【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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デクにクウガのライドウォッチを突っ込んだ結果が当作品です(大嘘)


EPISODE 32. 心操人使:リブート 1/3

 がらんどうの演習場内に、激しい射撃音が響き渡っていた。

 飛び出す人型の的、その中心が次々に蜂の巣にされていく。どれだけ素早く四方八方に現れようとも、それは変わらない。

 

 そんな精緻な射撃を繰り出しているのは、人間ではなかった――あくまで外見は。"G3"と名づけられた青と銀のパワードスーツを纏っているだけで、その中身はれっきとしたひとりの青年だ。"GM-01 スコーピオン"と名づけられたサブマシンガンを携え、標的を正確に撃ち貫いていく。

 

『G3マニューバー、ステージ2へ移行します』

 

 演習場内に響くアナウンス。直後に的の出現は停止し、今度は四方八方からサッカーボール大の鉄球がG3めがけて飛んでくる。

 スコーピオンを咄嗟に右腿にマウントし、徒手空拳を構える。自動車ほどの速度で迫る鉄球、生身の拳などぶつけたりしたら粉砕骨折は免れない。無論、身体のどこに当たっても同じこと――最悪、致命傷になる可能性すらある。

 

 が、G3の拳を受けて粉砕されたのは鉄球のほうだった。ぱらぱらと床に落ちる音は、さらなる粉砕によってかき消される。

 それが鮮やかに繰り返される様に、強化ガラス越しに見入る人々。その中にあって"人"と形容するには一瞬憚られる猫そのままの頭の警察官が、ニヤリと笑いながら口を開いた。

 

「ご覧のとおり、この三週間ほどで彼の能力は飛躍的な上昇をみせています」

 

 彼――玉川三茶がそのことばを向けるのは、この科警研の所長である結城だった。実際の演習風景ばかりでなく、三週間前――選考試験時のデータとリアルタイム現在のデータの比較を眺めつつ、うなずく。

 

「確かに。元が半分素人だったとはいえ目を瞠る成長率だ。まだまだ荒削りな面も見受けられるが、これならば実戦への投入も可能かもしれないね」

「ええ。実際、新たな未確認生命体出現に際しては出撃させる旨、決定済みです」

「そうか。ただ……技官の私が申し上げることではないかもしれないが、彼はあくまでG3ユニットに籍を置いてもらっているだけで完全な警察官というわけではない。もちろん警察官やプロヒーローだったら疎かにしていいというわけではないが、彼の身の安全はより注意深く図っていただければと思う」

「もちろんです」

 

 確かに科警研の所長であるこの男は元々研究者で、警察組織内に階級をもっているわけではない。ゆえに公に命令権はないが……彼が警視総監と懇意である以上、そのことばには重みがある。無論、彼自身の人格の寄与するところも大きいが。

 

「そろそろ時間だな……すまないがこの辺で失礼させてもらおう。彼の成長ぶりは私から総監に伝えておく」

「よろしくお願いします、所長」

 

 端正な顔立ちを穏やかに弛めて、結城所長は颯爽と去っていった。

 それを見届けたあと、玉川はマイクに手を伸ばした。

 

「そこまで。マニューバー終了です」

『……了解』

 

 ややぶっきらぼうに響く応諾とともに、G3がその動きを止めた。静かにヘルメットに手をかけて開放ボタンを押せば、後頭部側の安全装置が外れる。

 

 そうして現れた、まだ青年の少し斜に構えたような顔立ち。それはまぎれもない、心操人使のものだった。

 

 

「――お疲れさま心操くん、まずはシャワーを浴びて休憩して。そのあと発目くんが……あれ?」

 

 玉川が気づいたときには、隣でデータ収集に興じていたはずの若手女性研究員の姿は消えていた。

 

『心操さぁあああんッ!!』

「ッ!?」

 

 いきなりスピーカー越しに響く声に、玉川はビクッと猫耳を揺らした。目を戻せば演習場内、既にかの研究員の姿があった。首から下はまだG3のままの心操に駆け寄っていっている。これがふつうの若い女子ならタオルとスポーツドリンクでも差し出すところなのだろうが、彼女が手にしているのはノートとペンだけで。

 

「早速で申し訳ありませんがッ、またご意見をお聞かせください!」

『謝ればいいってもんじゃないよ発目くん!?』

 

 マイク越しに玉川が諫めるが、この研究員――発目明の耳には入っていないようであった。

 呆れた様子の猫警官に「自分は大丈夫」と手で伝えると、心操は落ち着いた声で発目のことばに応えた。

 

