ベルクーリと飛竜たちと戯れてから数時間。
そろそろいい時間なので自分の天幕に戻ろうと月咬に相変わらず顔面をレロレロされながら歩いていた。
「クソオヤジ……、クソオヤジかぁ………」
・・・俺の隣でブツブツと俯きながら呟いてるベルクーリ。自分で言うのもなんだが、まさか自分の一言がここまで彼を抉るとは思いもしなかった。
「悪かった、悪かったって。まさかあんたがそこまで気にしてるとは思わなかったんだ」
「いやぁ……、気にしてないぜ。そうだ、俺はもう世間一般的にはジジイ扱いされてもおかしくねぇ歳だ。気分ばかりが若い気でいたが実際は……ブツブツ」
おーい、だれかこのおっさんどうにかしてくれ。
俺の声が聞こえてないどころか変な世界にトリップしつつある。こうなっては俺の手に負えない。というか、どうすればいいのか皆目検討もつかん。
しかも、目からハイライトが消えてやがる。こりゃあ、半ば無意識的に動いてるな。
そうこう言ってる間に天幕の前に来た。
……こうなったら、ここに放置していこうか。
「ただいまぁー」
天幕の中から人の声がしていたのでとりあえず一声かけて中に入る。別段変わったことがない天幕の中でこのおっさんの対処策を考えようと思っていた。
・・・うん、思ってたんだが……。
「アルスは俺のだぁぁぁぁぁーー!!」
「・・・」
なにやら変な奇声を上げているキリトがいた。
いや、ガチでなんなの。
いきなり俺のもの発言を受けた俺はどうすればいい……?
「……あ、アルス」
件のキリトと目が合った。やべぇ、気不味い。
「えっと………」
気不味さのあまり思考がまとまらず、何を言っていいのか分からなくなり、思わず言葉が詰まる。
「し、失礼しましたああぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!?」
「誤解だあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!!」
その場で回れ右をして走り出す俺と何かを弁明しているキリトの叫び声が一時停戦につき常時警戒態勢を取っている人界軍の拠点に響き渡った。
▶︎△◀︎▶︎△◀︎
〜 キリト視点 〜
何故、俺があんな叫び声を上げていたのか。その原因は十数分前まで遡る……。
アルスが俺の相棒として歩みたいと言ってくれたこと。それが嬉しくて、ここまで来たのだから、まだ語っていない俺とアイツの冒険を話したい。聞いた欲しいと思った俺は再びアルスの天幕を訪れていた。
「アルス〜、いるのかぁ?」
声を掛けるが返事がない。
中に入ってみると誰もいなかった。一応、俺たちはアルスがまた倒れた時にアイツの救護が出来るように自由入室権を与えられているので、中に入って待つ事にした。
ちなみに、自由入室権を与えられているのはさっきの話し合いの場にいたメンバー全員だ。とは言っても、ファナティオが自主的にこの部屋を訪れることは考えられないが。だって、アイツ。アルスと繋がらないし。
「あら、キリト」
「ん、アリス、ロニエ」
天幕の中で手持ち無沙汰気味に待っていると、アリスとロニエが入ってきた。
この2人が何の用だろう?と考えはしたが、この場所に来る時点で目的なんて一つしかないと思い至った。
「アルスなら外出してるみたいだぜ?」
「先輩……、大人しくしてくださいとあれほど言ったのに」
「無駄よ、ロニエさん。アルスはそう言って大人しくしてた試しがないわ」
頭が痛そうに頭を抱えるロニエとそれに便乗してやれやれ、とポーズをとるアリス。
確かに、アルスは大人しくしろ。そんな命令というか、頼みを聞くような奴じゃない。
そんな様子を2人もそれぞれ経験しているからか、どこか諦めたようにしみじみと互いに経験した事を語り出した。
「半年前の戦いもね、最高司祭に洗脳されて、キリトがそれを何とか解いたんだけど……体に力が入らないみたいだったから大人しく待ってるように言ったのに剣の記憶まで解放して私達を追って来たのよ?」
「えっ……、そっちでもそんな事をしてたんですか!?」
少女の驚愕の声に彼女は頷きながら、その無茶に助けられた事は事実なのだけどね。と語る。
だが、数秒空けてアリスが不意に顔をしかめて少し引き攣った笑みを浮かべて恐る恐る尋ねる。
「あの、ロニエさん……。気のせいかしら、今。"そっちでも"って言わなかったかしら?」
