SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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56話 平和な日々 その8

青い空、白い雲。

俺たちの周りをぐるりと囲む木々と地面に生える草花。

近くから聞こえる川のせせらぎ。

 

「はい、アルス。あーん」

 

「いや、自分で『いいから食べる!』んぐっ!?」

 

隣に座る金色の髪を携えて太陽のような笑みを浮かべながら、俺の口に鳥の唐揚げをぶち込んでくれたのは、アリスである。

 

「あれ……美味いなこの唐揚げ。だいぶ腕を上げたじゃないか!」

 

「ふふん♪そりゃあ、貴方の隣で台所に立って結構経ったもの。技術の1つや2つくらいは盗めるわよ!」

 

俺は唐揚げを咀嚼しながら、昨日の深夜…いや、日を跨いでいたから今日か。とりあえず、アリスにとある事を提案された。

 

———

〜深夜頃〜

 

「ねぇ、アルス」

 

独り言を彼女に聞かれていた事が恥ずかしくなった俺は、そのまま寝ようとしたが、俺の髪を弄りながら彼女に声をかけられる。

 

「………なに?」

 

俺の髪を弄ってくるアリスに恥ずかしさを誤魔化すように聞き返す。その声色が少し強張っていたように感じたから。

 

「アルス……私と明日、一緒に森へ遊びに行かない?」

 

「……随分と急だなぁ」

 

———

 

という事があって、アリスと一緒に森へ遊びに来ていた。

ここでアリスが俺に言った事はおおよそ2つ。

 

1つ、俺とアリスが幼い頃に2人で森に遊びに行くという約束をした。

 

2つ、同じく子供の頃。アリスは今と同じように俺から料理の感想などを貰っていたらしく、どれくらい腕を上げたのかを改めて知って欲しいとか。

 

まあ、一つ目は記憶がなくても何とかなるが。二つ目は俺が幼い頃のアリスの料理の腕前を知らなきゃどうしようもないんじゃ……?

 

「ほら、こっちのパイも食べてみて。昔と違って1人で作れるようになったんだから!」

 

「おお……サクサクしてて美味いな。俺にはこんなに美味く作れないぞ」

 

アリスお手製のパイを頬張りながら感心する。

なにせ、森へ遊びに行くと決めたのは今日。日付が変わった直後なのだ。朝起きて台所を見ると忙しそうにこれらの料理を作っていたのでひとまず驚いたものだ。

 

料理を始めた頃はパンを焼けば真っ黒。

肉を焼けば消し炭というレベルだったが、今となってはこんなに美味く作れるようになった。

そのうち、台所は俺のテリトリーではなく、アリスのテリトリーになるかもしれない。

 

「それにしてもマジで美味いな。この短期間でここまで上達するとか、何か秘訣でもあるのか?」

 

「そうね……強いて言うなら、"愛"かしら?」

 

「はいはい、愛ね愛」

 

「結構スラスラと受け流すわよね、アルスは」

 

だって、何処と無く揶揄い半分な気がするもの。

あと、愛って言ったときのドヤ顔が可愛かったけど。

 

そんな事を考えていると、アリスが口を半開きにしてポケーとしていた。これはチャンスかと思って俺は、まだ手を付けてないパイを一切れ手に取る。

 

「ほれ、あーん!」

 

「むぐっ!?」

 

さっきのお返しとして、半開きになっていた口にパイを突っ込む。

 

「ふぁにしゅるのふぉ(何するのよ)!?」

 

「さっきのお返しの"あーん"だけど?」

 

「むぅ……」

 

若干、不機嫌そうに声を漏らしてパイをあっという間に飲み込んだアリスに睨まれる。

 

「ほら、まだあるぞ?」

 

「・・・食べる」

 

「はい、あーん」

 

「あー……ん。むぐむぐ」

 

何となく、口元までパイを運んでみても文句を言わずに口を開けてかぶりついてくるあたり、どうやら怒っているわけではなさそうだ。

 

だが、頰を膨らませてパイを齧る様子は小動物のようで可愛らしかった。

 

「それで、これからどうするよ?」

 

「んぐ。そうね、夜までには帰るって言ってあるし、ゆっくりしましょ?時間はたっぷりとあるんだし」

 

「それもそうだな」

 

俺の問いかけに、パイを飲み込んだアリスは少しだけ思案顔になって、そう言った。だから、俺も同意する。

なにせ、今食べているのは朝食なのだ。

まだまだ時間はある。

 

家の中にいる時とは違い、手持ち無沙汰にはならないだろう。

今日はいつもと違った意味でゆっくりするとしますか。

 

 

———

 

「ふぅ、食った食った!」

 

「美味しそうに食べてもられると作った甲斐があるわ。お昼も楽しみにしててね」

 

「そりゃあ、楽しみだ!」

 

心地よい満腹感とともに腹を摩る。

美味かった。美味すぎて食べ過ぎた感もあるが、残すよりはいいだろう。

 

「でも、なんというか……腹一杯になると眠くなるのはなんでだろうなぁ」

 

「さぁ?飢えを感じてないから安心するとかそう言う理由じゃないかしら」

 

「成る程ね、そりゃ納得だわ……」

 

何となく、伸びをして空を見上げる。

こうしていると、どこか懐かしい気分になる。

 

—アルス!この花綺麗じゃない?

