SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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40話 失い、加わる

あれは……蜘蛛?

駄目だ、出血が多すぎて視界が滲んでよく見えない。

ソードゴーレムの脚を弾いた後の記憶が無い。

 

「ん………?」

 

背中から俺の肩に掛かる金色。恐らくアリスの髪だろう。きっと、俺が気絶している間に彼女が俺を庇ってそのまま気絶してしまったか……。

 

どちらにせよ、まだ……と言うより、また身体が思う様に動かない。

 

そして周囲を見渡す。

 

キリトは腹を切り裂かれたようで、腹部からおびただしい量の血が流れている。多分、傷は内臓まで到達している。確認するまでもなく恐ろしいスピードで天命が減少している事だろう。

 

アリスは強く頭を打ち付けたのだろうか、先程からピクリとも動かない。きっと打ち付けたであろう後頭部から出血しているのだろう。地面に着いた手の平が熱い血で濡れていた。

 

そしてユージオ。こちらも腹を抉られたのだろう。腹部から血を流しながら昇降盤へ向けて這いずっている。さっき聞こえた声の指示に従っているのだろう。

 

「くっ……」

 

『アルス、貴方はまだ休んでいなさい!貴方のその力は今後の戦いで必要になる!』

 

体に力を込め、立ち上がろうとすると、先程聞こえた声……多分、あの蜘蛛の声が聞こえた。

 

『シャアアアッ!』

 

甲高い威嚇の叫びを上げながら、仔蜘蛛が2メートルを超えるほどに巨大化した黒蜘蛛の4つの単眼が鋭く光った。

 

その体はまるで《ギガスシダー》を彷彿とさせる程に硬質な黒い殻で覆われており、八本の脚もまた、同じく漆黒でこちらは見るほどに鋭利な鎌のような構造をしているのが見て取れる。

 

『シャアアアッ!』

 

『ギギィィッ!』

 

声と金属音が部屋中で反響し、黒蜘蛛の脚とソードゴーレムの脚がぶつかり合い、火花を散らす。

だが、俺たちとは違い、弾き飛ばされる事なく打ち合い続けている。

 

(凄いな……俺たちが受ける事で精一杯だったのにしっかり打ち合っている)

 

一匹と一体の戦いを見て俺の中に浮かんだ感想がそれだった。俺たちが生きて来た十数年では何百年と聞いて来た者と同じく数百年の記憶を持つ剣の化け物には届かない。それを見せつけられるようだった。

 

そして、一際激しく打ち合ったとき、ユージオに動きがあった。火花が閃光に変わったとき、這っていたその体を立ち上がらせ、昇降盤へと走りだした。

 

『シャアアアッ!』

 

『ギギィィッ!』

 

ソードゴーレムがユージオへ意識を向け、襲い掛かろうとした時、大蜘蛛がそれに立ち塞がる。

その行為でソードゴーレムの敵意は完全に漆黒の大蜘蛛に向けられたのだろう。今まで拮抗していたように見えていた両者の斬り合いは……一気に崩れた。

 

ブシャァッ!と勢いのある水音とともに大蜘蛛の脚が斬り落とされた。それでも、大蜘蛛は止まる事なく、ソードゴーレムのコアのような物を狙い、残った脚を振り下ろす。

だが、その周辺の剣が蠢き、大蜘蛛の脚を挟み込み、それもまた切断され、その巨体は崩れ落ちた。

 

(くそっ!どうして……身体が動かない。なぜ、あの蜘蛛に手を伸ばす事すらままならない……ッ!?)

 

目の前で勇敢にも戦っている黒蜘蛛。その命が今、散ろうとしている。それなのに、俺は動けない。

 

そんな俺の目の前で大蜘蛛は最後に残った脚をギリギリまで踏ん張り、跳躍した………ソードゴーレムに向けて特攻を仕掛けるかのように。

 

「……あ…………」

 

ソードゴーレムの剣が大蜘蛛の体の中心を深々と貫いた時、眩い光が部屋を包む。たが、その光の発生源は目の前の光景ではなく、視界の端……昇降盤に短剣を突き刺しているユージオがいた。

 

『よかった……間に合って。最後に……一緒に、戦えて……嬉し……かっ……』

 

ルビーの様な光を放っていた四つの眼は光を失いつつあるが、最後にこちらとキリトへ眼を向けてそう言った後、黒蜘蛛……いや、彼女は指先ほどの仔蜘蛛の姿に戻り、力尽きた。

 

目の前で、一つの命が尽きた。

だが、息つく間もなく、ソードゴーレムはユージオに向けて動き出す。まるで、たった今、自らが手折った命に興味がないかの様に。

 

そのとき、再び部屋を光が包んだ。しかし、その光は今までの比ではない。眩い閃光が部屋に迸り、その光にソードゴーレムですら動きを止める。

 

昇降盤の隣で佇むユージオの目の前に長方形の何かが形成される。よく見るとそれはドアノブの様な物がある……重厚な扉だ。ガチャリとその扉がゆっくりと開かれ、それと同時にソードゴーレムも動き出す。でも、それを妨げるかの様に雷が落ちた。

 

『——!?』

 

ソードゴーレムが再び声にならない不協和音を響かせる。それにさらに追い討ちを掛けるように再び雷が落ちた。それだけでソードゴーレムはあり得ないほど容易にひっくり返った。

 

電気を発生させる神聖術は確かに存在するが、それはよくて人を痺れさせる程度。ソードゴーレムを押し返し、煙を上げさせる程の威力の神聖術を扱える。普通ならそんな術式は何十行もある筈なのにそれを連射する高速詠唱。そんな事が出来る人物がアドミニストレータ以外にいるだろうか?

 

ベルクーリのおっさんなら出来るというか、やりかねないが。たぶん、あのおっさんの事だから剣で叩き斬る方が早いとか言いそうだし……。何より、ベルクーリは石化している筈……いや、俺がチュデルキンを殺したから解除されたか?

 

ベルクーリで無いなら他の人物……。神聖術の達人であるチュデルキンは俺が殺したからあり得ない。ならば他に可能性のある人物に心当たりは———いた。キリト達から伝え聞いた話だが、1人だけ。

 

「まったく……悪趣味な物を作る。趣味の悪さは200年経とうと変わらぬか?」

 

ゆっくりと開かれる扉の中から細身の長杖(スタッフ)と柔らかそうな髪を携え、眼鏡を掛けた小柄な少女が鋭く眼を細め、滞空しているアドミニストレータを睨み付けていた。

 

キリトから聞いた通りの容姿。実際に使用した難度の高い神聖術。

 

———カーディナル。かつて俺を生み出し、消去しようとした存在の名を冠したこの世界のもう1人の管理者が200年ぶりに宿敵と対面した。




後書き

今回……シャーロットが脱落しました。
アルスはシャーロットの名を知らないので"黒蜘蛛"などの名称で表現しました。彼女の脱落シーンは何度読んでも感情移入してしまいます。原作のあの辺はそういうシーンが多くてズルいと思います。

ベルクーリの神聖術より斬る方が早い的な表現は私の勝手な妄想です。実際は両方出来るかもしれないですけど、なんとなくそういうイメージがあるんですよねぇ……。

最近の悩みとしてはサブタイトルが思いつかない事です。

閲覧ありがとうございました!
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