アリス視点
セントラル・カセドラルを出発して2日。
私達はルーリッドの村に辿り着いた。
「……!お前達は……まさか」
アルスを背負ったキリトとユージオと共に村へ入ると記憶にある姿よりも逞しく成長し、衛士となったジンクが私達を見て目を見開いた後、この場で待つ様に言い残すと、暫くして村長……私の父を連れて来た。
「アリス……なのか」
「はい」
短く答えた私を見て父は表情を険しくし、私を厳しい目で見つめる。
(……ああ。もう、昔の様には出来ないわよね)
そして私から視線を外し、ユージオとキリトに目を向けて重々しく口を開く。
「本当に、連れ帰ってくるとは……」
「村長、アリスは「よい、何も言うな」……はい」
私に付いて弁明しようとしてくれたユージオを止めた後、父の視線はキリトの背中に背負われているアルスへ向けられる。
「たしか……アルスと言ったな。その少年は」
「はい」
貴方も昔は我が子の様に接していたじゃない。そんな言葉が喉から出かけるが、それを何とか飲み込み、返事をした。
そして父が何かを言いかけた時、それを遮る大事が響いた。
「姉さま……?キリトにユージオ!!」
声のした方をこの場にいた全員が見る。
すると、そこには随分と大きくなったセルカがいた。
……成る程、確かにキリトやユージオを連行する時にいたわね。
「姉さま!良かった……アルスは約束を守ってくれたのね……ところでアルスはどこ?」
しかし、安堵したようなセルカの表情がキリトの背中で眠るアルスに視線が向いた瞬間に凍りつく。
「アルス……?ねぇ、どうしたのよ。アルス?」
セルカは明るい茶髪の髪を揺らしながらキリトの背中のアルスへ語りかける。
「……そのユージオとキリトとアルスが一体何をしてお前を連れ帰って来たのかはあえて深く聞くまい。だが……必要以上にこの村に干渉することは許さん」
果たして娘であるセルカの泣きそうな表情を見て親としての情が働いたのかは分からないが、微かに震えている声で父……村長はこの村に深く干渉しなければ黙認してくれるらしい。
ここ以外に行く当てなど無い。
ならばその寛大な措置をありがたく受け取るべきだろう。
「……ありがとうございます。村長」
私が村長へ頭を下げるとユージオとキリトも続くように頭を下げた。それを見た村長はジンクへ持ち場に戻るように指示をすると俯き気味に去っていった。
それから私達は飛竜達を待たせている場所へ向かった。
月咬もそろそろ起きる頃だろう。
それに、整合騎士という事、あの時の戦いについて人目の多い場所で語れるわけも無いし、何よりもセルカと落ち着いて話しをしたかったから。
飛竜達の下へ戻る私達に会話は無く、すこし気まずい雰囲気が流れていた。
そしてここまで運んでくれた自分の愛竜を拘束していた鞍も、鎧も全て外した。
「さあ、行きなさい《雨縁》。お前はここまで良くやってくれました。もうお前を縛る枷はありません。好きに生きなさい」
だが、雨縁も同じく拘束を解かれていた飛竜ですらまるで動こうとしない。
ただ、こちらをその双眸な真っ直ぐに見つめていた。
「………ありがとう」
私は雨縁の頭を撫でる。
すると、雨縁は姿勢を低くする事で応えてきた。
「姉さま……そのっ」
「ええ。わかっているわ。アルス達が貴女達と別れた後、何があったのか……全てを話す」
私は手頃な場所にある岩に腰掛け、セルカに隣に座るように促す。彼女は1回だけキリトやユージオを見たが、私の隣に腰を下ろす。
そして、全てを話した。
アルス達がどんな戦いを繰り広げてきたのか、法とは結局何だったのか、それを定めた者がどんなもので、何をしようとしていたのか、それを止めたから今がある事……私達の本当の記憶について。
セルカは終始無言だった。
多分、話の展開が急過ぎてついてこれていないのだろう。無理も無い。小父様ですら全てを聞いた時はキョトンとしていたのだから。
それから少しだけ時間を置いてセルカは視線を彷徨わせた。空を見上げたり、地面を見たりした。
それから、その辺の木を切り倒してつくった丸太を形状変化術式で寝台を形成し、そこにアルスを寝かせているキリトとアルスの愛剣2本と杖1本を抱えたユージオを見た。
