「何を言っているんだユージオ!」
キリトの怒声が響き渡る。
その声の矛先は「自身の身体を剣に変えてくれ」とカーディナルに語ったユージオに向けられていた。
「この状況を打開する為にはこの方法が一番可能性があるはずだ。分かってくれ、キリト」
「いや、引けない。そんな確実性に欠ける方法を認められるわけがない!」
「そうだね。確かに確実性に欠ける。でも、それは最初からじゃないか?この戦い自体が確実性に欠けている。それでも可能性を信じて戦ってきた。それは君も同じだろ?」
「それでも……っ!」
ユージオの言葉にキリトは言葉が詰まる。
当たり前だ。キリトはSAO時代から今、この瞬間に至るまで確実性のある戦いをした事が無かったからだ。どんな時でも、アルスがいた。仲間がいたから、可能性を信じて戦って来れた。
「キリトは……この世界を美しいと思うかい?」
「それは……」
「僕は、あまりそうは思わない。世界を見渡すとライオスやウンベール、クラースのような奴らも沢山居るだろうね……。そう思うと正直、滅べば良いとさえ思う」
ユージオは目を伏せ、瞑り、ゆっくりと息を吸いながら言う。
「だけど、アリスがいて、セルカがいて、ガリッタ爺がいて……ティーゼやロニエがいて……」
そこまで言うと目を開けて、キリトやアルスに向けて笑いかけた。
「なにより、君達と"また会えた"あの場所を、君達と過ごして来た場所を守りたいんだ」
ユージオのその言葉にキリトは言葉を失った。
その覚悟は、キリトがアドミニストレータと対峙する前に抱いた考えや覚悟と似ていたから。
一方、アルスはカーディナルに治癒術式を掛けているので言葉を紡ぐことは出来ないが、その目はユージオに「考え直してくれ」と訴えかけている。
「信じてくれ」
それらの視線を全て断ち切るような覚悟に満ちた声でユージオは言った。
「……分かりました。そこまでの覚悟があるのなら止めません。でも、必ず戻って来なさい」
アリスは騎士の口調でユージオの覚悟を認めた。
その言葉を聞いたカーディナルはゆっくりと頷いた。
「よいか、例え、奴を倒せてもお主の身体は元に戻らぬかもしれん。それでも……やるのじゃな?」
「はい。この覚悟は潰えません。誰にどんな言葉をかけられても」
カーディナルは「そうか……」と呟き、詠唱を開始した。
でも、それをみすみす見逃すアドミニストレータではない。
「友情ゴッコはそこまでで良いかしら?行きなさい、私のソードゴーレム。そこにある死に損ないもろとも切り裂いてやりなさい!」
その号令に雄叫びのような音を響かせながら2体目のソードゴーレムは突進を開始する。一体目のソードゴーレムが未だにひっくり返っているのはこの場において唯一の救いだろう。
「邪魔はさせません!キリト!」
「ああ!」
キリトも覚悟を決めたらしく、突進するソードゴーレムを足止めする為に剣を引き抜いたアリスと共に剣を握り、駆け出す。それぞれが雄叫びをあげながらキリトは握っている2本の剣で交互にソードスキルを発動させる。
「お願い。もう少しだけ……頑張って。———リリース・リコレクション!!」
アリスはキリトが時間を稼いでいる間に僅かな天命しか残されていない自分の愛剣に祈りながら
《金木犀の剣》はミシミシと悲鳴をあげる。この場に存在する剣の全ては天命が残り少ない。
キリトの《黒いヤツ》もアルスの《黒藍の死剣》と《勝利の白剣》もユージオの《青薔薇の剣》は言うまでもなく、《時穿剣》ですら限界が近い。
だが、それは担い手であるアリス達にも言えることだ。いくら怪我を治せても心や精神だけはその限りではない。それぞれが極限の状態で自分のやれる事を必死に果たそうともがき、足掻き続けて……。
アルスがカーディナルの命を少しでも延命しようと消費されていた空間リソースが尽き、キリトの身体が弾かれ宙を舞い、アリスの金木犀の剣が手元から弾かれ、胸を穿たれたその瞬間に。
その足掻きは遂に実を結んだ。
紫の光柱に包まれたユージオの体が実体を失い、透き通った。その胸の中央に、青薔薇の剣が、同じく透明化しながら吸い込まれるように融合した。
眩い光を放ちながら"それ"が姿を現した。
十字の剣。おそらくは元となったユージオと青薔薇の剣の影響を受けているのだろう。柄頭から切っ先までの長さや横幅はユージオの身長や肩幅のそれで剣の見た目は青薔薇の剣のそれにに近い。
剣として形を成したユージオに向けて力なく左手を向けたカーディナルは既に紫がかった唇を震わせながら術式を完成させる最後の言葉を紡いだ。
「リリース………リコレクション」
その言葉を号令にするかのようにユージオから発せられていた光は止まり、部屋の天井に埋め込まれたアリスの記憶の欠片がキィィンと震える。まるでそれに応えるようにユージオはその場を揺るがすような心意を放った。
———
〜アルス視点〜
ユージオが心意を放つと同時に俺の腕の中にいたカーディナルの左手は力無くパタリと床に落ちた。
「カーディナル!」
声をかけるとカーディナルは弱々しく微笑んだ。
「やれやれ……その様な泣きそうな声を出すでない」
困った様な表情で笑いを浮かべたカーディナル。
俺は神聖術を行使して彼女の怪我の治療を試みたが、それでも……空間リソースも俺の権限も足らず、ほんの僅かな延命措置にしかならなかった。
「くそっ!なにか……手段はないのか……?」
考える。考える。考える。何度も何度も、手段はないのかと考える。
「わしの為に……なぜ、お主が泣く?」
俺の顔を見上げながらカーディナルは不思議そうに首を傾げた。
「わしとお主は今、初めて会話したのじゃ、わしは2年前からシャーロットの眼を通じてお主らを観察しておった。しかし、お前はどうじゃ?仮にわしの事をキリトから聞いていたとしても、それは数十分前の事のはず……それなのになぜ?」
「……分からない。でも、俺はあんたの事は余り知らないけど、"カーディナルシステム"についてなら誰よりも知っている」
カーディナルの問いに俺は答える。
「俺は……カーディナルシステムに生み出された存在だ。今は色々とあってキリトの第2人格的な存在だが……それについては割愛する」
俺を見上げていたカーディナルは一瞬だけ目を見開いたがすぐに表情を戻した。その際に何かを納得したような表情だったのが印象的だったが、俺は話を続けた。
「俺の生まれた世界……そこがアインクラッドだ。そこは、カーディナルシステムによって"完璧"に管理されている世界だった。その世界での俺の役割はプレイヤー……人間がいつ、どこに居たのかを記録することだった。まあ、カーディナルは俺よりも効率のいいプログラムを組み上げたらしくて俺を消去するつもりだった。でも、バグが発生してな。俺はなぜか自我を手に入れてプレイヤーとして生まれ変わっていた。その後に色々あってその世界は崩壊した。それから俺はキリトと共にカーディナルシステムの管理している様々な世界に向かった。ここもその世界の一つなんだが……そこで
ここで俺は一旦、言葉を止めてカーディナルを見た。
「俺の知るカーディナルは感情なんて無かった。でも、感情をもった
カーディナルは俺の独白に近い言葉を聞きながら少し諦めたような、でも、それを覆す何かを見出したかのような表情を浮かべた。
「アルス。お主の気持ちは嬉しい……じゃが、わしの結末は変わらぬ。だから、お主に託そう。
———アルス。——になる気はないか?」
俺は一瞬だけ自分の耳を疑ったが、カーディナルの眼を見てそれが本気だと確信した。
———
〜キリト視点〜
「綺麗だ……」
俺は剣となり、心意を放つユージオを見て思わず呟いた。
あたりを見るとアリスも胸を穿たれたが、咄嗟に身体を捻り、重症を避けたらしく、血を流しながらではあるが膝をつきながら俺と同じ様にあたりを見渡している。
「アルス……?」
アルスを見るとカーディナルを抱きかかえて険しい表情をしている。アリスも何事かとアルスたちを目に留めるが、それどころではないとユージオへ目を向け直す。
「おのれリセリス……余計な真似をっ……!!」
大剣となったユージオを忌々しげに睨みつけながらカーディナルへの怨み事を叫ぶ。
「いくら術式を模倣しようが……その様な貧相な剣1本で、私の殺戮兵器に対抗できるはずもない!一撃でへし折ってあげるわ!!」
アドミニストレータの左手が振られると、2体目のソードゴーレムが耳障りな音を上げながらこちらに突進してくる。
……その光はソードスキル《ホリゾンタル》の光だった。
ソードゴーレムの脚と光を放つ
その結果、数分前の俺たちではあり得ない結果が導き出される。
———音など無かった。あったのは剣の作り出した彗星のような光の残像と切り飛ばされたソードゴーレムの脚だけだった。
圧倒的だった。あれだけ俺たちを苦しめた巨大な剣の化け物。それが音もなく脚を切り落とされて行く。ソードゴーレムとユージオの大剣……これらの違いは一つ。
意思があるかないか。要するに思いの強さだ。
これは意思のある"人間"と"人形"の違いだろう。
ソードゴーレムの脚が全て切り払われ、コアとおぼしき場所を露出させていた。
「ヴォーパル・ストライク……」
アルスも俺もユージオに上位のソードスキルを完璧には教えきれなかった。故に《ヴォーパル・ストライク》を教えることもできなかった。それこそ公理教会に来る前の
