アリス視点
収穫物を持って村の前に辿り着いた。
「月咬、お前はしばらくこの辺を散歩しててくれ」
『キュル!』
村に入る前にアルスが月咬に一声かけると、分かった!とでも言うようにまだ丸い爪の生えた方翼をあげて返事をして月咬は走り去った。
最初はどこかに行ったきり帰ってこないのでは?と心配したものの、アルスの口笛が聞こえると何処からともなくパタパタと走って来るので心配はないだろう。
そして村の入り口に着くと、やはり守衛に止められた。
「待て、この村に何用だ?」
「ああ。この作物を買い取って欲しくてね、どうだい?かなりいい出来だと思うんだが」
アルスは物応じせずに受け答えをする。
私は禁忌目録に違反し、拘束されて連行された身なのでどうしても村の中での受け答えはアルスかユージオ、キリトに頼りきりになってしまう。
「……確かにな。だが、お前たちがこの辺に住み着いてまだそんなに経ってない筈だが……何処からか盗んだ訳ではあるまいな」
「それこそありえないだろ、盗んだのならその時点で整合騎士が飛んで来るさ。ほら、2年前に俺やキリトとユージオでギガスシダーを切り倒したろ、それで円滑に流れ出した養分がちょうど濃厚な場所に畑を作ったみたいでね」
笑いながら言うアルスはキリト達から聞いた2年前にギガスシダーを切り倒したと言う事実を有効に活用してそれらしい理屈を並べ始めた。端から見ると自分の思い出を語る様に見えるが、彼にとっては自分に身に覚えのないことを自分の事のように語っているような感覚なのだろう。
……まあ、私にとってかなりの驚きなのはギガスシダーが本当に切り倒させていた事だ。
「成る程な、それもそうだ。そう言えばお前達は央都セントリアの修剣学院に通ってたんだろ?そこで神聖術でも習ったとかか?」
「まあ、そんなとこだ。それよりこの葡萄、1房いかがかな?」
そう言いながら葡萄を差し出すアルスを見て守衛は苦笑を浮かべた。
ちなみに「そんなとこだ」と彼が誤魔化した理由は最高位の神聖術を使えるなどの事を知られて面倒事を避けるためだ。
「ああ、ありがたく頂こう。頼むから村の中で騒ぎを起こす事だけは止めてくれよ?その場合の責任はお前達を村に入れた俺ものになっちまう」
「勿論だとも。こうして村の側に住み着く事を黙認してもらってんだ、わざわざ面倒を起こして追い出される事だけは避けたいからな」
じゃあなとお互いに片手を上げて挨拶する2人。
……とてもすんなりと村に入れるのはアルスの口の旨さだろうか?
「アリス?早く行こうぜ」
「うん、分かってるわ」
少し立ち止まった私に収穫物を持って振り返るアルス。
ただ、勢い余って彼の胸元がはためき、服の中に隠れていた紫色の水晶が一瞬だけ露出する。
……私の記憶の欠片だ。
アルスが倒れた時に彼の下に落ちて来て、そのままアルスはそれを握って眠った。そして目覚めたこの前、それが私の記憶の欠片だと聞いたようで私に返そうとしたのだが、欠片がそれを拒むように私から弾かれたのだ。
私としても少しでもアルスに自分と繋がりのある物を持っていて欲しかったので、そのままアルスに持ってて貰うことにしたのだ。
「えーと、八百屋は……あっ、あそこかな?」
「えっと……そう見たいね。それじゃ……」
私が行くわ。そう言うおうとした時、アルスはそれを遮るように言った。
「俺が行くよ。アリスはここで待ってて」
アルスは私の胸に抱えている収穫物をひょいっと持ち上げると八百屋へ歩き出した。
……分かってる。記憶を失ってもアルスは私を気遣って守ろうとしてくれている。本当はこの村に野菜などを売りに来るのもアルス1人の方が警戒されない事も。
私はアルスの傍に居ても良いのか。そんな不安が私の中に渦巻いていた。
———
アルス視点
唐突だが俺は記憶が無い。
覚えていたのはキリトと言う単語だけ。
今は俺の事を良く知る(らしい)幼馴染3人と住んでいる。
まあ、住んでいると言っても、家を二軒立てて、2人ずつに分かれて住んでいる。
最初は記憶が無くて不安だったが、アリス、キリト、ユージオに世話を焼かれ、よく遊びに来るアリスの妹のセルカのお陰で不安もだいぶ払拭されている。
今の俺にとってアリス達は大切な家族で、昔の俺を知る為の手掛かりだ。
……まあ、彼らを見た時に大切な何かな気がして、懐かしいと思ったから彼らを信じたいと思った。
「すみません、これを買い取ってくれませんか?」
「おお……これは随分と立派な実だねぇ。全部含めて……5000シアでどうだい?」
ちょっと小太りな店主に大まかな勘定をして貰ってシアを受け取る。ぶっちゃけると全て神聖術と心意で生み出し、育てた物なので原価0シアである。
