古今東西、あらゆるモノにルール……つまりは『決まり』が存在する。駆けっこなら走って1番になる。鬼ごっこなら鬼に捕まれば鬼になるか、退場する。
ならば、戦争はどうだろう。
無論、戦争には戦争なりのルールはある。
過去に様々な戦争が起きた現代では国々によって結ばれた条約、協定が存在する。これにより、ある程度の基準が産まれたわけだ。現代で言う生物兵器の禁止がその最たるものだろう。
だが、それは条約や協定ありきの話だ。
俺達が暮らすこの人界と亜人達が暮らすダークテリトリーとの間には条約はおろか協定も存在しない。
つまり、ルールなどない殺し合い。
それが、今。ファナティオによって宣言された開戦の一声とともに火蓋を落とされた戦争の本来の姿なのだ。
「……と、キリトが言ってましたとさ」
条約やら協定なら分かるが、現代ってなんだよ。
国々って、人界とダークテリトリー以外にあるのか?
などと茶々を入れたくなったが、時々なにを言ってるか分からないことがあるのは結構前から気づいていたので諦めた。
まあ、極端かつ大雑把に今の状況を説明すると……始まったわけだ。———戦争が。
この戦争の最初の犠牲者はダークテリトリーのゴブリン達だった。
騎士デュソルバートの武装完全支配術によってもたらされた業火によってこの戦いの火蓋は本当の意味で切られたのだろう。
分かっていたとは言え、戦争……それも後生で経験することはまず無いであろう規模の争いの中に自分がいるというのはなんとも不思議な気分だった。
「……アルス、大丈夫か」
「ああ、問題ない。少し考え事をしてただけだ……空間リソースの消耗が激しい。どこかで神器を発動させた者がいるようだ」
貸し与えられた飛竜に跨り、隣にいるベルクーリに返事をする。
今回の戦いで俺に与えられたのは中盤からの支援役。
現在、ベルクーリは自身の神器である時穿剣の武装完全支配術によって作られた大規模な斬撃の檻……斬撃圏を維持するのに心意をつぎ込んでいて無防備。
そんな彼を支援するのにある程度、座標と対象との距離把握能力が高い者が必要とされて、それらの力を持ち合わせている俺が抜擢されたのだ。
以前に神聖術で狙撃をした際に頭に流れて来たあの時のゴブリン達との大雑把な距離は俺の神器、黒藍の死剣や勝利の白剣の能力だったらしい。……地道ではあるが、少しづつ能力を取り戻しつつあると言う事か。
「……っ、この心意の感じは……レンリくんか」
自分の役目について考えていた時、不意に身に覚えのある心意を感じた。この前、初対面だと言うのにいきなり説教紛いのことをしてしまった相手、レンリだとすぐに分かったが、この前とは違い、はっきりとした覚悟が心意から伝わってくる。
良かった、吹っ切れたんだな。
「どうやらファナティオ、デュソルバートも奮戦しているらしい。……だが………この感じは………」
隣の彼も同じ感覚を感じ取っていたらしいが、不意に口を引き結ぶ。
「アルス。今回の戦いで重要なのは暗黒将軍の撃破じゃなそうだ」
「……?どう言う事だ」
「奴の心意が全く感じられねぇ。数日前に巨大な心意の爆発と消滅が東方から感じた。……恐らくだが、それが奴の最期だったんだろう」
「ますます分からない……。ダークテリトリーの大将はその暗黒将軍なんだろ?なら、戦争はまず起きない筈じゃ?」
「いや、逆だ。暗黒将軍……シャスターは平和的思想家じゃなかったが、憎悪や殺意で凝り固まった様な奴でもなかった。少なくとも、進んで戦争しようとは考えねぇだろう。なんなら奴は無血平和すら成し遂げてくれそう……勝手にそう期待してた程だ」
「………つまりはそのシャスターさんを殺害した奴がいる。そう言う事だな?」