『ギギギギィ!』
と不協和音の悲鳴をあげながらもがくソードゴーレムのコアに
ユージオは2体目のソードゴーレムを倒すと、一旦空中で静止した。きっと、未だにひっくり返っている1体目は大した脅威にならないと判断したのだろう。空中で静止しているユージオの切っ先はソードゴーレムではなく……アドミニストレータに向けられた。
「っ!よせ、ユージオ。駄目だ!」
咄嗟に声をあげるが、ユージオは止まらない。
さっと同じ様に《ホリゾンタル》の光を放ち、アドミニストレータへ斬りかかる。
「あら、まだやる気なの、坊や?私の人形1体を倒した程度で随分と強気ね?」
アドミニストレータの言葉が終わると同時に ユージオがアドミニストレータの細剣と衝突した。
今まで聞いたことのない轟音が響き、剣と剣が火花を散らし、その中心から空間が歪み、磁場のような物が狂って行くのが分かる。
その現象にアドミニストレータは完全にユージオを脅威と認識したのだろう。
「この小僧がっ……!!!」
細剣に力が込められる。少し押され気味だった細剣が大剣を押し返し、力が拮抗したのか2つの剣が完全に停止しているように見える。だが、これは強すぎる力が2つの剣に生じてどちらかが、もしくは両者が壊れる前兆だと俺は直感していた。
そして……俺の予想は最悪の形で当たった。
「ユージオーーーーー!!!!!」
アドミニストレータの細剣を切り裂き、その腕を右肩から切り落としたユージオだが、アドミニストレータの神力を支えてきた細剣の中に蓄積されてきた莫大なリソースが爆発し……ユージオの剣が半ばから真っ二つに折れた。
俺はユージオの名前を叫びながらアドミニストレータなどには目を向けることもせずにユージオの下へ駆け出していた。
ユージオの身体は剣と同じく、下半身と上半身に別れている。
「ユージオ、ユージオ!!」
俺が呼び掛けると瞼を持ち上げた。
「やあ……キリト。ごめん、僕の剣は……届かなかったみたいだ」
「違う!届いただろ、お前の剣は、アドミニストレータの剣を超えたじゃないか!」
大量に出血しているユージオは瞳を真っ直ぐにこちらに向けていた。
「僕は……やっと思い出せたんだ。君やアルスを……。"あの頃を"……」
ユージオは遠い目で、窓の外に戻り始めていた夜空を見上げる。
「覚えているかい……?アルスがアリスに引き摺られながら連れて連れ回されて、僕らが笑いながらそれを追う……」
「ああ……。覚えてるさ、俺も、アルスも、アリスも忘れていた。でも、この戦いで思い出したんだ」
「ははっ……やっぱりね。」
夜空を見上げていたユージオは何かを思い出すように瞼を閉じる。
「僕は、アリスが連れ去られた時……何もできなかった。お前やアルスは必死にアリスを取り返そうとしていたのにね」
「……」
「そして……アリスが連れ去られた後、2人とも居なくなってしまった……。あの時はどんどん忘れて行く君達と過ごした思い出を思い出そうとしながら、『ああ、これは何もできなかった僕への罰なのかな?』って思ったんだ……」
ユージオは再び瞼を開けて俺、アリス、アルスの順に見回した後に夜空を見上げた。
「でも、よかった……また、思い出せたんだ」
「それは俺たちも同じだな……」
ユージオの肌がどんどん白くなって行く。
「はぁ…」と息が擦れるようなため息をついて思い出を語り出した。
「そういば……昔、ギガスシダーの下で…横になって夜空を見上げた事があったよね……」
「たしか……俺たちが遊びすぎてその日の仕事が終わらなくてもたもたしてる時にアリスも手伝ってくれて全員疲れて動けなくなったんだよな」
俺がそう言うと、ユージオは何かを閃いた様に俺を……正確には《黒いヤツ》を見た。
「そうだ……その剣はギガスシダーから作られたんだよね。なら……あの思い出に因んで《夜空の剣》って名前はどうかな?」
《夜空の剣》……不思議と胸に染み入るような感覚。
なんというか、とてもしっくりきた。
「ありがとう、ユージオ。とてもいい名前だ」
俺は思った感想をユージオに伝えるとユージオは嬉しそうに笑った。
だが、その唇が今もアルスに抱かれているであろうカーディナルと同様に紫がかっており、肌も白を通り越して青白くなりつつある。………その様子はユージオには残り数分も残されていない事を如実に語っている。
どうすれば良いか、反射的に考え出した俺の思考をよく知る声が遮った。
「——システム・コール!インスペクト・エンタイア・コマンド・リスト!」
途端、先程のユージオとアドミニストレータの細剣の衝突とは別のベクトルで聞いたことのない……いや、前に一度だけ聞いたことがある重厚な効果音が響いた。
