【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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ってわけで出久の誕生日ネタ。思ったより長くなったので前日談パートだけフライング投稿することにしました。3/3は15日きっかりに出せるようがんばります。

ラインでのやりとり描写があったりしますが、番外編ってことで大目に見てください。本編ではやらないと思います…ぶっちゃけ照れがすごいので。

本当は読まなくても問題ない話にしたかったんですが、本筋にかかわってくる展開もありますすみません。具体的には上鳴くんと親しくなったこととか。まあ本編でも説明文は入れるつもりではありますが。

なんだかんだ言いましたが、番外編なので終始ユルいです。箸休めにどうぞ。


番外編
EPISODE 25.5 開け!お誕生日会 1/3


 その発端は、なんてことのない、極めて些細な会話だった。

 

 

「ハァ……なんか一年があっという間だなぁ……」

 

 7月に入って一週間が経過した、夏の昼下がり。冷房のよく効いたポレポレの店内で、皿洗いに勤しむ麗日お茶子の口から漏れたのがそんなひと言だった。

 

「ね、デクくんも思ったことない?」

 

 彼女がそう声をかけたのは、カウンター席に座って新聞記事の切り抜きに勤しむ青年――緑谷出久。鋏の切っ先に目線を下ろしたまま、彼は小さく笑った。

 

「うーん……ある、かな」

「そっか!だよねだよねっ、デクくんも思うよね!」

 

 同意というには曖昧なものだったというのに、ぱあっと笑顔を浮かべるお茶子。比して表情がころころ変わりやすい自覚はある出久だが、お茶子もなかなかだと思う。そこが彼女の魅力なのだろう、とも――自分はともかく。

 

「でも、なんでなんだろうねえ?不思議やわあ」

「そうだね……」うなずきつつ、「聞きかじっただけなんだけど、"ジャネーの法則"っていうのがあるらしいよ」

「じゃ、ねー……?」

「うん。なんかね、0歳から20歳までと、20歳から80歳までって、体感の経過時間は一緒なんだってさ」

「えぇ!?」オーバーリアクション。「じゃ、じゃあ、あっという間におばあちゃんやん……デクくんもおじいちゃん……」

「ア、ハハハ……」

 

 おじいちゃんになった自分はともかく、おばあちゃんになったお茶子を想像するのはさすがに憚られる。切り取った記事をアルバムに貼りつけながら、出久は苦笑するほかなかった。

 

「なんでそんなんなるんかな……?やっぱり日々のワクワク感?」

「じゃないかなぁ……子供のときって何もかも新鮮だしさ。いまより色んなことを純粋に楽しめてたと思うし」

「そっか……」

 

 大人になるにつれ人は現実を知り、適応する。その中に溶け込んでいく。純粋な輝きは毒され、濁ってしまうのだ。それはヒーローであろうと、"表向き"無個性の学生であろうと変わらないのかもしれない。

 

「でも、どうしたのいきなり?」

「!、あぁうん。そういえば今年ももう後半戦だなーって思って。私って誕生日が年末なんだけど、そのとき成人祝いで初めてお酒飲んだのがついこの間な気がしちゃって……」

「そっか……なんかわかるなぁ。ていうか、麗日さんの誕生日って年末だったんだね」

「そだよ、12月27日!」

「ほんとに年末だね……。覚えておくよ」

「ヨロシク!そういうデクくんの誕生日っていつなの?」

「僕?僕はね……」

 

 考え込む出久。すぐに日付が出てこない。でも自分も昨年成人したわけで、誕生日の近い心操人使と一緒に初アルコールを酌み交わしたことを覚えている。意外と心操が簡単に酔っ払ってしまい、介抱する羽目になったりとひと波乱もあった。心操の誕生日が7月1日で、自分はそれより少しあとだから――

 

「……7月、15日」

「えッ!?来週やん!?」

「そ、そうだね……アハハ。すっかり忘れてたや」

 

 お茶子が絶句している。以前心操や桜子にも同じ反応をされた。そんなに自分は常識から外れているのだろうか?

 

「も~ッ、あんまりだよデクくん!危うくスルーするとこだったじゃん!私が訊かなかったらどうするつもりだったん!?」

「どうするって……別にどうもしないよ。もう祝ってもらう歳でもないし……」

「……それ、私にも刺さっとる」

「あっごっごめん!……でも、ほんとに無頓着でさ、そういうの。あまり、慣れてないから」

「デクくん……」

 

 慣れていない――なぜか。訊くまでもなく、お茶子はもう知っていた。

 

 孤独だったのだ、彼は。無論母親や、海外に赴任している父親は祝ってくれただろう。でもそれ以外には、いなかった。"無個性"の出久はずっと、誕生日であろうとなかろうと、省みられることもなく過ごしていたのかもしれない。

 

 ただ、無個性であるというだけで。

 

(そんなん……おかしい)

 

 本当はもっと早く、そんな社会の歪みを疑わねばならなかったはずだ。ヒーローとして、苦しんでいる人々のことを想うのならば。

 とはいえ、いまの自分に何ができるのかもわからない。そんな大きな壁に挑もうとするには、自分はまだ目の前のことに囚われすぎている。

 