シアを詰めた麻袋を片手にアリスの下へ戻ると何か気難しそうな話をしている。
「よし、調味料を買って帰るか」
「……ええ。そうね」
……アリスの声色と伝わって来る心意が彼女の何かに対する不安を伝えて来る。ただ、彼女は何かを整理して言葉を紡ごうとしているので、その言葉が紡がれるまで移動しながら待つ。
「なぁ、アレ……」
「まじかよ……」
村の中を移動していると嫌でも好奇な視線が向けられる。
「…………」
そしてアリスの表情がどんどん暗くなって行く。
こちらを見ている奴らを心意で脅しても構わないけど、それだとあまり良くない噂が出てしまうだろうから止めておく。
「ねぇ……アルス」
「ん?」
アリスがようやく口を開いた。
そして意を決するように言う。
「私……もう村に来るの辞めるわ」
「……やっぱり辛いか?」
無理もないよなと思いながら足を止め、アリスの方へ向く。だが……次に聞いた言葉はかなり予想外だった。
「だって……私といると貴方まで警戒されてしまうし、こんな風に嫌な視線を向けられるわ。記憶まで失って……その上、こんな風に見られるのは……嫌でしょ?」
「…………はぁ……………」
自分の事かと思ったら俺の事だった。
やれやれ。1発お灸を据えますか……。
「アリス……目を瞑れ」
俺はズカズカとアリスに歩み寄る。
アリスは首を傾げて不思議そうにしているだけで目を瞑らないので、構わずに彼女の額に向けて指を弾いた。……所謂デコピンである。
「あうっ!?」
流石に予想外だったのか、短い悲鳴を上げて涙目になり、俺を睨んできた。
「何するのよ……!?」
額を押さえながら必死に涙を堪えている様子を見るとやり過ぎたかな?と思うが、ひとまずそれは置いておく。
「アリス。お前の考えは的外れも良いとこだからな?」
「……え?」
「あのな、確かに俺は記憶が無いさ。確かによく分からない事が多くて困る事をあるし、不便だと思う事もある……けど……」
「けど……?」
ようやく額から手を離したアリスは相変わらず涙目だが、睨むのを止めて俺の言葉の続きを促す。だから、俺の方より少し低い位置にある彼女の華奢な肩に手を置いた。
「忘れるより、忘れられる事の方が辛いに決まってる。自意識過剰かも知れないが……俺はお前達に大切に守られている、その実感がある。それだけ記憶を失う前の俺はお前達にとって掛け替えの無い存在だったんだろう。そんな相手に忘れられるのだとしたら……俺は耐えられない」
「……ええ」
「だから、お前達には感謝してるんだ。こんな俺を守ってくれるアリス達に、こんな俺に寄り添ってくれるアリス達に……」
そう俺が言うとアリスはやっと笑いを浮かべた。
「まったく……そこは寄り添ってくれる"アリスに"って言うところじゃないかしら?」
そう言われるとどう反応したもんか……取り敢えず話を続けるか。
「まあ、それはひとまず置いといて……アリスはこんな風に見られるのは嫌でしょう?と言ったけど……それは別にどうでも良いんだ。アリスが嫌でないなら。俺は……」
「……アルス?」
「俺は……アリスと一緒にいる時間は楽しいし、落ち着くから好きなんだ。だから……嫌でなければこれからも一緒に来て欲しい……」
俺が本音を伝えきるとアリスは顔を真っ赤にしていた。
……ひょっとして長々と語り過ぎて怒らせてしまっただろうか?
———
アリス視点
「俺は……アリスと一緒にいる時間は楽しいし、落ち着くから好きなんだ。だから……嫌でなければこれからも一緒に来て欲しい……」
その一言を聞いて私は何も考えられなくなってしまった。
きっと、今の私は顔を真っ赤にしているだろう。
アルスは何かを考え始めて黙ってしまった。
……どうせこの男の事だから怒らせてしまったとか考えているのだろう。
かと言って私は私で何も言えなくなってしまっている。
「……あれ、アルスと姉さま?」
そしてちょうど良く現れたセルカに連れられて私達の家に戻る事になった。
———俺は……アリスと一緒にいる時間は楽しいし、落ち着くから好きなんだ。だから……嫌でなければこれからも一緒に来て欲しい……
その言葉がひたすらぐるぐると私の頭の中を回り続けている。
「ずるいわ……そんなの、断れるはずないじゃない」
考えれば考えるほどに顔が赤くなる。
しばらくニヤけそうになる顔を見せないように俯くことに今は全力を注ぐとしよう。
後書き
ああ……恋愛的描写はどんなに書き直しても上達しそうにない。今回からしばらくは「平和な日々」が続きます。多分ですが、アリスとアルスの絡みに……なるのかな?
閲覧ありがとうございました!