SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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73話 狂人

アルスとレクスが放つ心意。

その流れや規模を補給隊の護衛として後方にいたユージオもそれを感じ取った数多い内の1人だった。

 

記憶を失ってからこれまでの生活でアルスがここまでの心意を見せたことはない。それこそ、半年前のアドミニストレータとの戦い以来だろうか。

 

「……今度こそ、僕も彼を助けるんだっ!」

 

あの時の戦いで、ユージオは青薔薇の剣と一体となり、ソードゴーレムを撃破した。しかし、その直後にアドミニストレータの手によって上半身と下半身に真っ二つにされると言う重傷……いや、死傷を負った。

 

それを人智の及ばない術で助けたのがカーディナルと一つなった直後のアルスだった。

そして、その彼ともう1人の幼馴染である、キリトは絶技の応酬を繰り広げ、とうとうアドミニストレータに勝利した。

 

だが、代償は大きく、アルスは記憶を失い。キリトはどこかアルスに過保護になっていた。

実を言うと、この戦いにアルスを連れてくる事を一番反対したのはアリスではなく、キリトだった。

 

……ユージオはどこかで後悔を感じていた。

かの最高司祭に死傷を食らわされるまでアルスやキリトを忘れていた事。最後の戦いをあの2人に任せてしまった事。今でも偶に思う。あの時に自分を含めた3人……いや、アリスも含めた4人で戦っていたのなら、結末も少しは変わったのではないか、と。

 

子供の頃、アリスを連れて行かれる時に何も出来なかった時と同じくらい強い後悔をした。

 

だからこそ、ユージオはこの半年の生活で出来る限り修行をしていた。アルスが家事、アリスが洗濯をしている間に、キリトと樵を手伝いながら、アインクラッド流を学び直し、心意の修行をしてきた。

 

結果的に、アリスも洗濯を行いながら空いた時間に心意の修行をしていたらしく。アルスを除いたメンバーは公理教会での戦いから実力を上げていた。

 

「フィゼル、リネル。ここをお願いしていいかな」

 

自分の横に控え、同じく補給隊の護衛をしていた見習い騎士の2人に声をかける。2人とも、半年前の戦いで出会った子達だ。

 

「はい、お任せ下さい」

 

「アルスさんの下に向かうんですよね?」

 

その問いに首を縦に振って返事をする。

……彼とこの2人に接点は無かった筈だが、まぁ。深く考えるのはよそう。

 

青薔薇の剣を鞘に収めてアルスの力を感じた方向にユージオは身体を傾ける。だが、出発はしない。足を踏み出す直前にこちらに駆けてくる2人分の足音を聞いたからだ。

 

「ティーゼ、ロニエ。どうかしたのかい?」

 

視界に収めた赤い髪の少女と焦げ茶色の髪をした少女に問いかける。……答えは分かっているが。

 

「私達も連れて行って下さい」

 

「戦闘面でお役に立つことは難しいかもしれませんが、先輩の手当てくらいならできます」

 

ユージオは後輩達の真っ直ぐな双眸に見つめられて考える。

たしかに、彼女達は強くなった。だが、自分達の戦闘について来れる程ではない。

 

(そして、いま。アルスが戦ってるのはこの前の………)

 

ルーリッドでアルスとアリスに襲い掛かった黒騎士。それがアルスの相手なのだと何となく悟る。

流れてくる心意の感じからして、実力は互角。

今のアルスにそんな力があるとは考えにくいが、もしかしたら彼が勝つ可能性と負ける可能性がある以上、最悪の事態を想定して動いた方がいいだろう。

 

「分かった。2人は僕の後から来てくれ。アルスが戦ってるのはかなりの強敵だ。もしもの場合は僕が引きつけるからアルスを頼むよ」

 

ユージオの瞳が鋭くなる。

その目はいつかのように半ば自己犠牲にも似た覚悟を宿していた時と似ている。だが、本質的には近い。あの時の彼は友と生きるこの世界を救いたいと言う気持ちだった。そして、今は友と生きたいと言う気持ちがある。だが、死ぬ気はない。アルスを助けてきっちり自分も生き残る。そんな覚悟を感じさせる瞳をしていた。

 

「「………はいっ」

 

ロニエとティーゼが声を揃えて返事をする。

2人とも、ユージオの強い覚悟を感じ取っていたからだ。

 

3人は走り出す。

1人は友を救い、共に生きるため。

1人は己の敬愛する者を守るため。

1人は己の親友と敬愛する者の力となるため。

 

彼は走る。その中で、心意の衝突が唐突に終わりを告げた。

だが、ユージオの中には確信がある。アルスは死んでいない。

だから走り続ける。

 

しばらく走ると荒れ果てた場所に出た。

地面は抉れ、枯れ木は薙ぎ倒され、よく見ると地面には一際大きな凹みがある。きっと、この場で2人の剣士が斬り合っていたのだろう。

 

「先輩……。どこに………!」

 

ロニエは辺りを見回し、アルスの姿を探し求める。

ユージオも周囲を確認する。

 

「ダメよロニエ、キリト先輩とアルス先輩が言ってたじゃない。視覚の情報にだけ囚われちゃダメだって」

 

ティーゼの諭すような声にロニエはごめん。と零し、瞳を閉じて足を止める。その様子から、彼女が精神統一をしているのは見て取れた。それだけで、半年前よりも大分成長したことが分かる。かつての彼女なら闇雲にアルスを探し回った筈だ。

 

ユージオはそんな後輩達の成長に頼もしさを覚えつつ、自分もティーゼの言を実行する。

 

目を瞑り、この場にあるさまざまな情報を視覚に頼らずに音や匂い。流れてくる心意から読み取る。

 

 

