SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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79話 人界軍にて その5

『キュルッ!』

 

「なーんか、お前の鳴き声聞くかも久しぶりな気がするなぁ」

 

俺たちの過去、この世界の成り立ち、リアルワールドとアンダーワールド。これらの話に自分たちなりの区切りをつけた。そして、あの話し合いはお開きになったので俺は月咬の様子見がてら陣営を散歩していた。

 

「ハハッ、今のうちに聞いておけよ。こいつら飛竜は案外成長も早ぇからな。あっという間にデカくなっちまう」

 

「……んだな。コイツの親竜に顔をベロベロされてる奴が言うと言葉の重みを感じさせられるよ」

 

俺の隣で月咬の親竜、星咬に顔を舐められ続けて顔がテカってるベルクーリの言葉に苦笑を浮かべながら月咬の柔毛を堪能する。もともと月咬を探していたらこのおっさんがもしかしてここじゃねぇか?と、星咬のところに連れてきてくれた事がいまの状況の始まりである。

 

こうして2頭の飛竜を見ていると色や体格に違いはあれど、血の繋がりのある親子であることを何となく実感させる。

 

俺が抱いている月咬が翼をはためかせながら抜け出し、星咬に戯れ付きに向かう。いつも通りにキュルッ!と少し高い声で鳴き声を上げながら飛び来る月咬を迎える星咬はどこか楽しげに首を持ち上げ、喉を鳴らしていた。

 

「……そうだ、例え仮想の現実であっても——この営みが偽物である訳がない」

 

竜の親子の微笑ましいやりとりを眺めているうちに先程までの話し合いを思い出し、改めて自分の覚悟を固める。

 

不思議と少し前までの悲観的思考が巡ることは無かった。たぶん、俺の中で何かが変わった……いや、変わりつつある事を不意に自覚する。

 

「・・・なんか、変わったなお前」

 

「おっさんもそう思うか?」

 

「ああ。変わった……つうよりも、戻ったってのかなぁ。なんて言うか、覇気が違う」

 

「フッ……それも心意か?」

 

目の前の騎士長と会話をする度に釘を刺される心意の力。なんとなくおっさんの言いたいことが分かり、多少揶揄うように含みを込めた笑みを浮かべてみる。

 

「そうだ、この軍に参加してからのお前は以前あった時に比べて別人のように弱々しかった」

 

「んで、今はどうだ?」

 

「初めて会った頃に……いや、あの頃と比べてると少し、覇気の方向性が違う印象があるな」

 

無精髭を蓄えた顎を軽く撫でながら腰に刺した鋼色の無骨な大剣に肘を乗せて腕を組むベルクーリ。彼は考えるように静かに唸り、合点がいったようにハッとした表情になり、笑いながら言った。

 

「そうだ、あの頃に比べてお前の瞳から感じる何かを渇望する見てぇな意思を感じなくなった。生き急いでる感が無くなったな」

 

「生き急いでる感……ねぇ」

 

今度はこっちが考える。

なんとなく、当時の俺が何を無意識のうちに考えていたのかを思い至る。

 

「ベルクーリ。あんたもさっきの話聞いてたろ?」

 

「……お前ぇさんとキリトの過去話か?」

 

「んだ」

 

考えてますよ、的なポーズを継続したままでベルクーリが目を細めた。あの場で事情聴取をしていた彼ならば少し察しはついているのだろうが、自分の口でその答えを紡ぐ。

 

「多分、あんたと出会った時の俺は生き急いでたんだと思う。あんたの言うようにな。アインクラッドでの経験、その世界から出た後に感じた自分の肉体が無い感覚。きっと、当時の俺は生きてる実感が欲しかったんだ」

 

そう、生きてる実感が欲しかったんだ。

自分はアインクラッドで死んだと考えていた。でも、意識はあり、キリトの体に同居する形で生き長らえ、自分の自由になる肉体の感覚がなかったんだ。

 