「はい、実は先輩はこっちでも……と言うか、学生時代は学生時代で無茶をしてるんですよ……」
ロニエの言葉を聞いたアリスがこちらを怪訝そうに見てくる。なんで止めないのよ、と目で語り掛けてくるのを感じた。
いや、だってあいつも偶には暴れたいだろうし。生き生きしてるアルスを見たかったと言うか……。
「キィーリィートォー?」
「はいっ!私が悪うございました〜っ!!」
可愛げなジト目の割に背中に見え隠れするゴゴゴッ!と言う地鳴りの効果音。それに思わず自分の非というか、欲に従った代償のようなものを感じてしまい萎縮した。
「ゴホン、それで。ロニエさん……、アルスは修剣学院では何をしたの?」
「はい……、アリス様は先輩の黒藍の死剣とあの白い剣。勝利の白剣はご存知ですよね?」
「ええ。・・・ん?そう言えば、あの剣は私が修剣学院にキリトとユージオを迎えに言った時には既に持ってたわね……。青薔薇の剣は最果ての洞窟、夜空の剣はギガスシダー。あら?」
じゃあ、あの2振りの剣はどこから来たの?とキョトンとした仕草で首を傾げたアリス。・・・そう言えば、あの藍色の騎士との戦いについて教えるの忘れてた。
そんな思考が脳裏を過ぎたと同時にアリスからジトーっと、した視線を向けられ、思わず明後日の方向を見やり口笛を吹く。
そんな俺たちのやり取りに気付いてか気付かずか、ロニエは目を細めて語り始める。
「あの日の出来事は唐突でした。いつものように専用寮の外で鍛錬してたら青い馬と白い馬が空から駆けてきて、人の形になったと思ったら剣を向けてくるんですもん」
「えっと……、本当に唐突だったのね」
「はい。そんな唐突な出来事についていけなかったんですけど、先輩がここは俺に任せろってその場で戦い始めたんです。………白金樫の木剣で」
ロニエの口からあの日の事が語られる。本当に急だったあの日の出来事は今でも衝撃的だった。
そして、今度はアリスが頭を抱えた。
恐らく、白金樫の木剣……つまりは木刀でその得体の知れない敵と戦うという無茶をやらかした事に頭を抱えているのだろう。
多分、聡明なアリスはその後、戦いがどうなったのか、騎士がどうなったのかを何となく悟ってはいるのだろう。だからこんなにも深く項垂れているのだ。
最後の方に俺の当時まだ名前が無かった夜空の剣を貸した事でアルスは勝った。
でも、それまでの短くない時間を後に優先度50もの数値を誇る剣になる存在と木刀で渡り合った事はやはり異常と言うべきか、流石は相棒と喜ぶべきか……。
「「はぁ……」」
2人揃ってため息を吐いた。
この場にアルスがいたのなら、間違いなくショックを受けただろうな。
「お互いに苦労するわね……、ロニエさん」
「はい……、アリス様も」
やめてあげてくれ。
この場にアルスいたら不貞寝するぞ!?
「まぁ、でも。それがあの方の美徳でもありますよね」
「ええ、そうね。無茶と分かっていても逃げる事なく初めの一歩を踏み出せるのがアルスの良いところでもあるわ」
「分かります。でも、時々凄く卑屈な考え方をして……、どうにか支えになりたくてもなかなか弱音を目の前で吐いてくれないんですよね」
「そうなのよ……。見ていて無理しているのが分かりやすいのに、頼ろうとしてくれないし。それに、こっちが気が付いて対処しても"気を使わせてしまった"ってさらに落ち込むのよね」
「やっぱり、アリス様の前でもそうなんですね。修剣学院でもそういう所が本当に多くて……」
「まったく、信頼してくれてるのは分かるのに、基本的に溜め込むからやきもきしちゃうわ」
アリスとロニエがアルスの良い点と悪い点を挙げてはエピソード付きで色んな感想を述べていく。
アルスがこんなにも思われていることを1相棒として喜ばしいと共に、離れていくようで寂しさのようなものもあって。
それと同時に、このままだと修羅場になりかねないんじゃ?という懸念も出てくる。
「アルスー、入るよー!」
「し、失礼します」
「アルス〜、姉さま来てない?」
「キリトくーん、アルスくーん?」
んで、続々とこの割と広めな天幕の中に知り合いが流れ込んでくる。
アルスを訪ねに来たユージオ。
そのユージオに付いて来たであろう、ティーゼ。
アリスの行方を聞きに来たセルカ。
俺とアルスを探しに来たアスナ。
ああ、もう。
大集合ですが、そーですか。
「あれ、キリト。それに、アリスにロニエも」
「よう、ユーちゃん。アルスなら留守だぜ?」
アルスなら……あ、留守だぜ?
