【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
薄暗い部屋に、少年がひとり。座り心地のよさそうなソファーに、すらりと長い四肢を窮屈そうに折り曲げて座り込んでいる。
その昏く鬱いだ瞳は、唯一ちかちかと眩いテレビ画面に注がれていた。映し出されるのはバラエティやアニメなど年相応な番組ではなく、堅い雰囲気の報道番組。アナウンサーもまた、笑顔少なに深刻なニュースを読み上げているところだった。――中学生の男子生徒の転落死。異形型であることが原因でいじめを受け、それを苦にしての飛び降り自殺だったという。
異形型であることがいじめに結びつくことが、これまでなかったわけではない。だが個性を持つ人々の中には異形型とは言わないまでも身体のどこかが常人とは異なる形状に変化している者も多く――飯田天哉の脚のエンジンや瀬呂範太の腕のセロハンのように――、からかいの対象になることはあれそこまで深刻な事例は多くはなかった。
未確認生命体が、現れるまでは。
『未確認生命体の出現以降、全国の学校で激増している異形型の児童生徒へのいじめ問題について、文部科学省と警察庁が異例の共同声明を発表しましたが、未確認生命体関連事件の全容解明が進まないことに対する批判の声も根強く――』
その瞬間、ぷつっと音をたててテレビが消えた。少年がリモコンの電源ボタンを押したのだ。
視聴覚ともに失われた深い静寂の中で、少年はゆらりと立ち上がった。小さな手提げかばんひとつ引っさげて、部屋を出て行く。扉の閉まる音は、まるで永遠の暇を告げているかのようだった。
*
午前八時過ぎの警視庁。既にエアコンのよく効いた食堂内は多くの警察官の姿で賑わっていた。
その中にあって爆豪勝己はひとり新聞を開いていた。彼の日課のひとつ。普段はそうして未確認生命体関連の情報を収集しているのだが、今日目を奪われていたのは別の記事。
「ここ、空いてるか?」
「!」
年季の入った渋い声に顔を上げれば、そこには夏服を着た犬頭の警察官僚の姿があって。
「おはよう」
「……はよざいます」
所属長相手には雑すぎる挨拶だが、これが彼のスタンダードなので仕方がない。相対する面構犬嗣も気に留めるタイプではなかった。いちいち聞き咎めていたら神経がもたないのもあるが。
「新聞か……若者らしくないな、いい意味で」
「何があったか手広く知るにはちょうどいいんで。社説は毛ほども興味ねえけど」
「ハハ……きみらしいな。ところで、何か気になるニュースはあったか?」
「………」
沈黙。肯定も否定も表さないということは前者で、何か思うところがあるのだろう。
朝五時には起床してひととおりのニュースには目を通す面構には、ひとつ心当たりがあった。珍しく少し気まずげにちらちら顔を見てくるのもあって、尚更。
「なるほど、例のいじめ問題か。……やるせないな、正直」
「……あんたも子供いんだろ。ないんすか、そういうこと」
「ウチのはもう大きいから、学校で何かあるってことはなさそうだワン。ただ、道を歩いていて遠巻きにされたり、ひどいときには絡まれることもあると相談されたことはある。いじめは論外だが……皆、怖いんだろうな。それは我々の落ち度でもある」
実際、未確認生命体を自称し重犯罪を起こす異形型ヴィランも時折発生している。そんなことも重なって、日常に溶け込んでいた"異形型"たちは再び化け物と同一視されつつある――かつての、個性黎明期のように。
ただ、"いじめ"という問題は、そのことのみをもって論じられるものではなかった。
「芽生えはじめた自尊心と、その裏返しともいえる他人に劣ることへの恐怖、そして将来に対する漠然とした不安……様々な感情が複雑に絡みあって、それが悪意を生むこともある。私は教育者でないから博識ぶったことは言えんが、小中学生の子供のこととなると難しいな」
「………」
