【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

108 / 187
こういうワンシーンが長くなるパートは、それだけでキレイにまとめるか、グロンギパートや捜査パートも入れて少しでも本筋を進めるかいつも悩みます。


EPISODE 29. 僕のヒーロー 3/4

 洸汰少年は人気のない公園内、ひとりぽつんとブランコに腰掛けていた。

 

 ここもまた、両親との思い出の場所だった。多忙を極めるヒーロー活動の合間を縫って、彼らは可能な限り洸汰の育児を自力で行っていた。遠出が難しいだけに、ここに連れてきて色々な遊びに付き合ってくれたのだ。このブランコに乗る幼い自分の背中を押してくれる両親――そんな懐かしい感触が、いまでも背中に残っている。

 

『洸汰、』

 

 頭の中で響く声は、現実に聞こえているかのように鮮明だ。けれどもそれは勝手につくり出した幻でしかない、そうでないなら……そうでないならなぜ、誰も背中を押してくれない?

 父も母も、もういない。生前の彼らにとって憎むべき悪にひとり息子が堕ちたとしても、悲しみも怒りも表しはしないのだ。

 

『こう、――』

 

 だから意図的に抑え込めば、声は簡単に消えてしまった。やはり妄想の産物でしかないのだ。自分はそうやってまた、訣別しようとした過去に取り憑かれている――

 

 だから自分には、何も為せない。誰かを救うのも、傷つけるのも、中途半端なことしかできない。

 洸汰がしずかに錆びた鎖を握りしめていると、背後からざり、と砂を踏みしめる音が響いた。反射的に振り返り――息を呑んだ。

 

 こちらに迫ってくるのは、あの、ショッピングモールで出会った宇宙人みたいな髪の男だったからだ。

 

「……ッ!」

 

 身体を強張らせ、距離をとろうとする洸汰。そんな、野良猫のような振る舞いを見て、男はなぜか傷ついたような表情を浮かべた。それがいつか見た"友人"のものと重なって、洸汰の心臓はどくりと跳ねた。

 

「ま、待って!」途端に慌てたような声を発す。「逃げないでっ!ちょっと、話がしたいだけだから……」

 

 縋るような目つき。ひと回りも年上の大の大人のそれなのに、洸汰はどうにも弱かった。身体がしゅるしゅると萎むような錯覚、浮かせた腰がまたブランコに落ちる。

 

「……ンなこと言って、警察に突き出すつもりなんだろ」

 

 してやられたような心持ちで、思ってもいないことを吐き捨てる。案の定この少年のような青年はへにゃりと微笑んで、

 

「そんなことしないよ。できれば連れ戻したいとは思ってるけど」

「………」

「隣、いいかな?」

 

 「いやだ」と言ったところで、こういう手合いはなんだかんだと屁理屈を捏ねて自分の考えを貫くのだろう。最初から強引な態度を貫いてくれるほうがまだましだ――爆心地のように。

 

 だから結局、「……好きにしろよ」と言い放った。もう突き放すだけの気力もなかった。

 どこかゆったりした動作でブランコに腰掛ける、青年。長身というわけでなくとも、成人過ぎた大人がそうしている姿は窮屈そうで、いささか滑稽にも見える。

 

 せめてもの抵抗にと警戒心を剥き出しに俯いていた洸汰。それを感じとってか、隣に座る出久もすぐには話しかけてこない。ギィ、と音がしたので横目で見遣ると、彼は少しブランコを揺らしながら曇天を見上げている。その大きなエメラルドグリーンの瞳は、にもかかわらず煌めいている。それが妙に胸をざわめかせた。

 

「――きみ、」

「!」

 

 思わず肩を跳ねさせ、次いで目を逸らす。

 

「洸汰くん、って言うんだよね。名前」

「!、……あぁ」

「僕は出久……緑谷出久っていいます。城南大学に通ってて、飯田くんたちとはその……色々縁があって、ああして仲良くさせてもらってるんだけど」

 

 そんな自己紹介から始まり、ぺらぺらとなんだか他愛もないことを話している。

 

「……おしゃべり」

「えっ!?あ、ごごごごめんっ、あまり好きじゃないよね、そういうの……」

「わかってんならしゃべってないでさっさと連れ戻せばいいだろ。――はっきり言って時間の無駄だこんなの。俺にも、あんたにも」

「………」

 

 出久は否定も肯定もしなかった。怒り出すこともしなければ、機嫌をとってくることもない。距離を慎重に窺っているようで、その実一気呵成に踏み込んでくるような大胆さがある。頭の回転は速いといえども、洸汰はまだ10歳の子供、拒絶以上の効果的な反応を持ち合わせてはいなかった。

