その愚者は誰がために   作:夢泉

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愚者の争奪

「もう嫌だぁあああああああああーーーーーーッ!誰か助けてぇええええええええええっ!」

 

 アルザーノ帝国魔術学院。そこの広い敷地内を全速力で駆け抜けるのは、魔術講師、グレン=レーダス。そしてその後ろを二人の女生徒が追いかける。

 

「ああん、お待ちになってぇえええええーーーーッ!グレン先生ぇえええーーーッ!」

「くおらっ!フランシーヌぅうううううッ!てめぇ、アタシのグレン先生に何してんじゃ、こらぁああああああああーーーッ!?」

 

「なぁああああんかコレ、デジャブーーーーーーッ!!………ん?」

 

 ひたすらに必死な形相で駆け抜けるグレン。するとその走っていく先に四つの人影が現れる。

 

「先生!援護します!いくわよルミア!リィエル!」

 

 少女、システィーナ=フィーベルが声を張り上げ、颯爽と登場し、

 

「うん!システィ!」

「ん……フランシーヌとコレット、止める」

「私もやります!これ以上学院の汚点を晒し続ける訳にはいきません‼いい加減になさい、フランシーヌにコレット!!」

 

 順にルミア=ティンジェル、リィエル=レイフォード、そして、茶色の髪に眼鏡、手には刀を持った少女、エルザ=レイフォードが答えていく。

 

「くっ…貴女達。…私とグレン先生の恋路の邪魔をしないでくださいまし!」

「へっ…システィーナ、ルミア、前と同じようにいくと思うなよ?邪魔するってんなら、容赦しねぇぜ!」

 

「「「「「「………………………………………………………」」」」」」

 

 静寂。一瞬の静寂が六人の少女を包み、そして、

 

「《大いなる風よ》ーーーーーーッ!!」

 

「《雷精の紫電よ》ーーーーーーッ!!」

 

 激しい戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

  ⬛

 

 

 

 話は数時間前に遡る。

 その日、アルザーノ帝国魔術学院に聖リリィ女学院から三人の生徒がやって来ていた。

 

「ふむ。君達がリリィ女学院からの留学生で間違いないな?」

 

 セリカ=アルフォネアが校門にて、三人のお嬢様と相対する。

 

「はい、アルフォネア教授。相違ございません。私はフランシーヌ=エカティーナと申します。そして…」

 

 金髪の少女がまず名乗り、

 

「コレット=フリーダと申します。よろしくお願いします」

「エ、エルザ=レイフォードです!お、お世話になります!」

 

 順に、黒髪の少女、茶髪の少女と続く。そして再びフランシーヌと名乗った金髪の少女が口を開き、

 

「以上三名、今日から一週間お世話になります。短い間ではありますが、多くの事を学んでいきたいと思っております」

 

 三人揃って完璧な所作で礼をした。

 

「ほう…?」

 

 それを見たセリカ=アルフォネアは眉を少し動かし、自らの斜め後方にいる弟子に話しかける。

 

「グレン、何だかお前の言っていた印象とは随分と違うな?見事に礼儀のあるお嬢様達じゃないか?」

 

 対して、

 

「あっれーーーーーーっ?お前らそんなキャラだっけ!?」

 

 グレン=レーダスは頓狂な声を上げる。それもそうだろう。なぜなら彼の記憶にある彼女達(エルザ以外の二人)は、おしとやかなお嬢様等というイメージは欠片もなく、猛獣というのがぴったりな少女達だったからだ。

 

「嫌ですわ。グレン先生ったら。一体どんな風に私たちの事を話したのかしら」

「全くですわね」

 

 対して、件の金髪と黒髪はオホホと慎ましげに微笑むのみだ。

 

「あれ?俺が悪いやつになってる!?」

 

 そんなグレンの言葉は無視して、フランシーヌはセリカのほうに向き直り、再び口を開き、語ったのは、

 

「アルフォネア教授。以前はグレン先生を私たちの学院に赴任させてくださり、ありがとうございました。グレン先生の魔術に対する見識の深さ、どんな生徒にもわかりやすく教えるその技量、生徒思いの優しさ。何もかもが私達には新鮮で、憧れました。先生の仰っていた言葉の一つ一つが今も胸の中で輝いています。きっと師匠であるアルフォネア教授の教えの賜物なのでしょう。そんなグレン先生の元で再び学べる機会まで頂き、感無量です。本当にありがとうございます」

 

 グレンのべた褒めである。

 

「……………っ」

 

 それを聞いたセリカは暫く何も言わずに肩を小刻みに震わせていたかと思うと、次の瞬間にはとびきりの笑顔で、今にも踊り出しそうなほどに楽しげに、

 

