SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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90話 殺人鬼の末路

「ah?叩き斬るだぁ、てめぇ何言ってんだ」

 

「これからやる事を宣言しているだけだよ」

 

「随分な口叩くじゃねぇかよ、急に強気になりやがって」

 

仇敵の言葉に苦笑する。

この殺人鬼や後輩から見れば俺が急に強気になったようにしか見えないだろう。それもそうだ、無型の剣聖との戦いも、アリスやリセリスとの邂逅も俺の精神世界での出来事なのだから。

 

でも、そっちの方が俺らしい(・・・・)

自分にできないことは割とすぐに諦め、何か打開策を思いついたら強気になる。それが俺だった。

 

「いつものことだろ」

 

過去を思い出し、自分を自覚する。

SAOのAIで、言うならばカーディナルの子供。強気なときはとことん強気で、弱気になったらなったで立ち直りが遅い。何事に置いても自分なりの結論を出して諦めることが早く、諦めた替わりに新しい策を出す。それが俺だった。

 

両手の剣に心意を込める。

ヒビ入り、刀身が割れた大剣が光に包まれて同じく光を纏ってそのフォルムすら見ることができなくなっている黒藍の死剣と一つになる。

 

かつて、ユージオが起こした物質同士の融合。アドミニストレータにも、リセリスにも出来なかった奇跡の神聖術。

 

本来なら、俺にもそんな奇跡は起こせない。

だが、黒藍の死剣(座標を操る剣)時穿剣(時を記憶する剣)ならば話は別だ。自分の本来の機能を知った今。この剣たちを自分の身体の延長として扱うことなど造作もない。

 

——やがて、刃の折れた黒藍の死剣は新たな形になっていた。

 

黒藍の死剣(ペイルライダー)本来の黒い藍色、その刃の色は鋼色。水晶と鋼が融合した剣十字の神器。

 

「てめぇ、そんな手品を隠してやがったのか」

 

「隠してた訳じゃない。だが、最初からできる事でもなかった」

 

俺の中のリセリスが言っていた、データの破損。そのデータの括りには俺の記憶だけでなく、彼女から譲渡された管理者としての権限も内在していた。

 

そのデータの膨大なデータの中に座標と時間。それらを司るプログラムも含まれていた。俺が行ったのはそのプログラムに自分のデータを介入させ、管理AI《Arusu》としての機能を自分に復旧させること。

 

黒藍の死剣と時穿剣が一つになったのは、それぞれ別のオブジェクトとして管制されていたデータを統合させたからだ。まあ、要するに二つに分けて管理するしかなかった物を俺なら二つまとめて管理できるからまとめたってとこだ。

 

「はっ、なにが言いてぇのかわかんねぇよ!」

 

片腕のない殺人鬼が雄叫びを上げて包丁をこちらに向ける。PohのアバターはSAOのモノだ。そのステータスや装備は当然ながらアインクラッドのものだろう。

 

決して相入れることのない相手だったが、その姿はとても懐かしい。……3年もの間、プレイヤーたちはあの世界に閉じ込められたわけだが、この世界の中でトップクラスのステータスを誇るであろう。俺の視力で漸く正確に捕得ることのできる程の速度で迫ってくるのだから、あの世界のトッププレイヤーたちはやっぱり化け物だったんだと実感が湧く。

 

——だが、俺とこの男では持っている能力が違う。

 

それが、Pohという殺人鬼とこの世界で管理者に成り上がったAIの命運を分けた。

 

獣の様な雄叫びを上げて突撃するボロマントの男。彼の通る軌道を断ち切る様に剣を横振りに薙ぐ。風圧なんて無い、ただヒュン。と空気を裂く音がその場に残って刃が空を切る。

 

「HAHAHA——ッ!馬鹿が、剣の使い方すら忘れたか!?」

 

「……いや、これがこの剣の正しい使い方だ(・・・・・・・・・・)

 

嘲る殺人鬼にこちらは含み笑いで返す。

ヤツは気付かない。気を取られて気付いていない。

ヤツは知らない。この世界の物が持つ記憶の力を。

 

「おい、んなスピードで突っ込んで来たら危ないぞ」

 

一応の親切心で声を掛けるが、殺人鬼は鼻で笑ってその突撃を止める素振りすら見せない。

 

そして、俺の数メートル先にある陽炎(・・・・・・・・・・)とPohの身体が重なり、次の瞬間には一つの身体が腰から上と腰から下に分断され、無様に地を転がった。

 

「——なにが……!?」

 

「能力でマウントとってるみたいでカッコ悪いけど教えてやる。俺の剣は時間と座標に干渉する(・・・・・・・・・・)。剣の属性がある以上、ただ能力を使うだけじゃ斬撃を遠くに発生させたり、当たり判定の受付時間を延長することが限界だがな」

 