—そうだねぇ……、お?四つ葉発見。

—嘘!?どこどこ?

—ほら、その花の後ろだよ。

 

頭がズキリと一瞬だけ痛くなり、身に覚えない。

だが、どこか懐かしくて、安心できる光景が頭に浮かんだ。

 

「よっこいしょっ!」

 

頭痛を振り切って立ち上がり、あたりを見渡す。

確かに綺麗な花も咲いていて、沢山の背の低い草達が生えている。

 

「どうしたの?急に立ち上がって」

 

「うん、綺麗な花とその近くに生えてる四つ葉でも探そうかなと思ってね。そんな感じの光景が脳裏をよぎったんだ」

 

「っ!探しましょ!何がなんでも探し出すのよ!神聖術でも心意を使ってでも見つけるわよ!!」

 

「そんなにテンション上がることか!?」

 

突如やる気を出したアリスに半ば引き摺られるようにして俺もしゃがんで、花と四つ葉を探し始めた。

 

———

 

結果から言うと、四つ葉は見つかりませんでしたとさ。

でもまあ、年甲斐もなくしゃがみ込んで四つ葉を探すのもたまにはいいかなと思った。

 

そんで、俺たちは今何をしているかと言うと……。

 

「あら、アルス。あれって魚じゃない!?」

 

「へ?どこに……」

 

川辺に来ていた。

理由としては、四つ葉探しに夢中になり過ぎてお互いに顔が土まみれになってしまったからだ。

 

そんで、顔を洗っているわけなんだが……。

 

「アリス、魚なんてどこにも『ていっ!』どわっ!?」

 

魚なんてどこにもいない。それをアリスに伝えようとした瞬間。背後からそれなりに強い力で背中を押され、俺は川の中へダイブした。

 

「な、なにするんだよアリス」

 

「あらごめんなさい、手が滑ってしまったわ!」

 

オホホホ!とわざとらしく笑う。

よろしい……ならば戦争だ!

 

「アリス後ろだ避けろ!!」

 

俺はだいぶ緊迫した声で叫ぶ。

 

「何言ってるの、ここには私たち以外誰もいないわよ?」

 

ちょっと残念な人を見る目を向けてくるアリス。

俺は彼女が全て言い終わるのを待ってから、心意の腕で彼女の背中を押した。

 

「きゃうっ!!?」

 

俺の目測道理に驚いたアリスは短い悲鳴をあげる。

だが、予想外にもアリスの驚き方が凄くて……。

 

「えっ!?ちょ、のわっ!?」

 

そのまま勢い良く川……それも俺の方向にぶっ飛んで来た。

抱き留めようとしたのだが、川底の滑りで足が滑り、押し倒されるようにすっ転んだ。

 

ザブン!と水柱が上がる。

水深は足首のちょい上くらいだが、水柱はそれなりに高く上がったよ。

 

その時。再び頭痛がした。

 

—アルス、そこに立って見なさいよ。

—へ?いや、ここ川沿いなんだけど……。

—あ!川の中で何か光ったわ!

—え!?どれ、どこだ?

—今よ!

—ぐわっ!?ビショジビショだよ……。

 

……なんでだろう。

今垣間見た光景……なんか凄く見に覚えが。

というか、今経験した気がする。

 

「あ、アルス!体を低くして!」

 

「ゴフッー?」

 

立ち上がろうとしていた所で、アリスが勢い良く体を密着させて来たもんだから、再び水飛沫が上がり、目と口と鼻に入った。

 

「敵襲か……。一体どこから……!?」

 

「んぐぐー(目と鼻がー)!」←ココからです。

 

少し踠くうちに鼻は痛いが、目の痛みは引いた。

だが、代わりに不味い状況だ。

 

「くっ!卑劣な……アルスは私が守ります!」

 

「あ、アリス。落ち着けって」←元凶です。

 

「アルス!まだ伏せてて!」

 

「くごっ!?」

 

さっきから水が容赦なく目と鼻に入ってきているが、それよりもさっきから押し付けられてるアリスの身体の感触の方が問題だった。

柔らかい……。てか、何気に口も抑えられてるもんだから、鼻と口を塞がれてるために息が出来なく……。

 

