俺の狙撃で数が減ったダークテリトリー側の先遣部隊が殲滅されるまでに時間はかからなかった。
飛竜に乗っての移動を終える前にはそれらも終わっており、飛竜から降りた俺達を待っていたのは様々な声だった。
異端者が何をしに来た?
反逆者め、貴様もダークテリトリーの間者であろう!?
おお、アリス様……これで人界の勝利は確実の物となった!
そんな節操のない声に呆れていると、やがて1人の中年男性がやって来た。腰に携えた無駄な装飾など一切ない鋼色の大剣。他の者とは違う騎士服などではなく、薄い青色の着物。同じく薄い青色の髪。それらを纏った男。
「よお、久し振りだな。お前さんら」
少し太い声が俺の鼓膜を叩く。
なんとなく、立ち姿や声。そして纏う心意の濃厚さがこの男はただ者ではない事を如実に物語っていた。
「小父様、ご無沙汰しています」
「いんや、嬢ちゃんらが無事で何よりだ。すまねぇな、ルーリッドからわざわざこんな所まで」
「いえ!お気になさらないで下さい!これは私が……私達が決めた事ですから!!」
・・・アリスのテンションが高い。どうやら知り合いらしい。
そんな事を考えていると、俺のコートのフードの中に入っていた月咬が俺や雨縁に甘える時の声を出して顔を覗かせる。
………お前もか。
「よく来てくれたな、嬢ちゃん。キリト、ユージオ……そしてアルス」
「まあ、この事態は俺達にも責任のある事だしな」
「そうですよ、それに僕らも平和に暮らしたいですから。その為にも争いを終わらせたいだけです」
キリトとユージオが旨を張って言う。
………何も言えねぇ。
「・・・なあ、この人……誰?」
率直な感想を述べる。
俺の隣にいたアリスに聞こえる程度の声で。
「………お前ぇさん、まさか……?」
だが、その声は意外にも目の前のオッサンにも聞こえていたらしい。聴力もとんでも無いようだ。
「小父様、そのお話は後ほど説明させていただきます。それまではどうか御内密に」
「あ、ああ。分かった。今夜、お前さんらにあてがわれる天幕に向かう、そこで説明してくれ」
「はい、分かりました。4人ともそれで良いわね?」
「「「ああ(うん)」」」
どうやら事態を飲み込めていないのは俺1人らしい。
誰か説明してくれ………。
そんな泣き言を内心で呟いてる俺をスルーして会話が進められる。再び騒めき出す節操のない声。
聞き取れる範囲を翻訳すると、アリスに向けられているのが称賛の声。俺やキリト、ユージオに向けられているのが罵詈雑言。セルカに向けられているのが戸惑いの声だった。
そんな声を聞きかねたのか、オッサンが声を出す。
「静まれ、お前達の言いたい事は分かる。だが、今は仲間だ!同じく人界を救う為に、守る為に戦う同志だ!過去の遺恨は捨てろ、前を向き、背中を預けろ、今の彼らは味方だ!」
低く響いたその声にその場の全員が静まり返る。
毅然としたその訴えに誰も反論する事なく黙る。
それだけで目の前の彼が何者なのか想像がついた。ただのオッサンをアリスがあそこまで慕うわけがない、ただのオッサンの言葉でここまで静まり返るはずがない。
事前に聞いていた情報などを繋げて答えを導く。
俺の事も把握していて、敵意を向けてこない公理教会関係者……恐らく、目の前の男こそがベルクーリ・シンセシス・ワン。整合騎士長なのだろう。
後書き
はい、とうとうアルス達が人界軍と合流しました。
これによっていよいよこの作品もクライマックスに近づいて参りました。今後の展開としては、少し『人界にて』シリーズをやった後に戦争。と言った感じです。
実は『無型の剣聖』。
ENDを2通り考えています。『正史』と『IF』の二つです。
『正史』を本編として書いた後に戦争が終わった後のアンダーワールドでの生活。そして『IF』の流れです。
まあ、ここまで計画立てて置いて失踪とかは正直、笑えないので、完結目掛けて続けますよ!
それでは閲覧ありがとうございました!
前回の回でコメント頂き、タグに『アリシゼーション編』を追加させていただきました、コメント下さってありがとうございます!