「んだそれ、じゃあなにか!?お前は俺との間に斬撃を発生させて当たり判定を延長させたってのか!?」

 

「そういうことだ。だから言ったろ。危ないぞって」

 

「ざけんなっ!ふざけんじゃねぇぞ無型ァ!」

 

自分はこんな決着は望んでいない。

剣を使うなら、ソードスキルで戦え。自分と殺し合え。地面に這いずる男の眼光は衰えることなく、俺にそう視線で訴える。

 

……だが、俺がこいつに合わせてやる義理などない。

 

これが、無型の剣聖の戦い方。

 

「卑怯、とか言ってくれるなよ。てめぇも散々やったろ、似た様な事をな。俺もお前のやって来た事を卑劣とは思うが卑怯とは言わない」

 

手を変え、品を変える。

 

そんな俺の戦い方は自分の諦めの早い性格はもちろんだが、敵の土俵で戦わない。という自分なりの戦術論があってのことだった。

 

相手の土俵で争うのは勝負。

自分の土俵に持ち込むのが戦い。

 

戦闘において優先すべきは相手の土俵で持ち堪えるよりも、自分の土俵に敵を昇らせること。いかに自分の得意を相手に押し付けるかが重要なのだから。

 

「俺は、終わらねぇ……!てめぇを殺してやるまで……!!」

 

上半身だけの男はとっくに天命(HP)が尽きている筈の身体を引きずって俺の脚を掴み、右手に持っていた友切包丁(メイト・チョッパー)を振り下ろす。

 

少し、疑問に思ったがすぐにこの男を生きながらえさせているのがその禍々しい心意を纏った凶器である事を悟った。

 

その包丁を完膚なきまでに破壊するまで、この男は止まらないだろう。

 

——好都合だ。

 

「悪いな、俺はお前と殺し合うつもりは無い」

 

「ha……!つれねぇよ、アルスなぁ!」

 

振り下ろそうとしていたのはフェイント。

殺人鬼は躊躇いなく、俺の顔面目掛けて散々人を切り裂き、多くのプレイヤーの命を奪った血塗られた魔剣を投げ付ける。

 

「俺は、お前を殺さない」

 

「んだと……?」

 

「そして——お前は2度と人を殺さない」

 

「ナンセンスだな……、俺は生きてる限りお前の命を狙う。他の気に食わねぇ奴を殺す。俺が他人を殺さないなんてのはあり得ねぇんだよ!」

 

「……そうだな、悪い。俺の日本語がおかしかった。お前は他人を殺さないのではなく、殺せない(・・・・)

 

「まだ分かってねぇのか、生きてる限り俺は他人を殺し続けるぜ」

 

「ああ、知ってるさ。だから、お前は他人のいない世界に行くんだよ」

 

悪意と殺意で満ちた投擲を心意の腕で防ぎ、新生した愛剣をPohに向け、その剣に宿った2つのオブジェクトの記憶を解放する。

 

「——リリース・リコレクション」

 

詠唱は必要ない。

ただ、起動句を発音するだけで事足りる。

 

剣を向けた先。地面を這いずるPohは俺による起動句の発音と同時にその身体を包み込む黒い藍色の光によってこの座標から退去した(・・・・・・・・・・)

 

「アルス、先輩……?」

 

奴を包んでいた光が天に登る様に霧散するのを見届けていると正面から後輩が声を掛けてくる。

 

記憶が戻り、改めてその姿を見つめる。

……本当に、随分と逞しくなったものだ。身体つき的な意味合いではなく、その立ち姿や顔付き。半年前のこちらを伺う様な声色ではなく、凛とした声で俺に対する叱咤は記憶に新しい。

 

「本当に、成長した。強くなったんだな………」

 

空いてる腕でその焦げ茶の髪を携えた頭に触れる。先程、身体つきは変わってないみたいな事を言ったが、勘違いだな。身長も僅かに伸びた。

 

——さて、俺はこの子になんと言うべきだろう。

 

本当にこの子は成長した。

俺の教えに対して頷いてメモ書きを残し、傍付き錬士でありながら自信無さ気だった半年前とは違う。

 

話によると傍付き錬士としてはほぼ最下位だったあの頃から今では1位にまで上り詰めたらしい。

 

半年前、俺たちに黒藍の死剣を届ける際にその優先度に耐え切れず手から血を流していた彼女が、今では権限は足らないながらも優先度としては黒藍の死剣と同等の数値を誇る勝利の白剣を心意の力で扱って見せた。

 

なんて声をかけていいのか困ってしまう程にロニエは成長した。

 

自分がこの子に先輩、と呼ばれる資格があるのか。そう自分に問いかけてしまいたくなる程に強くなった。

 

——でも、言わなきゃいけないことがある。

 

あの日、公理教会に連行される際に彼女は"いってらっしゃい"と言って俺を送り出し、俺は"行ってきます"と答えた。

 

