SAO 〜無型の剣聖〜   作:mogami

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92話 魔の手の届かぬ場所へ

————走る、走る、走る。

 

剣の力は使わない。

それすらも勿体ないから。

 

このアンダーワールドと呼ばれた世界に於ける凡ゆる元素と心意、リソースを掻き集めて、"とある術式"を練り上げる。自分の果たすべきことを果たす為に、それが必要だと直感していたから。

 

今、この世界に存在する最も大きな心意。邪悪でドス黒い、ドロドロとしたヘドロの様な心意に対抗する為には俺の心意だけでは足らない。キリトやユージオ、アリスの力を持ってしても足らない。

 

この場にいる者の心意だけでは足らない。

そんな確信めいた直感が俺の中にはあった。

 

で、あれば呼びかける。

足らないのであればかき集める。

 

この世界は心を形に出来る世界なのだから。人界だとか、ダークテリトリーだとか、そんな枠組みを超えた結束に賭ける。

 

集団をまとめ上げるのは優れたリーダーではなく、強大な敵。認めるのは癪だが、認めるしかない。今の俺はどうあがいても最高司祭を自称する小僧でしかないのだ。

 

だから、利用させて貰う。

その強大な敵を俺の術式最大の切り札として。

 

「アリスっ!」

 

黄金の鎧は凹み、傷が付き、その黄金に引けを取らない美しい髪に土埃を被った彼女を見つけ出す。

 

周囲にはオーク。

本来であればまだ、敵対関係にあるはずのダークテリトリー側の人間と人界を守護する整合騎士が共にあるその姿は俺の理想に近い物であれども少しだけ、違和感のある物だった。

 

ついさっき、ようやくレクスと和解したばかりだと言うのに、ダークテリトリー側の人間がもう、こちらを受け入れてくれてると思わず感じてしまうほどに彼らからは敵意を感じなかった。

 

しかし、その場に残る心意が教えてくれた。

そこでなにがあったのか。彼らの心境を動かすだけの光景があったとなということを。

 

黒藍の死剣と融合した時穿剣が教えてくれた。

その担い手の最期を。

 

「……アルス。小父様が」

 

「分かってる。彼の思いは俺が引き継ぐ」

 

その震える肩に両手を置き、語りかける。

今、自分の役割を果たす為に、やるべき事。

 

「アリス、アンダーワールドを出ろ」

 

「でも……!」

 

この戦争の背景。ベクタというマスターアカウントを使ってログインして来たリアルワールド人によって引き起こされた人界とダークテリトリーの争い。

 

初めこそ、人界軍とダークテリトリー軍の食い合いだったが、今となってはことアンダーワールドにログインして来たリアルワールド人の介入で滅茶苦茶だ。

 

亜人たちはゲームのエネミーと勘違いされて惨殺され、人界側も戦争ゲームのキャラなら殺しても問題ないだろうというと幾人か殺害されている。

 

そこに加えてアスナを筆頭にログインして来たプレイヤーを倒そうと助力してくれる有志たちもいる。

 

そして、ベクタとベルクーリの死。

互いに大将を失った軍は統率を失い、混乱し、さらに犠牲が出るかもしれない。

 

で、あれば。今は亡きシャスターさんとベルクーリの後継者である、レクスと俺が両軍を纏めなければならない。少しでも犠牲を減らすのならば。

 

アスナたちの尽力でリアルワールド人たちの数は減りつつある。このままいけば無事に停戦できるかもしれない。

 

……しかし、そこにまた邪悪な心意が現れた。

いま、ベルクーリが亡くなったこの地で感じる心意の残滓から感じ取れるベクタのものと同質の禍々しい気。

 

ベクタのアカウントを使ってログインしていた者がまたこの世界に足を踏み入れたのだろう。

 

レクスが言うに、その者の目的はアリス。俺の目の前にいる彼女だ。で、あるならば、だ。

 

もはや戦争という形も崩れ始め、ベクタを演じる必要がなくなった奴は真っ直ぐにアリスを狙いに来るだろう。

 

そうなる前に、彼女をリアルワールドに送る。

それが友人として彼女を守る方法であり、人界の指導者の後継者として敵将の目的を打ち砕く事につながるかもしれない。

 

目的を失ったベクタの中身はこの世界から興味を失い、彼女を追う様にこの世界を去るか、腹いせに俺へと向かってくるだろう。

 