 目の前のこと――そう、目の前のことだ。いま少しさみしそうな表情で俯いているこの青年を、笑顔にすることからはじめよう。お茶子は決心した。

 と、そのとき、店の扉がからんころんと音をたてて開いた。反射的に立ち上がりかけるふたりだったが、

 

「ただいマンモス~!」

「あ……おかえりなさい、おやっさん」

 

 おやっさん――この店のマスターであるナイスミドルだ。四十代半ばにしてはやや老けぎみだが、人好きする笑みをたたえた顔立ちと時代錯誤なギャグが若者に対しても気安い印象を与えてくれる。

 

「んん?なんだふたりとも、辛気臭い顔しちゃって。あ、もしや男と女のラブゲームの真っ最中だったか?ごめんね、おやっさんシリアスブレイカーだから……」

「ち、違いますよもう!――それよりマスター、お願いあるんですけどいいですか?」

「ん、なんだしょ?」

 

 カウンターを飛び出し、おやっさんのところへ駆け寄っていくお茶子。なんだろうと出久がその背中を見つめていると、彼女は想定外のことを言い放った。

 

「お誕生日会やりたいですッ、デクくんの!!」

「へぁッ!?」

 

 出久の驚愕ボイスは、このときは無視されてしまった。

 

「お誕生日……そうか、もうすぐそうか!――やるって、ここで?」

「ここでです!雄英の同級生呼べるだけ呼んで!」

「おっ、ヒーロー大集合!?そりゃいいなぁ、そんなら当日は貸切にしちゃおっか!」

「ありがとうございます!」

「ちょちょちょ、ちょっ!」

 

 勝手に話が進んでいくさまを見て、呆けている場合ではないと出久は慌てて割って入っていった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ麗日さんっ!そ、そんな誕生日会だなんて……しかも同級生の人たちって……」

「ええやん、デクくんヒーロー大好きでしょ?あ、もしかして苦手な人いたりするのかな……爆豪くん以外で」

「かっちゃんは大前提なんだね……。い、いや大好きだから余計無理なんだよっ、心臓もたないって!ましてみんな忙しいだろうに、僕なんかのために……」

「もうッ、なんですぐ"僕なんか"とか言うかなぁ!?デクくんだからやりたいんじゃん!」

「そう言ってくれるのは……嬉しいけど……」

「デクくんに会ってみたいって人、結構多いんだよ!ラインでデクくんの話題出すと、みんな超食いつきいいし」

「えっ、僕のこと話してるの!?」

「そりゃまあ、私の………だし……」肝心なところは誤魔化しつつ、「私だけじゃなくて轟くんとかもね!だからみんな、もう、デクくんのこと赤の他人だとは思ってないんだよ!」

「麗日さん……」

 

 出久の心が、揺れはじめる。お茶子や焦凍――そして幼なじみが、苦楽をともにしてきた人たち。ヒーローという肩書き以上に、そんな日々を乗り越えてきた人たちに、会ってみたいと思った。

 

「いいじゃないの、出久」

 

 おやっさんの手が、肩に置かれる。

 

「慣れてないからしんどいって思うのもわかるけど、これからのおまえの人生考えたら、慣れていったほうがいいぞ絶対!」

「どういう……ことですか?」

「おまえを好きになる人がどんどん増えてくってこと!いままではおまえも周りも子供だったから噛み合わなかったかもしれないけど、どんどん大人になってくんだから」

 

 "無個性"は、緑谷出久という人間のファクターではなくなる――少なくとも、いまここで出久と向かい合っているふたりにとってはそうだった。

 

「それにホラ……ヒーローが大量来店したとなりゃウチとしてもホクホクなわけで!」

 

 がくっ。

 

「マスターってばもー!なぜにお金の話付け加えちゃうかなあ!?」

「重要よそこは!それにこいつ、何言ったって結局恐縮しちゃうんだから。ウィンウィンウィンなんだって教えといたほうがいいの!」

 

 わあわあと漫才のような口論をはじめるおやっさんとお茶子。置いてけぼりの出久。

 然してもはや、お誕生日会の決行は確定的なものになってしまったらしかった。

 

 

 

 

 

――雄英高校A組 ライングループ

 

 

おちゃこ:ってわけで、デクくんお誕生日会の出欠をとりたいと思いまーす!

 

轟焦凍:出る。

 

おちゃこ:返信はやっ笑

 

切島鋭児郎:もちろん出るぜ!

 

切島鋭児郎:緑谷とはだいぶ前からダチだしな!

 

飯田天哉:未確認生命体の動向次第だが、出席するつもりだ。俺も彼とは知らない仲ではないからな!

 

ツユ:ケロ、私もよ。

 

ツユ:久しぶりに緑谷ちゃんとお話したいわ。

 

KYOKA:こうして見ると顔広いな緑谷さんって……

 

KYOKA:せっかくだしウチらも参加にしといて

 

でんぴ☆:ファッ!?キョーカちゃん別の男に目移りしちゃった感じ!?

