【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

102 / 187
書き終えて何か足りねえな…と思ったら26、27話と桜子さん出してませんでした。村田和美さんのスケジュールの都合…ってことでひとつ。

原作クウガだと総集編の17話くらいですかね、出なかったというか新規のシーンがなかったの。一切画面に映ってない回はなさそう。流石メインヒロイン。


EPISODE 27. 緑谷:ライジング 4/4

 薄暗い室内で独り、読書を続けているゴ・ブウロ・グ。

 

「………」

 

 頁が最後まで捲られ、ぱたりと閉じられる――わが帝都を覆う恐怖が、再開される音が響いた。

 

 

 

 

 

 勝己の呼び出しに応じて科警研に現れたプロヒーロー・チャージズマこと上鳴電気。クウガの強化について彼に協力を求めるつもりらしい勝己の口から、すべてが明らかにされた。

 

 未確認生命体第4号――クウガの正体をにわかに知ることになった男は、その事実をどのように受け止めるのか……。

 

 

「へ~、マジ!?」

「リアクション軽っ!?」

 

 出久が思わず口に出してツッコむのも無理もないことだった。捜査本部の面々をはじめ出久がクウガであることを知る人間が増えてきていることは確かだが、世間的には変わらず極秘事項である。それを唐突に打ち明けられたにもかかわらず、あまりにあっけらかんとしてはいないか――

 

「コイツは顔面どおりのアホだからな、事の重大さがわかってねえ」

「ウェッ!?かっちゃん辛辣ぅ~」

「かっちゃん言うな殺すぞ」

 

 多忙の中急遽駆けつけてくれた友人に対して勝己のことばはあまりに恩知らずともいえるのだが、上鳴はまったく意に介していないようだった。勝己の口調もやはり気安い。それだけ互いへの信頼というものが積み重なっているのだと傍から見ていてもわかる。――以前のように仄暗い気持ちが湧いてくることはないが、羨ましいものは羨ましい。それは素直に感じてもいいものだと、出久は自分に言い聞かせた。

 それはともかく、

 

「べ、別に驚かせたかったわけではないけど……僕が4号だって、そこまで意外なことじゃないのかな……?」

「ん~、いや、意外っちゃ意外よ?完全に初対面だったら腰抜かしてたかも」

 

 「ぱっと見そんなキャラに見えねーし」と上鳴。いやまったくそのとおりだと出久は思う。ネット掲示板やSNSで4号の正体を考察する書き込みを頻繁に見かけるが、「ヒーローオタクの大学生」とピタリ言い当てたものは皆無だった。当たり前だろう、自分がその立場でもそんな天邪鬼な予想はしない。

 

「まー、正直前からなんかあるとは思ってたんだよな。あんだけ俺らン中に知り合い多くてさ、しかもどっか行ってた轟までメチャクチャ懐いてるみてーだし?俺ら以外であいつとマブダチになれる奴なんていねえと思ってたんだよなぁ、正直……その轟が4号その2だったっつーのもビックリだけど、なんか色々繋がった!って感じ」

「うん……そうだよね。頼りないと思われてもしょうがないけど、僕、これからも頑張るから。力を貸してくれたら嬉しいな」

「そりゃもちろんだけど、頼りないなんて思ってねーって。むしろおまえが4号で良かったよ」

 

 あっさりとした口調とは裏腹に、上鳴のことばには重みがあった。――明るく振る舞っているが、彼はついひと月ほど前、未確認生命体に多くの仲間を殺されている。あの慟哭の記憶を、生涯忘れることはないだろう。

 

「奴らと戦うのに少しでも役立てんなら俺も嬉しいぜ。――でも、電気浴びせるだけでマジで強くなれんのか?」

「なれる」勝己が断言する。「前に電気ショック受けただけでコイツには前兆が現れてる。戦いながら継続的に電流浴びりゃ、今度こそ新たな力を引き出せる。……リスクもあっけどな」

