SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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前書き

あけましておめでとうございます。
今年も当作品を閲覧いただき、ありがとうございます。
本編前にこの場を借りまして、新年の挨拶とさせていただきます。
どうか、今年もよろしくお願いします。


71話 互いの事情。譲れないモノ

アリスとセルカによって集められた神聖力の塊が光を反射し、圧倒的に高密度の銀の球体となって滞空している。

周囲の神聖力を感覚を巡らせて確認すると、ほとんど枯渇していることが分かる。

 

遥か彼方に見えるオーガやゴブリン達によって構成されている術者集団。そんな彼らをアリスは見据える。

その瞳は……少し、悲しそうだった。

聡く、優しい彼女の事だ。きっと気付いているのだろう。今、我々が手をかけようとしている者達は姿、形が違えど同じヒトなのだと。

 

「——咲け、花たち!エンハンス・アーマメント!」

 

それでも、彼女は止まらない。

彼女もまた、理由があってこの場にいる。

彼女曰く、『守りたい者がいる』。

故に、彼女は止まらないのだ。悲しみを背負っても、自身の信念を貫く為に———。

 

アリスの号令に従う様に彼女の握る金木犀の剣の刀身が分離し、銀の球体を押して行く。

神聖力が押し固められてその球は1回転した後にグングンと勢いを増して行く。

 

やがて、ソレが敵陣の術者たちの元へ到達する。

 

「……バースト・エレメント!」

 

その恐るべき威力を内包し、象るのに数多くの生命と時間を消費したとは思えない程に短い起動句。

彼女の唱えた術式によって、銀の球は内包する全ての神聖力を解放する。

 

まず最初に弾けんばかりの光、次に爆音を認識した。

おそらく、悲鳴をあげる間もない程の一瞬。

だが、その場にいた者たちの命を刈り取るのには十分すぎた。

 

迸る閃光が止んだころ、ゴブリン達が立っていたであろう場には夥しい量の血痕と、赤黒い血の雨が降り注いでいた。

 

「……素晴らしい心意でした」

 

ふと、いつのまにかそばに来ていたファナティオがそんな言葉をアリスにかける。・・・あっと言う間に消えて無くなった生命がなんというか……虚しかった。

 

「セルカ。無理するな、一旦は下がれ」

 

「ごめんなさい、アルス。ある程度の覚悟はしてたつもりだけど……やっばり、血はあまり……」

 

セルカの顔色が悪い。

できることなら今すぐにでも補給隊の方へと下がらせたいのだが。

 

「………っ!?」

 

不意に、押しつぶされる様な心意を感じたのでそう言う訳にもいかなくなった。

 

「・・・?」

 

セルカはキョトンと首を傾げており、周囲を見渡すが、誰も何かを感じた様な様子はない。

ファナティオはおろか、アリスですら何も感じていない様子だった。

 

・・・まさか、俺にのみ送られているのか?

 

目を瞑り、意識を集中させる。

……心意をたどる。

今なお感じ続けているこの押しつぶされる様で何かを誘っている様な心意の持ち主。その真意を探る。

 

——見つけた。

 

探ること数秒。

見つけた。この場からおおよそ500メル。北西。さっき空から見てた感じたと枯れ木の林があった筈だ。

 

「セルカ、アリス。早めに神聖術やら武装完全支配術で空間リソースを消費しとけ。向こうの奴らに利用される前にな!」

 

「ちょっと、アルス!?」

 

多分、俺を呼んでいる。

直感とかそんなものではなく、確信がある。

 

背中と腰に装備している愛剣2本が脈打つ感覚。

……そうだ、この前、この感覚に急かされる様に体を動かされ、俺はあの騎士に斬りかかったんだ。

 

背後からかけられる声を振り切って走る。

誰も連れてきてはいけない。

この先にあるであろう、その騎士と彼ら、彼女らを合わせてはいけない。確信にも似た予感があったからだ。

 

足を進める度に地面が割れる。

風を切りながら走る感覚。

普段、思いっきり身体を動かす事がない故か、未だに自分の身体能力には慣れていない。それこそ、思いっきり走ったのはルーリッドの襲撃の時だけだ。

 

「………分が悪い」

 

走りながら考えて呟く。

この先にあるのがあの男ならば分が悪いどころの騒ぎじゃない。

 

俺とあの男の各種権限は互角。つまりは向こうも最高位の権限を持っている。その上に心意も同じ。神聖術はどうか判らんが、前回と同じように剣が勝手に反応する可能性を考えると、剣技の使えない俺は神聖術を使う余裕すらなく良くて防戦一方だろう。

