【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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暑い……暑すぎる……

御年50歳で主役ライダーとして激しいアクションこなしまくってる高岩さんは本当に尊敬…ってかよく無事だなぁと思います。もちろん他のスーアクさん達も。

クウガで言うと19話のギノガ打倒3連キックの際に頭の隙間からポタポタ汗が垂れてたのが印象的です。あれの撮影日は五月くらいのはずなんですけどね。


EPISODE 27. 緑谷:ライジング 2/4

――関東医大病院

 

 診察室にて、爆豪勝己と轟焦凍は若い男性医師と対峙していた。――椿秀一。クウガの正体を早期に知った数少ない人間であり、出久の主治医を自認してくれている。ことあるごとに「解剖してじっくり身体を調べたい」など冗談か本気かわからないマッドな発言をしたり、美女に目がない――峰田実のように欲望剥き出しではないが――のが玉に瑕だが。

 

「……危ないとこだったな」溜息まじりにつぶやく。「緑が敏感になるのは何も視聴覚だけじゃない、有り体に言っちまえば痛覚もそうなんだ。多少つつかれたくらいなら他と一緒でシャットアウトできるが、腕、貫かれちまったらな……」

「………」

 

 腕を貫かれる――動脈から大量出血でもしない限り致命傷にはならないかもしれないが、凄まじい激痛に襲われることは言うまでもない。常人ならショックで気絶くらいするだろう……緑谷出久は耐えるかもしれないが、ペガサスフォームの状態では無理だったということだ。

 

「あいつ……緑谷は大丈夫なんですか?まだ意識が戻らないのは……」

「検査の結果は問題ない、傷もほぼ塞がってる。ただ、脳は複雑だからな……軽重問わず異常があるかどうかは、目が覚めてみないとなんとも言えん部分もある」

 

 正直なところを伝えつつ、ふたりの青年をちらりと見遣る椿。焦凍は心配顔のままだが、勝己は少なくとも表面上は冷静でいるようだった。

 あの第36号事件の日を境に、幼なじみふたりの雰囲気がどこか変わったことは椿も承知している。仔細は承知していないが……その前に見せた出久を努めて切り捨てるような振る舞いがなくなったことは、喜ぶべきなのだろう。

 

「ま、ここでしゃべっててもしょうがないし、あいつの様子見に行くか」

 

 立ち上がった椿のことばが、そのまま三人の行動方針となった。

 

 

 時を同じくして、病室。

 数秒のうち瞼を揺らめかせていた出久は、やがてゆっくりと瞳を露わにしていた。

 しばしぼんやり天井を見上げたあと、ぽつり。

 

「……またこの天井だ」

 

 ここがどこか、考えるまでもなくわかる。激痛に耐えかね気絶してしまい、ここ関東医大病院に運んでもらったということなのだろう。つまるところ、自分はまた敗北した――

 

(でも、今回は……)

 

 作戦自体は悪くなかった、と思う。実際、ボウガンから放つ一撃を命中させるまでにはたどり着いたのだ。問題は、そのあとだった。

 溜息をつきつつ……出久は、ぶるりと身体を震わせた。エアコンが入っているとはいえ真夏だ、寒いわけではない。

 

(と、トイレ行きたい……ッ)

 

 思い返せば最後に用を足したのは警視庁を出るとき。そのあとポレポレでの昼食の際、カレーの辛味を流すために大量の水分を摂取している。戦闘中に催さなくてよかったとすら思う。

 とりあえず身体を動かすのに支障はなさそうなので、出久は下腹部に気持ち力を込めながらベッドから降り立った。深刻に考えなければならないことはたくさんあるが、生理現象のほうをなんとかしないと考えもまとまらない。こればかりは仕方ない。

 

 しかし病室から出た途端、彼はやってきた幼なじみと友人、そして主治医に遭遇してしまったのだった。

 

「あ……」

「!、緑谷!!」

 

 真っ先に駆け寄ってきたのは焦凍だった。両肩を掴まれ、地味に動きを封じられてしまう。

 

「大丈夫か?なんともないか?動いて平気なのか?」

「お、落ち着いて轟くん、全部同じようなこと訊いてるから……」宥めつつ、「撃たれたところも治ってるし、とりあえず大丈夫みたい。ありがとう、心配してくれて」

「……それならよかった」

 

 ほっと胸を撫でおろした様子の焦凍。やはりこの青年はちょっと不思議だなどと内心失礼なことを考えつつ、出久も訊きたいことを尋ねた。

 

「あの……37号は、どうなったの?」

「!、……ああ。俺が片翼焼いて墜落はさせた。ただ、最後まで見届けたわけじゃねえからまだ生死はわからねえ。いま飯田が鷹野警部補たちと合流して捜索に出てくれてる」

「……そっか」

 

 俯きかけた出久は、勝己がじっとこちらを見つめていることに気づいた。その表情に憤懣はない。……ないが、また彼の期待に応えることができなかった。それはまぎれもない事実だ。

