心意を張って、あたりの気配を探る。
半径30km内で起こっている状況はある程度判断出来ていた。キリト達が優位に戦い、ベルクーリ達も戦火を抑えつつ、敵を制圧している。
「……っ!?」
不意に頭痛がした。
視界が黒く染まり、思わずフラついてしまう程の激しい頭痛。それと同時に流れ込んでくる無数の心意。
一つ一つは取るに足らない大きさと力しかない心意が無数。ざっと3万程何処からともなく"発生"した。
「なんだ、これ……!?」
事態を確認すべく、遠くで起こっている事を視認できる術式を起動させて状況を把握する。比喩でもなんでもなく、押し寄せる波のようにゾロゾロと蠢く人の波が映し出され、その中の人間達が神聖語で何かを叫んでいる。"進め"とかそんな意味合いの言葉か。
不味いな、と直感的に感じる。
人界軍の総員が1人10人以上は相手にしないと殲滅出来ない軍勢が現れた。その今まさにその軍勢が少し減っている。恐らくキリトやユージオが対処しているのだろうが、いくらアイツらでも単独で15000人も倒すのは無理がある。
さあ、どうするべきか。人界軍の援護だけで手一杯な俺ではあの2人のサポートは厳しい。仮に俺がサポートに回っても人界軍の援護が手薄になり、戦線が崩壊しかねない。
それにしても一体何処から?
コマンドリストを閲覧しても人間を召喚する術式なんて存在しない。いや、そもそもこの世界にはそんなものは無いんだ。
「どうしたんですか、先輩!?」
ロニエが駆け寄ってくる。
さて、伝えるべきか黙秘すべきか。
「ロニエ、実は——」
数秒悩んだ後、俺は話す事を選択した。
決めたんだった。彼女も頼るって。また一つ、約束を破るところだった。
敵は、リアルワールドからもやってきている事。それをキリトたちが相手にしているが、全滅させるのは無理がある事。
希望的観測なんて一切ない。ただあるだけの現実を彼女に語る。
俺1人の知恵ではどうにもならない。だから、ロニエに話す。普通、こんな突拍子もなく、自分達が不利になったことを告げられたのならば取り乱すだろうが、彼女は違った。
「リアルワールドからダークテリトリーに援軍……。確かに状況は最悪かもしれません。しかし、こう考えることはできませんか?」
俺は正直、見くびっていた。
ロニエは既に数ヶ月前まで記憶をなくす前の俺が鍛えていたか弱い少女ではなく、もう安心して背中を預けられる頼もしさを持った存在へと歩みを進めていたのだ。
この後のロニエの言葉に俺が絶句する。
「もしかしたら、リアルワールドから人界への助力もあり得るのでは?と」
言葉を失う。
すっかり盲点だったからだ。
リアルワールドから人界への増援はステイシア神の権限を持ったアスナのみ。そう考えていたが、それは違うかもしれない。リアルワールドからこの世界へ侵入している者が何万単位もいるならば、あちら側での俺やキリト、アスナの仲間も駆けつけてくれるかもしれない可能性があるという事だ。
だって、敵軍に現れたあの者たち。彼らがこの世界に現れたということは、あちらの世界からこの世界に侵入する手段はあるということだからな。
・・・そして、次に感じたのは暖かな心意だった。
決して強い力を感じるわけではない。それでも暖かい心意がこの世界のこの場合に現れた。この戦場のどこかに。
波長としては穏やか。離れたこの場所から感じる心意の印象はキリトやアスナたちのものに近い。
姿を確認せずとも分かる。
いま、現れた
「ロニエ、君は凄いな」
「——私がお役に立てたのなら、嬉しいです」
呆気にとられた顔をこちらに向ける彼女の頭をなんとなく撫で、少しだけ考える。
本当にどうにかなるかもしれない。
今しがた現れたのは2人、それもリアルワールドから来た俺たちの仲間だろう。パラメータ的にはアスナと同等か。つまりはステイシア神と並ぶ権限を持つかもしれない。
それならば戦線はマシになる。
キリトやユージオに負担を掛け続けるこの状況から脱却できるかもしれない。
希望が見えてきた。
もしも、このまま戦場がこちらに有利な形になればまだ打つ手はいくらでもある。ベルクーリやシャスターさんの目指した無血平和は既に不可能。されど致命的被害の出ていないこの状況ならばお互いに不可侵の条約、もしくはレクスと約束したように
まだ実際にできてないんで分からないが、神聖術のコマンドリストの中にダークテリトリーの枯渇したこの土地を潤す効果のあるものがあるかもしれないし、それが無くてもダークテリトリーの民の心意を集結させれば土地の一部を心意で書き換える事も可能かもしれない。
そんな希望的な観測がようやく頭の中に浮かび始めた中で俺はとんでもない油断をしていた。
「……おいおい、こんなに接近してんのによぉ。このオレ様の気配に気付かねぇったぁどう言うことだぁ?」
「っ、先輩!!」
「何っ!?」
耳元で聞こえた低い男の声と俺を押し倒す形で突き飛ばしたロニエ。この二つが揃うまで気が付かなかった。
「へぇ、なかなか良い感じてるじゃねぇか。おうアルスよぉ、この女はなんだ?」