「……オーケー、おまえがそこまで言うんだもんな。任せとけ!」

 

 そのうち、勝己の手配した実験室にたどり着いた。出久と上鳴、ふたりだけが入室する。勝己は強化ガラスに隔てられたモニタールームに入った。

 

『デク、変身しろ。もう二時間は経ったから大丈夫だろ』

「うん。――変、身ッ!!」

 

 アークルを体外に顕現させ、構えをとる。モーフィンクリスタルが鮮烈な輝きを放ち――緑谷出久の肉体を、赤い鎧の異形へと変化させるのだ。

 

「おぉ……」

 

 思わず感嘆の溜息を漏らす上鳴。クウガと直接相対するのは初めてだし、まして変身する瞬間を目撃することになろうとは。

 

「こう目の前に立ちはだかられると迫力あんなぁ……。でもビビんねぇぜ、全力でぶつからせてもらう!」

「うん、頼む!」

 

 全力で戦う――それこそが新たな力を引き出す要になる。勝己はそう考えた。出久もまた、それを信じた。

 

 

「――うぉおおおおおッ!!」

 

 ゆえに、走り出すクウガ。迎え撃つ上鳴は一瞬後ずさりしかけたが、グッと堪えてその場に踏みとどまった。そして、

 

「来させねぇよ!!」

 

 上鳴の身体がかっと煌めき、次いで黄金の電撃が放たれた。一直線にクウガに襲いかかる。

 

「ぐっ!?……く、うぅ、あ……ッ!」

 

 クウガの身体を電流が覆う。耐えがたい痛みと痺れ、筋肉の痙攣による脱力感が襲ってくる。それでも身体を引きずって前進を続けようとしていたクウガだったが……限界は、容易く訪れた。

 

「……ッ、」

 

 電撃の放出が終わると同時に、その場に片膝をついた。鼓動が、ありえないくらい速まっているのが自分でもわかる。指の一本までほとんど力が入らない。ただ荒ぶった呼吸ばかりに、全身の労力が費やされているようだった。

 

「その程度かよ、未確認」

「……!」

 

 顔を上げたクウガは、ぎょっとした。上鳴の表情は、いままでに見たことがないほどに冷たく酷薄なものだった。

 

「そんな程度で俺らヒーローに勝とうなんて、一万年早いぜ……!」

(!、そうか……)

 

 上鳴電気は、演じている。

 

 出久はそのことに気づいた。上鳴はクウガを純然たる未確認生命体として扱い、挑発的なことばを投げかけている。自身の胸の内に燻る怒りをスパークさせて。

 そこまでして、出久を滾らせようとしている。――その戦意を昂ぶらせ、一時でも早くクウガをさらなる高みへ昇らせようとしてくれている。

 

(やっぱり、かっちゃんの友だちだな……)

 

 ならば尚更、応えなければ――震える脚を叱咤して、クウガは立ち上がった。その全身に電流が奔る。いままでよりも烈しく。

 それを鮮烈に感じながら――クウガは再び、ヒーローへと躍りかかっていった。

 

 

 

 

 

 パトロールを続けていた捜査本部の面々だったが、第37号の再出現が認められないこともあって、飯田や鷹野など一部は本部へ戻っていた。分析および対策の練成に臨むためだ。

 

「殺害方法については判明したぞ」

 

 彼らを出迎えたのは、塚内管理官のそんなひと言だった。

 

「ガイシャの心臓に異物が滞留しているのが発見された。詳しく調べた結果、それはフクロウのペリットのようなものだそうだ」

「ペリット……?」

「食物の不必要な部分を固めて吐き出すという……つまり第37号は、フクロウの性質をもつ未確認生命体であると」

「3号みたいに夜行性じゃないのがまたムカつきますね」

「ああ……問題はそんなものを、あの高さから寸分の狂いもなく心臓に到達させていることだ。そうして一瞬のうちに心筋梗塞を起こさせる――」

 