勝己はじっと目を伏せていた。そうして、面構のつぶやきを飼い主にしつけられる子犬のように聞いていた。かつての自分の……自分ですらわからずにいた心境をたったひと言で言い当てられてしまう。彼のようなまっすぐな大人にとっては所詮、かつての自分はそんな程度のものに振り回されるちっぽけな子供でしかなかったのだ。いま紙面に淡々と掲載されている、ひとりの子供が自ら命を絶ったという取り返しのつかない事実――六年前、自分は幼なじみを同じところに追いやろうとしていたのだと改めて思い至って、勝己は拳を握りしめた。
*
不幸中の幸いとして、勝己の幼なじみは生きていた。傷つき夢破れる結果となっても死を選ぶことなく生きてきて、いま、ここにいる。
いつ命を落とすともわからない戦いの中に身を置いてはいるが、生に向かうエネルギーという意味ではこれまでの人生の中で最も漲っているようだった。それはそうだろう、勝己ともぐっと距離が縮まり、友人や仲間と呼べる存在がたくさんできた。彼らとともに生きていきたい、この幸福を守りたいという確固たる強い想いが、彼を支えているのである。
そんな彼――緑谷出久は今日、とあるショッピングモールを訪れていた。勝己から譲られて久しいトライチェイサーを駐輪場に置き、待ち合わせ場所となっている店内の北側入口へ向かう。早めに来たつもりだったが、待ち人たちの姿は――あった。
「あっ、デクくん、こっちこっちー!」
「!」
こちらに向かっていっぱいに手を振る少女。
その両隣には、それぞれ彼女よりも幾分か落ち着いた風貌のショートボブの女性と、どこか凛とした令嬢然とした女性の姿があって。
「麗日さん、沢渡さん、八百万さん!もう来てたんだね」
アルバイト仲間であり雄英出身のプロヒーローでもある友人、麗日お茶子。そして城南大学の考古学研究室に在籍する年上の友人、沢渡桜子。そしてお茶子の同級生であり、やはりプロヒーローとして活躍している八百万百。タイプは違うが、それぞれ負けず劣らずの美女だ。
このまま彼女らを引き連れて街を歩けば、すれ違う男たちから羨望と嫉妬のまなざしを向けられることだろう。出久が特別容姿において優れている部分があるわけでないぶん――エメラルドのような翠のどんぐり眼はチャームポイントといえるかもしれないが――、後者のほうが圧倒的に強烈かもしれない。
ライトノベル主人公のような一日を過ごすかに思われた出久。しかし現実にはそうではなかったし、出久自身そんな刺激の強すぎる状況は望んでいなかった。
「飯田くんたちは?まだ来てないのかな?」
「あぁ、飯田くんたちなら――」
「お待たせ!無事送り届けてきたぞ!」
噂をすればで、店内から飯田とおやっさんが現れた。
「おつかれさまー!」
「お疲れ様です、ふたりとも」
「お疲れ様でした」
「いや……ん?あぁ緑谷くん、来ていたのか!」
「う、うん、いま来たとこ。ふたりは何かして来たの?」
「うむ、実は――」
曰く。ここで待機していたところ迷子に遭遇してしまい、見かねた飯田がその子供の両親捜しに奔走することになったのだという。やはり根っからヒーローだな、と出久は思いつつ……そこにおやっさんが同行したのが意外でもあり。
「しょーがないでしょーよ。おやっさんの超おもしろギャグがバカウケしちゃったんだから!」
「え……そう、なの?」
訊くと、三人の美女は揃ってかぶりを振った。
「そもそも意味わかってなかったっぽいよ」
「懐かれてたのは間違いないけど……」
「飯田さん、怖がられてしまっていましたし……」
「……なるほど」
かなり大柄なうえ、どうしても振る舞いからして四角四面な飯田では小さい子供に怖がられるのも無理はなかろう。逆に、良くも悪くも威厳のないおやっさんが懐かれるのもまた当然というべきか。
「ともかくこれで全員お揃いになったことですし、いざ参りましょう!海水浴グッズを揃えに!」
「おー!」
「うむ!」
やたらテンションの高い雄英OB・OG勢。そういうノリにあまり慣れていない出久と比較的物静かなタイプの桜子は即座には同調できなかった、残念ながら。
「イェーイ!!」
なぜか親子ほど歳が離れているはずのおやっさんは、ばっちりついていけているのだった。
ともあれ、「おー!イェーイ!!」なノリにはなかなか溶け込めないまでも、出久もまたこのショッピングを楽しむつもりであることに間違いはなかった。
(いいなぁこういうの……すごく"青春"って感じだ!)