ボロボロの外套。地面にめり込む数セン上で止まった出刃庖丁のような剣。顔に入った青い刺青。少し浅黒い褐色の肌。
「すまない、ロニエ。助かった」
「いえ、それよりも……」
「・・・全く気配を感じなかった」
ロニエと立ち上がりながら、謎の男を見る。
何も感じなかった。気配も、息遣いも。
「久しぶりだなぁ、前にあった時はのびてやがったからなぁ。ちゃんと声が聞けて嬉しいぜ」
「俺を……知っている………?」
「ah?何寝ぼけた事言ってやがる、こちとらテメェのことが気になって気になって仕方なかってってのによぉ!」
「ぐっ!?」
目にも留まらぬ速さで男が駆け出し、こちらの左肩に向かって出刃庖丁をふりおろす。それを辛うじて直撃は避けたが、それでも掠めた部分から血が流れ、痛みが生まれる。
「あぁ、これだよ。これこれぇ!やっばこのアバターじゃねぇとやる気になんねぇわ!」
包丁に橙色の光が宿る。
剣の何かしらの奥義がくる。そう直感で感じた俺は勝利の白剣を引き抜き、シャープネイルを発動させる。
俺の連続剣と外套の男の
予想外の事態に二度目の絶句を迎えるが、続けて腰を下ろし、構えを取る。
「先輩っ!今の太刀筋……昨晩、ユージオ先輩がお話しした"ぷー"を名乗る男のモノと同一の物に見えました!」
「Ah……?・・・・成る程、さっきの氷の薔薇野郎の近くにいた奴か。思い出したわ」
昨日の晩………!?
それはおかしいだろ、だってその"ぷー"とか言う人物は崖の下に落ちたのではなかったか。いや、だが待て。もしも、この男がアスナ達のようにこの世界の何らかの神の力を持った姿で現れたのだとしたら。
「誰だ、お前」
「おいおい、そりゃあねぇぜ。この俺を忘れるなんてよぉ、忘れたのか?アインクラッドで散々殺しあったじゃねぇの!」
「生憎と、記憶喪失でねっ!」
再び正面から来る斬撃を受け止める。
アインクラッド。この単語が出たからには俺やキリト、アスナの関係者であることは違いない。となると、昨晩にユージオによって倒された後、なんらかの方法でこの世界に戻って来たってことか。
少し気丈に振る舞って見るものの、相手の剣の重さに内心で舌打ちをする。隠れてはいるが、よく感覚を凝らすと分かる。この男とこの包丁から流れるドス黒い心意が。
「忘れたんならまた名乗ってやんよぉ、俺はpoH!てめぇと
「そうかい、悪いが俺はノンケでね。男だったとしてもキリトかユーちゃん以外興味ねぇよ!」
「はっ!バッチリそっちの気があるじゃねぇか!」
勝利の白剣と包丁が打つかる。
俺とpoHという男の戦闘が始まった訳だが、俺はもう一つのことに気がついていなかった。
アリス。一時的に彼女の心意を感じられなくなったこと。
大きな心意が二つ、ぶつかり、二つとも消失してしまったこと。
こことは別に、離れた場所で最古の騎士と暗黒世界の皇帝が熾烈を極めた殺し合いをしていたことに——。
後書き
あー、えっーと。皆さん、お久しぶりです。
最新話を投稿するたびに言ってる気がしますが、お待たせしました。約2ヶ月ぶりくらいでしょうか………?
言い訳になってしまうのですが、リアルで色々ありまして……。
『小説書こう』→『話の内容も原作も忘れてる』→『確認しよう』→『出張中で原作手元に無い』→『出勤から労働、退勤』→『疲れる』→『小説書こう』……以下、上記の内容をループ。
を繰り返し続け、今に至ります。
仕事の昼休みなどに細々と書いてやっと今回の話が完成しました。お待ち頂いた方、本当にお待たせしました。
今回は細かな描写を省きましたが、アルスの心意感知では、アメリカなどからダークテリトリー側に、シノンとリーファが人界側に現れた所です。予定通り、彼女らの活躍を省いてしまいますが、ご容赦下さい。
前述しました通り、原作が手元に無いので今後の展開はうろ覚えの原作とオリジナルを足した構成になります。アインクラッドアバターのpoHとの遭遇もかなり前倒しした気がしますね。
次回は一旦、アルスとpoHの視点から外れて、とある2人の戦いを書く予定ですのでお楽しみに!
そして長らくお待たせしました。
投稿し始めて早2年(だったはず)。タグにヒロインを追加します。予定では個別ENDが終わってからのつもりでしたが、感想で質問を下さった方がいらっしゃったのと、ヒロインが誰なのかは読む作品を選ぶ上で何気に重視するポイントだと思ったので!
と言うわけで、タグに『ヒロイン=アリスとロニエ』を追加します!
次の投稿がいつになるかは正直、分かりませんが、これからもよろしくお願いします!
サイト自体には顔を出せるようになったので、感想や評価などをビシビシ下さい!低評価を下さる方もできれば理由などを添えてお願いします。投稿頻度に関しては努力します、話の内容などに関するコメントも本作自体に反映することは多分、最終回間近で時期的にできませんが、この作品の次から投稿する別の作品に反映できるようにします!
閲覧ありがとうございました!