その声の主の方向へ視線を向けると、その人物はやや大きな紫色のウィンドウを首を捻り、何かを探すように眺めている。
やがて目的の物を見つけたのか、その人物はカーディナルの持っていた
「システム・コール!ルミナス・エレメント!フル・リカヴァリィー!」
その詠唱が終わった瞬間、この空間に先程、爆散したアドミニストレータの細剣が作り出したであろう空間リソースが光となり、ユージオの上半身と切り離された下半身を包み、辺りが見えなくなるほどの閃光を放つ。
その閃光が収まり、視界が戻ったとき、俺は驚愕した。
なぜなら……切り離されたはずのユージオの上半身と下半身が再び繋がっており、唇や肌に血色が戻っていた。
「………」
その人物は長杖を下げると無言でこちらに歩み寄り、ユージオに笑いかけた。
「よぉ、ユージオ。気分はどうだ?」
「………!?」
ユージオは混乱しているのかその人物を目を見開き、見つめる。その視線を受けている"彼"は今度はアリスに長杖を向け、傷を治療する。
「ユージオとアリスは休んでろ。もう、体が言うこと聞かないだろ?お前らは無茶しすぎなんだよ。あとは……俺たちに任せろよ、まだ動けるだろ。キリト」
そいつは俺に向けて悪戯っぽく笑う。
……やれやれ、お前はいつも唐突だ。
SAOでもALOでも俺が絶望に屈しそうになると必ず予想斜め上の方法でそれを覆す。そんなお前に望まれるなら、求められるなら……俺が立ち上がらない訳にはいかない。
「当たり前だろ。お前のパートナーが俺以外に務まるかよ、俺はいつでも行けるぜ、"アルス"」
俺はその人物……アルスに笑い返す。
ついさっきまでお前の胸の中に抱えられていたカーディナルはどうした?なんでお前がそのウィンドウを開けるのか?聞きたい事は沢山ある。でも、疑問を抱いた人物は俺だけではなかった。
「………アルス。どういうことかしら。リセリスは何処。なぜ、お前がそのウィンドウを開くことが出来る!」
そう、アドミニストレータだ。
奴は右肩から血を流し、血走った目でアルスを睨みつける。
「その答えはお前が一番知っているのではないか?」
アルスは静かにそう言うと目の前に浮かんでいたそのウィンドウを片手を振るって閉じ、体をアドミニストレータへ向けて言った。
「俺のデータをリセリス……カーディナルのデータに上書き統合する事で彼女の権限の全てを引き継ぎ、
———俺が新たな管理者になったからだ」
後書き
はい、今回はぶっ込みました。文字数7000オーバー!
いやぁ……書いた書いた。書きましたよ。
今回から視点切り替えの際に〇〇視点を追加しました。
例
———
〜〇〇視点〜
という形になります。
それから、《》の使い方を少し変更したいと思います。
武器名はその回ごとに始めて登場した場合は一回目だけ《》で囲い、それ以降は《》は付けない事にします。
例
《黒藍の死剣》……第25話、登場1回目
黒藍の死剣……第25話、登場2回目以降
といった感じです。ソードスキルは変更なくセリフ以外での登場はずっと《》で囲い続けます。
以上が今回からの変更点です。
それで、ここからがストーリーに関してです。
まず、ユージオ(剣)がソードゴーレム相手に無双しました。コレは以前から思っていたのですが、この小説のユージオ【原作キャラ】は何処となくアルス【オリ主】に見せ場を喰われ気味だと思ったので無双させてみました。
2つ目、《夜空の剣》命名シーン前の戦闘の割愛、これは本来なら原作だとユージオは死亡するのですが、これを回避するために上半身と下半身で切り離された直後にスライドする事で夜空の剣の命名とまだユージオが助かる見込みを持たせるためのオリジナル展開です。
3つ目、アルスの管理者化。ぶっちゃけてしまうとこの展開は始めから計画しており、アルスが《MHCP(メンタル・ヘルス・カウンセリング・プログラム)》であると言う設定も実はこの為の伏線であり、他にも伏線を撒いておきました。最近あげた中で一番新しい伏線はアドミニストレータの「こちら側」と言う言葉ですね。実を言う始めから計画していたと言っても、これは保険的な物で、原作の展開をなぞりながらだとどうしても回避できなそうな展開を回避する為の展開を強引にねじ込む為に用意した物です。まあ、それでユージオの死亡を回避できたので結果オーライですよね?
最後にアルスの最後のセリフに関しては次話で解説します。
今回もご愛読ありがとうございます。
後書きの最初に書いた変更点やストーリーに関してのコメントを半永久的にお待ちしております!