こうなると、意思表示が出来ないので、心意の腕でアリスを退かせようとするが。

 

「ひゃっ!?て、敵は透明になる奇術でも体得していると言うのか!?一体どこに……!」

 

「むぐぐ(アリスどいてくれー)!」←ココです。

 

この不毛なやり取りが30分程繰り広げられた後に、さしもの俺も気絶して、アリスがそれに気づいたのはさらに30分後の事だった。

 

———

 

あ……本当に酷い目にあった。

まさか、俺の心意の腕を敵の術と勘違いしているとは思いもしなかった。

 

気絶した俺に気づいたアリスは慌てて川から俺を出すと、既に敵の攻撃は無かったという。それに対して、「当たり前じゃん?だってそれ敵じゃなくて俺の心意の腕だもの」なんていったら本気で怒られそうだから黙っておこう。

 

「着いたわよ」

 

俺の前を歩いていたアリスが急に立ち止まる。

それに習って俺も止まると、俺たちの前には広大に広がる畑と、その奥に鎮座する、漆黒の金属を思わせる巨大な切り株があった。

 

「ここは?」

 

「昔ね、ここにはギガスシダーていうとても大きな木があったの。それを切り倒す《刻み手》ていう天職があったのだけど……その天職に着いていたのが貴方とキリト、ユージオなのよ」

 

「ギガ、スシダー……」

 

—よし!50回中10回は良い音がしたろ!?

—いいや、7回だね。誤魔化されないぞ、キリト。

—ユージオ……お前は8回だったけど、今のは確かに10回なってたぞ。

—あ、アルス!?お前はそっち側なのかいー!?

—はっはっは!そういうことだ。次はお前だぞ、アルス。

 

頭が……痛い。

でも、いい加減にこの痛みにも慣れてきた。

今のは……いや、さっきから垣間見てる光景はきっと、俺とあいつらの思い出なんだろう。

 

「「ここも……随分と変わった」」

 

「「え?」」

 

垣間見た光景に比べて木々も薙ぎ倒されて開けた空間。そこにできた畑などを見てそう呟くと、アリスの声と重なり、疑問の声を出すと、それもまた重なった。

 

「アルス、もしかして記憶が……?」

 

「・・・それらしいものを垣間見る事がさっきからちょくちょく起きてる」

 

四つ葉を探してた時も、川で遊んでた時も、そして今も。

ひょっとして、この村の近くなら……。俺はいずれ記憶を取り戻せる……?

 

「アリス、もっと昔の話をしてくれないか?」

 

「ええ。いいわよ、語り出したら止まらないから覚悟するのね」

 

「上等だ。飽きさせられるもんならやってみろ!」

 

俺の声に頷いたアリスはゆっくりと語り出した。

幼い頃の思い出を事細かく。

様々なことを。

 

話を聞けば聞くほど、昔の俺達は楽しそうで。

きっと、そんな日々が永遠に続くんだと信じていたのだろうと。今となっては切なくなるような思いを抱いて日々を過ごしていたのであろう事が伝わってくる。

 

聞いた話には、さっき垣間見た光景と合致する物もあって。

本当に自分の過去の出来事である事が分かる。

 

でも、そんな話がどこか信じられなくて。

なんとなく、自分の手を持ち上げて、見る。

 

この手が、その過去を体験した。

この身体が、それを経験した。

そして、俺達はバラバラになって。2人はベクタの迷い子として、もう1人は樵としての天職を続けて。もう1人は……騎士にさせられて。

 

「・・・・」

 

聞けば聞くほどに、俺は大切な物をなくして。

目の前の彼女や家で俺達の代わりに家事をしているであろう2人には言葉では表す事が難しい程に心配を掛けている事が分かった。

 

「大丈夫。大丈夫よ……」

 

「アリス……?」

 

見つめていた自分の右手の上に白くて細い、彼女の手が乗せられた。俺を覗き込むように見る彼女は、何処か寂しそうで……でも、俺を心配させないようにそれを押し殺そうとしていた。

 

「きっと思い出せる。例え記憶が戻らなくても私達は変わらない。だって、貴方は私達にとって、大切な幼馴染で。親友で……。私の英雄……」

 

「英雄……俺が?」

 

「ええ。先の戦いで、私は何度も貴方に救われました。あの時、あの場所、あの瞬間に貴方がいたから私は記憶を取り戻せた。貴方とあそこで再会してなければきっと、アリス・シンセシス・サーティとして今も生きていた。幼馴染達に剣を向けて、挙句に殺してしまっていた可能性もあります。それを止めてくれたのは貴方なのです」

 

