【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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EPISODE 29. 僕のヒーロー 1/4

 狭いトンネル内で、激戦が続いていた。

 

「ヌォオオオッ!!」

 

 二叉の槍を力いっぱい振り回すゴ・ジイノ・ダ。前面に立つクウガ・ドラゴンフォームは対照的に、軽やかにドラゴンロッドを振り回し、ジイノの猛攻を受け流している。

 

「チョボラバド……!」

「……ッ!」

 

 だが、タイタンフォームすら凌ぐかもしれないジイノのパワーを前に、少しずつ圧されてしまう。非力な青ではやはり、限界があるようだった。

 だが何度も言うように、彼は孤独ではない。肩を並べて戦う仲間たちがいる。

 

「どけやクソナード!!」

「!」

 

 その激しい命令口調を嫌というほど耳にしているクソナードことクウガは、反射的にバク宙で引き下がった。

 入れ替わるように、勝己が跳ぶ。ジイノの頭上をとり、

 

「死にさらせッ、――"徹甲弾(A・P・ショット)"!!」

 

 籠手に蓄積したニトロのような汗を一気に放出させる――それも一点集中で。意図的に範囲を狭めた爆炎は、分厚いコンクリートにすら風穴を開けるほどの威力を発揮する。

 上位クラスのゴであるジイノですら、涼しい顔をしていられるものではなかった。直撃こそ避けたものの、爆風に表皮を焦がされ、吹き飛ばされる。

 

「グ、ゥゥゥ………」

「チィッ……死にさらせっつったろうがァ……!」

(そんな、横暴な……)

 

 相手を殺すつもりで戦っているのは自分も同じだが、言動があまりに不穏すぎる。彼だけの、表面上のことのみに限定するならば、"グロンギに近づいている"と感じられてしまうのも仕方ない部分があると密かに出久は思った。無論、口が裂けても口にはしないが。

 

 ともかく、彼らの尽力によってある程度ジイノを追い詰めることはできた。あとは、一気に――

 

「――終わらせる!」

 

 ドラゴンロッドを軽やかに振り回し、構える。腕に電撃が奔る。"ライジングパワー"――出久が"金の力"と名づけたそれは、当然ペガサスフォーム以外でも使用できるはずだ。

 だが、ジイノも前のプレイヤーが敗れた原因を知らないわけではなかった。あの電撃の力を受け新形態になられたら自分もただでは済まないかもしれない。最優先すべきはゲゲルだとわからないほど、彼は猪ではなかった。

 

「ボンバシパ、ババサズバゲグ!!」

「!」

 

 捨て台詞とともに槍を投げつける。凄まじい勢いで迫る。標的となったクウガが咄嗟に回避に移るより早く、アギトが動いた。

 

「やらせねえっつったろ!!」

 

 その右足から氷結が奔り、クウガの眼前に氷壁をつくり出す。刹那、分厚いそれに深々と槍がめり込んだ。

 

 それだけでは終わらない。今度は左手から火炎が放たれる。自ら生み出した氷を無に帰し、その向こうにいるはずのジイノを呑み込む――

 

「ッ、よし今度こそ……!」

「!、いや待て、緑谷」

 

 思わぬ制止のあと、「手応えがねえ」とつぶやくアギト。遠隔攻撃でもそんなことがわかるのか、と頭の片隅で思いつつ。

 

――彼の言うとおりだった。炎が収まり熱の残滓に歪んだ空間が露わになったとき、そこにかのグロンギの姿はなかったのだ。

 

「!、逃げたのか……!?」

「……ああ、気配ももうそばにはねえ」

 

 見かけによらず逃げ足も速いらしい。思わず舌打ちしそうになるのをクウガは慌てて堪えた。幼なじみの癖が危うく移るところだった。

 その幼なじみといえば、自分は舌打ちすることもなく冷静にインカムで通信を行っていて。

 

