何も無い空間から現れた少年と女神の如き美貌を持つ全裸の女が対峙している。
「待たせたな、とは一体誰に向けた言葉かしら。ねぇアルス?」
「ふっ……少なくともお前に向けた言葉では無いことは確かだな」
アドミニストレータに向けてアルスは不敵に微笑む。
キリトとユージオ、アリスはその光景…と言うより、この情景に思考が追いついていなかった。
「アルス……お前、一体どこから?」
「このフロアより下から。コイツが俺に答えてくれた結果さ」
キリトの疑問にアルスはその手に持った《黒藍の死剣》を掲げて見せる。
「そう、つまり瞬間移動して来たわけね」
「さすが100年以上生きているだけあって理解が早い。その通りだ、この剣で俺と俺の居た空間を切り取り、ここに貼り付けたのさ。………だから——」
そこまで口にするとアルスは姿を消す。
アドミニストレータは周囲を警戒するが、人の影はアルスを除いた4人分しか無い。そう、考えた時だった。
「——こんな事ができる」
そんな声が不意に耳に入ってくる。
アドミニストレータは咄嗟に危険を感じ、振り向きざまにレイピアを走らせ、アルスの振るった剣にぶつけて弾く。
「……驚いたわ」
お互いに距離をとり、呟いていた。
この言葉はこの世界の管理者を名乗る彼女の偽りなき本心だった。
「それは私ですら持ち得ない力よ。本当に面白い存在ね、あなた。でも、それと同じくらいに厄介だわ」
「はっ!そうかい。あんたに一泡吹かす事ができるなら万々歳だ」
そんな言葉を残してアルスが再び姿を消す。
アドミニストレータは高速で何かを唱え、周囲にシールドの様な何かを張る。だが、それを悉く不可視の斬撃が破壊していく。
「す、凄い……」
「これがアルスの力……!?」
ユージオとアリスが戦慄を覚える中、冷静を保つ2人がいた。
「……ここまでの力を無償で使えるはずが無い。さっきに比べてアルスの体力も回復しているだろうが……無茶だ。かと言ってもあの速度の戦いでは手が出せない……!アルス……頼むから無茶しないでくれ……っ!!」
アルスの状態を考慮してそれでも戦いに参加できない事が歯痒くてしょうがないキリト。
そんなキリトの想いを他所にアルスの攻撃は加速し、苛烈になって行く。アドミニストレータを囲う様に陽炎が浮かんでいる。おそらく、《時穿剣》の作り出した《斬撃圏》だろう。
「(成る程…。考えたわねアルス。確かに私にはメタリック属性に対する耐性がある。でも、《黒藍の死剣》は耐性のカバー範囲外。そして《時穿剣》はメタリック属性でも、《空斬》は斬撃の威力を残す物。つまり、耐性なんて関係なく、当たれば直接天命に威力が届く……!)」
アドミニストレータは思わぬ天敵の出現に対して冷静に思考していた。
「システム・コール!ジェネレイト・クライオゼニック・エレメント!!」
仲間3人、倒すべき1人を置き去りにしていたアルスが突如として姿を現し、凍素生成の術式を叫ぶ。
遠距離攻撃術の威力や規模は、最初に生成される
術式を聞いた時に咄嗟にアルスのいる方向を見たキリト、ユージオ、アリスは再び戦慄した。
素因は神聖術初心者のキリトが集中して5個作れるかどうか。そのキリトより神聖術の成績が良いアルスでも7個生成するのが精一杯だった。
だが、今のアルスはどうだろう?
《黒藍の死剣》を握る右手とは逆、何も握ってない左手を突き上げる様に立っている。しかし、その左手には淡く光る薄水色の素因が浮いていた。目をこらすと、その個数がはっきり分かる。アルスの左手に浮かぶ素因の数は20を超えていた。
「あり得ない……」
そう呟いたのは誰だったか。
そんな中でもアルスは高速で形状変化の術式を唱える。
素因はその形状を氷の鋭い短槍へと変えていた。
「ディスチャージ!!」
アルスが突き上げられていた左手をアドミニストレータ目掛けて振り下ろすとアルスの周りに浮いていた氷の短槍が《シュゴッ!!》と音を立てて発射される。
「くっ……!」
アドミニストレータはここへ来て初めて余裕の表情を消し、自信が"完成された整合騎士"とした男の異常性を感じた。
「(これは……そう、そうなのね。勘違いしてたわ。アルス、あなたは騎士ではなく、こちら側の……でもね)」
アドミニストレータが何を思ったのか。それは彼女自身しか分からない。
一瞬、動きが止まったアドミニストレータ目掛けてアルス片手直剣単発突進技《ヴォーパル・ストライク》を放つ。
真紅のライトエフェクトを纏い、アドミニストレータに迫る《黒藍の死剣》。そのタイミングは傍目には完璧に見えただろう。
「うおぉぉぉぉーーっ!!!届けえぇぇぇ!!!」
だが、一つ言える事がある。それは……。
「(——あなたは詰めが甘いわね、坊や!)」
アドミニストレータは不敵に、不気味に笑いを浮かべる。
……そう、アルスは詰めが甘かった。
「リリース・リコレクション」
アドミニストレータは真紅の光を放ちながら眼前に迫る剣を躱そうともせずに武装完全支配術の第二段階。《記憶解放》を命じる術式を口にする。
だが、術式を発動させた彼女はその小振で華奢な銀のレイピア以外身に付けていない。
アルスが反射的にそう考えたその時。
《グサリ》と彼の体をどこからか現れたのか、突然出現した剣が貫いていた。
後書き
アルス無双だと思いましたか?
残念ながらまだその段階ではありません。
いくらアルスが規格外でも、100年以上生きているアドミニストレータの方が一枚上手だったと言う事です。
そのうちですが、アルス達がセントラル・カセドラルに連行された後のロニエ達の視点も書いてみようかな?と思っています。
さて、もう直ぐ例のシーンが来てしまいます……どうやってあの悲劇を回避しましょうか。何としても生き延びてもらいますけどネ!
閲覧ありがとうございました!