彼女とした約束の一つを果たす時だ。

 

「ロニエ、ただいま」

 

「——っ、おかえりなさい……。先輩!」

 

◼️

 

◼️

 

◼️

 

……上半身だけの男は、何かの予兆があったわけでも、他人に起こされるでもなく、ただただ自然に目が覚めた。

 

「ここは何処だ……?」

 

疑問の声が男の頭の中で木霊する。自分の発した声は周囲の空間に伝わることなく、自分の耳にしか届かない。男は……Pohと呼ばれた殺人鬼は分かりやすく顔を顰めた。

 

当然だ。男の前には何も無い(・・・・)

光も、影も、音も、臭いも、そして、体の感覚も。

 

何もない文字通りの空白は狂気に身を浸しながらも冷静さを持ったこの男から冷静さを奪うのに充分だった。

 

これも当然。

人間は、生まれて死ぬまで何も無い空間と言うものを知るはずがない。屋外に出れば太陽や星、光や他人が。家に入れば自分の荷物や光によって出来た影、家族がいる。

 

人間は本当の意味の空白には耐えられない。

 

「んだよ、なんなんだよ、ここはっ!!!?」

 

身体を動かそうとするも、彼の身体は動かない。

ただただ何もない場所に自分がいるだけ。いや、本当に自分という存在がこの場にあるのかすらPohの中では確証が持てずにいた。

 

「だ——よ!俺をこ————!」

 

次第に、唯一自分の中に木霊していた声すら断片的になり、遂には何も、本当の意味で何も感じなくなった。

 

この空間の中で、意識だけは保ち続ける。

しかし、何も出来ない。故に、Pohは何も考えなくなった。

 

誰かを殺したい、キリトを、アルスを殺したい。何より、アイツらに殺されたい。そんな歪んだ性癖が男の中で燻り続ける。

 

だが、それは叶わない。

Pohは時間の経過と共に狂気を募らせ、募った狂気は再度の時間経過により願望に。叶わぬ願望は切望に。切望は絶望に変わった。

 

——Pohは、このアンダーワールドと呼ばれた世界の終焉を迎えても空白から抜け出す事は叶わなかった。

 

◼️

 

◼️

 

◼️

 

心意の腕により、宙に浮いていた友切包丁。それをPohを空白へと退去させた光に向かって適当に放り込む。

 

「……あの男はどうなったのでしょうか」

 

ロニエが口を開き、それに対して短く答える。

 

「知らね」

 

「……へ?」

 

面食らった様に目を白黒させるロニエ。その様子に気付きながらも俺は彼女に対して本当のことを語るつもりはなかった。俺のやった事は間違いなく人道に反している。

 

それを知ったらきっと軽蔑されるだろうから。

 

……Pohという男はもう、この世界の何処にもいない。座標という意味ではアンダーワールドにいるが、俺がこの剣の権能で作成した何も無い空間。そこに追放した。

 

その際、アイツの身体の周りを囲む座標を固定。空間自体の時間は変動しない様に設定してあるので、あの殺人鬼は意識のある状態で身動きが取れず、時間経過もないので歳も取れない。つまりは死なない状態にしている。

 

そして、リアルワールドにあるSTL。このアンダーワールドにダイブするための装置に入っているアイツの本体は常にその意識を電磁波で読み取っている。まあ、何が言いたいのかというと。

 

半年前、俺とキリトはリアルワールドのSTLにダメージがあった事でフラクトライトにダメージを受けたのだ。その状態をPohで再現した。

 

いや、状況としてはもっと酷く悪辣だ。

 

アイツの脳はSTLの電磁信号で焼き切った。

 

ナーブギアで人が死ぬのと同じ原理だ。

 

……つまり、現実にも、アンダーワールドにもPohはもう存在しない。生きていながら、存在を消された。

 

他ならない、この俺に。

 

「えげつないなぁ……」

 

死なない、死ねない、何も出来ない、生きていながらもうこの世界には存在しない。

 

このアンダーワールドという電子世界が消滅するまであの男はただ有り続ける。

 

ま、せいぜい楽しめよ、Poh。

お前がいるのは、お前の最も嫌いな殺し合いも争いもない。他人が存在しないが故の恒久平和が約束された世界だぜ。

 

 

 

 

 

 

 




後書き

あい、なんとか3月中に投稿できました!
アルスの新しい剣が出たり、とんでも能力が発現したり、鬼畜もびっくりな鬼畜っぷりを見せたりしましたが、ロニエと本当の意味で再会できました!

アルスが今回Pohにやったのは……。
『強制的な5億年ボタンの刑』ですね。
身体は動かせないし、喋れなくなるし、自分の下半身はないわで。5億年ボタンの倍はタチが悪いですね。

おお、鬼畜鬼畜。

閲覧ありがとうございました。

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