「そして、俺はこの世界に来た。2年前の出来事だ。そこで俺はキリトから離れた。久しぶりに手に入れた自分の自由に使える体、血液の巡る感覚、体温を発し、感じる感覚。それが無意識のうちに貪欲さを産んだんだろう」

 

おそらく自分の体ではない事を理由に何処かで抑圧されていた部分が気付かないうちに出ていたのだ。

 

「肉体を得て欲が出始めたら止められなくなった俺の欲は無意識下で生きている実感ってヤツを渇望したんだ。血が流れる感触、汗が頬を伝う様な熱気、息を詰まらせる様な疲労感。それが欲しくてしょうがなかったんだ。………多分だがな」

 

当時の俺の考えは分かっても気持ちは分からない。何故ならそらの経験をした俺はもう既に過去のもので、今の俺はそんな経験を知らない。

 

「試したかったんだろうぜ、ようやく手に入れた自分の体で、無型の剣聖と呼ばれていた自分の力が整合騎士長ベルクーリにどこまで通じるのか、な。それがあんたの感じた何かを渇望する様な意思って奴の正体だ」

 

「……成る程な」

 

ベルクーリは深く息を吐いた。

彼も色々と思うことはあるのだろう。100年以上もこの人界を守護してきて、いきなりこの世界の真相を告げられたのだ。俺以上に感じるものはあるはずだ。

 

そんな空気が数分続いた後に自分の主人の様子が変わったことに気がついたのか月咬と戯れていた星咬が首を傾げてベルクーリを見やる。それにつられる様に月咬も俺の方へと羽ばたいて飛び付いて来た。

 

おっさんはさっきと同じように星咬に顔をベロベロと舐められながら思い返すように語りかけて来た。

 

「だが、そんじゃあ。お前にあの頃に近い覇気が戻ったのは何故だ?あんな話を聞いてよぉ、普通は逆に覇気がなくならねぇか?」

 

「確かにな」

 

もっともな反応に思わずまた苦笑してしまうが、その問い掛けに対する答えは既に自分の中に出ていた。

 

「ほら、俺は記憶ねぇから。だからいくら考えても昔の俺が感じてた感覚は理解できねぇし。実感がないから深く考える必要はないからかぁ。深く考えても俺の場合は悪い方に考え過ぎちまうから考えない方が正解だろうしな」

 

事実、自分でも考えれば考えるほどにマイナスな方向に考えてその負のスパイラルから抜け出せなくなり、面倒な性格だな、と考えてしまうのでそう言った面倒事は戦後に考えれば良いさ。

 

それに………。

 

「また憶測だが、今の俺が大して悲観してないのはあんたらやアリス、ユージオ……セルカにロニエ、ティーゼ。この世界のみんなの存在が大きいかな」

 

「俺達がか?なんでまた」

 

「記憶があった頃の俺は、リアルワールド人のキリトとも違ければ、アインクラッドで生まれた俺はこの世界の中で生まれたユージオ達とも違う……一種の疎外感があったんだろ。だから悲観癖があったんだ。周りとは違うってな、どーせ、『俺は幽霊みたいなもんだ』ってボヤいてたんだろ」

 

「アルス、お前……案外自分に容赦ないのな」

 

「そりゃ、自分だからな。周りが俺を甘やかしてくれるもんだから、自分で自分に厳しくいかねぇとそれこそ成長どころか前を向いて歩くなんて世迷い言になっちまうよ」

 

俺の胸の中でなんの話?と首を傾げている月咬の頭を揉むように撫でながら強く抱き抱える。

 

「ま、そんな疎外感感じてた昔と違って俺はそんな物は一切感じちゃいない。寧ろ同胞が多くて心強さの方が勝ってるのさ」

 

「はぁ……、記憶が無い事が逆に良い方に転がったって訳か……。あ、悪りぃ。お前にとっては記憶が無いのは……」

 

「気にすんな、俺も同じことを考えてた。まさか記憶が無い事に救われる日が来るとわなぁ……」

 

