「291……292…-293……ッ!」
黒騎士との邂逅から1日。
俺は剣を振る事が出来る様になっていた。
理由は分かる。あの時、俺が抱いていた感情は——。
——恐怖だった。
体は恐怖で硬直していた。だが、勝利の白剣が一人でに奴に斬りかかった時に俺の恐怖は生への渇望に変わった。
死にたく無い。
あの時の俺の中にあったのはその感情と勝利の白剣が勝手に斬りかかった事への戸惑いだけだった。
「ふぅ……ッ!296、297、298、299っ!これで300っと」
お陰様で俺は剣を振るえている。
きっと、死にたく無いと言う恐怖が俺に剣を振る事を許したのだろう。だがそれは"覚悟"じゃない。
きっと、遠くない未来に俺はこの感覚を忘れ、再び無力になるだろう。それまでに俺は覚悟を見つけなくてはならない。何のために戦い、剣を振るのかを。
「アルス、そろそろ行くわよ?」
「分かってる、今いくよ」
キリト、ユージオ、アリス、セルカが飛竜に跨っている。
先日のエルドリエとの会話にあった人界軍に参加するためだ。
俺も彼らに習って飛竜に乗る。
2頭の飛竜に5人の人間は厳しいと思ったのだが、俺とキリト、ユージオ、アリスの神器を心意で持ってやるとまるで余裕だとアピールするように俺達を背中に乗せた。
…俺の記憶は不完全だ。
戦いで最も重要である筈の"無型の剣聖"と呼ばれた頃の記憶はほとんど戻ってないし、ユージオ達に剣を教えた事も全く思い出せていない。
剣は使える、でも剣術は使えない。何とも微妙な剣士の完成だ。
アインクラッド流、キリトがたまに口に出すソードスキルと呼ばれる奥義。それらがない俺は一体どれくらいのレベルなのだろうか。たまにユージオやキリトの打ち合いを隠れて見ていた頃の様子から考察するに、アインクラッド流は奥義の手数の多さが強みだ。それが使えないとなると……俺は剣を振り回しているだけの餓鬼に過ぎないのかもしれない。
「行きます、アルス、セルカ。しっかり掴まって!」
「了解」
「うん!」
アリスの号令で飛竜が飛び立つ。
離れ行くルーリッドの村と半年間住んでいた家を眺めながら俺の心中でとある確信があった。
この戦いの果てに俺は思い出すだろう。
取り戻すだろう、過去の自分を。
俺は心意で持ち上げている自分の愛剣2本に目を向ける。
これからこの世界の命運をかけた戦いが始まり、それに参加するというのに俺の心にあるのは。
命を掛けた戦いに対する恐れと。
言い知れぬ懐かしさだった。