曰く、それは戦いでは無く、殺し合いだ。
曰く、それは人智を超えた物だった。
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この場に管理者は2人。
彼と彼女の違いは実を言うとあまり無いのかもしれない。
彼も彼女もシステムによって生み出された。
多分。彼が彼自身になった時、黒の剣士と呼ばれた少年と出会わなければ彼女の様になっていただろう。
だが、それは意味の無いifの話しだ。事実は1つ。
彼は……アルスはキリトと出会った。
はっきりしている2人の……アルスとアドミニストレータの違いは2つ。
アドミニストレータは1人で歩み、1人で管理者になった。
アルスは仲間と歩み、同胞から希望を受け継ぎ管理者になった。
多分、それだけだ。
———でも、それだけの違いが結果を変えたのだ。
「行くぞ、キリト」
「ああ!やってやろうぜ、アルス!」
2人は剣を握る。
アルスは《黒藍の死剣》を。
キリトは《夜空の剣》と《勝利の白剣》を。
1人は剣士なのに型を持たない者。
1人は唯一無二の二刀流を扱う者。
アインクラッドの英雄2人。
そんな彼らの剣がこの世界に来て初めて同じ相手に向けられる。
「"無型の剣聖"アルス」
「"黒の剣士"キリト」
彼らはそれぞれ名乗りを挙げる。
自分を象徴するもう1つの名前。
その名前に込められた心意が光となり、彼らを包む。
「「推して参るッ!」」
そう宣言して駆け出す2人に反応する様に彼らを包んでいた光が崩れて霧散して行く。
その光が完全に消え去った後、2人の姿が変わっていた。
アルスはその髪と同じ黒い藍色をしたコートを着ていた。首元にあるフードと体を覆う袖とコートを翻し、駆ける。
キリトも同じ。この髪と同じ漆黒を基調とし、銀の金具で節々を装飾されたコートを翻す。
その姿はかつて、6千人ものプレイヤーを救ったアインクラッドの双璧をなすプレイヤーの姿そのものだった。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
キリトが両手に握る剣で左右から同時に斬りかかる。
だが、それを今まで浮かべていた余裕の表情を何処かへ棄て去ったアドミニストレータがこの場に居るどんな者でも想像することのできない様な感情に身を任せてその顔を醜く歪ませ、その身を半歩引くことで迫る剣を回避し、二本の剣が軌道上で重なる瞬間に細剣
「なんだとっ!?」
《リニアー》を見たキリトの表情に驚愕が浮かぶ。
「たしかソードスキルの……《リニアー》とか言ったかしら?」
ソードスキルを知っている者がアルスとキリト以外に居たという事実に2人は驚くが、半神人はそれすら御構い無しに新たに刀用ソードスキル、《浮舟》を発動させた。
面食らうキリトは思わず硬直するが。
「キリト、右に向けて跳べッ!」
アルスがいち早く立ち直り、黒藍の死剣の能力を発動させながら細剣《リニアー》の射程を延長して放つ。
「あら、お前も使えるのね。武器カテゴリーが違うのに……ああ。管理者の能力かしら?」
「違うな、これはアインクラッドで俺が獲得した俺自身の力だ!」
「なら、その頃から管理者の素養があったのかしらッ!」
アルスとアドミニストレータの剣が交わる。
鍔迫り合いになり、ギリギリと火花を散らし、剣が紅くなり、赤熱状態に近しい状態になる。
そんな中で同様の力をぶつけ合う。
だが、鍔迫り合いが永遠と続く訳もなく、アドミニストレータに軍配が上がった。理由としては……。
「流石に無理させ過ぎたか……頼む。もう少しだけ持ってくれ」
連戦に続く連戦で黒藍の死剣にとうとう罅が入る。
それを音で感じとったアルスが鍔迫り合いを切り上げたのだ。
「こちらに集中したらどうかしら」
アルスが硬直している隙を狙ったアドミニストレータの凶刃が彼に迫るが、忘れてはいけない。アルスは1人で戦っているわけではないのだ。
「スイッチ!」
「任せろ!」
凶刃に触れる直前に硬直が解け、咄嗟に後ろに跳びのき、SAO時代に前衛と後衛を入れ替え、連携を取るために使っていた今のSAO生還者にとっては魔法の言葉を使う。
その言葉を発するたびに生還者達は当時の経験が蘇り、咄嗟に相手のフォローに向かう。それはアルスとキリトも例外ではない。
「はあッ!」
キリトが二刀流突進系SS《ダブルサーキュラー》を使用し、アドミニストレータの細剣を受け止める。
その隙にアルスは後退し、黒藍の死剣から《時穿剣》へと持ち替える。