「そうかそうか!グレンが最高の先生か!そうだよな!グレンは私の最高の弟子だからな!いやぁ~嬉しいなぁ!何だよグレン、めちゃくちゃ良い子達じゃないか!よっし、じゃあグレン、この子達の案内任せたぞ!」

 

「ちょろっ!?いや絶対今の社交辞令!おいセリカ騙されるな!」

 

 グレンの忠告も虚しく、愛弟子であるグレンのことを誉められたのが嬉しくて堪らないのだろう、彼女は目に見えてご機嫌になり、もはや彼女達の本性を疑うなどという思考は持ち合わせていなかった。

 

「じゃあな~、後で私も授業見に行くぞ~!」

 

 そして彼女はそのまま上機嫌で手を降りながら去っていき、

 

「待ってセリカ、俺とこいつらだけにしたらマズイってばぁああああーーーーーーッ!」

 

 少女三人とグレンのみが残された。

 

 

 

 

 しかし、

 その後、学院の案内、クラスでの彼女達の紹介等あったが、彼女達は最初の様子、即ち“完璧なお嬢様”を崩さなかったのである。

 最も、リィエルと再開したエルザはかなり素が出ていたが。

 そこに違和感を感じたのは何もグレンだけではない。

 

「システィ、なんか変だよね」

「ルミア。たぶんだけど、三人とも、家とか学院からキツく言われてるのよ」

「でもそれじゃあ……」

「えぇ、私たちの計画が上手くいかな、ゴホン、いや、私達もコレット達も楽しめないわ」

「じゃあどうするの?」

「こうなったら無理にでも計画を実行するわ」

 

 そう、彼女達と面識のあったシスティーナとルミアもまた、違和感を感じていた。

 彼女達が言う計画、それは、

 

「コレットとフランシーヌを挑発して、グレン先生を追いかけさせて、そこに颯爽と現れてグレン先生を守る!名付けて、白馬の王子様計画よ!」

 

 この二人はかなりの乙女回路の持ち主だ。システィーナに至っては、以前目も当てられないような小説を書いたこともある。そんな二人が、ニーナという強大にすぎるライバルの出現の中で、グレンの気を引くために、自分達だったらどうか、と考えた結果、この計画が立てられたのである。

 

 その後、システィーナとルミアは計画を実行に移し、コレットとフランシーヌも無理をしていたのだろう、ニーナという強大なライバルの存在をほのめかせば、直ぐに本性を現した。

 

 

  ⬛

 

 ここで冒頭に至るのである。

 コレット&フランシーヌvsシスティーナ&ルミア&リィエル&エルザ。

 因みに、エルザが何故加わっているのかというと、学院の評判を下げないため……と本人は語っているが、実際は、どれだけ強くなったかをリィエルに見てもらいたいだけだ。彼女もまた恋する(?)乙女。どうせ見てもらうなら、敵としてではなく、肩を並べる相棒として実力を見てもらいたいものなのだ。

 というわけで、私利私欲にまみれた、大義なき戦争がここに始まったのである。

 それがどのようなものであったか、それはいずれまた語ることにしよう。だが、一言取り上げるならば、それを見ていた某男性魔術教師はこう言った。

 

「女って怖い」

 

 

 

 

  ⬛

 

 

 その日の夜。アルザーノ学院のとある部屋にて。

 

「ニーナ=ウィーナスさんを取り巻く状況について、ですか?」

 

「あぁ、答えられる範囲でいいんだが、何か知っていることはないか?」

 

「そうですか、先生は何も意味もなくそういうことを聞く人ではないと思いますので、答えたいとは思うのですが、その……」

 

「なんか言いづらそうだな?」

 

「フランシーヌ、あれのことだろ?いやさ、先生。俺は実際のニーナ=ウィーナスを知らないし、お父様とかが言っているのを小耳に挟んだ程度なんだけどな?」

 

「あぁ」

 

「ニーナ=ウィーナスは矢鱈と黒い噂が多いんだよ。人道的にヤバそうな噂が。勿論、妬みとかから誰かが言ったデマがほとんどだろうし、商会のトップともなればある程度の後ろ暗いことはやってるだろうさ。けれど、それを考えても、ニーナ=ウィーナスのヤバい噂は多すぎるんだよ。それで、一部の人間はニーナ=ウィーナスを、こう呼んでる。

 

 

雪の雫(スノードロップ)”ってね。」

 

 

 

 




いつも誤字報告してくれるかた、本当にありがとうございます。助かってます。これからもお願いします。

スノードロップの花言葉
「あなたの死を望みます」


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