けれど俺単身では倒せない。それでも、秘策はある。その秘策を使うにはシステムコンソールが必要。俺が記憶を失う寸前、現実の菊岡が最果てにあるコンソールを目指せと言っていた。つまり、この戦場の何処かにコンソールはある。

 

アドミニストレータがやろうとしたようにコンソールを持ってすればログアウトが出来る。それを利用してアリスをログアウトさせる。

 

俺がやろうとしていることに対しては何にしてもコンソールが必要だった。

 

「今は戦争を終わらせることが先決だ。その為には奴らの目的を潰す。目の前でベルクーリを亡くして辛いのは分かる。でも耐えてくれ、あいつらの目的はお前なんだ」

 

「それはあなたも同じでしょう!?アスナや半年前のアドミニストレータとの戦いの後、菊岡なる男が叫んだのは私と貴方を脱出させること。アルスだって奴らの目的なのよ!?」

 

————そう。

俺も、あいつらの標的らしい。

 

俺とアリスが奴らの標的ならば、アリスさえこの世界を去ればその矛先は俺に向く。それは俺の目的の一つでもある。

 

なにより俺は……。

 

「俺は大丈夫。この世界の管理者だからな、身を守る術はいくらでもあるさ。一番危ないのはお前なんだよ」

 

俺は、この世界から出るわけにはいかない。

レクスとの誓い、ベルクーリの遺志、俺の中にいる2人に報いて、リセリスの後、クィネラの後を継ぐ為に。逃げるわけにはいかない。

 

「それでも、この世界には————!」

 

「分かってる、ここは君の生まれた世界で、君を育んだ世界で、守りたい世界なんだ。だから、俺はそれを守る。君が戻って来るまで守るからさ」

 

俺は、きっと、アリスを愛している。

だから、彼女を守る為にこの世界から一時的に退去させ、彼女の帰還を待つ。それが今の俺にできる最善の一手。

 

「……分かった」

 

俺の有無を言わさない言い方でそれ以外に道がないことを理解したのかもしれない。渋々と言った様子を隠す事なく、俯きながら同意した。

 

「アリス、手を」

 

彼女の手を取り、剣の力を使う。

 

「エンハンス・アーマメント」

 

剣の力で時空を歪めて転移する。その間、俺はアリスの剣ダコで少し硬い手とその固さとは裏腹に細くて華奢な指の感覚を感じて何処か、切なさを感じていた。

 

◼️

 

◼️

 

◼️

 

「ここは……?」

 

「ね、姉様!?」

 

「セルカ!?」

 

剣を鞘に納めて歩き出す。

 

転移したのは北の最果て。セントラルの最上階で聞いた菊岡の声。その言葉の通りにシステム・コンソールのある座標に転移してきたわけだ。

 

「セルカ。無断で連れてきてしまってすまない。でも、時間がないんだ。聞いてくれ」

 

「アルス……えぇ、分かった」

 

戦線の中盤にて衛生兵てして頑張ってもらっていたセルカが、こんなところにいる理由は俺が剣の力で連れて来たからだ。

 

「奴らの狙いはアリスだ。だから、まずはあいつらの手の届かない場所にアリスを移す。つまりはリアルワールドに避難してもらうって事だ。そこでお前に頼みがある。アリスに着いて行って欲しいんだ」

 

「えっ、そんなことできるの?」

 

「あぁ、方法はある。セルカ、頼めるか?リアルワールドでアリスが1人にならないように支えて欲しい」

 

「それ、アルスじゃダメなの……?」

 

「ダメだ。だからお前に頼むんだ。頼んだぞ、俺の弟子」

 

「……分かった、任せて」

 

セルカの頷きを見てコンソールを操作する。

使い方はパソコンと変わらない。キリトの身体に同居していた頃に散々使い方は見ていたから問題ない。

 

いつしかのようにsound Onlyのウインドウが開き、声が聞こえる。

 

【——き、菊さん!アンダーワールドから通信です!】

 

【なに!?】

 

いつぞや聞いた会話だ。

 

「俺だ、菊岡。アルスだ」

 

【アルスくん!?ということは君たちはコンソールにたどり着いたんだな!?】

 

「あぁ、アリスもいる」

 

【そうか、良くやってくれた!】

 