「こちら爆心地。38号は六本木方面へ逃走した。手負いではあるが致命傷ではないので警戒は厳に、以上」

 

 相変わらずさっぱりした通信。それを終えた途端、いきなり眦を吊り上げてひとつ舌打ち。やはりそうでなくては、と思ってしまった。

 

「にしても、」変身を解いた焦凍がつぶやく。「あの槍ぶん投げんのが地味に厄介だな……。あのスピードだと青でも避けるのキツいだろうし、紫でも受け止めきれるかわかんねえぞ」

「うん……それに、」

 

 応えつつ、クウガもまた出久の姿に戻る。それに合わせてドラゴンロッドが敵の武器である二叉の槍に戻り、

 

――消えた。

 

「!?、おい、槍が……」

 

 焦凍は驚いたようだったが、出久はそうではなかった。槍がどうなったのか、よくわかっているからだ。

 

 槍は、消えたのではなかった。出久の掌の中に収まっていたのだ、もとの姿となって。

 

「これ、なんだと思う?」

「毛、みてぇだけど」

「そう、奴の顎髭。これを抜き取って、槍に変形させてたんだ」

「!、それってまるで……」

「……うん、クウガの能力とそっくりだよね」

 

 変形させるものの性質に違いはあれど、それは本質的な隔たりではあるまい。もはや言い逃れはできないと、出久は思った。

 追い打ちをかけるように、

 

「クウガと連中が似たようなモンってのも、強ち間違いじゃねえのかもな」

「!」

 

 勝己の冷徹なひと言に、ふたりは反射的に振り向かされた。とりわけ焦凍は怒りぎみに。

 

「爆豪おまえッ、ンな言い方……!」

「いいんだ、轟くん」

「緑谷……」

「言い出したのは僕だしさ。それに、確かに似た力だけど……大事なのは、出処じゃなくて使い方だろ?」

「そりゃ、そうだが……」

 

 実のところ、焦凍は見逃さなかった。垂らされた出久の右手が、一瞬ぶるりと震えるのを。

 本当は怖いのだ、出久だって。実際に"そう"なりかけてしまった経験がある以上――

 

 それでも「大丈夫だよ」と笑うのは、彼がヒーローだから。プロではないとしても、その心は、まぎれもなく。

 

「っていうか、自分で言い出しといてあれだけど……いまは38号のゲームのことだよね」

「ハッ、クソデクにしちゃわかってンな」

 

 鼻を慣らしつつも、勝己はしっかりとうなずいた。

 

「奴にもあるよね、ゲームのルール」

「あァ、人数はまちまちだが選んで殺してんのは確かだ。現場に居合わせた人間のほとんどにゃ見向きもしてねえらしいからな」

「そっか……でもどういうルールなんだろう、事件現場からいって少なくとも37号みたいに東京23区ってわけじゃない、そもそもゲームなら他のプレイヤーと同じルールは採用しないよな、ということは他に何かしら法則性があるってことだけど一体なんなんだろうか、場所以外なら被害者の性別年齢個性、名前……何かあるはずだ、共通項――痛でっ!?」

「ウゼェ」

 

 苛立つ勝己に背中を軽く蹴られ、出久の悪癖は強制終了させられた。

 

「そっちの分析はこっちでやる。テメェはあのイノシシ野郎捜しに行けや、渋谷のほうにでも」

「そうだね……え、渋谷?」

「……どうせ野郎はどこに出るかわかんねえ。ついでにあのガキ捜しゃ一石二鳥だろ」

 

 洸汰少年の捜索――決して忘れていたわけではない。だからグロンギの追跡と辻褄を合わせることができるなら、と一瞬惹かれかけたのだが、

 

「いや、でも……」

 

 やはり、心情的には抵抗が生まれた。ジイノが次どこに現れるかわからない、だから渋谷を捜すのも無意味ではない――それは確かだが、ひとつのことに専心しがちな自分は、きっと洸汰のことで頭でいっぱいになってしまうから。

 