 

「なんか……さっきと全然違うね」

「……何が」

「もっとこう、鋭くて覇気のある感じだったから。かっちゃんみたいな」

「誰それ」

「!、あー……爆心地――爆豪勝己のこと。知ってるよね」

 

 知らないわけがない。――あの日見た背中は、ちょうど五年が経ったいまでも目に焼きついて離れない。彼のとった行動は、洸汰に計り知れない影響を与えたのだ。

 

「幼なじみなんだ、彼。だからお互いあだ名で呼んでて……まあ、向こうのは蔑称だけど……」

「………」

「飯田くんたちに聞いたよ。きみ、林間合宿に同行してたんだよね。そこでヴィランに……それも、ご両親を殺したマスキュラーに襲われた」

 

 洸汰の表情が明らかに強張る。その名が忌むべきものであることなど、考えるまでもない。彼につらい思いをさせていることに罪悪感はあるけれど、それでもあとには退けないと心した。

 

「けど、かっちゃんに救けられた……だよね」

「……だったら、なんだよ」

「いや……どんな感じだったのかな、って思って」

 

 「僕、知らないんだ」と出久は笑う。その笑みはどこか寂しそうで、自分にもわからない、言い知れぬ孤独を抱えているように洸汰には感じられた。

 そしてそれは、どこか既視感のあるもので。

 

「いまのあんたと一緒だ」

「え、僕と……?」

「どっちがヴィランかわかんないくらい獣じみてて、怖いくらいだった。……でもそれより何より、寂しそうだった」

「寂し……そう……?」

 

 獣じみてて、救けるべき相手に安心感よりも恐怖すら与えてしまう笑み、ことば、戦い方――洸汰が見たのはきっと、自分の想像どおりの姿なのだろう。

 けれども洸汰が見出したのは、自分とは異なるものなのだ。そしてそれが、いまの自分が醸しているものと同じだという――

 

「うまく言えないけど……あの烈しさの裏で、あの人は誰にもわからない寂しさを抱えてたんだ。その寂しさを紛らわせるどころか、もっと膨らませて膨らませて、それで心を満たそうと自分を仕向けてる――そんなふうに、感じた」

「………」

 

 あの日だけでなく、林間合宿で見たすべてを思い出しながら語る洸汰。彼の話をもっと聞きたいと、出久はそう思った。

 

「それで……きみは、どう思った?」

「………」

 

 わずかな沈黙のあと、

 

 

「……こうはなりたくないって、思った」

 

「独りぼっちで、誰の手もとらずに戦って、傷つけて、傷ついて……あの人の生き方はきっと――苦しい」

「……そっか」

 

 この少年は自分などより余程、かつての勝己のことを理解っている――出久はなんだか泣きたい気持ちになった。それが悲哀からくるのか歓喜からくるのかもわからないままに。

 

「でも、」

 

 

「カッコよかった……自分でもワケわかんないくらい、カッコよかったんだ……ッ」

 

 ああはなりたくないと、そう思っていたはずなのに。気づけばあの背中に、自分は憧れていた。

 自分は彼のように強くない。だからあんなふうに傷つきながら傷つける、爆ぜる焔のように生きることはできはしない。

 

「だから俺は……誰も傷つかない方法で、少しでもあの人に近づこうと思った」

 

 彼のように、力でねじ伏せるのではなく。傷つけられている者を庇い、傷つけている者に立ち向かう。力ではなく、想いをぶつけて。

 洸汰のそんな生き方が発揮されるのは、子供である以上学校がすべてだった。いじめられている同級生に手を差し伸べ、いじめっ子たちから身を挺して守る。それでいじめられっ子から感謝されたときは嬉しかったし、あまつさえ仲直りさせてやれたときはらしくもなく舞い上がり、きっかけを与えてくれた爆豪勝己にお礼の手紙を書こうかとまで思ってしまったほどだ。忘れられていたり、万一覚えていたとて鬱陶しがられる可能性のほうがよほど高いと気づいて思いとどまったが。

 

 けれど成長するにつれ、うまくいかないことが増えてきた。自分だけでなく周囲も大人に近づき、その内面は複雑になっていく。歯車が噛み合わなくなり、洸汰の孤独は深まっていく。時には自分が標的になることもあった。

 でもそんなのは大した傷ではなかった。それで守れるなら、救けられるなら――

 

「だけど……」

 