暗黒の中学時代は言うまでもなく、高校時代も心操や桜子ほどの親しい友人はいなかった出久である。友だちと旅行に出かける、その準備のために買い物に来るというのはとても新鮮なことだったのである。
そんな彼に、しかし思わぬ試練が待ち受けていて――
「一番肝心な水着、いっちゃおう!!」
ある程度買い物も進んだところでの、お茶子の提案。新しい水着を購入するということか、まあそれ以外には捉えようがないが。
「あっ、そっか……。僕もプール用のやつしか持ってないし、ちゃんとしたの買ったほうがいいかな?」
「おー、そうしたほうがいいぞぉ!海水浴なんてまたとない好機、生足魅惑のマーメイドに出会っちゃうかもしれんのだから!」
「?、マーメイドの足は魚類のものなので、一般的な趣味嗜好からいって生足だけで人間を魅惑するのは難しいと思いますわ」
飯田と見せかけてまさかの八百万からのマジレスに、ことばに詰まるおやっさん。ちなみに飯田は横でぶんぶんうなずいている。
「ゴホン!えー、そういうことであれば、男女分かれてそれぞれの水着を購入、一時間後にまた合流するということでいかがでしょうか!」
「おー、久々出た委員長!」
お茶子に囃し立てられ、なぜかえへんと胸を張る飯田。ただ、そんな彼の提案が必ずしも容れられるかといえばそうではないのだった。
「でもごめん、一回デクくんだけこっちで借りてもいい?」
「えっ?」
「ムッ、なぜだ?」
飯田は当然として、指名された出久も首を傾げざるをえなかった。おやっさんだけはにやにやしている。
「だってホラ、水着選ぶのに男のコ目線欲しいし~。ねぇ沢渡さん!」
「う~ん……ま、そうね!」
「……へぁ!?」
ひと呼吸置いて意味を理解した出久は目を剥き、次いで顔を真っ赤にした。つまりは、自分が、彼女たちによって……ありとあらゆる女性用水着の中からこれというものを選ぶことを強いられ、挙げ句の果てには試着姿の感想を求められたりするのだろうか。
「こっこっこっこっ困る!!」
「困らないよぉ~」
「なぜ断言できるの!?」
「大体っ!」となおも出久は言い募る。
「う、麗日さんと沢渡さんはいいかもしれないけど、八百万さんは嫌でしょ!?知り合って間もない男に水着のことああだこうだ言われるなんて――」
「あら、むしろありがたいですわ」
「即答!!」
ずい、と迫る女性陣。追い込まれていく出久。ここでおやっさんが「だったら俺が見てあげようか~?」と鼻の下を伸ばしながら参戦したのだが、
「おじさん目線は結構!」
お茶子のこのひと言であえなく撃退されてしまったのだった。
「そういうわけだから飯田くん、そっちは適当にやってて!」
「構わないが……緑谷くんの水着はどうするんだ?」
「あとで私たちが選ぶから平気!」
「そ、そうか。わかった……あまり、こう、無理強いはしないようにな?」
「わかっとります!」
いやもう十分してるから!そんな抗議もむなしく、飯田とおやっさん――心なしかしょんぼりしている――は出久を置いて去っていってしまった。
「さ、行こーデクくん!」
「なぜ……こんな………」
そんなつぶやきが最後の抵抗だった。女性3人の圧をはね除けられるはずもなく、哀れ出久は女性用水着コーナーへ連行されてしまうのだった。
*
リントの女性たちが可憐に休日を楽しむ一方……グロンギの女傑のひとり、メ――改めゴ・ガリマ・バはひとり、薄暗い洋館の中をひとり彷徨っていた。ゲゲルの順番はまた後回しにされた――わかっていたことであれ、やはり不満は抑えきれない。
ならばストレス解消に別の遊びに興じるという手もある――"ゴ"にも遊興を好む者は一定数いる――のだが、根っから戦士である彼女はそういうものをくだらないと切り捨てている。
この苛立ちをどこにぶつけるか――そんなことばかりを考えていた矢先、いずこからか不思議な音色が響いてきた。
「……?」
その雅ながら力強い、規則正しい音楽に、自然ガリマの足は出処へと向いた。確たる足取りで廊下を進み、扉を押し開ける――
部屋の中央は、不思議な形をした巨大な漆黒のオブジェクトによってほぼ占められていた。その前部に置かれた椅子に座ったチャイナドレスの美女。純白と漆黒の交錯する板の集いを指が押し潰すたびに、かの美しい音色が流れ出している。
「!、ベミウ……」
「………」
ガリマの存在に気づいた彼女――ゴ・ベミウ・ギは、やおら演奏を止めて顔を上げた。
「あら、うるさかったかしら?」
「いや……それは一体、なんだ?」
ベミウはにこりともせず、
「ピアノ。リントが発明した音楽を演奏する楽器よ」
「楽器……おまえは音楽を嗜むのか」
「ええ」
ベミウのしなやかな白い指が、鍵盤を叩く。軽やかな音色が、ガリマの聴覚を撫でた。
「……続けてくれ」
ガリマがつぶやくように乞うと、ベミウは妖艶に笑み――再び、ピアノを弾きはじめた。獲物であるはずのリントの創作した音の連なりに、ふたりの女戦士は間違いなく心惹かれていた。
キャラクター紹介・クウガ編 ギブグ
ライジングペガサスフォーム
身長:2m
体重:99.9kg
パンチ力:1.5t
キック力:4t
ジャンプ力:ひと跳び15m
走力:100mを5秒
武器:ライジングペガサスボウガン
必殺技:ライジングブラストペガサス
能力:
ペガサスフォームが雷の力で強化された"ライジング"形態だ!一説には"凄まじき戦士"の力が漏れ出した姿とも言われるが、暴走は抑えられているぞ!
瞬時に標的を捉え射抜くために、全身の感覚がさらに研ぎ澄まされている。そのぶんエネルギーの消耗はさらに激しくなり、30秒もするとグローイングフォームに退化してしまうぞ!
武器であるライジングペガサスボウガンは、ライジング化によって銃身に金色のブレードが発生している。接近戦にも対応できるようになったが本領はそこではない、通常のペガサスボウガンでは不可能だった連続速射が可能になり、射程距離も大幅に伸びているのだ!どんなスナイパーよりスナイパー、それこそがライジングペガサスなのである!