『ギギギィィィイーーー!!』
その時、今までひっくり返っていた一体目のソードゴーレムが起き上がった。
それが主人への忠義の表れなのかは分からない。
だが、1つ言えることがあるのなら……。
「……邪魔だッ!」
ソードゴーレムは起き上がるタイミングを完全に誤った。
何故なら、今、ソードゴーレムが立ちはだかった相手は先程までの公理教会への反逆者ではなく、1人の管理者なのだから。
アルスは徐ろに時穿剣を片手で構えると何の躊躇も無く、ソードスキルを連続で発動させる。
片手剣SS《ノヴァ・アセンション》10連撃、
細剣SS《スター・スプラッシュ》8連撃、
両手斧SS《ワールウィンド》単発、
カタナSS《絶空》単発。
連続で4つのソードスキル。計20もの連撃の威力を時穿剣の能力、《空斬》を用いて
アルスは一連の動作を終えるとソードゴーレムから興味を失ったかの様に踵を返す。
その行動をソードゴーレムは挑発と受け取ったのか、金切り声を挙げながらアルスへ向けて突進する。
………アルスが今しがた創り出した"斬撃圏"に気付きもせずに。
そして、ソードゴーレムの体が、斬撃圏に侵入した時、凄まじい金属音を響かせながらその体を構成する剣の全ての刃が潰され、次第にソードゴーレムが崩れ落ちて行く。
いまのアルスはこの世界でトップクラスの剣と権限を持ち、心意を思いのままに操る事ができる。
つまり、
しかし、アルスはこの後をどうするかではなく、全く別の事を考えていた。
「(570秒……あと30秒か。勝負はその瞬間だ……!)」
そう、アルスはこの戦いが始まった時からどれくらいの時間が経ったのかを数えていた。
それがどんな意味があるのか、それを知るのはこの場においてアルスとアドミニストレータだけだろう。
ただ、アルスは戦いが始まってから600秒……つまり10分が経った瞬間に賭けていた。
「退がれキリト!システム・コール、ジェネレイト・クライオゼニック・エレメント!」
アルスはいつしかの様に片手で
その総数は50。そして、その1つ1つが計り知れない威力を持っていた。
「ディスチャージ!!」
キリトが退いたのを確認すると術式の最後の起動句を立ち上げるとそれらはアドミニストレータへ向けて異音を発しながら飛来する。
「今回は随分と数が多いのねッ!」
「そりゃ、俺も管理者になったからなッ!」
自分に直撃するものだけを弾いたアドミニストレータへ向けてアルスが飛び出し、お互いの剣を打つける。
今度は鍔迫り合いでは無く、打ち合い。
しかし、2人の間には剣が通っていない場所にも剣戟が走る。……2人の心意が創り出した剣がそこでぶつかりあっているのだ。
「こっちにもいるぜ!!」
キリトが声を張り上げると勝利の白剣の能力で遠距離攻撃を仕掛ける。
「チッ!」
アドミニストレータが舌打ちしてそれを弾き、アルスから距離を取ろうとするが、アルスが追い打ちを駆ける。
「しつこいのよ!」
「くそッ!(残り10秒)」
アルスは追撃を仕掛けたが、それも弾かれ、床に落ちる。
だが、そんな数秒でも時間稼ぎにはなっていた。
「エンハンス・アーマメント!!」
アルスが弾かれ、アドミニストレータの目の前から別方向に飛ばさせた瞬間。キリトはその間に武装完全支配術の詠唱を行い、術式を完成させていた。
キリトの詠唱終了と同時に突き出した夜空の剣から発せられた、まるで進撃する槍の様な形で巨大な黒い色の光がアドミニストレータへ押し寄せられていた。
その光は床にを抉り、大気を焼き焦がしながら突き進む。
「小癪な小僧共だな、貴様達はッ!」
アドミニストレータは自身に使え、この世界でも最高位の防御術式を起動させる。
しかし、夜空の剣の生み出した漆黒の巨槍はその障壁に亀裂を入れ、直後にその鉄壁を完全に破壊した。
「ハハッ!アハハハハッ!!!!」
その槍をアドミニストレータは狂った様に笑いながら細剣を器用に回転させることで弾き続けている。
きっと槍の威力は障壁を破壊した時に大幅に減衰したのだろう。それにより、弾く事を可能にしているのだ。
そして、進撃する巨槍が消滅した頃、アドミニストレータとキリトは同じ構えを取っていた。
放つ技は片手剣SS《ヴォーパル・ストライク》。
片手剣ソードスキルの単発技の中でも最大の威力と射程を持つ突進技。
「これで……終わりだぁぁぁぁーーーッ!!」
「終わるのは貴様だッ!」
キリトとアドミニストレータは同時に真紅の光を剣に纏わせ、突進する。