「まだスコーピオンの弾速が遅いかな。あと引き金の反応も少し甘い気がする」

「フムフム……なるほど」そのままメモに書き連ねていく。

「それと今日の演習じゃ使ってないけど、前に言ったアンタレスの強度の件はどうなった?」

「その件でしたらご心配なく!ワイヤーに発泡金属によるコーティングを施すことで従来の1.2倍の強度を……」

 

 熱心に話し込んでいる様子を見て、玉川は小さく笑いながら頬杖をついた。猫そのままの可愛らしい顔立ちのため傍目にはわからないが、G3ユニットの班長に選任される程度には彼も年齢と経験を重ねている。若者たちが理想に燃えて邁進している姿というのは、見ているだけで自分自身の活力となるのだった。

 

 

 

 

 

――数日後

 

 心操人使の大学の友人であり、G3の先祖ともいえる未確認生命体第4号ことクウガの正体でもある、緑谷出久。彼もまた、この日は科警研にいた。

 彼と小柄な刑事が難しい表情で見つめるのは、最新鋭の白バイの試作機でありながら、いまは漆黒に染めあげられているマシン――トライチェイサー。紆余曲折を経て出久の愛機となっており、出久と合同捜査本部の協力体制が整ったいま、G3ユニットの一員として忙しい発目に頼らずとも堂々と持ち込めるようになった。

 

 とはいえ、感情面ではまた別問題――というわけで、開発に協力した経緯もあって顔のきく森塚刑事に同伴してもらい、ゴ・バダー・バとの戦闘で傷ついたトライチェイサーを修理に持ち込んだのだ。

 修理と言っても、見た目には大きく損傷したわけではない。あれからそれなりに日数も経過しているが、問題なく走ってくれている。

 

 だから、きっと大丈夫――そんな願望にも似た予測は、修理を行ってくれた元開発担当の研究員によってきっぱり否定された。

 

「――結論から言えば、トライチェイサーは相当ガタが来ています。もう限界に近いと言っていい」

「……!」

 

 そのことばに、出久は一瞬呆然としてしまった。限界――そんなもの、考えたこともなかった。

 二の句が継げない出久に代わり、森塚が冷静に尋ねる。

 

「……未確認のバイクに吹っ飛ばされたのを加味しても、TRCSは強い衝撃にも耐えうるよう造られてるはずです。試作機である以上、イレギュラーが起きるのはやむを得ませんけど、五ヶ月弱でそんな状態になるほどの原因があるんですか?」

 

 本来、このように長期間にわたって実用に供されることは想定されていない試作機であるトライチェイサー。その状況自体イレギュラーと切って捨てることは簡単だが、明確な理由があるなら知りたいと思うのも人情だった。

 皮肉なことに、そうした期待に対する答えは持ち合わせられていて。

 

「おふたりは、"金属疲労"という現象をご存知ですか?」

「……ええと、聞いたことくらいは」

「外力が繰り返し加わった結果金属の強度が弱まってしまう……的なヤツでしたっけ」

「概ねその理解で結構です」

 

 同じ文系でも、森塚のほうがわずかにその手の知識は上回っているらしかった。

 

「でも、一体どうしてそんな……」

「緑谷さんにお心当たりがないなら、原因は恐らくひとつ。――未確認飛行体との融合です」

「……!」

 

 未確認飛行体――ゴウラムとの融合。思いもよらないひと言に、出久は再び目を見開いた。

 

「資料を見せていただきましたが、飛行体との合体の際、TRCSの車体は原型をとどめないほど大きく変形しているようですね」

「は、はい……でも――」

 

 融合が解ければ、一瞬のうちにもとの形態に戻っている――クウガの武器同様に。

 しかし急激に変形させていることに間違いはない以上、それは確実にトライチェイサーの身体に負担となっていたのだった。

 

「とにかく、できるだけ長く使いたいなら融合は避けてください。ただそれでも、TRCSがいつまでもつかは……予断を持てません」

 

 淡々としたそのことばは、自分自身への余命宣告のように重々しく響いた。

 

 

 

 

 

「参ったねぇ。正直ヤな予感はしてたんだけどさ」

 

 あっけらかんとした銭形かぶれの童顔刑事のことばは、地下駐車場に虚しく響いた。

 

「……ごめんなさい。僕、まさかそんなことになると思ってなくて」

「いやいや、きみを責めてるわけじゃないよ。実際、ゴウラム合体トライチェイサー……長いからトライゴウラムでいいや、必要な戦力であることに間違いはないんだし。ただ、TRCSはそれに耐えることをそもそも想定してないからね」

「………」

「ま、老犬飼ってると思って大事にしてあげてよ。きみもこの子に愛着はあるでしょ」

 

 「わかりました」とうなずく出久。だがその表情は完全には晴れない。思い詰めている――それが必ずしもトライチェイサーのことのみを理由としていないと、森塚は知っていた。