 

やがて、林が見えた。

枯れ果てた林。

空は赤黒く、地面は乾き、ひび割れている。

 

「・・・来たか」

 

黒騎士の短い言葉がその場に木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶︎△◀︎▶︎△◀︎

〜三人称視点 〜

 

——いた。

 

アルスは辿り着いた先で静かに佇む騎士を視認し、声を聞いた瞬間に全身に緊張を走らせる。

少し前に感じた圧迫されるような威圧感。それを更に重くしたような圧迫感にこれまで巡っていた思考が停止し、頭の中に警鐘が鳴り響く。

 

「やっぱり、俺を呼んでいたのか?」

 

そんな言葉を捻り出すことが今の彼では精一杯だった。

以前に感じた凍てつく様な殺気は感じられないが、その代わりに全てを覆さんとする覚悟の様な物を目の前の黒騎士が放つ心意から感じ取っていたからだ。

 

「そうとも。この戦場にて貴殿の力を感じた」

 

……アルスは絶句する。

何故なら、アルス自身。黒騎士の存在に気づいたのはほんの数秒前だ。それに加えて彼はこの戦争が始まってからそんなに大きく力を使ってはいない。だと言うのに目の前の男は自分の使った僅かな力を察知していたと言う。

 

(心意というか、力を読み取ることに関しては向こうが遥かに上か)

 

ますます分が悪いな、と内心で呟いて騎士に気付くと同時に脈動していた勝利の白剣に手をかける。

 

それを見届けるのと同時に騎士も自身の腰に帯びた水晶質の赤剣を抜剣する。

 

「……1つ聴きたい、黒騎士……いや、レクス。あんたは何故、あの日に俺たちを逃した。あんたの剣なら能力で俺たちを瞬殺できた筈だろ。去り際に瞬間移動したところを見るに能力が使えないというわけではない筈だ」

 

アルスは両手で柄を絞る様に握りながら数日前に騎士が名乗った名を口にしながら問う。

 

「深い意味など無い。貴殿の力は確かに危険だ。我らの脅威になり得るだろう。だか、あの場で摘むのはあまりにも味気ない。そう感じただけだ」

 

表情の見えないフルプレートの鎧の中で黒騎士レクスが苦く笑ったのを声でアルスは見逃さなかった。

 

それと同時にアルスには疑問が浮かんでは消えてを繰り返す自身の思考の回りを制御できずにいた。

ほんの数分前まで考えていた、ダークテリトリーの者達にも心があり、自分たち人界の人間と変わらない魂を持っているという確信。目の前の騎士は何故、この戦争に参加しているのか。そんな根本的な部分を思考する。

 

「あれから貴殿がどのように力をつけたか。この場で確かめるとしよう」

 

「———っ!」

 

レクスの言葉が全て耳に伝わる前にアルスの剣に圧倒的な衝撃が走る。途轍もなく重い。そうとしか形容できない程の重圧が剣を通して彼に伝わる。

 

腕の骨が軋む音を体で感じながら倒すべき相手をアルスは睨みつけて押され気味な剣を押し返す。

 

「俺だって……今日まで遊んできたわけじゃないっ!」

 

レクスが村に襲来して以降。アルスは再び剣を振れるようになった事を活かすべく、空いた時間にキリト、ユージオ、アリスの3人に基本的な剣術を教わっていたのだ。無論、そんな少ない時間で奥義……かつて自身がソードスキルと呼んでいた技を身につけることはできなかったが、この戦争に参加してから再開した後輩との約束。記憶を取り戻すという自分が立てた誓いが今のアルスを動かしていた。

 

アルスの押し返した剣が心意を纏い、纏った心意が光を帯びる。

 

「あぁぁぁぁーーっ!!」

 

気合いを込めた一太刀が黒騎士の赤剣を弾き返し、火花と心意の光を撒き散らしながらせめぎ合う。

 

レクスは弾かれた剣の勢いを殺すことなく宙を舞い、剣を軸に回転しながら大上段からの追撃を放ち、アルスはその大上段を迎え討つのではなく、赤剣の腹に剣を打ち付ける事でレクスを軸に彼の真横に回避した。

 

回避したと同時に剣を返し、今度はアルスが追撃を放つ。だが、それを予測していたのであろうレクスは着地と同時に常人離れした動きで瞬く間に体勢を整え、アルスの白剣を自身の赤剣で受け止める。

 

流れる様な斬撃の応酬が鍔迫り合いへと繋がり、剣と剣の間に火花を迸らせながら互いに以前の打ち合いと今回の打ち合いから相手の力量、余力を図っていた。

 

アルスはレクスの攻撃、防御に食らいつくのがやっとの状態だが、相手はまだ以前に見た黒剣を使ってない事、剣の能力を使用せずにいる事に対して危機感を覚えている。

 

逆に、レクスは以前の力任せな斬撃からは見違えるような着実にこちらの隙を針に糸を通す様な精密さで突いてくるアルスに驚き、同時に目の前の男を何がそこまで突き動かすのかを考えていた。

 

ほんの少しダボついた印象を受ける黒い藍色のコートを着た剣士と光が僅かに屈折する程の見事な漆黒で彩られたフルプレートの騎士の視線が交錯する。

 

互いに相手の力が微かに緩んだのを見計らって剣を弾き、警戒する姿勢をとりながら距離を取り、相手を見据える。

いつまた斬り合いが始まってもおかしくない空気の中で、剣を構えたまま、レクスが口を開く。

 

「……たしか、アルス。と言ったな。貴殿の剣技……以前のものとは思えないほどに間違えたぞ。この数日でよくぞそこまで高めたものだ」

 

「はは、お褒めに預かり光栄だよ、レクス。お前からの賛辞はこの数日で2番目に嬉しい」

 

「ほう……2番目か。貴殿の此度の成長ぶりには並々ならぬ信念があると見受けるが……成る程。その1番目とやらがその信念に繋がっているらしい」

 

「まあな、俺を待ってくれていた人や守ってくれている人達の為にも死ぬ訳にはいかないし、できるならあの人達を守りたいからな」

 

アルスは警戒を緩めることはしないが、恐らく無意識なのだろうが瞳を優しげに細める。それがレクスにどの様に映ったのかは分からない。だが、数日前に彼を守らんと力を振るった3人の若者を思い出し、『違いない』と短く零す。

 

「今度はこっちから質問がある」

 

「……答えるとは限らぬが、言うだけなら自由だ」

 

レクスの返答で一応は聴くスタンスがあると判断したアルスは自身の中で今、もっとも重要な事案を聴くことにした。

 

「単刀直入に聴くが———暗黒将軍シャスターを殺したのは誰だ。この戦争の目的は」

 

今、もっとも重要な事。

ヒトの心が云々以前にシャスターが存命ならば戦争は起こらなかった筈なのだ。ベルクーリからそう聞いたアルスは疑問だった。あの男が多大な期待を寄せる程の者が簡単に殺される筈がない。それが可能なのだとしても実現できる者は限られる。

 

そして、目の前にいる黒騎士こそがそれらを可能にする可能性を持っているかもしれない。自分の中に浮かんでは沈んでを繰り返す疑念を晴らすべくアルスは問いかける。

 

「………暗黒神ベクタ」

 

「・・・暗黒神ときたか………」

 

暗黒神ベクタ。

このアンダーワールド、ダークテリトリーにおける神であり、子供を寝かしつける時に『早く寝ないとベクタが攫いに来る』と言いつけられるような都市伝説レベルの神。恐怖の権化とも言える存在。

 

「シャスター殿は勇敢にもあの邪悪に単身。立ち向かった」

 

レクスがポツリと話の続きを話す。

まさか自分から語り出すとは思いもしなかったアルスはその話を聞き流すことが無いようにと慌てて聞き耳を立てた。

 

「あの時は……そう。人界にて最高司祭が死亡した。との情報が我らの元に入り込んだ直後だった。シャスター殿はそれを耳にした時、人界と和平を結ぶ。そう私に話していた。整合騎士長ベルクーリならば和平に応じるだろうと。だが———」

 

彼の語りは続く。

元々、レクスはシャスターの下で右腕としてその剣を振るっていたこと。整合騎士長との決闘以降、シャスターは考え方を変えたこと。その変化はとても好ましかったこと。彼の下で剣を平和の為に振るうと決意したこと。ダークテリトリー側の情勢など。

 

アルスは途中から剣を構えることを忘れ、聞き手に回ることに没頭した。人界からの視点では決して知り得ないダークテリトリー……暗黒界の事情。そして、そこに住う者達の人間性。

 

そして、語りは終盤に差し掛かる。

和平交渉を目指した直後に暗黒神ベクタを名乗る者が現れ、平和の為、反旗を翻したシャスターは敗れた。

 

……ベクタは暗黒界の人々に約束したらしい。

緑溢れる地へ誘うこと。自由に暮らすことを許すと。

 

「これが、我らの戦う理由だ」

 

その語りだけで、シャスターと言う男がいかに民を思っていたのか。黒騎士がいかにシャスターのあり方に惚れ込んでいたのか。想像するに容易かった。

 

アルスにとって、目の前の黒騎士は倒すべき相手だ。

ルーリッドの村での出会いから心のどこかでずっと考えていた相手。そんな黒騎士はおそらく元々口数は多くないのだろう。そんな彼が饒舌に物事を語る程の出来事があったのだ。そう推し量れる程度にはアルスは目の前の男を理解していた。

 

本気になれば今の自分など軽く遇らうことのできる強大な存在。そんな彼が何故、いまいち本気で自分達を排除しようとしないのか。その答えの片鱗をアルスは垣間見た気がした。

 

そんなアルスを余所にレクスは休憩は終わりだ、と言わんばかりに赤剣を彼に向ける。

 

「……これ以上を語るのは無粋か」

 

そんな言葉を残して黒騎士は残像すら残らない程の速度でアルスに向けて剣を振る。

 

「ぐっ……?!」

 

これまでの剣戟がまるでお遊びだったかのように感じる重みを帯びた剣。それはアルスを容易く押し込み、地面にクレーターを作る。

 

だが、それでも腰に刺したもう一本の黒剣を抜かない。剣の能力を使わない。そんな黒騎士が本気を出していないことは誰の目にも明らかだっただろう。単に本気を出すに足らないと言うわけではない筈だ。何故なら、レクスはルーリッドでアルスを『危険な力』と認識したのだ。ベクタの命令を遂行するのには全力で排除すべき要素がある。そんな自分を本気で殺そうとしないレクスを相手にアルスは明確な敵意を抱かずにいた。

 

(・・・誰もかれもが理由があってここにいる)

 

アルスは思い出す。

自分に合う為にこの危険な場所に着た後輩。

尊いと感じた物を守る為に来た大切な友人。

自身の務めを果たすべく指揮を執る偉大な先人。

そして、失くしたものを思い出す為にここにいる自分。

 

「……俺だって………!」

 

沈みゆく地面と剣を受ける腕にありったけの心意を込めて歯を食いしばる。

 

きっと、今自分が向き合っている黒騎士の背負うものは自分のソレよりも遥かに重く、大きい。

恐らく、黒騎士はシャスターの遺志を継ごうと戦っている。

戦争を止めることは出来なかった。ならばせめて、暗黒界の民を守る為に戦わんとしていること。

 

それに対してアルスが背負うのは自分の失われた過去のみ。

自分が何者だったのか、何を思って過ごして来たのか、キリト達とどんな日々を送っていたのか。それを思い騙せるかもしれないと言う半ば直感と私欲でこの戦場に立っている。

 

「それでも………!!」

 

剣に光が宿る。

それは、心意の光ではない。

鈍く光を放つ橙色の輝き。

 

たとえ、背負うものの大きさや重さで劣っていたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「譲れないモノがあるんだ———!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルスの叫びに呼応するように橙色の閃光が走る。

……いや、正確には閃光ではない。橙色の輝きを纏った勝利の白剣が垂直の軌道で剣を振り抜き、黒騎士を常軌を逸した力で弾き飛ばしていた。

 

——アインクラッド流奥義【バーチカル】。

 

半年前、半神人との決戦の際に失われた剣技。

かつての剣聖がいまここに、蘇ろうとしていた。




後書き

はい、あけましておめでとーございます。
新年早々に寝正月でございますよ!
いやぁ、ほんと平和が一番ですなぁ……。

はい。今回の話に関する大雑把な補足は、今回唐突に再登場した黒騎士レクスの戦う理由でしょうか。

レクスは実はシャスターの部下で、彼の和平交渉に賛成していた穏健派だったが、シャスター亡き今。戦争は回避できなかったので、せめて暗黒界を守ろうとどっかの暗黒神の駒を演じています。

もともとアルスにとってのラスボスキャラとして作ったオリキャラですが……設定やら展開を考えるうちに『うわぁ……殺したくないなぁ、このキャラ』状態になってしまって絶賛悩み中です。
いやぁ、オリキャラあるあるですよね!?
え、クラース?あぁ……そんな子もいましたねぇ(遠い目)

それはそうと、報告が大変遅れてしまいましたが、実は12月31日に『artisan』様の作品、【気怠げな修復屋】と言う作品とのコラボがありました。ええ、そうです。以前に登場した『アート』君の生みの親な作者様です!あちらの作品に話が投稿されております。戦闘なしでほのぼのとした作品がお好みの方に是非ともおススメしたい作品となっております!

それでは、話したい事も話しましたので、閲覧いただきありがとうございました。またのお越しをお待ちしています!
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