ!冷静さを欠いていますねぇ。
武装完全支配術を行使することすら忘れている。コレは猊下に報告する必要がありますネェ!!」
「なにっ!?」
元老長が手の平を押し出すようにこちらに向けた時、《黒藍の死剣》が手から弾かれた。
より正確には、剣を握っていた右手ごと弾かれて剣を離し、体勢を崩したと言うのが正しいだろう。
「くそッ!」
俺は弾かれた愛剣目掛けて走り出すが……。
「逃しませんヨォ!!」
元老長に妨害され、無様に浴槽の中に転げ落ちる。
だが、それが良い方へと転んだ。
立ち上がろうと手を浴槽の床に着くと、カツン、と指が何かに当たる。
(コレは……)
指に当たった物に目を向けると、そこにあったのは……整合騎士長ベルクーリの愛剣———《時穿剣》だった。
「……借りるぞ、おっさん!」
指先に当たっていた《時穿剣》を握る。
その瞬間、ビリッ、と電撃が走ったような感覚と共に、《黒藍の死剣》の能力?で座標を感じ取れるようになったような……それに近い感覚を感じた。
——7時38分57秒
座標の次は時間か………。
この感覚は……武装完全支配術を使用している時の感覚に近い。
(……まさか、な)
俺は立ち上がり、《時穿剣》を構える。
「それは《時穿剣》ですネェ。ですが無駄ムダァ!!」
「行くぞ———!!」
俺はしっかりと握った《時穿剣》を振るう。
湯船の蒸気が……剣の通った軌跡に残った陽炎を映し出した。
俺はその陽炎に重ならないようにその場を避け、元老長に駆け寄る。
「うおぉぉぉぉぉーー!!!!」
「ホォッ!ホォッ、ホォッ!!何をしても無駄ですヨォ!」
声を上げる奴を無視して俺に迫っているであろう不可視の力を避ける。
「フォウ!?避けた。それなら……コレでどうデスゥ!!
システム・コオォォォル!!——」
詠唱……術式的に風素を利用している。
それでも、俺の目的は変わらない。
「ハァ!!」
避ける。
走る。
避ける。
走る。
避ける。
走る。
そうして、元老長の背後に回った。
「くらぇ!!蹴り穿つ!!」
背後に回った俺は蹴りを叩き込む。
………元老長は呆気なく吹っ飛んだ。
「オォォォォォウ!?コレは……《空斬》!?」
元老長は吹き飛びながら陽炎に迫る。
そして奴の体が《時穿剣》の生み出した陽炎と重なる————はずだった。
「なにっ!?」
突如として吹っ飛んでいた元老長が消えた。
「がっ!?」
背後から気配を感じ、振り返りざまに斬りつけようとするが、それより先に俺の首に強い衝撃が加わる。
(まずい……意識が……)
膝から崩れ落ちていく。
薄れゆく意識の中、俺は元老長の独り言のようなものを聞いた。
「流石は最高司祭猊下‼︎よく使えそうなコマをご自身で選定されるとわ!まさか《時穿剣》にまで適性があるとハァ!さて、この小僧を持ち帰りますかネェ!!」
ここで俺の意識は完全に途絶えた。
後書き
いろいろと突っ込み過ぎましたかね……。
さて、いろいろと説明の時間です。
①気づいている人もいるかもしれませんが、アルスはどうでも良い奴は死んでも構わない的な思考を持っています。
ですが、親しい人が死んだりしたらまず冷静になんで死んだのかを考えて原因が自分だと決め付けるタイプの人物です。
②アルスが《時穿剣》を使えた理由は……まだ言えませんが、フラグとしてはベルクーリとの戦いで語った時間に対する価値観の部分です。
だいぶ前に書きましたが、アルスはどんどんチートになっていく系の主人公です。
それでは閲覧ありがとうございました!