 

「それはそうとまさしく驚天動地ですよねぇ、きみの友だちがG3の装着員に選ばれるとは」

 

 出久が大きな瞳をわずかに伏せる。童顔具合は五十歩百歩ながら自分よりひと回り背の高い青年だが、こういうところはやはりまだ子供だと感じる。

 

「何か思うところがある感じだねぇ。事前に相談がなかったの、やっぱり不満?」

「不満ってわけでは……。僕も自分のこと、全然話せてなかったし……」

 

 そのことに対する後ろめたさは間違いなくある。ただやはり、「なんできみが」という気持ちも否定できない。だから早く話をしなければと思うのに、いままでは気軽に送っていたラインのメッセージすら打てないままだ。大学の夏期休暇に入ってほどなく、海水浴に誘って忙しいからと断られたのが、現状ふたりの最後のやりとりとなってしまっている。

 

「今日の捜査会議って、G3ユニットの人たちもいらっしゃるんですよね?」

「うん。――あぁそっか、きみも来るからそこで久々の対面になるわけだね、心操青年とは」

 

 しかもいままでのように、ただの友人同士としてではなく。最前線で未確認生命体と戦う、"仲間"として。

 互いにそのための力と立場を得た以上は当然の変容なのだが、この青年の心がそれを受け入れられるかはまた別の話だった。

 

 

 

 

 

 高さ数十メートルにも及ぶ建築が立ち並ぶ都会の一角。

 

 その中でもひときわ飛び抜けた高層ビル内に、ガラス張りのエレベーターに乗り込む三人の男女の姿があった。白いドレスを纏った怜悧な風貌の美女に、着流しを纏った目つきの鋭い男、そして真夏であるというのに漆黒のコートに目出し帽で完全武装した顔色の悪い男――まったく統一感のない取り合わせである。

 

 彼らに共通するものといえば、日本語とは似て非なる奇怪な言語だった。

 

「ボソガセスドパバ……バロ、ベミウ。ジャザシ、ジャヅサンヂバサパガバゾセバギ」

「ヂバサザ、ベゼパバギ。ヂゲグガスビパ、リントダヂ」

「……ゾボラゼヅグショググスババ、ビ、キュグキョブンジャリ」

「………」

 

 意味深長な笑みを浮かべる男女――バルバとガドル。一方で憮然とした表情のまま黙りこくるゴオマ、自分が百体いても勝ち目のないふたりと行動をともにせねばならないストレスは相当なものだったが、それを気遣う者はグロンギにはいない。

 そうこうしているうちに、エレベーターが最上階へたどり着いた。廊下を進み、妖しげな色の電球に彩られた一室に進み入る。部屋の中央にはルーレットが備え付けられたテーブルが置かれており――その周囲に、やはり三名の男女の姿があった。成熟した風貌のバルバたちと異なり、かの三人組はまだ若い。

 

 その中では比較的大人びたストライプのダークスーツを纏った気取った容姿の男が、両手を広げて彼女らを迎え入れた。

 

「ジョブビダバ!ゴセンゲゲルン、ランババビ」

「………」

 

 陽気な振る舞いににこりとすることもなく、バルバは左手をす、と掲げた。指輪と一体化した双爪。男が半年近く、待ちわびていた瞬間を静かに告げるものだ。

 

「バギングゲギド、ジバンゼバギング、バギングゲヅンビン……いいな?」

「72時間で567人か。パワフルなプレイがお好みと言うわけだな」

 

 「酔わせてやるよ」と、自信満々に続ける。遊興めいたことばながら、彼――ゴ・ガメゴ・レがこれから始めようとしているのはまぎれもない、血と悲鳴にまみれた虐殺だった。

 

 




キャラクター紹介・クウガ編 ゲギド

ライジングドラゴンフォーム

身長:2m
体重:92kg
パンチ力:2.5t
キック力:5t
走力:100mを1秒
ジャンプ力:ひと跳び50m
武器:ライジングドラゴンロッド
必殺技:ライジングスプラッシュドラゴン
能力:
ドラゴンフォームが雷の力"ライジングパワー"で強化された姿だ!元々卓越しているジャンプ力と瞬発力が大きく強化されているほか、ブレードを装着したぶん重量の増したロッドを軽々振り回すだけのパワーも持ち合わせているぞ!そのためブレードを突き刺した相手を振り回してブン投げるというスピードタイプにあるまじき攻撃が必殺技なのだ!スゲーぜクウガ!
しかし他形態のライジングフォームに比べるとどうしても破壊力に劣る……。30秒しかもたない形態であることを鑑みて、使いどころがちょっとムズカシいのが玉にキズだ!

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