 とんでもない技術だ。自分ですら比べものにならない――スナイパーとしての腕に絶対の自信のある鷹野も、それを認めざるをえなかった。だからこそ余計に怒りを禁じえないのだが。

 

「奴は、また現れますよね」

 

 それは、誰にも否定できない。

 

「現れるとしたら、次はどこになるか……」

「……読めないわね、正直」

 

 ホワイトボードに貼り出された地図を睨む、一同。事件現場が点として描かれ、次の事件現場と結ばれている。第14号――メ・バヂス・バのときのように、何か法則性が見つかるかと期待されたのだが、

 

「あっちゃこっちゃ行ってんなぁ……」

 

 森塚のことばがすべてだった。ブウロの動きはあまりに不規則で、とても法則性などありそうもない。

 

「――いや、」

 

 ぽつりと飯田がつぶやいた否定の欠片は、やけに室内に響いた。

 

「どうした?」

「だからこそ、妙だと思いませんか?西から東に長距離移動したかと思えば、次はまた西寄りに戻っている。何も考えずに適当に場所を選んでいるとすれば、あまりに効率が悪すぎです。やり口、また直接相対した轟くんの話を聞く限りでも、そのような考え無しの敵とは思えません」

「……じゃあ、一見無造作に見えるこの移動にも、何か明確な法則が存在してるってわけか」

 

 つぶやいた森塚が、やおら手帳を開いた。どんぐり眼を細め、帳面に目を落とす。

 

「午前十一時三十分頃、足立区綾瀬。午前十一時四十分頃、荒川区町屋。午前十二時頃、板橋区上板橋……」

 

 そこまで読み上げたとき、森塚の表情が変わった。

 

「足立、荒川、板橋……江戸川……大田、葛飾、北、江東、品川、渋谷、新宿――世田谷!」

 

 犯行の為された地名。そのすべてを順番どおりに挙げられて、そこに隠された法則性に気づかない者はこの場にはいなかった。

 

「そうか、そういうことか……」

「こんな単純なことにすぐ気づけなかったなんて……」

「いや、しょーがないっスよ……。奴ら、まさか行政区分までゲームに組み込んでくるとは」

 

――東京23区を、五十音順。それがゴ・ブウロ・グのゲゲルのルールなのだ、間違いない。

 

「なら、次に奴が現れるのは……」

「皆には私から連絡する、きみたちは至急次に向かってくれ」

「轟くんには私から連絡します」

「そうだな……任せた、インゲニウム」

「はっ!」

 

 

 その頃の轟焦凍はバイクでひとり、粘り強く37号捜索を続けていた。もしもまた出現し犯行に及んだ際、近くにいればその気配を察知できる――それが理由だが、その身を炎天下の中に剥き出しにしているのは強化された肉体にも堪えた。

 

(せめて汗拭きてぇんだけどな……)

 

 未だ世間的には失踪したままであるため、公衆の面前ではヘルメットを脱ぐことすらできない。半冷で対応するにも限界がある――

 

 猛暑というある意味グロンギに次いで厄介な敵に辟易していた折、飯田から連絡が入り――判明した事実が告げられた。

 

「まさか、そんなルールが……」

『うむ……俺も正直、思いも寄らなかった。だがこれで、奴が次に現れる場所が相当に絞られたことになる』

「だな。これで俺の汗腺も報われる」

『汗腺?……熱心なのはいいことだが、休憩はしっかりとりたまえ!熱中症になってしまったら元も子もないぞ!』

「そうだな……悪ぃ」

 

 元委員長の注意にしおらしく応じ、焦凍は通話を終えた。すぐさま次にブウロが現れるであろう台東区へカウルを差し向ける。途中、どこか人気のないところで汗を拭いて水分補給くらいはしようと心に決めながら。

 

 

 

 

 

 電光のスパークする音が、辺り一面に響き渡っている。

 

 科警研の実験室にてそれを放っているのは他でもない、クウガだ。奔る稲妻のような電流が、やがて赤一色だった手甲に黄金の紋様を刻みつけ――

 

 

 次の瞬間には、滝のように汗を流した出久がその場に膝をついていた。

 

「はぁ……ッ、はぁー……ッ」

 

 筋肉の痙攣が続き、立ち上がることすらままならない。ただ呼吸を整えるのが精一杯だ。

 そんな満身創痍に近い状態でも、出久の胸にあるのは達成感ばかりだった。

 

「や…った……!やったよ……上鳴くん、かっちゃん……!」

『ンなゼェゼェしゃべらんでも見りゃわかる』

 

 表向き素っ気なく、しかし心なしか声に張りのある勝己。

 一方の上鳴はというと、

 

「ウェ、ウェェエイ………」

 

 放電のし過ぎにより、勝己の言うところのアホ面を晒していた。正直、出久からしてもそれ以外にどう形容したらいいのかわからない酷い顔だ。知能指数が著しく低下しているらしいが、まったく何もわからなくなってしまったわけではないのだろう――ビシッとサムズアップを決めてくれた。

 

(あとは……この力がどこまで通用するか………)

 

 強くなった敵に対抗できなければ、ここまでの努力は水泡に帰す――過ぎったネガティブな思いを、出久は瞬時に振り払った。大丈夫だ。友が、ここまでしてくれたのだから。

 

 しばらく出久が身体を休めていると、モニタールームにいた勝己が飛び込んできた。

 

「いま本部から連絡があった。37号が次に現れる場所がわかったらしい」

「!、奴のゲームのルールがわかったってこと?」

「あぁ、奴は東京23区を五十音順に襲ってる」

「ってことは、次は台東区……」

「だろうな。――動けるか?」

 

 彼なりの気遣いなのだろう問いに――出久は、上鳴よろしくサムズアップで応えた。

 

 

「うん!」

 

 かくして、彼らは戦いへ赴く――

 

 

――その寸前、

 

「上鳴」

「ウェ?」

「……あんがとよ」

「………」

 

 

「ウェ……えぇぇぇぇ!?」

 

 驚きのあまり上鳴が素に戻ったときには、ふたりはもう飛び出していったあとだった。

 

 

 

 

 

 ゴ・ブウロ・グは浅草橋上空に到達していた。じっくりと獲物を見定め、通行人の姿を認めるや吹き矢を構える。その漆黒の筒からペリットが撃ち出された瞬間、悪夢は再開される――

 

――それを阻む者が、この世界にはいる。

 

「当たりだな」

 

 ゴウラムに掴まったアギト――轟焦凍。彼の襲撃を受け、ブウロは出鼻を挫かれることになった。

 

「我がゲゲルのルールを看破したか。リントも無能ではないな」

 

 そうとは思えぬ冷静さで、アギトに対し攻撃を仕掛ける。左しか使えないアギトは防御手段がない。ゆえに、ゴウラムの回避能力に依存するしかない。

 

「さすがは緑谷の相棒だな。回避は任せるぞ」

『ソー・テー』

 

 いや……正しく言うなら、"信頼"か。明確にヒトならざるモノであれ、ともに戦う仲間であることに変わりはない。それがすべてだ。

 

 襲いかかる紅蓮の炎。それをすんでのところで躱しつつも、ブウロは次第に苛立ちを露わにしはじめる。

 

「目障りな……永遠に隠遁していればよかったものを」

「……だろうな、お前らからすりゃ」

 

「でも、しょうがねぇだろ。――"あいつ"に、叩き起こされちまったんだから」

 

 その到来を予期したアギトが、遥か彼方、地上に目を向ける。

 

 そこには、鮮烈なトリコロールのマシン――トライチェイサーを駆る、緑の射手の姿があって。

 

「緑谷……!」

「クウガ……!」

 

 ふたりの異形の声が重なる。無論そのあとの行動は、対極のものであったが。

 

「ベルスグギギ……!」

 