——……今にも途切れそうなか細い呼吸の音を聞いた。それら、風か何かで草が揺れるような音。

 

 

ユージオは一旦、精神統一を止める。

 

「ロニエ、ティーゼ。アルスはここから15メル先の地面の凹みで倒れてるみたいだ。彼を頼むよ」

 

「「はいっ!」」

 

視界にアルスが映らないことから視界に入らない場所。そして、この場にあるのはこの無数の凹みのみ。だから、2人もなんとなくそれが分かっていたのか、アルスの居場所も何となく察しはついていたのだろう。力強く返事をしてロニエは全力で、ティーゼはそれを追うように小さく駆け出した。

 

ユージオはそれを見届けると、精神統一を再開する。

先程、アルスの呼吸だけでなく、わずかに聞こえた枯れた草を掻き分ける音を聞いた。最初は風が草を揺らしているだけと思ったが、改めて精神を統一して音を聞く。

………また聞こえた。

 

彼は目を開き、足元を見る。

土は全く動いていない。ダークテリトリーの土は荒れており、水分を全く含んでいない。風が吹いているなら、土埃なりが舞う筈だ。

つまり、今しがた聞こえたのは風が枯れた草を揺らす音ではない。

 

「そこにいる人、居るのは分かってる。大人しく出てくるんだ」

 

無しに帯びた青薔薇の剣を抜剣して枯れた草むらに向け、声を出す。彼の握るその剣はその属性である、氷の冷気を薄っすらと纏い、その周囲の空気は霜が掛かっている。

それは、半年前の戦いからいかに成長したのかを物語っていた。

 

「ah……?テメェ、気付いてやがったのか」

 

「僕の親友達が視界の情報にだけ囚われちゃダメだって。教えてくれたからね」

 

「HA!随分と懐かしいこと言いやがる……。やっぱ、ここから感じてた気配は無型野郎のものであってたみてぇだなぁ」

 

「………無型?」

 

ユージオの目の前に現れたボロいマントを羽織った男性。

彼と短く言葉を交わして、聞き覚えのある単語を耳にした。

 

——"無型"

 

キリトとアルスが何度かそれを口にしていた。

 

「お前は、彼の知り合いなのかい?」

 

もしもの事を考えてアルスの名を出さずに尋ねる。

だが、相手がアルスの事を知っていた場合。目の前の人物は自分の親友2人と自分が離れていた空白期間を知る人物ということになる。

 

12歳の頃に詳しい経緯は覚えていないが、キリトとアルスはユージオの前から去った。そして、数年後。約2年前にベクタの迷い子として目の前に現れた。空白の5年間。もしやその空白期間を知り得るかも知れない相手を攻撃すべきか、と彼は思案する。

 

「あぁ?……そうだなぁ、アルスと俺はぁ、友人だ」

 

約2年の付き合いだがなぁ、と笑いを零す目の前の男にユージオは半ば生理的な嫌悪感を覚えた。明らかな邪悪を孕んだ狂った笑い顔。それはかつてのライオス、ウンベール、クラースを彷彿とさせた。

 

一瞬でもこの男を気遣い掛けた自分に自重の笑みを零し、ユージオは威圧目的で構える程度だった青薔薇の剣を本格的な戦闘に入れるように構える。

 

「少し、質問を変えるよ。アルスに何の用だい?」

 

「何の用だぁ?寝ぼけた事聞いたんじゃねぇよ。あの無型野郎は俺のもんだ。さっさとどくってんなら向こうの女共と見逃してやらぁ。うせな」

 

……無型。

キリトはアルスを"無型の剣聖"と呼んだことがあった。

そしてアルスも無型の剣聖を名乗ったことがあった。

きっと、それは自分の知らないアルスの一面なのだろう。

 

「それはこっちのセリフだ。引くなら追わないよ」

 

ユージオが言い終わると同時にボロマントの男はその包丁にも似た短刀を逆手に構えて彼に襲い掛かる。

それを予め予測はしていたのでユージオは慌てる事なく、その剣を受け止める。

 

だが、その整合騎士にも追従出来そうな速度に驚く。

どうやらダークテリトリーの中でも高い権限の高い戦士であることには変わらないらしい。

 

戦いを長引かせるのは得策じゃない。

そう判断した彼は奥義を発動させる。

 

赤の光が青薔薇の剣に宿り、ユージオの身体を動かす。

受け止めてる短剣を右から押し切り、左から相手に斬りつけ、剣を返し、右上に斬りあげる。

 

「——シャープネイル。ソードスキルか。これまた懐かしいもんをだしてくるなぁ、おい」

 

だが、それは躱された。

押し切った筈の剣はいつの間にか右手から左手に移されており、その剣で左からの薙ぎ払いを受け流し、右下からの斬りあげを反らした。

 

「それに今の太刀筋、あの黒の剣士サマに似てやがる。無型に二刀流が揃ってやがんのか……おもしれぇ!」

 

どこまでも狂気的な笑み。

それは一周回って真っ直ぐな物に見え始めていた。

怒りが一周回って呆れになるとはこれに似た現象なのだろう。

 

「it's show time!」

 

「くっ……、咲け、青薔薇ッ!」

 

狂気の男と青薔薇の剣士の戦いが始まろうとしていた。




後書き

はい、いつもの後書きです。
今回はぷーさんとユーちゃんの出会いと衝突ですね。
実は裏で鍛えていたユーちゃんは一体どれくらいの実力なんだろ〜(すッとぼけ)。

そしてちゃっかりアドミニストレータと同格扱いされるレクス。
まあ、原作だと特に見せ場のなかったぷーさんのアンダーワールドアバターにも特殊な能力を持たせて、ユーちゃんを活躍させたいと言うのが今の心境っす。

次回、決着!
と言うわけで閲覧ありがとうございます!
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