 そうやって傷だらけになりながらもいつものようにクラスメイトのいじめられっ子を守ったある日……差し伸べようとした手をはね除けられて、言われたのだ。

 

『同情なんかいらない。おまえはそれで気分が良いかもしれないけど、俺は余計にみじめな気持ちになる。自己満足を押しつけるな』

 

 そして呆然として口もきけない洸汰に、彼はとどめとなることばを突き刺したのだ。

 

『ヴィランに負けて死んだ親がヒーローだったからって、ヒーロー面するな!』

 

 それはひと言では言い表せないようなショックを洸汰に与えた。"ヴィランに負けて死んだ"と、事実だけれども両親を侮辱するような物言いをされたこと、ただ両親がヒーローだった以上の価値を見出してもらえていなかったこと。その罵倒に込められたあらゆるものすべてに、自分の憧れを全否定されたような気がして、

 

 気づけば洸汰は、かの少年を殴りつけていた。どんな酷いいじめっ子相手でも決して暴力で返すことはしなかった洸汰が、初めて。

 そのあとの、倒れ込んだ少年の瞳が洸汰には忘れられない。それは彼が普段、いじめっ子たちに向けているそれとなんら変わりないものだったのだ。

 

 胸の奥に大切にしまい、励みにしてきた憧憬の念が、音をたてて崩れていったような気がした。

 

 それからはもう、救けなかった。もちろん積極的にいじめに加担したりはしなかったけれど、徹底的に見て見ぬふりを決め込んだ。異形型の個性持ちだったかの少年に対するいじめは、未確認生命体のせいでさらに酷いものとなったけれど、知ったことではないと目を逸らしてきた。

 

――その結果が、少年の自殺未遂だ。

 

 

「……見捨てたんだ、俺」

 

 鬱ぎきった声で、洸汰はつぶやいた。傷つき奈落に突き落とされた男の姿、たった10歳の子供が、そんなものを晒している。

 

「いままで守ってやりたいと思ってた奴が、急に憎らしく思えた。あんな奴死んじまえばいいって、本気でそう思って……だから………」

 

 悄然と独白を続けていた洸汰は、ふとちらりと隣で聞く男の顔を見遣った。そして我に返り、次いで絶句した。

 こちらを見下ろすその大きな瞳から、はらはらと透明な雫が溢れていたのだ。

 

「は……?」

 

 呆気にとられた洸汰の表情を目にしてか、出久は慌てて拳で乱暴に、涙を拭った。まるで癇癪を起こして泣きわめいたあとの幼子のようだった。

 

「ご……めん……ごめんね……、きみも、独りぼっちでずっと、戦って……傷ついてきたんだって思ったらさ……なんか、たまらなくなって………」

「………」

 

 安っぽい同情――そうと片付けるには、出久の様子は尋常なものではなかった。未だに涙が止まりきっていない。

 弱った表情を取り繕えなくなった洸汰を少しでも落ち着かせようというつもりなのか、泣きながらも精一杯、笑みを浮かべようと努めている。

 

「きみ……カッコいいよ……。誰にも負けない……すごくカッコいいヒーローだよ」

「……!」

 

 洸汰は一瞬、雷に打たれたように動けなくなった。胸がずきりと痛む。こんな痛み方は、痛罵されたときにもしなかった。

 それをぎゅっと抑え込んで、ふるふると首を振る。

 

「そんなわけ……ッ、そもそも、俺、ヒーローなんか――」

「わかってる……好きじゃないんだよね。だからそういう、暴力じゃない方法で、がんばってきたんだもんね………」

 

 「そういうの、すごくカッコいいと思う」――まっすぐに洸汰を見つめて、出久は断言した。

 

「本当はそれが、一番いいことなんだ。……"これ"を使うのは本当は、すごく痛くて、怖いことなんだから」

 

 拳をそっと握り締め、つぶやく。その姿はまるで、自分に言い聞かせているようで。

 同時に、洸汰は初めて気がついた。その右手に、大学生という肩書きには不釣り合いな痛々しい傷痕が刻み込まれていることに。

 穏和で幼い優しさを醸しているけれど、この青年もまたこんな傷を負うほどの烈しい争いの中に身を置いたことがあるのだろうか。あるいは、いまでも置いているのだろうか。痛い――それはこんなふうに傷つくことがか、それとも傷つけることがか。

 

 聞くまでも、ないと思った。

 

 

――だって、この人はきっと、優しい。

 

 

 

 

 