 本能的に危機を察知したのか、古代からの宿敵を確実に葬り去りたかったのか、クウガに標的を変えるブウロ。放たれたペリットがクウガに襲いかかる。

 

「ッ!」

 

 しかし超感覚でその発射に気づいたクウガは、トライチェイサーを傾けて飛び散る火花をかわす。追撃は……ない。あるはずがない、アギトがいるのだから。

 それを悟ったクウガは、その場にマシンを停止させた。周囲を見回す。――あった。

 

 勢いよく跳躍し、クウガは付近の河川敷に降り立った。開けた見晴らしの良い場所、ここならビルの屋上に上がらなくとも。

 上空に向け、ボウガンを構える。と同時に、その全身に電撃が奔った。目視できるほど烈しいそれに、クウガはわずかにうめき声を漏らす。

 

(ッ、大丈夫……この痛みは、もっと高いところに、行くためのもの……!)

 

 

(皆と、一緒に……!)

 

 輝ける、決意。

 

 まるでそれを体現したかのように、緑一色だったペガサスフォームの鎧の縁に、黄金の意匠が刻まれていた。手甲には"疾風"を表すリント文字。

 変化は武器にも及んでいた。ボウガンに一対のブレードが装着され、よりいかめしい姿へとその様相を変えている。

 

 さらなる高みへ――"ライジング"へと、たどり着いた姿。

 

「バンザ、ジャヅングガダパ……!?」

 

 見たことのないクウガの変化に、動揺を隠せないブウロ。その隙を突いて、背後からアギトが襲いかかった。

 

 

「――KILAUEA SMASH!!」

「!?、ガァァッ!」

 

 振り向きざま腹部に拳を突き入れられ、上空から叩き落とされるブウロ。文字どおり地に足つかない状態での一撃、ゴである彼には致命的なダメージではない。放っておけばすぐに態勢を立て直すことができただろう。

 

――だからこそ、そのわずかな隙は逃さない。

 

「ふッ!」

 

 ボウガンの先から放たれる、空気弾。それはいままでのように唯一ではなかった。ライジングとなったことで、弾丸の連続速射が可能となったのだ。

 計五発、放たれた弾丸。うち二発はむなしく空を切ったものの、残る三発は見事ブウロに命中した。翼を、胸を、太腿を弾丸が貫き、封印の文字を浮かび上がらせていく。

 

「グォオオオオオオオ――ッ!?」

 

 もはや態勢を立て直すどころではなく、回転しながら墜落していくブウロ。複数の"封印"から、バックルへと亀裂が到達し――

 

 

――刹那、爆発。遥か上空で起こったそれは、音すらも一瞬置き去りにして翠の瞳に映った。ほどなくして轟音も、耳に届きはしたが。

 

「………」

 

 しばしその命の爆炎が散っていくさまを見つめていたクウガは……ゆっくり、その場に倒れ込んだ。その姿がたちまち緑谷出久のそれへと戻っていく。

 

「緑谷っ!!」

 

 ゴウラムともども降下してきたアギト――焦凍が、駆け寄ってくる。変身が解けたことによって露わになった表情には焦燥が滲んでいる。一日に何度もそんな表情をさせてしまうことが、申し訳ないと思った。

 

「大丈夫か!?」

「う、ん……だいじょぶ……疲れただけ」やおら身を起こし、「あまり長くは保たないみたい、あの姿」

「……そうか」

 

 一瞬目を伏せた焦凍だったが……出久につられるようにして、頬を弛めた。

 

「うまくいって……よかったな」

「轟くん……」

 

 

「デク!」

「緑谷くん、轟くん!」

「!」

 

 と、今度は近くに待機していた勝己と飯田が駆け寄ってくる。前者はいつもどおりの仏頂面で輪に入ってきたのだが、後者は――

 

「――みんなッ……!よく、頑張った!!」

「うわっ!?」

 