……初耳だった。

アリスにそんな事があったなんて。

時々、言葉遣いがやたらめったら丁寧だったり、砕けた感じの時があるのは、それが影響しているのだろう。

 

「だから、今度は私が貴方に寄り添う番なのよ。何年経ってもいい。何年でも、私は貴方の記憶が戻るその時まで待つわ」

 

・・・何年でも、か。

俺はニヤリと笑う。

 

「そんなに待たせるつもりはねぇよ。精々、2〜3ヶ月で思い出してみせるさ」

 

俺の言葉を聞いたアリスも笑う。

 

「そこは、すぐにでもって言うところじゃないかしら?」

 

「こういう場面で見栄を張らないのが俺なのさ」

 

そう言って、俺の手に乗せられたアリスの手を握り返す。

この時。俺には一つの考えがあった。

 

「アリス。俺さ……旅に出ようと思うんだ」

 

「………そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———

〜翌日〜

 

「アルス、忘れ物は無いかい?」

 

「大丈夫だ。剣も二本あるし、杖もここにある」

 

アルスは、腰と背中に装備した剣と左手に握る杖を軽く持ち上げる。昨日、唐突に旅に出ると宣言したアルス。彼はそれを実行に移していた。

 

「大丈夫か?ハンカチあるか、ポケットティッシュはしっかり持ったか!?」

 

「ハンカチはあるな。てか、お前は俺の親か何かか!?遠足に行く子供を心配する親みたいなこと言いやがって!」

 

「俺はお前の親父気分に決まってるだろ!ユイがお前を兄と呼ぶならお前は俺の子供ダァ!」

 

「知るか!ユイってだれだ!!?」

 

「俺とアスナの娘だこのヤロォ!!」

 

「アスナって誰だ!?」

 

「俺の……彼女」

 

いや、そこまで宣言してんなら嫁と言ったらどうだ?と突っ込みを入れておこう。

 

まあ、ヘタレたキリトはさて置き。

良く晴れた早朝の朝日に照らされて、アルスは神聖術で編んだマントを羽織る。

 

「アルス、気をつけてね。怪我とかして帰ってきたら怒るから」

 

「そんな大袈裟な。軽く自分の記憶を探しに行くだけだ。そんなに時間はかからないさ」

 

アルスの旅の目的。

それは、昨日のアリスと過ごした休日で何度か垣間見た過去の景色。それを見つける事だ。

それが何かに繋がるかもしれない。

そんな予感に似た確信がアルスの中にあった。

 

「1人で大丈夫?」

 

「ああ。問題ない、これは自立の為でもあるしな」

 

アルスは1人で旅をする。

今のキリト達に対する依存を断ち切り、自分の身くらいは自分で守る為の第一歩でもあった。

 

キリト、ユージオ、セルカ。それからアリスに見送られて。アルスは歩き出す。

 

「アルスーー!」

 

「ん?」

 

歩き出したところで、キリトの声が聞こえて振り返る。

 

「ユイやアスナについて、お前が帰ってきたら教えてやる!だから、絶対無事に帰って来い!!」

 

割と大袈裟に手を振るキリトに笑みをこぼしつつ、アルスは右手を挙げる事で返事をして、踵を返して歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、この日を待って平和な日々は終わる。

アルスはこの3週間の旅で"無型の剣聖"と呼ばれた頃の自分へ向けて歩みだす為の一歩を踏み出す。

 

3週間後。アルスは出会う。

再び剣を握る為の理由と。

 

 

 

 

 

———それを教えてくれた"白い堕天使"と。




後書き

ほい、後書きです。
今回はアルスとアリスをイチャツカセヨウと考えたのですが、上手く表現かったどす。恋愛は、わたしには、ムズカシイ。


というわけで……次回予告です!

3週間の旅に出たアルスは最終日。
沢山の亜人と白い堕天使と出会う———。
そこで、彼は見つけるだろう。"剣を握る理由"を——。

という事で、次回は《コラボ回》です!
いやぁ、良かった。
『平和な日々』をどうにか終わらせることができました……。

把握していて欲しい設定としては。

・アルスが旅に出てから3週間後。

・アルスは剣を握れず、振ることが出来ない。

・アルスは記憶喪失で、アンダーワールドが現実世界と思っている。

以上です。
最後にもう一度コラボ情報を確認すると。

・投稿日時は16日の9時00分。

・投稿内容としては、番外編ではなく、ストーリーとして投稿します。

・今回コラボさせて頂く作者様の方でも同日同時刻に投稿される予定ですが、なんとあちらは、多話投稿となっております!!

・こちらでも向こうの『彼』がコラボ回を終えても登場する事があります。

私の人生初のコラボ。
どうかお楽しみ下さい。

それでは次回!
あちらの作者様と私の投稿をお楽しみに!
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