 躊躇する出久の背中を、焦凍が押してくれた。

 

「緑谷、奴のターゲットがわからねえ以上、あの子を放っとくのは危険だ。――それに、捜してくれてる沢渡さんと麗日も」

「!」

「ふたりには俺から連絡して避難させとくから、おまえがあの子を見つけてやれ。他の場所は、俺たちで捜す」

 

 「少しは俺のこと、便利に使ってくれよ」――かすれた声の焦凍のつぶやきが、ひどく胸に染みた。

 

「……わかったよ。ありがとう轟くん、かっちゃんも」

「あぁ」

「……フン」

 

 ふたりにサムズアップを向けると、出久はトライチェイサーに跳び乗り、そのまま渋谷方面へ向け走り去っていった。

 

「――なぁ、爆豪」

「ンだよ」

「おまえにもあの子捜しに行ってほしいっつったら、怒るか?」

「ア゛ァ!?バカ言ってんじゃねえ、こっちは仕事でやってんだ職務放棄なんかできっか!」

「……おまえ、たまに飯田みたいなこと言うよな」

「一緒にすんな!!」

 

 怒鳴る勝己。――噂をすればというべきか、飯田を助手席に乗せた覆面パトカーが、トンネル内に飛び込んできたのだった。

 

 

 

 

 

 人、人、人。

 

 どこに行っても人がいる。ひとりでいることが好きな洸汰少年にとって、この地にいることは苦痛でしかなかった。

 だが、そうでない頃もあったのだ。この地に自分が住んでいた頃――まだ両親が、生きていた頃。

 

 両親は立派なヒーローだった。休日に親子三人、こうして街を歩けば、人々から応援や称賛のことばをもらったものだ。幼い洸汰は、ひどくそれがくすぐったかった。

 でもいま、洸汰に目を向ける者は誰もいない。この街を、社会を愛し殉じた英雄の忘れ形見だと、気づく者などいはしない。

 

 だからそんなもの、自分から捨ててやる。

 

 悲壮な覚悟を胸に秘めた洸汰の手の中で、くしゃりと音がする。袋に入ったままのライターが、そこには握られていた。

 

 

 

 

 

「……なんなの、これは?」

 

 いったん本部に戻った鷹野警部補は、目の前の光景に唖然としていた。

 最後に見たときには整然としていた会議室の机が、大小様々なアイテムで埋め尽くされている。すべてビニールに包まれていることから、それらが38号被害者の遺留品であることはすぐにわかったが――

 

「おや鷹野さん、おかえりなさい」

 

 人なつこい笑みを浮かべて迎える森塚。彼以外にも数人の捜査員が、遺留品の検分を行っていた。

 

「……この様子だと、聞き込みのほうは不発だったみたいね」

「おっしゃるとおりで。まあガイシャの足取り追うにしても、ヒントがないと無理ゲーなんでこのとおり、捜索中って状況なわけです」

「そう。何か見つかった?」

 

 問いかけに、森塚は是とも否とも言わなかった。――ことばでなく、行動で示したのだ。親指を立ててサムズアップという行動で。

 

「これです」

「……ライター?」

 

 それはビニールに覆われたままの真新しいものだった。メジャーな薬局の名前と"銀座駅前店"の文字が袋に印字されている。

 

「所持していたのは7人。そのうち5人は煙草を所持してません。――ちょっと気になりますよね~」

「ちょっとじゃないでしょう、どうせ」

「てへ、バレてましたか」

「だからかわいくないっての。――行きましょう」

「うぃっす!」

 

 

 

 

 

 逃走を図ったジイノは、人間体に戻って路地裏に潜伏していた。表ではパトカーのサイレン音が響き渡り、何かを懸命に捜索していることがわかる。その"何か"が自分であることも。

 

「……ってぇな、クソッ」

 