 190センチ近い長身に筋骨隆々とした身体が、三人をまるでサンドイッチにするかのように包み込む。真ん中の具の役になってしまった出久は突然のことに口をぱくぱくさせることしかできない。

 

「テメッ……暑苦しいんじゃ放せやクソメガネコラァ!!」

「今日くらいはいいじゃないか!!」

「ぐっ……ぐるぢぃ………」

「とりあえず冷やしとくか?」

 

 

 河川敷ではしゃぐ彼らの姿は、まるで学生時代に戻ったかのようだったと、あとから到着した森塚は評している。――無論、雄英にいなかった出久も含めて。

 

 

 

 

 

 警視庁の頂にある警視総監執務室に、複数の男たちの姿があった。

 そのうちのひとり――電話を受けていた犬頭の面構犬嗣警視長が、受話器を置いて振り向く。

 

「第37号が倒されたそうです」

「そうかそうか。やはり俺の目に狂いはなかったねぇ」

 

 上機嫌に笑う警視総監・本郷猛。しかしそんな振る舞い招かれた客人たちは共有していなかった。面構の他にもうひとり、背広姿の痩身の男が、ソファーに座ったまま小さく溜息をつく。年齢は本郷と同じくらいか、彫りの深い顔立ちは青年の頃の美形の面影を残している。彼もまた、科警研の所長という高い地位の持ち主だった。

 

「総監、あなたの慧眼はよく承知しておりますが……だからといって今回の提議、あまりに荒唐無稽では?――G3の装着員を、一般から広く募集するなど……」

「言いたいことはわかるよ結城くん。"警察がかつての威光を取り戻すためのシステムであるはずなのに、警察官以外に装着者となる余地を残す意味がわからない"――そういう意見もずいぶん聞いた」

「それもありますが、私が言いたいのはもっと原則論的なことです。プロヒーローならまだしも、完全な民間人が装着員になるというのは、機密保持の観点で問題が多すぎます」

「だろうね。その対策については万全を尽くすよう関係各所に指示してある。日本の警察は優秀だ、うまくやってくれるさ」

 

 取り付く島もないとはこのことかと結城は思う。もっとも既に警察庁(となり)や永田町への根回しは済ませている以上、これは決定事項の通知でしかないのだろう。その行動力に色々な意味で嘆息するが、反感はない。この男とは長い付き合いだ。

 

「きっとすぐれた人間が選ばれるさ。面構くんもそう思うだろう?」

「……それが警察官であることを祈っていますワン」

「ハッハッハッハ、どうだろうねえ?」

 

 警察官であれ、ヒーローであれ、民間人であれ……行きつく先は、同じ。誰が装着しようと、それがG3であることに変わりはないのだから。

 

(期待しているよ、G3。おまえもまた、人類の自由、そして平和の守り手となってくれることを)

 

 人類の自由と、平和を守る異形の者たち。遥か昔……架空が現実になるずっと前から陰ながら戦ってきた彼らを、本郷猛はこう呼ぶ。

 

 

――仮面ライダー、と。

 

 

つづく

 

 




面構「ようやく私の番が回ってきたか……。ご存じ面構犬嗣です、よろしく頼むワン」

面構「緑谷くんが無事"ライジング"になれてひとまずほっとしたワン。敵もどんどん強くなってはいるが、彼には仲間がいる、きっと大丈夫。というわけで次回、海水浴の準備がてら友人たちとショッピングに出かける緑谷くん。そんな折、ひとりの少年が万引きに手を染めようとしているのを目撃する。やけに目つきの鋭いこの少年、インゲニウムたち雄英出身者とは顔見知りのようだが……。一方で新たな未確認生命体も出現。今度は人間体からして第7号のようなパワータイプのようだワン。そんな奴が電車内を我が物顔で闊歩する目的は一体?」

EPISODE 28. ストレイボーイ

面構「インゲニウムが公衆の面前で卑猥なことばを叫ぶぞ」

面構「さらに向こうへ……プルスウルトラァアオォォォォン!!」U^エ^U

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。