口に出しそうになって、寸前で止めた。絶対に白い目で見られるだろうし、考えた直後に死にたくなった。
「ユーちゃん言うな。それで……、これはどういう状況?」
そんな俺の考えなど欠片も知らないユージオが今なお繰り広げられているアリスとロニエのアルス談議を見て一瞬停止した。
さて、この状況を簡単に言うのなら、何だろう。
「嵐の前の静けさ?」
「なんだい、それ」
これからこの談議がヒートアップして口論になりかねないから選んだ言葉で、割と的を射てると思うのだが、ユーちゃんには通じなかったらしい。
「ああ……、あのロニエが騎士様と対等に……!!」
ティーゼは半ば興奮気味にロニエを応援している。
「姉さま……、でも、ロニエは親友……!私、この状況でどうすればいいの!?」
うん、この場で最も複雑な立場にいるもんね。キミ。セルカにとって、アルスは姉の想い人で。親友の想い人でもあるわけだ。+アルス自体はセルカの神聖術の師匠でもあるわけで……。ある意味で当人達以上に大変かも知れない。
「アルスくん……、もしかしてアンダーワールドではキリトくんみたいに行く先々で女の子と仲良くなるような人になっちゃったのっ!?」
「ちょーっと待てアスナ!なんだよ俺みたいにって!?」
最愛の恋人から来た思わぬ右ストレート。それが俺のボディにクリーンヒットした。
「はぁ……」
えぇー、ため息吐かれたよ。
なんか理不尽じゃないか?
直球的に理不尽だと感じた。
そんな矢先に未だに続く2人のやりとりが耳に入る。
「ロニエさん、貴女。アルスを良く見てるのね」
「はい……、アリス様。私、負けつもりはありません」
「フッ……。愚問ね、私も負けるつもりは無いわ。アルスは誰にも渡さないわよ」
「わ、私の先輩だもん……!」
うん、尻すぼみにならない辺りで半年前からロニエがどれだけ成長したのか見て取れる。だが、このままだと本当に修羅場になりかねない。
どうするか。
・・・よし、決めた。
「アルスは俺のだぁぁぁぁぁーー!!」
そう、自分もこの戦乱に参戦することで空気を有耶無耶にしようと言う作戦を実行した時に。
「・・・」
いつのまにか天幕に帰って来たアルスが絶句して俺を見ていた。
これが、俺がアルスに生んでしまった誤解の真相である。これのアリスとロニエがアルス談議をしていた部分を本人の前なので少し暈して説明した。
▶︎△◀︎▶︎△◀︎
〜 アルス視点 〜
「うん、何が何だか分からないけど大体分かった」
「いや、結局どっちだよ」
「両方だ」
だって、なんか話の所々に何かが抜けてる気がして。話の粗筋は分かるけど、詳細が分からないみたいな歯の間に小骨が挟まったような感覚になる。
「……ハッ!?俺は一体なにを」
「ん、お帰り」
意識がどこかにトリップしていたベルクーリが戻ってきた。
これで、天幕の中で考えていた今後の課題の一つが無くなった。
「何か……思いつめていたような気がしたんだが」
「いや、何もなかったぜ。月咬はいつ頃俺を乗せて飛べるようになるのかの見積もりを聞いてたんだ」
うん、どんな人物にも地雷があると言うことを大いに学んだ。出来ればもう踏みたく無いものである。
月咬も空気を読んでくれたのか、翼を広げることで答えてくれた。
うん、うちの子は賢い。
俺の愛竜は本当に俺の考えを察してくれている節があるので、やはり可愛がってしまう。
『キュルッ、キュルルっーー!』
「よしよし、やっぱりお前は可愛い。大きくなったらあっちこっちに行こうな〜」
バサバサと翼を動かす黒い藍色の子竜。俺の服装の色と相まって一体化しているように見えなくも無いが、この柔らかい羽毛の色もまた俺に愛着を抱かせていた。