 胸のあたりを押さえ、顔をしかめるジイノ。致命的なダメージではないし、傷もふさがりかけている。だが、クウガやアギトならまだしも、ただのリントによって傷を受けるとは。たとえそれがプロヒーローの爆心地であろうが、認めがたいことに変わりはなかった。

 

「リントめ……次会ったら必ず殺す――!」

 

 ひとり息巻いていると、不意に背後に気配が現れた。咄嗟に振り向くと同時に、拳を突き出す。肉にめり込む感触。

 だがそれは、自らを追う者たちの一味ではなかった。仮にそうであったならばこの一撃でもの言わぬ赤黒い肉塊と化していただろう。現にそうなるどころか、彼は一歩も退くことなくそこに立っていた。

 

「気が立っているな、ジイノ」

「!、ガドル……」

 

 ガドルと呼ばれた着流しの男は、黙ってジイノの拳を払いのけた。凹んだ頬が一瞬にして元どおりに治癒する。

 

「だから言うたであろう、リントも侮れないと」

「……うるせぇな、アレでよくわかったわ」

 

 「ゴは不当に相手を侮ることはしない」――ベミウのことばだが、それはジイノにとっても共通認識であった。少なくともこのゲゲルの間、リントの戦士ともなるべく遭遇しないように動かなければ。

 

「さらばこの包囲網、いかにして破るつもりだ?」

「……こっから出てすぐ、駅がある」

「あのリントを乗せて動く箱が発着する場所か。貴様もつくづく好き者だな」

「便利だろうが。リントも大したもんだ」

「否定はせんが」

 

 その"大したもの"――リントの叡智を率直に評価するからこそ、穢してやりたくなる。リントの定めた行政区分を利用したブウロも、このジイノも。

 

 彼ら"ゴ"の行動原理は、おそらくそこにあった。




キャラクター紹介・リント編 バギングドググドドググ

グラントリノ/Gran Torino
個性:ジェット
身長:120cm
好きなもの:たい焼き、惰眠
個性詳細:
自身が吸い込んだ空気量の分に応じて足の裏の噴出口からジェットを噴射する。爆発的な加速力と機動力を発揮し、屋内外問わず縦横無尽に動き回ることが出来るぞ!
肺活量次第では空中を飛ぶことも可能……ジジイになった今でも可能!?若い頃はどんだけだったんだ!?

備考:
隠居の身ではあるが、まだまだ実力は衰えていない超ベテランプロヒーロー……なのだが知名度はほとんどない。それもそのはず、彼は弟子であるオールマイトこと八木俊典を鍛えるためにヒーロー免許を取得しただけで、ほとんど活動らしい活動をしてこなかったのだ!
ワン・フォー・オールの後継者となった轟焦凍のこともオールマイトに代わって見守っていたが、怪物と化してしまうようになった彼を立ち直らせることはかなわず、あかつき村の山奥でともに隠遁するのが精一杯だった。
現在はグロンギの襲撃、そして緑谷出久との邂逅を経て"アギト"として覚醒した焦凍と都内のマンションにて同せ……同居中!おざなりになりがちな衣食住の面倒を甲斐甲斐しくみているぞ!エンデヴァーもまさか手塩にかけて育てた息子が成人過ぎておじいちゃんにお世話されて生活することになるとは思っていなかっただろう……。
ちなみに本名は空彦というらしい。「風都……いい風が(ry

作者所感:
デクがOFAを継承しなかったことで起きた人間関係の変化の象徴的な人かもしれないです。原作だとかっちゃん&轟くんとの関わりなんてほとんどないし。
アギト覚醒編以降とんと出番がありませんが、備考で書いたとおりぶつくさ言いながら轟くんのお世話を継続してくれてるんじゃないかと思ってます。エンデヴァーが完全リタイアしたら捜査本部に入れ替わりで入る可能性もあったんですけどね~思った以上にしぶといから……。
声の緒方賢一さんは「天地無用!」とか90年代のアニメで既におじいちゃん役結構やってて未だに現役なのすごいな~と思ったり。

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