 だが、彼から目を背けて逃げることはもうしないと決めたのだ。意を決した出久は、幼なじみのもとへ歩み寄っていった。

 

「かっちゃん、籠手、ありがとう。……でもごめん、ちゃんと倒せなくて」

「……チッ」

 

 舌打ちが返ってくる。でもそれだけで、罵倒も爆破も――前者はともかく後者を病院で実行するような男ではないが――浴びせられることはなかった。

 

「そこの半分野郎から聞いた。効かなかったんだろ、テメェの攻撃」

「……うん」

「前、病院で戦ったっつー奴もそうだったんだろ。そいつとは別の奴なんか?」

「……たぶん」

「間違いねえと思うぞ」焦凍が同調する。

 

 実際に戦ったふたりの証言を受け、考え込む勝己。ふと、メ・ガルメ・レの放ったことばのひとつを思い出す。

 

 

『だ~か~らァ……ただのゲームだって!獲物を追い狩りをする、ポイント稼いで昇格する、わっかりやすいっしょ?』

 

 

 どれをとっても吐き気を催すくらい腹立たしいことばばかりだが……同時に重大な示唆を多分に含んでいることも事実。グロンギ独自の記数法が判明したのもそうだし、この発言もまた然りだった。

 

「今度の鳥野郎も前のも、いままでの連中とは格が違うっつーことだろ、文字どおりな」

「ってことはアレか?あとに控えてる連中は皆、クウガの攻撃が通用しないような奴らってことかよ?」

 

 椿のやや前のめりな問いかけに、勝己は躊躇うことなくうなずいた。それは椿に対してと同時に、クウガ本人への訴えでもあって。

 

「僕が、もっと強くなる必要がある……って、ことだよね」

「………」

 

 はっきり「そうだ」とは言わない。だが否定もしない以上、そういうことだと思った。

 

「強くなるって……緑谷おまえ、どうする気だ?」

「当てがないわけじゃないです。椿先生、言ってましたよね。戦いの度に現れるようになった"ビリビリ"……直接の原因は電気ショックじゃないかって」

「……!」

 

 メ・ギノガ・デの胞子によって死の淵にいた出久に、文字どおりの起死回生をかけて施した電気ショック――その翌日、ギノガ変異体との戦闘からだったのだ。戦闘中、電撃が奔ったような感覚に襲われるようになったのは。

 

「緑谷……おまえ、まさか………」

「はい。――先生、僕にもう一度、電気ショックをやってもらえませんか?」

 

 躊躇なく発せられた懇願は、椿をして色を失わせるに十分だった。

 

「ばっ、バカ言うな!!心臓がふつうに動いてる奴相手に、電気ショックなんかできるわけないだろ!?」

「わかってます。でも……」

「でももヘチマもあるかッ、俺だって医者の端くれだ!ンなやり方認めるわけにはいかん!!」

 

 てこでも動かないと言わんばかりの頑なな拒否を露わにする椿。内心の頑固さでは負けていない出久はそれでも食い下がろうとしたのだが、

 

「やめろ、緑谷」

 

 先ほどまでとは打って変わった低く抑えたような声で、焦凍は椿支持を言明した。

 

「轟くん……」

「なんともないのに電気ショック受けるなんて駄目だ、心臓がおかしくなっちまったらどうする。……いやそれ以前に、あの電気の力をさらに引き出そうとすること自体反対だ。あれの大元がなんなのか……忘れたわけじゃねえだろう」

「………」

 

 "凄まじき戦士、雷のごとく出で"――つまり電撃は、その"凄まじき戦士"の力の一部が漏れ出したものではないかということ。それをさらに引き出すということは、自ら凄まじき戦士になろうとしているに等しい。焦凍は、そう言っている。

 

「実際、あの電気ショックのあとから、おまえの身体の変化が著しくなったって聞いてる。――ですよね、先生」

「……ああ」

 

 戦うためだけの生物兵器……そんなおぞましい到達点に、自分は現在進行形で向かい続けている。その事実を改めて叩きつけられ、出久は息を呑んだ。

 それでも、

 

「……そうだね。危険がないとは言えないかもしれない」

「だったら……!」

「――でも、僕はもっと力が欲しいんだ。あいつらとちゃんと戦えるだけの力が。クウガだからとか、そういうんじゃなくて……僕は僕として、守りたいものがたくさんあるから」

 

 それがあの日見つけ出した、緑谷出久として……デクとしての、戦う理由だ。みんなの笑顔を守りたい――その中には、ともに戦う仲間たちも含まれている。

 

「戦えば傷つく、当たり前だよね。でも……みんなで力を合わせれば、それも最小限で済むと思うんだ。僕ももうちょっとだけ強くなって、その"みんな"の中のひとりであり続けたい……駄目かな?」

「ッ、緑谷………」

 

