SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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75話 閃光の少女

「アスナ……?」

 

キリトの喉から掠れた声が出る。

それも仕方ないだろう。なにせ、彼にとって彼女との再会は実に2年ぶりだ。半年前にカセドラルの最上階で聞いた現実の音声。その中で聞こえた微かな彼女の声は、あの時のキリトにとって気にしていられる余裕がなかった。

 

彼はこのアンダーワールドで過ごす中で、現実での生活や仲間達を忘れた事は無い。だが、こちらにしか居ない仲間達が居るのも事実。アルスが一人の人間として確立しているのはこのアンダーワールドのみ。それらの要因がキリトに現実に帰ろうと言う思考を強固なものにいまひとつ出来ずにいたのだ。

 

「アスナ………アスナ!!」

 

半ばうわ言のように天に立ち、大地に渓谷を作り出すという神業を披露した少女の名を呼ぶ。

 

2年と半年間もの間、押し込めていた現実への思いと想い人への焦がれが爆発しているのだろう。彼の声は切羽詰まっており、余裕が無いことがうかがい知ることができる。

 

「ふぇ………、キ、キリトくん………!?」

 

そんな彼に名前を呼ばれた彼女もまた、最初は目の前にある人物が本物であるのか。そんな思考を瞬時に巡らせたが、想い人を見間違うはずもなく、数秒前まで放っていた神々しさをどこかに置き忘れたかのような年相応の少女らしい笑みを浮かべてキリトの下に降り立ち、抱きついた。

 

それから数分間。二人はこれまでの会えなかった時間を埋めるかのように抱擁していたという。

 

▶︎△◀︎▶︎△◀︎

〜 30分後 〜

 

黒の剣士と閃光の少女の再会から30分程経った。

ダークテリトリーと人界の戦争は一時休戦状態。互いに睨みを利かせ、夜間の行動を規制しあっている状況が続いていた。

 

それでもまだ夕暮れ。夜間の行動を規制しあっている。と言っても、閃光の少女……アスナが渓谷を作り出したという事実が互いの軍に衝撃を走らせ、互いに手を止めざるを得ない状況になり、この隙に兵士達の士気を夜間の間に回復させる。その為に夜間に向けて互いの動きを制止しあっているのが正しい現状だ。

 

そんな中、人界軍の空気はあまり良ろしいくは無かった。

突如として天に現れ、人外の技を持って渓谷を作り上げた謎の少女と彼女を連れて拠点に帰って来た元反逆者のキリト。それらを見た教会関係者が2人に対してある種の警戒と緊張感を持つのは当然だった。

 

事が事なだけに、一般の兵達の前で込み入った話をするわけにはいかず、アスナとキリトを出迎えたベルクーリ、ファナティオ、アリス。その他整合騎士複数名。そこにユージオを加えたメンバーで話し合いの場を持つことになったのだ。

 

ロニエ、ティーゼ、セルカは天幕で治療を受け、眠っているアルスの警護兼看病。延いては彼が目を覚ました際の連絡役をしている為、ここにはいない。

 

しかし、互いの情報を出し惜しみし、その流通を妨げることは何よりの愚策と判断したのか、重々しい口調でアスナの口が開かれた。

 

そして、そこから信じ難い現実を突きつけられる。

このアンダーワールドの外に現実……リアルワールドという世界がある事。アスナ、キリト、アルスはその世界から来たという事。今の戦争はリアルワールド人がアリスを狙ってこの世界に侵入し、引き起こしたものである事。

 

全てが予想斜め上だった。

特に、アリスとユージオにとっては。

 

「そんな……アルスとキリトが別の世界の住人だったなんて………」

 

「すまない、ユージオ。アリス。今まで騙してた」

 

「い、いえ。何となく、2人に底知れぬ事情があるのは半年前の出来事で察しはついていましたから………。でも、情報が多すぎて混乱してきたわ」

 

12歳の頃まで一緒にルーリッドの村で過ごし、2年前に再会した。その後の時間はほとんど離れずに一緒に生活してきたユージオ。

 

同じく村で過ごし、半年前にユージオと2人のことを思い出したアリス。

 

彼と彼女の中に疑問がふつふつと沸き上がる。

だが、あまりにも気になることが多過ぎて、決定的な質問をできずにいた。

 

あまりにも突拍子のない話に空気がより一層重くなるのを周囲で聞いたベルクーリを筆頭とした騎士達は感じていた。

 

思ったよりも単純な話ではないのだ。生まれた頃から一緒に過ごしてきた。その確かな記憶があるアリスとユージオにとって、それらの記憶に一瞬でも疑いを向かなければならない程に予想斜め上。

 

アリスとユージオが何か話を切り出そうと言葉を必死に選んでいる中、天幕に一つの声が入る。

 

「騎士長殿、アルス先輩がお目覚めになりました」

 

「ん、分かった」

 

天幕の外から聞こえたティーゼのアルスが意識を取り戻したことを伝える声にベルクーリは返事をすると、アリス、アスナ、キリト、ユージオの4人に向き直り、口を開く。

 

「4人に込み入った事情があるのはよくわかった。だが、それはお前さんらだけの事情じゃねぇんだろ?聞いてた話だとアルスも当事者の1人みてぇだし、場所を変えようぜ?」

 

その一言でその場の空気が一気に軽くなった気がする。当事者4人を除くと、それは正に鶴の一声だった。

 

ひとまずは場所をアルスの天幕に移す。

アルス、アリス、アスナ、キリト、ユージオ、ロニエ、ティーゼ、セルカ。この8人と念の為、事のあらましを把握すべく、ベルクーリとファナティオが彼の天幕で話をする事になった。

 

血のように真っ赤な夕暮れが満面を照らす中、やはりアリスとユージオ。そしてキリトの表情は決して晴れやかなものでは無かった。




後書き

はい、後書きです。
今回はキリトとアスナが再会。そして、騎士達に実は外の世界というものが存在すると語り、アリスとユージオに自分達の正体を語る話でした。


外の世界について語る部分は大幅に省略しましたが、原作読んでもこの場面の騎士達の心境は複雑だったことが想像できますね。


そして、アリスとユージオの困惑です。
そもそも、原作だとユージオはこの段階だと死んでしまってますし、アリスは記憶を取り戻してないわけですから、完全に原作とは離れた展開になるのは当然かも知れませんね。何せ、生まれてから一緒に過ごしてきた幼馴染が実は異世界人だったなんて言われた訳ですから。普通は実感は沸きませんよね……。そこまで深刻に引っ張る予定はありませんが、1〜2話に分かるかも知れません。


そして、ひとまずは今回から日常パートになります。
まあ、閑話休題とでも言いますか……。一時休戦時の戦闘が無い話が少し続きます。


キリトが記憶を失ったアルスや何も知らずに困惑しているアリスとユージオに事情を説明し終えたら、キリトの視点で番外編でも作る予定ですのでお楽しみに!

……アルス、アリス、アスナ………。この作品『あ』から始まる名前の人物が多すぎる気が………。

閲覧、ありがとうございました!

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