自分でもこんな日が来るとは思いもしなかった。これまでコンプレックスでしかなかった記憶障害。これが今の俺をマイナスの思考に向かわせることを阻止していた。

 

何事にも意味はあり、理由はある。

その言葉を実感させられる出来事だった。

 

「………」

 

抱いていた月咬に頰を舐められ始め、くすぐったさに頰を緩ませていると隣でベルクーリが口を半開きに、目を見開いていた状態で俺を見ていた。

 

「ん、どうした?」

 

「・・・いや、前言撤回するぜ。アルス、お前は変わったよ、本当にな」

 

「おう、褒め言葉だと受け取っとくぜ」

 

「ああ……お前を後継者に考えた俺は間違っちゃいなかったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん!?」

 

隣から出た謎の言葉に思わず月咬を撫でる手が凍り付く。

 

いや、比喩でもなんでもなく、無意識に神聖術でも発動させて凍素でも発生させたんじゃ無いかってくらいに指先がピクリとも動かなくなった。

 

全身凍て付いたかのような感触が体を支配する中で辛うじて首を首を動かして正気の沙汰とは思えない言葉を発したおっさんを凝視する。

 

「なぁ、聞き間違えか?後継者とか聞こえた気がしたんだが」

 

「あれ、聞いてなかったか?後継者だぜ?」

 

「いや、誰が」

 

「アルスが」

 

「……誰の?」

 

「俺の、だな」

 

・・・あ、そうか。聞き間違えだよな。

だって、整合騎士でベルクーリの次に実力があるのはファナティオかアリスだ。たぶん、名前が似てるから聞き間違えたんだ。アルスじゃなくてアリスだろ。

 

「実は影で色々と準備も進めてたんだぜ?お前に月咬を託すことをキリトに伝えて貰ったのも、ロニエの嬢ちゃんがこの軍に参加するのを認めたのだって、将来的にお前の右腕になり得る人材を育成する為だしな」

 

月咬、ロニエ。この2つの単語が出て来たことで聞き間違えでもなんでも無い事が確定してしまいましたとさ。

 

いや、ロニエだけなら確定しなかった。彼女は聡明な娘であることは分かる。だから将来的に高位に立つ人間の右腕になり得る人材であることに異論ない。

 

だが、そこに月咬が加わると事情が変わる。

目が覚めてからずっと考え続けて来た月咬が自分に託された理由が後継と認めた証のようなものならある程度の理解が出来る。

 

「いやぁ、お前さんと出会った時から予感はしてたんだ。んで、色々と準備も進めてた矢先に記憶を無くした状態でお前が現れてよ?一時は内心かなり焦ったが、これなら心配なさそうで安心だ」

 

「………おい」

 

なにやら今後の未来図のようなものを語り始めたベルクーリはまるで夢でも語るように熱心に語りかけてくる。

 

ただ、いくら記憶が無かったとは言え、そんな大事な事を当事者の俺に黙ってた事に何気にイライラして来た。

 

「あとは色々と保険も掛けとかないとなぁ。ずっと黙ってたが、実はお前もこの時穿剣を扱えるからよ、俺に何かあったらコイツを振るようになるのはお前だからな?それから………」

 

「縁起の悪いこと言ってんじゃねぇぞ!?それから後継者云々の大事な話はもっと早く言えや、このクソオヤジ!!!」

 

「く、クソオヤジっ!??」

 

こっちに来てからや、これまでアリスや絵本の中で描かれていた英雄ベルクーリの堅実で堅強、誰もに頼られ、誰もが憧れる伝説の剣士というイメージがガラガラと音を立てて崩れ、割と適当で動き出したら止まらない猪突猛進なおっさん。という印象が立ち上がった昼下がりであった。

 

 

 




後書き

はい、後書きです。

もうかれこれ一年以上前に投稿したアルスとベルクーリの初対面時にベルクーリが感じた『何かを渇望する姿勢』に対する伏線がやっと回収されました。

アルスも元気になってます。
ベルクーリもどこか残念な近所のおじさんに……。

閲覧ありがとうございました。
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