 一方で、未確認生命体第38号――ゴ・ジイノ・ダによる殺人ゲームは確実に積み重なっていた。大柄な風貌と派手なやり方とは裏腹に、神出鬼没に現れ、多くても数人を串刺しにしていずこかへ去る手口。

 目撃者は多数いるおかげで潜伏している人間体のモンタージュは完成済、所轄及び各ヒーロー事務所に協力を要請してパトロールを強化してもらっているが、未だ発見には至っていない。

 

 そんな状況の中、捜査本部に所属する警察官たちはゲームのルールを解明すべく捜査を続けていた。森塚・鷹野の両名も、被害者たちが遭難の前、共通して有楽町線を利用していたかもしれないという手がかりを追い、被害者遺族のもとを訪れていた。

 

「――弟さん、ふだん地下鉄の有楽町線をお使いになっていたとかってこと、ありませんか?」

 

 お悔やみの挨拶もそこそこに、森塚が切り出す。被害者の兄は怪訝な表情を浮かべつつ、首を振った。

 

「……わかりません。大学は御茶ノ水でしたけど……そんなに仲良くなくて、最近は連絡もしてませんでしたし」

「そうですか………」

 

 家族のひとりが今日死んだにもかかわらず冷静に応じる様子は、"仲良くない"ということばを裏づけているように鷹野には思われた。冷淡ともいえる態度に人として良い気がしないことは確かだったが、それを指摘するほど青くもなかった。外見に違い、森塚も同様で。

 

「こんなときに、申し訳ありませんでした。――失礼します」

 

 結局ここでも決定的な手がかりには至らず、ふたりは踵を返すほかなかった。情けない話だが、"被害者遺族"は既に相当数いる。そこを手当たり次第に当たっていく――焦燥の中でも、どぶ板のような捜査を続けるほかなかった。

 

 そんな折、

 

「――あ、あの!」

 

 突然呼び止められ、ふたりは足を止めた。

 

「使ってた、かもしれません……」

「!」

「光が丘に、母方の祖母がひとりで住んでて……あいつ、結構遊びに行ってあげてたみたいだったから……今日も、もしかしたら――」

 

 「光が丘なら、最寄駅のひとつに地下鉄赤塚駅がある」――森塚が鷹野にそう耳打ちする。繋がった、と思った。

 

「有力な情報、ありがとうございま――」

 

 お礼を述べかけた刑事たちは、次の瞬間ことばを失った。動揺のないように見えた青年の瞳から、ひとすじの涙が流れていたのだ。

 

「――弟さんの無念は、必ず晴らしますから」

 

 森塚が静かに、宣言した。

 




キャラクター紹介・グロンギ編 バギンドギブグ

フクロウ種怪人 ゴ・ブウロ・グ/未確認生命体第37号

「ギブギデ、ボソグ(射抜いて、殺す)」

登場話:
EPISODE 26. ネクストステージ~EPISODE 27. 緑谷:ライジング

身長:207cm
体重:168kg
能力:
最高時速300キロの飛行能力
吹き矢から吐き出すペリット
活動記録:
"ゲリザギバス・ゲゲル"と呼ばれる複雑なルールの殺人ゲームを行う上位集団"ゴ"のファーストプレイヤー。人間体は黒衣を纏った知的な青年であり、文学作品を好む読書家でもある。"東京23区を五十音順に、9人ずつ射抜いて殺害する"というルールでゲゲルを行った。
"射抜く"と言っても第14号(メ・バヂス・バ)とは異なり、「吹き放ったペリットを標的の心臓の表面で停止させ、心筋梗塞を引き起こす」という離れ業を平然と成功させ続ける。そうした能力はクウガ相手にも遺憾なく発揮され、ブラストペガサスを無効化され動揺するクウガ・ペガサスフォームの腕を貫き昏倒させることに成功する。
直後アギトによって片翼を焼かれてゲゲルを中断せざるを得なくなるも、まったく焦る様子を見せず読書を続けながら傷を癒し、約一時間ほどで全快、ゲゲルを再開した。上述のルールをリント側に見抜かれてもなお余裕を失わずにいたが、眼下のクウガが金の力を発現させたことで気を取られている隙にアギトのKILAUEA SMASHを受け墜落、そこにライジングブラストペガサスを撃ち込まれなすすべなく爆散した。

作者所感:
地味だけどヤバイ、ヤバイけど地味……どっちにするかでだいぶ印象違う。
散々書きましたけど手口の精密さはハンパないですね。
空飛ぶ敵だったわけですがしょうとくんにもゴウラムとのコンビで出番を作れてよかったどす。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。