「・・・アリス様。ひょっとして私達にとって最大限に警戒すべき相手は………」
「ロニエさん、ひとまず考えないようにしておきましょう。月咬には何の罪もないわ」
俺と月咬がイチャイチャしていると、ロニエとアリスが何かをヒソヒソ話し始めた。
「あれ、そういえばユージオ達は何でここに?」
キリトの話の中で出て来ていない、ユージオとアスナがここに来た経緯が未だに分かっていない。
「あ、そうそう。ここに来ればアルスとキリトは揃ってるだろうからね。もっと2人の冒険を聞きたいと思ったんだ」
「私はキリトくんがいるならアルスくんの近くかなって思ったの」
うん、ユージオの目的は理解できる。俺も実際にもっと聞きたいから。
でも、アスナの要件は……、なんというか。俺とキリトのハッピーセット的イメージがどれだけ強いのかを思わず考えざるを得なかった。
「おっ、アルスとキリトの冒険譚か。実は俺も興味があってよ。前にキリトから聞いた、だんじょん?の探検を聞きてぇな」
「・・・ああっ!俺たちがこっちに合流したての時に話したあれか!」
「そうだ、ずっーと気になってたんだ」
「良いぜ、俺も最初からそのつもりでアルスに会いたかったんだ」
キリトは一つ、咳払いをして思い出話しを始めた。
彼の思い出は一時間やそこらで語り尽くされるようなものではなく。それこそ深夜まで続いた。
「どうしよう、続きが気になる」
「ええ……、そのあと何があったの?」
「ですけど、このまま聞いてると明日に響きますよね……」
俺とキリト。そしてそこに時々アスナを加えた冒険譚。またの名を珍道中とも言うが、それでも彼らにとっては新鮮だったようで……。
結果的に、俺たちはこの日。
俺の天幕にそれぞれ布団などを敷き詰め、アインクラッドでの冒険などを聞いて過ごした。
女子が同じ場所に寝ることに多少なりとも抵抗感が無かった訳ではない。ただ、村にいた頃は隣のベッドでアリスが寝てたし、大丈夫だろう。と自己暗示に近いそれを回しながらロニエとアリスに挟まれて眠ることになった。
……、流石に女子に挟まれるのは寝ずらかったです。
▶︎△◀︎▶︎△◀︎
〜 ??? 〜
アルスの天幕での語らいが終わり、その場に様々な人物が川の字になって眠っている。
「……」
しかし、まだ眠っていない者もいた。
いや、意図的に眠らず、皆が寝静まるのを待っていた者がいた。
「アルス。いざとなったら……、お前に任せるぜ」
顔に深いシワを刻んだその男は、女子2人に挟まれて寝苦しそうにうめき声を上げているアルスの元まで音を立てずに歩み寄り、彼の額に手を翳す。
「システム・コール——」
"彼"は、そのままの体勢で神聖術を唱える。その術式がなんなのか、それはまだ分からない。それこそ、この男にしか。
万が一の保険。
この男が施した術式がこの戦争の行方を定める一つの要因になる。
——確かに残る、様々な痕跡を残して。
後書き
はい、後書きです。
皆さん、お久しぶりです。
最後の更新から色々とありました。
車の免許の取得、入社式。
今は地元を離れてホテルで暮らしております。
まあ、愚痴はさて置いて。
次回から戦争再開です。
今回の話は原作のアリスとアスナの情報交換回をアルス仕様に変更したお話でした。
ハーメルンの小説執筆で書いたのではなく、スマホのメモ帳で書いていたので字数感覚があまりよくわかりませんでした(泣)。メモ帳での執筆あるあるだと信じたいです。
さぁ、いよいよ完結も近くなってきた……筈っ!
閲覧ありがとうございました、次回もお願いしますっ!