「これからそっちに彼女の意識データを飛ばす……だけど、急にリアルワールドなんて所に飛ばされたら彼女のフラクトライトが自壊するかも知れない。慣れない環境がフラクトライトに与える影響はお前らが一番知ってるよな?」

 

【そうだが……、それでも奴らにアリスを奪われるわけには……!】

 

「そこでだ、彼女の妹も連れて来た。慣れない環境でも肉親がいるかどうかは大きな作用を及ぼすだろう?アリスのキューブの他にもう一つ、キューブを確保する事はできるか?」

 

【っ、比嘉くん!】

 

【可能ですっ、てか、フラクトライトの安定化について出されたら無理でもやるしかないっすよ!】

 

「やれるんだな!?」

 

【やってみせるっす!】

 

交渉と言うには一方的すぎる条件の押し付けを終わらせると俺は2人に振り返り、コンソールの前に立たせる。

 

「アルス、これでお別れってわけじゃないよね?」

 

「あぁ、きっとまた会えるさ」

 

コンソールを操作しながら会話する。これが最後の会話になるかどうかはわからないが、それでも俺が彼女たちと話す事で少しでも不安を取り除けるなら。

 

コンソールの操作は大丈夫。アドミニストレータが髪でやってたのをなんとか記憶の海から引き摺り出して完璧に再現して見せた。

 

これで、いつでも彼女たちを向こうの世界に送れる。

 

「2人とも準備は良いか?」

 

「——ちょっと待って」

 

アリスはそう言うと可動式によって光を浴び始めたコンソールの前からこちらへ歩み寄る。

 

「アルス、ちょっと目を瞑りなさい」

 

「——?」

 

唐突なよく分からない要求に首を傾げるが、これが最後になるかもしれない可能性を考えて素直に従う。

 

そんな俺に満足したのか、また、数歩歩み寄って来た。

 

このままではぶつかるのではないか。そんなことを考える距離まで彼女との間隔がなくなったその時。

 

「ごめんね、ロニエさん」

 

————なにか、唇に柔らかいモノが当たった。

 

なぜ、そこにロニエへの謝罪があったのかは分からない。なぜ、目を瞑る必要があったのか、そして、唇になにが当たったのかは分からなかったけど。

 

「唇、もう少し気を使って平らしたほうがいいわよ、ガサガサしすぎ」

 

そんな辛辣な言葉を並べてアリスはセルカの隣へと戻ってゆく。セルカはなにが起こったのか全て見ていたらしく、顔を真っ赤にしていた。

 

【アルスくん、こっちの準備はOKだ!】

 

「っ、分かった!」

 

こちらの準備は最終段階まで終わってる。

 

「先に行って待っててくれ、2人とも。みんなも後で行くから」

 

「えぇ、楽しみに待ってる。だから早く来てね」

 

「————アルス」

 

「アリス。寂しくてもセルカがいる。そのうち、そっちにユージオたちも一緒に行くから」

 

「約束よ?」

 

「——あぁ、約束だ」

 

俺は、朗らかな笑みを浮かべるアリスに頷くとコンソールのenterキーを押す。

 

直後、光の柱に包まれて空に登る俺たちの愛しい姉妹たち。

 

俺はそれを何処か気の抜けた表情で見送った後。

 

「柔らかかったな……」

 

確かにガサガサしている唇に手を当てて先ほどの感触を思い出すと何処か切ない気分になりながらその場を後にする。

 

————さぁ、全てを終わらせよう。

 

とある大規模な術式の詠唱を始め、俺はぶつかり始めた3つの大きな心意の元へと急いだ。

 




後書き

皆様、大変お待たせ致しました。mogamiです。
ひとまず、投稿がおくれてしまい、大変申し訳ありませんでした。

詳しくは下記リンクの活動報告にてながなが言い訳していますのでそちらの方の参照をよろしくお願いいたします。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=250035&uid=204331

この半年、感想など下さった方々、長らく放置してしまってすみませんでした。これから時間を見つけては返信してゆきますのでこれからもよろしくお願いします。

ちょっと病んでしまってこんなに時間が経ってしまいました。あと数話で完結する予定ではありますが、もうこんなことがないように心がけますので今後ともよろしくお願いいたします!

それから、本編もかなり強引な内容になりましたが、アルスが目を瞑った時に何があったのかはご想像にお任せします……。

閲覧ありがとうございました!
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