セルカに神聖術を押して初めてから結構たった。
意外なほどにすらすらと教えたことを覚えていくので、教え甲斐があってとても楽しい。
そんな俺は、いつも通りに山へ樵に。川へ洗濯に向かった友人たちとは別行動で村に野菜を売りに来た。
「お、アルスじゃねぇか。なんだ、また野菜でも取れたか?」
「まあな、ほら。差し入れ」
「おっと!いつも助かってるぜ、ありがとな!」
とまあ、このように最近では村の守衛とも顔馴染みになってきた。最近追加された日課を挙げるのなら、守衛と世間話をするようになったことか。
「そう言えば、お前らが村の外れに住み始めてからセルカがよく村の外に出るようになったんだが、あれってお前らの所に行ってるんだろ?」
「ん、そうだな。毎日来るもんだから居ないと落ち着かなくなり始めてる節まであるな」
「……やっぱ、"あいつ"に会いに行ってるのか?」
・・・あいつとは、アリスの事だろう。
やれやれ、アリスの事もよく知らなねぇでよく言うな。
「まあな。毎日毎日、仲の良い姉妹愛を見せつけられてるよ」
「……そうか」
「それに、アリスはいい娘だぜ?気配りできて、優しいし、活発で……料理は少しだけ残念な所もあるけどだいぶ上手くなってるし。努力もできる。それに美人だ」
「お、惚気話か?」
惚気……?
少し、違う気がする。
「ただの友達自慢だよ。紹介してくれって言ってもしてやらないからな?」
「別に構わねぇよ。というかだな、お前ら好き合ってるんじゃねぇのか?」
………?
「なんのこっちゃ。俺とアリスはただの……ではないか、とても大切な友人同士だ」
俺がそう言うと、守衛は「自覚ないかぁ……」と軽く頭を抱えて、呆れたような目を俺に向けてきた。
「あー……。今、村の中では大きく2つほど噂が流れてるんだが、あいつとお前に関係する方と都市伝説的な方。どっち聞きたい?」
「……俺とアリスに関する方からで」
「分かった。単刀直入に言うと、村ではお前とあいつが好き合ってるんじゃないかとか噂になってるんだよ」
……まじか。
そりゃあ、アリスは美人で可愛いし。
さっき言った通りに、気配りできて、優しいし、活発で、努力もできて、最近見ていて見惚れる事もたまにあるけどさ……。
「それは根も葉もない噂だな」
「ありゃ、否定するのか」
だって、今の俺は確実にアリスの重りになってるだろうし、そんな俺がアリスを好いた所で……。仮に受け入れられてもさらに足を引っ張る結果にしかならないだろう。
「・・・まあ、深くは聞かねぇよ」
「すまん、助かる」
俺は一呼吸置いてから別の話を聞くことにした。
「んで、さっき言ってた都市伝説てのは?」
「ああ。それが……の前に、アルス。お前、野菜とか天命平気なのか?だいぶ炎天下の下に晒しているわけだが……」
「あ……ちょっと待て」
言われて気づいて天命を確認。
……もって30分くらいか……。
流石にまずいな。
でも話も気になる。
だから、無詠唱で凍素を生み出して天命の減少を遅らせようとした。……そこでまた止まる。
目の前には守衛。流石に神聖術を無詠唱で使うのはまずいか。
「システム・コール、ジェネレイト・アイス・エレメント」
左手に凍素を発生させて、野菜達の中心にソレを設置する。
うん、これならあと2日は持つな。
「よし、じゃあ話を……ってどうしたよ?」
話の続きを催促しようとして、目を丸くしていた守衛が目に入ったので聞いてみる。
すると、再び守衛が頭を抱え始めた。
「アルス……すまん、2つ目の都市伝説的な話もやっぱお前の話だったわ」
「は?どういう意味だよ、それ」
「あのなぁ、言いたかないがここはだいぶ辺境の地にある村だ。魔女やら鬼が夜中に食いに来るとかは昔から良くある話だろ?」
「……確かに都市伝説だな。でも、それと俺になんの関係が?」
「はぁ……。ここ最近だが、セルカの神聖術の腕が急激に上がり続けている。この辺に神聖術を教えられる程の学を持ってる奴はいねぇし、もともと2年前からセルカの神聖術は村の中でも最高峰であいつに神聖術を教えられる程の腕を持つ術師なんてこの村にはいねぇ」
「えっと……つまりはセルカの神聖術が成長している。でもこの村にはあいつに教えられる程の腕を持つ術師がいない。だから、昔ながらの都市伝説に出てくる魔女とかに弟子入り、または魅入られた的な噂があるのか?」
「まあ、そういう事だ。お前の神聖術を見たらその辺の疑問も一瞬で消し飛んだがな」
「でもそこまで言うか?今の術式なんて初歩中の初歩。人間が立って、歩いて、走り出す。この流れで言う所の立つに位置する様なもんだぞ?」
「だからそれが珍しいんだよ。こんな辺鄙な村にはその初歩にすら到達できている者が少ないんだからな」
「そう言うもんか」
成る程……。
やはり何かと参考になるな、世間話と言う奴は。
今度からは気を付けよう。
「んじゃ、そろそろ行くわ」
「ほいほい。大丈夫だと思うが、面倒事は起こしてくれるなよ」
それだけ言って守衛と別れる。
あいつの名前は知らないが、踏み込み過ぎず、引き過ぎずが俺たちの関係だと暗黙の了解的なものが出来ていた。
ひとまずは、野菜を売って……セルカへの授業内容を考えるか。
ユージオやアリスも偶に混ざってくる。
なんでも、神聖語の意味が知りたいらしい。
「……そう言えば、なんで俺は神聖語なんて知ってんだろ」
キリトはともかく、俺は記憶喪失だろ?
この記憶喪失は対人関係を全て忘れる系の物で、それ以外の知識は残ってるとかキリトから説明を受けたが……。神聖語って常識とか知識でどうにかなるものなのかな?
「・・・ま、いいか」
考えれば考えるほどによく分からなくなってくるので、さっさと用事を済ませて帰る事にした。
後書き
いきなりですが、コラボ日程が決まりました!
8月16日です!
どうかお楽しみに!
ついでに本編についてです。
今回はアルスと守衛さんが世間話をするだけのお話でした。
一応、サブタイが「平和な日々」なもので、こんな感じの話を作って見たのですが……平和感出てました?
「・・・ま、いいか」
という事で、ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!