 二の句が継げなくなる焦凍。暫し眉根を寄せて俯いていた彼は、やがて、

 

「俺には……おまえの決意を、覆す資格はねえ」

 

 「好きにしろ」――どこか捨て鉢にそう言い放って、焦凍は足早に去っていった。

 

「………」

 

 出久には、それを黙って見送るよりほかに術はなかった。小さな針で刺されたような、胸の痛みとともに。

 それでももう、後戻りはできない。出久は残ったふたりに視線を移した。彼らは揃って険しい表情で迎え撃ってくる。

 

 先んじて口を開いたのは、幼なじみのほうだった。

 

「電気ショックは駄目だ」

 

 きっぱりとノーを突きつけられる。

 

「つーかテメェ、少しは他人の迷惑考えろや。散々先生に世話ンなっといてよ」

「へ……?」

 

 他人の……迷惑……?

 思いもよらないワードにぽかんと間抜けな表情を晒してしまったのは、出久ばかりではなかった。勝己ともどもしかめ面を自分に向けていたはずの椿が、すっかり出久側に鞍替えしてしまっている。意図せず。

 ともあれ出久と相対している以上、勝己の眦がこれでもかと吊り上がるのに時間はかからなかった。

 

「ンだその"おまえ他人の迷惑とか考えるキャラじゃないだろ"みてぇな顔はァ!!?」

「あ……え、エスパーですか……?」

「違ぇわカスよく知ってんだろ!!」

 

 どやす勝己。……言われてみれば確かに、彼は昔から他人に無茶な要求を出して困らせたり、公共の場で馬鹿騒ぎをしたりだとか、一般的に"迷惑"と形容される行為に及ぶことはあまりなかった。そのため中学までは教師から"なんでもできる優等生"として扱われていたのだ。まあ腫れ物に触るようだったとも言えるが。

 ちなみに無茶な要求に関してはそれが原因で減給になっているのだが、にしてもきちんと頭を下げ、土下座までするなど本人なりに筋は通している。出久は与り知らぬことだが。

 

「チッ……とにかく、どうしてもやりてぇってンならそれ以外だ」

「え……あ、い、いいの……?」

「テメェが使いモンにならなきゃこっちが困るんだよ。――その代わり、暴走はしねぇって約束しろ」

「あ……」

「約束、しろ」

 

 静謐ながら有無を言わせぬ物言いに、勝己の真剣さを感じとらざるをえない。出久は負けじとはっきりうなずき、

 

「……わかった。約束す――、う……」

「あ?」

 

 最後までことばにならなかった。勝己と椿が怪訝に思っていると、出久の顔がさっと青ざめていく。

 

「どうした、緑谷?まさか、奴の攻撃の後遺症か……!?」

 

 毒か何かが身体に回ったのか。思い至ったそんな可能性に再び表情を険しくするふたり。

 なのだが、

 

「わ、忘れてた………」

「は?」

「と……トイレ、行きたかったんだ………」

「ハァ!?」

 

 これには幼なじみも主治医も呆気にとられてしまった。実際、出久はもじもじと下半身を震わせている。

 半ば呆れ顔の椿が「さっさと行ってこい」と手でトイレの方向を指し示すようなしぐさを見せた一方、なぜか勝己はずんずんと出久に迫っていき、

 

「漏らせ」

「ハァ!?」

 

 とんでもない命令を突きつけられ、出久は目を剥いた。

 

「なッ……何言ってくれちゃってんの!?そんなことできるわけないだろ!?」

「できただろ、前科一犯」

「う……お、覚えてたのか……。あ、あれとは全然状況違うだろッ、大体、僕もう21歳だから!!」

 

 間に合わなくて漏らすなんて冗談じゃない、いい大人……と言えるかわからないが、少なくとももう子供ではないのだ。

 勝己がどこまで本気かはわからない。いや流石に冗談だとは思いたいが。

 

「あぁもうッ、かっちゃんのバカヤロー!!」

 

 捨て台詞を吐きながら、出久はタックルを仕掛けた。受け止められたら最悪だと走り出した瞬間気づいたが、幸いにも勝己はひらりと躱してくれた。おかげでそのままトイレに直行することができたのだった――椿の「廊下走んなよ~!」という別の意味での先生じみたことばを聞きながら。

 

「ハァ……爆豪おまえ、楽しそうだな」溜息交じりに、椿。

「別に」

 

 素っ気ない応答は、反して満更でもなさげだった。勝己の常人離れした凄みさえなければ、あれは友人同士の悪ふざけの範疇だ。自分の学生時代を思い出し、椿はくくっと笑った。

 

「まぁいい……それよりおまえ、どうする気なんだ?」

「アテはあります、俺にも」

「老婆心ながら言っとくが、主治医としてあまりの無理は許さんぞ」

「わかってます」

 

 そのことばに嘘はないのだろう。――爆豪勝己も緑谷出久も嘘をつく人間ではないことは、椿もよく知っていた。

 

 


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