「・・・あ、ああ。あの太刀筋を捩じ伏せる事の出来る様な戦士がダークテリトリーに誕生し、アイツを討ち取ったと考えるのが妥当だろう」
「………」
ベルクーリの考察を聴き、言葉を停止する。
そのシャスターさんを打ち倒せる戦士と言うのに少しだけ心当たりがあった。
黒騎士レクス。
数日前にルーリッド村に襲来したかの黒騎士。
アリスやユージオの攻撃を容易く凌ぎ、俺では全く歯が立たなかった相手。
奴の侵攻はベルクーリの考察による目測からすると、シャスターさんの死とほぼ同時期だった事が分かる。
あの瞬間移動能力があるのなら、彼を殺害した後にルーリッドへ瞬間移動も可能かもしれない。
・・・だが、この考察だと黒騎士が他の亜人達を伴って侵攻する理由が無い。瞬間移動能力がある事は確実だ、この目で見たのだから。だが、そうするとわざわざ最果ての洞窟の崩落現場から瓦礫を撤去してまで亜人達を人界へ招くよりも単独でルーリッドまで赴き、村人達を殲滅した方が圧倒的に早いだろう。村の制圧も移動の手間も、あの心意や権限値を持ってすれば可能な筈だ。
・・・それに、違和感がある。
喉に小骨が引っかかっている様な飲み下せない違和感が。
「……アルス、お前さん敬称なんて使えたのか?」
「なんだよ、藪から棒に」
もう少しで小骨が撤去できそうだったのに心底どうでもいい茶々を入れられた。
「だってよぉ、シャスターに"さん"を付けてたじゃねぇか。俺はおろか、他の面々に敬称をつけてたとこなんて見たことがなかったんだが?」
「・・・あのなぁ、俺だって目上の人を敬う気持ちくらいあるぞ?そのシャスターさんはあんたが認める程の男なんだろ?なら、敬意を払って当然だ。年取っただけで偉ぶる馬鹿を敬うつもりは一切ないが、偉大な先人を敬う程度の常識くらいは持ち合わせてるつもりだぜ?」
「……俺、お前に一度も敬称をつけられた覚えがないんだが?」
「ベルクーリさん!」
「・・・悪りぃ、忘れてくれ。お前にさん付けされると少し悪寒が……」
「……安心しろ、2度とやらねぇ」
俺も軽口を叩ける程度にはメンタル的に回復してきたらしい。その辺も狙ってか狙わずか……どちらにしろ、内心ではベルクーリに頭が下がりっぱなしだ。
「——来たか」
ベルクーリの緊張を孕んだ声に弾かれる様に顔を上げる。
これまで軽口を叩いていた温かみのある声と心意は消え、排除すべき敵を静かに見つめる騎士がそこにいた。
視界が真っ黒に染まる程に大量で大群なミニオンと呼ばれているらしい魔物達。それがベルクーリの作り上げ、維持し続けていた斬撃圏内へと侵入する。
彼は、静かに時穿剣を振り上げ———。
「———斬ッ!!!」
大上段から振りかざされる気合一閃。
それが引き金となったかの様に一瞬だけミニオン達が侵入した陽炎の檻が白く輝く。
それから時間を置かずに、
魔物達は形容しがたい絶叫をあげながら体を切り刻まれ、滝の様にそのドス黒い血液を雨の様に滴らせる。
「アルス!ここはもう大丈夫だ、お前はアリスの嬢ちゃんの援護に迎え!」
「おう!」
彼の放った絶技に言葉には出さないものの賞賛を送りつつ、指示どうりに飛竜の手綱を握りしめて、アリスがいるであろう地点へと向かった。
後書き
……いゃあ、とうとう開戦ですよ。
長かったなぁ。
シャスター……カッコいいですよねぇ。
もしもSAOのゲームがまた発売されて、それがアンダーワールドが舞台ならば彼を是非とも活躍させて欲しいです(願望)。
閲覧ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします!