SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

78 / 103
72話 漆黒の騎士と黒藍の剣士

——この太刀筋を、俺は知っている。

 

自分と漆黒の騎士が作り出したクレーターの中心で剣を振り上げた状態で佇むアルスは今が戦闘中であることを意識してないと思える程に惚けた様子で今の光景を思い返していた。

 

まるで何かに突き動かされる様な、支えられる様な感覚で身体が勝手に動いていた。無意識のうちに宿していた橙色の輝きはもう無い。

 

けれど、ほんの一瞬でも何よりも激しい輝きを放った太刀筋は彼の閉じられた……いや、開きかけていたモノをより大きく広げるには十分だった。

 

彼の胸中に宿るものはなんだろう。

剣技を思い出せた喜び?

黒騎士を退けるに足る力への渇望?

それとも、かつて仲間達と振るい、磨きをかけ、笑って過ごしたであろう日々への万感の想い?

 

「……アインクラッド流、奥義……バーチカル」

 

去来する様々な想いを受け止めながら、震える唇でその名を紡ぐ。

 

とても、懐かしい感覚。

頭の中に、すっと靄のかかった光景が浮かぶ。

 

——空に浮かぶ、鋼鉄の城。

 

頭の中で激しいノイズが響く。

靄の中で輝きを放つ懐かしい光景。懐かしい響き。

……懐かしい"彼ら"の声。

 

「セァッ!」

 

「………っ!!」

 

いつの間にかこちらに斬りかかっていたレクスの剣を反射的に剣で受けながら、アルスは密かに眉を挟める。

いつかの日の様に頭痛がする。

頭を圧迫されるような、内側をかき乱されるような。

そんな、頭痛がする。

 

だが、頭痛が強くなるたびに膿が冴え渡るような錯覚を覚える。

背筋がゾクゾクと反応し、自然と姿勢が正される。

頭痛が彼の意識を白く染め上げるほどに激しくなる。

 

「・・・なに?」

 

レクスが声を出す。

疑問を抱いたような声ではなく、驚いたような声色。そして、彼の兜に覆い隠された瞳には自身の剣とアルスの剣が映っている。

 

火花をチラチラと飛ばしながら、互いを受け止め合っている部分は熱で赤く光っている。

だが、レクスが見ていたのはそこでは無い。

 

「…………」

 

無言で剣を支えるアルスは、どこか虚ろな瞳をしている。

けれど、そんか様子とは裏腹に剣を支え、押す力はジリジリと強くなり、レクスの剣をほんの僅かだが、少しずつ押し始めている。

 

今、彼の頭では様々な靄に霞んだ光景が浮かんでは消えている。

 

栗毛の少女が黒い剣士の手を取って歩いている。

 

野武士面の男が豪快な笑みを浮かべている。

 

スキンヘッドの大柄な男が何かを値切っている。

 

子竜を連れた少女が子竜と共に飛び跳ねている。

 

ピンク髪の少女が金槌片手に鉄を打っている。

 

金髪で緑服の妖精が剣と魔法を振るっている。

 

青髪の彼女が狙撃銃を担ぎ、親指を立てている。

 

小さな妖精が、楽しそうに飛び回っている。

 

(ああ……本当に、懐かしい)

 

名前も、顔も、その姿も朧げにしか映らない光景を思い返してアルスは心底そう感じていた。

・・・そして、また浮かんでは消える。新たな光景。

 

普段から気遣いができて頼りになる青薔薇の剣士。

 

優しくて、自分を包んでくれる金木犀の彼女。

 

明るい茶髪を揺らして自分を師事する少女。

 

記憶を無くした自分を先輩と呼んでくれる彼女。

 

真紅の髪でどこか凛とした雰囲気のある少女。

 

深い皺を刻んだ頼り甲斐のある偉大な先人。

 

………最後に、2人の顔が浮かんだ。

 

小柄で、自身の身の丈程もある長杖を片手に柔らかな笑みで鼻に小さな眼鏡をかけた幼い賢者。

 

全身真っ黒で、辛い物が好物。いつでも、どんな時でも離れたことのない。少し悪戯好きな困ったところもある。それでも、誰よりも信頼できる黒の剣士。

 

アルスの頭に彼らが浮かび上がる。

記憶の蓋が半ば開きかけている。

たった1つの斬撃で、彼は覚醒しかけている。

それ程までに、彼とアインクラッド流と呼ばれる技は切っても切り離せないものだった。

 

「ふっ……!」

 

彼は腰を落とし、自身の身体と剣が水平になるように立ち位置を変えて、剣を振り抜く。

今度は薄緑色の光が勝利の白剣を包み込み、その太刀筋を後押しする。

 

——ホリゾンタル。

 

それは、光の軌跡を残して烈風を起こしながらレクスの剣を完全に押し込む。

 

脳内がクリアになり、白昼夢でも見ているような奇妙な感覚に襲われると同時に心どこかでさまざまな単語、知識、光景が湧き上がる。

 

体が動く。

足が歩を進める。

今しがた押し込んだ倒すべき相手を打倒すべく。

 

その剣に、黒い藍色の心意を宿しながら——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わった。

レクスは本能的に感じた。

目の前の男の性質が変わる………いや、戻る瞬間を。

今しがた黒い藍色の心意を纏った剣を間一髪でそらし、自らの剣の能力で距離を取る。

 

「剣の能力………。やはり、俺の想像通りだったな」

 

全体的に脱力し、剣の鋒を地面を向けた姿勢でアルスが言う。

この男は黒騎士の持つ剣の能力について知ったような口ぶりで話していた。『あんたの剣なら能力で俺たちを瞬殺できた筈だろ』と。彼自身、アルス達の前で能力を使ったのはルーリッド襲撃時の1回のみ。それだけで、能力を看破できるだろうか。

 

「あんたの剣も、《原初の馬達》がベースだろ。名を教えてくれないか?」

 

普通は無理だ。

あの時見せた瞬間移動だけなら普通は移動系能力と捉えるだろう。だが、目の前の男は言い切った。

その理由を考えるが、レクスは自分とアルスの類似点に着眼する。

 

「………【戦炎の赤剣】、【飢餓の黒剣】」

 

「そうか、俺のは【勝利の白剣】と【黒藍の死剣】って言うんだ」

 

黒騎士の剣と目の前の剣士の剣。

あまりにも似ている4本の剣。

初めて目の前の男と対面した時、自らの剣が相手に惹かれたような錯覚を互いに覚えた。

 

「それにしても……黙示録の騎士が揃うとはなぁ。アインクラッドではホワイトライダーとペイルライダーしか持ってなかったし、こうして4本揃うとは思わなかった」

 

なぜだ、何故に目の前の男はこんなにも余裕に満ちている?

レクスの中にそんな疑問が浮上する。

つい先程まで自分に必死に喰らい付こうとしていた相手とは思えないほどに冷めている(・・・・・)

 

いや、この表現は正しくはない。

正確には、落ち着きすぎている。

 

「貴殿は何者だ」

 

胸中に浮かぶ言い知れない感覚に疑問を投げかける。

目の前の剣士に現れた謎の変化。

純白の剣に黒い藍色の光を宿し、瞳は黒い藍色ではなく、淡い碧色に染まっている。

 

「前に名乗ったろ、アルスだ」

 

短く答える。

まただ。黒騎士の中に違和感によく似た何かが過ぎる。

正確には目の前にいる剣士に、だ。

違和感があるのに違和感がない。

 

そうだ、まるで……足りない何かが埋まったかのような感覚。

 

思えば、最初から謎だった。

確かに、シャスターの思想に賛同し、余計な血を流すことを望まなかったが、何故か自分は目の前のアルスという剣士に対して甘さのようなものがあった。

 

最初、出会った時はシャスターが亡くなった直後。それで気も立っていたにもかかわらず、危険だと判断した相手を見逃した。自らの名を教え、相手の名に名を名乗らせて。

 

「っ……!」

 

短い気合いと共にアルスが消える。

頭の中に燻る自分と相手の共通点から剣の能力か?と考えるが、直感的に否定する。全く神聖力の消費を感じなかったからだ。

 

そして、背後から気配を感じて振り返りざまに剣を振る。

ギィィィィン!と金属か硝子の擦れ、削れる耳障りな音を立てながら火花が散り、剣と剣が衝突した衝撃は風となり、辺りに寂しく伸びる枯れ木達を根元から薙ぎ倒す。

 

「ぐっ…」

 

口から思わずくぐもった声が漏れる。

これまで受けて来たどんな太刀筋よりも重く、鋭い。先ほどとは明らかに動きも太刀筋も何もかもが段違いだった。

 

レクスはジリジリと地面を削り、押し込まれる中で黒い藍色の心意に目を奪われた。余りにも、その藍色が綺麗な物に感じたのだ。黒と見間違わんばかりの暗い藍色。その中に目を凝らすと輝く小さな光がポツリ、ポツリと散りばめられている。

 

かの暗黒神とよく似た色の心意。

だが、その根本が違う。

自分が畏怖し、従わざるを得ない強大な存在とよく似ているようで違う心意の色を持つ目の前の剣士に黒騎士レクスはほんの僅かに戸惑いを覚える。

 

そして、彼の中でアルスに対する評価がほんの少しだけ変化した。

アルスは倒すべき相手ではないが、底知れない力を持つ脅威ではある、と。

 

レクスは手加減を止めた。

ありったけの力を込めてアルスを突き飛ばす。

 

「どうやら、貴殿の力を見誤っていたらしい——」

 

そう言って、自分の腰に挿したもう一振りの剣を抜剣する。

 

赤と黒の魔剣が主人の眼前で佇む剣士に牙を剥く。

その魔剣達に呼応するように彼の手の中にある白い魔剣がより一層、その心意の輝きを鋭いものへと変化させる。

 

「いや、見誤ってなんかないさ。俺自身も今のこの力が不思議でしょうがない………が、なんでだろうな。色んなことが懐かしい」

 

相変わらず脱力した姿勢のアルスはどこか遠い目をして「なんで、忘れてたんだろなぁ……」と呟く。

彼自身も自分に起きた変化に戸惑っていた。

 

自分の中に湧き出す記憶。知識、力。

それらは自分の物だと確信できるし、違和感はない。

だが、不確かなものである。ハッキリとそれも確信していた。

まるで、紐の付いてない風船のように手を離したらまた失うとも強く感じている。

 

そして、"ナニかが足りない"。

自分だけにあった特権。

自分を自分たらしめていた物をまだ忘れている。

 

そして、それらの思考を互いに遮るようにレクスが開口する。

 

「どちらにせよ、互いに強大な障害であることには違いない」

 

「………だな」

 

レクスの言葉に彼も同意する。

 

せめて、自分の守れるものを守りきる為。

 

かつて、守りたかったものを思い出す為。

 

地面が抉れる音と砂埃を残してアルスとレクスが姿を消す。

・・・直後、その場に凄まじい剣戟が鳴り響く。

 

黒藍色の心意を纏う剣と赤と黒の二本の魔剣が何度も激しくぶつかり合い、衝撃波と共に心意の渦を巻き起こす。

その力の奔流はこの戦場にいる者全てが感じ取れる程に強大で鋭かった。

 

尋常ならざる速度、人離れした腕力、そして互いに譲れない心意がぶつかり合って彼らの周囲の地形を変えて行く。

 

剣戟は地面だけでなく、空中からも鳴り出した。

剣がぶつかっているであろう場所は空間が歪み、爆風が生まれる。

 

剣戟は何度も何度も続く。

互いに限界など知らぬと言わんばかりに。

響く、響く、響く——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2人は力を出し切る。

 

「くっ……はっ………!」

 

「ぐぅ……!まだ………!」

 

斬撃の応酬が100を超えたころ、互いを弾き飛ばした衝撃で激しく地面に打ち付けられる。

肩で息をしながら剣を杖代わりに震える膝に鞭打ちながら立ち上がる。

 

最早、排除すべきとかしなくても良いとか。

生まれた土地の差で、相手も自分と同じヒトだとか。

 

そんなややこしい思考は頭から消え失せていた。

ただ、目の前の男を越えなければならない。

そんな本能にも似た自分の内側の叫びに従っていた。

 

「おおおおぉぉぉおーーーッ!!」

 

いち早く態勢を整え、剣を構えていたアルスが雄叫びを上げながら剣を構え、振り上げ、一気に振り下ろす。

………だが、それは彼自身にも見覚えのない技だった。

体が勝手に動く。アインクラッド流や他の奥義と同じ感覚。だが、その"構え"を彼は知らない。剣は今まで見たことのない速度と光を放って真っ直ぐに黒騎士に襲い掛かる。

 

使い手自身も身に覚えのない技。

それを防ぐことが出来なかったレクスはその漆黒の鎧にその一太刀を浴びる。

 

「———がっ………!?」

 

短い悲鳴の割に、その衝撃は凄まじかった。

まるで猛スピードで飛翔する飛竜と正面からぶつかった様な衝撃と痛み。それをレクスが受けたと同時に——。

 

——彼の鎧は砕け散った(・・・・・)

 

「な、に……」

 

それを発したのはどちらだったか。

1つ言えるのは黒騎士の鎧が"完全に"砕け散っていたのだ。

その胴を覆っていた部位も、頭を覆っていたヘルメットですら。

 

アルスの目の前に、濃い緑色の髪を持った二十代後半と推測できる青年が鎧の中から現れた。

 

唐突な出来事にアルスは思考を停止しかけるが、自分のやるべき事を思い出し、悲鳴をあげる身体を引きずって騎士の前に立ち、剣を高く構え、その首へと振り下ろす。

 

漆黒の鎧を纏っていた騎士には避ける術も抵抗する術も残っていなかった。斬り付けられた際に、両手の剣は手から離れてしまった。身体もロクに動かない。

 

そんな剣士と騎士の決着。

満身創痍になった倒すべき相手に剣士の刃が無情にも振り下ろされる———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——が、その首を断つ寸前で、剣がピタリと止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶︎△◀︎▶︎△◀︎

〜 アルス 視点 〜

 

自分の中に様々な物が浮上する。

身に覚えのない経験、光景、人物。

だが、それらは自分の記憶なのだと何故か胸を張れた。

 

……そうだ、ルーリッドでエルドリエが来た時にこれと同じ事があった。

 

体が、勝手に動いている。

自分のの中に湧き出す様々な物に押される様に、何もかもが懐かしい感覚と、どこか、懐かしい単語を並べる自分の口。

 

あの時もそうだった。

 

だからこそ解る。

これは一時的な物なのだと。

すぐに忘れてしまう。

 

だからこそ、覚えているうちに終わらせようと思った。

人界の側に立つ者として、目の前の騎士を殺せば戦況は大きく変わるだろう。ダークテリトリーの側を滅ぼす。それで戦争は終わる。同じヒト同士、争ってしまうのは自然だ。どちらかが滅んでしまうのもまた仕方ない。ならば、守りたい人達がいる人界を守る為に行動すべきだ。

 

かつて、アドミニストレータを打倒し、カーディナルと1つになった管理者として、そうすべきだと。頭の中で理屈がならべられる。

 

戦争が終われば、キリト達に忘れててごめんと謝れる。

ロニエにこんなとこまで来てくれてありがとうと言える。

アリスと過去について語り合うことができる。

 

目の前で跪き、肩で息をするレクスに剣を振り下ろす。

せめて、ここまで戦った相手に苦痛を与えない様、一刀でその首を跳ねるつもりで振り下ろした。

 

—アルス……この世界を頼んだぞ……—

 

瞬間、カーディナルの最期の言葉が脳裏をよぎった。

勝利の白剣がレクスの首、数ミリ上で静止する。

 

かつて、カーディナルと統合し、1つになった俺にはカーディナルがどんな思いで戦ってきたのか、その心境が流れ込んできた。彼女がこの世界をどれだけ憂い、戦ったのかを、俺は知っている。

 

——本当に、この男を殺し、ダークテリトリーの側を滅ぼすことが俺にこの世界を託した彼女の望む事なのか?

 

そんなノイズにも似た思考が走った時。

今まで胸の中に浮かんでいたあらゆるものが音を立てて消えていった。

 

思い出した経験も、光景も、懐かしい奴らのことも。

 

残ったのはほんの少しの情報だけ。これも時期に消えるだろう。

白昼夢を見ていたような不確かな感覚は消滅して、クリアだった思考が今の様々な状況に対する考えや今後についての考えでごった返し始める。

 

不意に、意識が薄れ、視点がズレ始める。

 

「……行け」

 

一言、勝利の白剣を鞘に収めながら言う。

 

「なんのつもりだ、慈悲など……」

 

「慈悲じゃない、借りを返しただけだ。初めて会った時、あんたは俺を見逃した。だから、俺もそうする」

 

目の前の騎士は俺と同じくまともに動かないであろう体で俺を見据え、生き恥だとでも言わんばかりに睨みつける。

そろそろ意識も朦朧としてきたので、手早くレクスを退散させる為に、1つの提案をする。

 

「これで納得がいかないのであれば、1つ。賭けをしよう」

 

「……賭け、だと?」

 

「そうだ。俺もあんたも互いに一勝一敗。次こそ決着を付ける。そんで、負けた奴が勝者の命令をなんでも1つ聞く。それでどうだ?」

 

「それを受ける利点が無い。さっさと殺せ」

 

強情な奴だ。

心の底でそう思った。

だから、何が何でも引いてもらう。

今、さっきまでの感覚でまだ微かに覚えている情報を有利に活用するとしよう。

 

「なら、こっちからしてやれるのは人界の土地の一部譲渡だ」

 

「………なんだと?」

 

「戦争の勝敗に関わらず、次の戦いでお前が俺に勝ったのならこの条件を飲もう」

 

「貴様になんの権利があってそんな口を叩く?」

 

「権利ならあるさ、なんたって……俺は、現最高司祭だからな」

 

「——な」

 

レクスが言葉を詰まらせる。

当たり前だ、俺もアリス達から伝え聞いただけで、さっきまでの感覚がなければ深く考えもしなかったことだから。

 

数秒前まで殺し合っていた相手が実は敵陣営で最も打倒すべき相手だと知ったのだから、驚かない筈がない。

 

実際には最高司祭というのも、他に候補がいないし、何より、最高司祭の1人であるカーディナルと融合したから。という理由で名乗っているので正式に襲名したわけじゃない。が、嘘は言ってないだろう。

……もっとも、土地の譲渡に関してはベルクーリに事後報告せねばならないが。

 

「無論、俺が勝てばお前は戦争の勝敗に関わらず人界の土地を手に入れる機会は失われ、代わりに俺の命令を1つ聞くはめになるが……どうする?」

 

戦争に勝てばこの賭けは関係ないが、もしもの保険としては申し分ないだろ?と視線に込めてレクスを見つめる。

 

俺の思考がどこまで理解されたかは知らないが、奴は——。

 

「よかろう……」

 

と小さく頷いた。

 

「交渉成立だな」

 

取り敢えず、現段階では敵意がないことをアピールする為にレクスを立ち上がらせようと手を伸ばすが。

 

「必要ない。1人で立てる」

 

と、拒まれてしまった。

……当たり前か。

 

「・・・次こそは、勝つ。手加減も、遠慮もしない。一切の慈悲も躊躇もなく、貴殿を討ち果たす」

 

「こちらもそのつもりだ。目的の為なら手段は選ばないさ」

 

そう、こちらとしても狙いはある。

さっさと目の前の騎士にご退場願いたいのもそうだが、俺がレクスに対して何が何でも命令したいことができた。

 

「…………1つ、言っておく」

 

立ち上がり、立ち去るかと思ったらこちらに振り向いて、レクスは語りかけてきた。

 

「かの暗黒神は心意を喰らう。魂を……喰らうのだ」

 

それが、何を指しているのか。

ピンと来なかった。比喩なのか、直接的な意味なのか。

だが、まぁ……。

 

「ご忠告どーも。出会ったら気をつけるさ」

 

簡単にそう返す。

レクスは最後まで聞いていたのかは分からないが、音も無くその場から立ち去っていた。

 

ここで俺も限界が訪れ、倒れる。

先程から感じていた視界のズレがさらに酷くなり、吐き気がする。世界が周り、自分がくるくると回っているかのような錯覚まで感じ始める。

 

そして、俺は意識を失った。

 

次に目が覚めた時。

俺を待っていたのは涙を浮かべているロニエの顔。

そして、アリスから1つの事実が伝えられる。

 

——エルドリエが戦死したという報告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶︎△◀︎▶︎△◀︎

〜 ??? 〜

 

時刻は少し遡り、黒騎士レクスとアルスが激しい斬撃の応酬を繰り広げていた頃。

この2人の心意がこの戦場中に爆発的に広まっていたことで、彼らを知る者達は皆、2人が本気で戦っている事を敏感に感じ取っていた。

 

「……HA!」

 

そんな中で、フードを被り、邪悪な笑みを浮かべる1人の男がいた。

 

「この気配、忘れちゃいねぇ……こんな所でまた会えるとはなぁ、無型野郎………!HAHA!」

 

その笑みは狂っている。としか表現しようがないだろう。

そんな狂った男が、剣戟が鳴り響く空を見上げて嗤っていた。

 




はぁーい後書き始めさせてもらいまぁーす!(ディアベル風)

いやぁ、長かった(ど直球)。
割とアレもコレもと詰め込んでたら長くなってしまいました。
皆さん的にもっと区切って短い方が読みやすいとかありますか?よろしければ感想がてらに一言、「長い」とか「短い」とかいれてもらえると嬉しいです。


今回は、アルスとレクスの戦いに一時的な決着。そしてアルスが覚醒しかけるが結局、完全覚醒できなかった感じです。
アルスの一時的な覚醒に関しては【59話 来訪者】の時と同じく、アルス自身、その時何を言っているか自分自身でもよく分からないが、自分が何を言っていたのかは覚えてる。みたいな感じです。要するに寝惚けてる感じですね。
アルスの最後に使った鎧を破壊した技も一応はソードスキルです。もっとも、掘り下げたことを言うのはまだまだ先になりそうですが……どうかお楽しみに!

書いてて思ったのはレクスの「さっさと殺せ」これって『くっ殺』ですよね!いやぁ、妄想が捗r……ゲフンゲフン!
ちなみに鎧が壊れて出てきたレクス本体は全裸じゃありません。しっかり服を着てます。

最後に出てきた人物はどこのぷーさんなんでしょうねぇ。
まぁ、この作品だと彼は真っ黒黒助よりもアルスにご執心な感じです。


はい。閲覧ありがとうございまっす。
次回もどうかおたのしみにー!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。