キリトの切っ先は右胸に向き、アドミニストレータの切っ先はキリトの左胸を捉えている。 2人が交わる時、キリトが敗北する…………筈だった。
「な、にっ!?」
突進を始めた2人が交わる直前。
アドミニストレータの残され、唯一剣を握る事の出来ていた左腕が肩からその胴体との繋がりを断たれ、宙に舞っていた。
「(頼む……俺に、力を貸してくれ——時穿剣ッ!)」
アルスは10分間を数え切った。
そして数え切ると同時にアルスは持ち得る全ての力を時穿剣に込めてそれを振り下ろしたのだ。
アドミニストレータを直接斬った訳ではない。
かといって《空斬》で未来を斬った訳でもない。アルスは今、"
時穿剣の"裏"や、《裏斬》と呼ばれるその力は時穿剣の本来の使い手であるベルクーリの禁じ手中の禁じ手だ。
それを使い手ではないアルスが使えた理由はただ1つ。
———彼に、時穿剣が応えたから。
「この……糞ガキがぁぁぁぁーーーッ!!」
アルスに腕を切り落とされ、キリトの《ヴォーパル・ストライク》を受けざるをえない状況に陥ったアドミニストレータはありったけの心意を形にし、《心意の腕》で宙を舞っていた自らの左手とそれに握られた細剣を引き寄せ、アルスへ向けて投擲した。
「がっ………」
その足掻きはアルスの右胸に細剣が突き刺さることで報われる。
——もっとも、本当に最期の足掻きである事に変わりないが。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
夜空の剣が鳴り響くエンジンの駆動音の様な轟音を放ちながらアドミニストレータの右胸を穿つ。
その一撃はアドミニストレータの右胸に風穴を開けたのだ。
キリトはその一撃で力を使い果たし、膝を付く。
「まさか……ここまでやるとわね」
口から血を吐き、右肺を吹き飛ばされたアドミニストレータは苦痛に表情を歪ませる。
「200年前のリセリスとの戦いでもここまでの傷は負わなかったと言うのに………ああ、……この場にある空間リソースを全て掻き集めてもこの傷は治せない……」
ヨタヨタとおぼつかない足取りで部屋の一角へと向かう。
「ふ、ふ……。こうなれば、仕方……ないわ。予定より、随分と早い……けれど、一足先に、行かせて、もらうわね」
「な、何を……言っている?」
途切れ途切れなアドミニストレータの言葉にキリトが問うとそれに応える様に脚をトントンと鳴らす。
すると、床に模様が浮かび上がって、円柱状にせり上がる。
やがて、その中から、一台のノートPCが姿を見せた。
「な……」
キリトは驚愕していた。
なぜなら、そのノートPCはキリトとアルスがこの2年間、探し求めていた"リアルワールドへの連絡手段"であり、この世界からログアウトする事のできる可能性のある……システム・コンソールだ。
両腕を失ったアドミニストレータの髪が生き物の様に蠢き、先端で素早くキーボードを叩く。
すると、紫色のコンソールが立ち上がり、その中央で数字が刻まれ始める。まるで、何かをカウントダウンするように。
それと同時に満身創痍なアドミニストレータの体を光が通み、彼女が宙に浮く。
「ふふ……じゃあね、坊や達。……先に待っているわ……"あなた達の世界で"、ね」
そう告げる彼女の顔には優越感か、それとも愉悦か、あるいは両方の感情により、余裕げな表情が戻っていた。
数秒後、アドミニストレータはこの世界からログアウトする。
その結果が目に見えている彼女は最期の最期に大きな油断をした。
「おい、そんな釣れないことを言うなよ」
彼女にとっての死神が背後にいることを気付かせない程に。
「貴様は———っ!」
アドミニストレータは言葉を失っていた。
なぜなら、彼女の背後に、黒藍の死剣を抜いたアルスがいたからだ。
「これで本当に終わりだ——リリース・リコレクション」
彼は彼女の背後からその腹部に罅が入り、ボロボロになった自分の愛剣を目の前の宿敵に突き刺し、その記憶を解放する。
瞬間、彼女を貫く黒藍の死剣を中心に周囲の空間が吸い込まれるように殺到し、そこにある"モノ"を巻き込みながら消滅してゆく。………故にアドミニストレータを跡形も無く消し去った。
後書き
……今回もだいぶ書いたなぁ。
長かったアドミニストレータ戦もとうとう終わりました。
ラストシーンのアルスがどこと無くラスボス的な雰囲気だった気がしますが(苦笑)
次回は公理教会編のエピローグの様な話になります。
閲覧ありがとうございました!