(月咬は……まだ寝てるわね)
ここから見えるすこし大きめの籠の中で眠る幼竜をみて数日前の事を思い出していた。まあ、起きている時のあの子はアルスにべったりなのだ。
セルカへ話す事を全て話した。
話し終えたらこの後はどうしたら良いか分からなくなり、現実逃避気味にそんな事を考えていると、横から軽い衝撃と暖かい感触を感じた。
「セルカ……?」
急に抱きついて来ていたセルカ。
どうすれば良いか迷っている私に構わずセルカは話す。
「私ね……修剣学院で姉さまを見たときね。どうすれば良いか分からなかった。ただ、姉さまは変わってしまっていたという事実だけは分かってた……」
確かにそうだろう。
記憶を取り戻した後と取り戻す前の私は別人じゃないかと思ったとキリトも言っていた。
「でもね、アルスは騎士様に連れて行かれる前に約束してくれたの……」
「……約束?」
私が聞き返すと涙目でアルスを見つめるセルカ。
「アリスは必ず取り戻す。だからルーリッドの村で待っててくれってね」
「………」
そういえばアルスと壁をよじ登っていた時にそんな話しを聞いた。
「……でも、約束した本人がこれじゃあ、喜ぶにも喜びようがないじゃない」
そう言うと私の胸に顔を埋めて静かに嗚咽を漏らし始めた。……分かる。セルカの気持ちが。
何故なら私もアルスが倒れてからの1週間は立ち直る事ができなかった。
「……」
私も一度、アルスへと視線を向ける。
キュルルルゥ!といつの間にか起きていた月咬が元気の良い鳴き声をあげながらアルスの下へとトテトテと足音を立てて駆け寄る。
……いつも寝坊助よね。
なんど声を掛けてもあと五分とかを繰り返して一度で起きやしない。
でも……。
「大丈夫よ」
「ふぇ……?」
私がセルカの頭を抱くと不安げな瞳を覗かせて見上げてくる。
「あなたは覚えてないだろうけど……私達が村にいた頃、寝ているアルスを起こそうとすると、いつもあと5分、あと10分と全く起きないのよ」
それがどうかしたの?と不思議そうに首を傾げるセルカの頭を撫でる。
「でも……起きなかった事は一度もないの。そろそろ起きるんじゃないかしら。それまで待ちましょ?起きたらまず文句を言ってやるの。人を護るだけでなく、自分自身も護れってね」
「姉さま……。ええ、そうね。起きたら文句を言わないと!」
涙目まじりなセルカの鳴き顔にすこし笑顔が戻る。
遠くからこちらの様子を伺っていたキリトとユージオも安心したように笑顔を浮かべる。
『キュル?キュルルルッ!』
抱き合う私とセルカ、こちらをみて安堵しているキリトとユージオを他所に月咬が声をあげる。それも今まで聞いた事とのない慌てたような声。
『キュルッ!キューー!』
しかし、それも気持ち良さそうな声に変わる。
不思議に思い、そちらに視線を向けるとその光景に絶句した。
「……え?」
ようやく絞りだせた声は何とも間の抜けたものだった。
月咬の柔らかい黒い藍色の毛皮と頭のまだ生えきっていない角の間を撫でるように往復する"何者かの手"。
"何者か"そんなのは決まっている。
この場にいるのは5人だけ。
私とセルカは一緒に居るし、キリトとユージオも共にいる。ならば、残っているのは………眠っている筈の……。
「アル、ス?」
私達が視線を向ける先にまだ眠気に襲われているであろう瞳を細め、上半身を起こし、頰ずりする様に顔を擦り付ける月咬を撫でるアルスがいた。
「アルス……アルスッ!」
誰より先にキリトが駆け寄る。
「キ、リト………?」
首を傾げながらキリトの名を呼ぶ彼の声が耳に入った瞬間、漸く現実が分かってきた私達は一緒にアルスに駆け寄る。だが、アルスの様子は少しおかしい。
不安げに左右を見渡し、空を見上げて、最後に私達を見た。
そして、アルスは意を決した様に口を開く。
「ここは何処で………お前達は………誰だ?」
後書き
はい。原作のキリトとの差別化する為にアルスは精神失調ではなく、記憶喪失にしました。
詳しい話はまた後日。
閲覧ありがとうございました!