 

でんぴ☆:電気ウェイっちゃう~

 

KYOKA:勝手にウェイってろ

 

でんぴ☆:( ´・ω・`)

 

KYOKA:つーかあんたは会いたくないわけ?

 

でんぴ☆:超会いたい!

 

でんぴ☆:爆豪の幼なじみとかマジウケるwww

 

Hanta Sero:おまえたまに確実に死にに行くよな

 

Hanta Sero:俺も行きてーけどご存じ自由の国にいるんで

 

Hanta Sero:緑谷さんによろしく言っといてくれ

 

みな@Pinky:あたしのぶんもおねがいー!in福岡

 

おちゃこ:おけ!

 

八百万百:遅くなって申し訳ございません。

 

八百万百:わたくしも是非緑谷さんにお会いしてみたいですわ。

 

みねた:おれもイク

 

おちゃこ:ヤオモモも出席ね!

 

おちゃこ:って峰田くんはやっ!

 

みな@Pinky:ヤオモモ来た途端だねw

 

ツユ:私思ったことはなんでも言っちゃうの。

 

ツユ:「イク」がカタカナなのには何か意味があるのかしら?

 

みねた: ( ´_ゝ`)

 

おちゃこ:……サイテー

 

轟焦凍:そういうとこだぞ峰田。

 

みねた:ウルセェ!イケメンに何がわかる!?

 

轟焦凍:わからねえ。けど思いやることはできる。

 

轟焦凍:って、緑谷が言ってた。

 

飯田天哉:良いことを言うな緑谷くん!

 

 

――……。

 

 

 いったんスマホを机に置いて、お茶子はほっとひと息ついた。

 現時点で参加を表明したのは九名(自分含む)。職業柄、急遽参加できなくなる者が出ることを鑑みても上々な数字ではなかろうか。瀬呂や芦戸がそうであるように、物理的に出席が困難な者も多いのだから。

 

 クラスの半数近くが出久に会いたいと出てきたとなれば、成功と言ってよいだろう――そう思いつつ、お茶子はあるひとりの名前を追っていた。

 彼こそ、お茶子にとっては一番参加してもらいたい――このお誕生日会の核となる人物。なのだが、おそらく返信を待っていては未来永劫やりとりができない。そういう相手だ。

 

 意を決したお茶子は、その人物の電話番号を呼び出した。説得なら文字列より生のことばに限る。もっとも彼女は、お世辞にもそうしたスキルに長けているとは言い難いのだが――

 

 ともあれ暫しコール音が続き……お茶子が身体を揺すりはじめたくらいになって、プツッと音が響いた。『……アァ』と不機嫌な声が電話口から漏れる。

 

「もしもーし、麗日です~」

『……なんの用だ』

 

 いきなりこれ。まったくの通常運転である。ゆえにお茶子はまったく気にしない。

 

「ライン見……てないよね。あのねえ、実はかくかくしかじかなんだけど……爆豪くんも――」

『殺すぞ』

「いきなりそれ!?」

 

 前言撤回。この男、まだまだ予想を越えてくれるらしい。

 

「ちょっ、せめて交渉挟んだうえでにしてよぉ!」

『どうせ結論は一緒なんだから時間節約してやってんだろーが。ありがたく思えやカス』

「えぇ……」

 

 絶句しかかるお茶子だったが、ぶんぶんと頭を振って自分を奮起させた。プルスウルトラだ、プルスウルトラ――

 

「爆豪くんさぁ……わかってないでしょ」

『ア゛?何がだ』

「みんなデクくんに興味あるのはもちろんだけど……"かっちゃん"についても知りたくてしょーがないんだよ?」

『……!』

 

 振る舞いによらず聡い勝己は、そのひと言だけで意味を察したらしい。ぐぐぐ、と唸るのがわかる。

 

「そっかそっかぁ、爆豪くん来ないんじゃあデクくんから昔のコト聞き放題だぁ!いやはや楽しみですなぁ」

『テメッ……欠片も麗らかじゃねえな』

「言われ慣れてますー」

 

 ふふん、と鼻を鳴らすお茶子。彼女は勝利を確信していた。だが、まだまだ甘かったと言わざるをえない――高1の体育祭のときと同じだ。

 

『……ハッ。ンなモン、事前にあのクソナード脅しときゃ済む話だろ』

「うっ……そう来るか」

『浅ぇわ丸顔。――用はそんだけだな、切るぞ』

「ちょっ、もう……昔色々やったんか知らんけど、せっかくまた会えたんだからがっつり仲良くしたらええやん!爆豪くんのいくじなし!!」

 

 一縷の望みをかけて放った捨て台詞は……結局、意味をなさなかった。

 ツーツーツーと虚しい電子音が響くなか、お茶子は独り大きな溜息を吐き出す。

 

「うまくいかないなぁ……切島くんならもう少し……そっか切島くんに言ってもらえばよかったやん!?なんでいま気づくかなぁ私ってほんとアホ!!」

 

 クッションを抱えてバタバタ転げ回るお茶子。――その切島鋭児郎がたかだか十日ほど前、もっと重大な事案について勝己を説得していたことを、彼女は知るよしもないのだった。

 

 


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