【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
さて、やや唐突ですが今回から別作品のキャラクターが登場します。
『Occultic;Nine』より森塚駿刑事(26)です。『クウガ』の性質上刑事が必要になるのと好きなキャラクターであることから登場させてみました。『クウガ』でいうと桜井刑事のポジションに近いかな~、と思います。まったく関係ない作品ということで抵抗のある方やそもそも知らないという方もいらっしゃると思いますが、実質オリキャラだと思ってこちらもお慈悲(ry
ちなみに現場の刑事としてはもうひとり女性刑事が登場する予定です(こちらはDCDクウガの世界の八代藍を主なモデルにしたオリキャラになります)。
合同捜査本部長は保須署長にしようかと思ってるんですがどうですかね?原作の松倉本部長が警備部長(=警視監)だったことを考えると階級的に厳しいかなあ?
[追記]足立区南千住→荒川区南千住に修正
お恥ずかしい限りです。かっちゃんに怒鳴られてきます。
――荒川区南千住 サン・マルコ教会
教会の前に建つ、聖母マリア像。その慈しむような視線の先には、いま、パトカーが何台も停車し、物々しい空気に包まれていた。
集う野次馬たちは、ざわめきながら規制線の向こうを窺っていたが――勝己と切島が現れると、彼らの関心はそちらへと向かった。
「爆心地と烈怒頼雄斗だ!」
野次馬たちがさらに騒がしくなる。勝己は露骨に舌打ちした。目的は規制線の向こう側、となると嫌でも彼らの間をくぐり抜けていかねばならない。
集団心理というのは厄介なもので、恥も恐れも相当軽減させてしまう。結果、
「爆心地!こっち向いて~!」
「握手!握手!!」
この調子である。「うるっせえクソモブども!!」と怒鳴りつけても、なかなか引く様子はない。一方で切島は苦笑いを浮かべながらも、握手程度の要望にはきちんと応じている。むろん彼自身の性格もあるが、一番の目的はやはり勝己への反感を少しでも和らげることであった。
ともあれ、四苦八苦しながらも、ふたりはようやく野次馬衆を切り抜け、規制線をくぐった。切島がひときわ小柄な背中に向かって声をかける。
「森塚刑事!」
そう呼ばれた男は、くるりと身体ごと振り向いた。小柄な体躯どおり、その顔立ちもひどく子供っぽい。学ランかブレザーを着せれば中学生でも通るだろう。少なくとも、明るいクリーム色のスーツにソフト帽という気取ったいでだちはあまり似合っていない。
彼の名は、森塚駿。切島に呼ばれたとおり、警視庁捜査一課に所属する正真正銘の刑事であった。風貌からは想像もつかないが、勝己や切島より五つも年長である。
「おっ、待ってたよおふたりさん。遅かったね?」
「いや、まあ……アハハ……」
笑って誤魔化す切島を尻目に、勝己は仏頂面のまま言い放った。
「わざわざ俺らを呼んだっつーことは、ただの殺人事件じゃないんでしょう?」
「もちろん」頭ひとつぶん大きい勝己に見下ろされても、森塚はあっけらかんと応じる。「ホトケさんの死因なんだけどねえ、どうも妙なんだ」
「妙?」
「うん。恐らく失血死……なんだけど、ご覧のとおり血痕はいっさい残ってない。しかも遺体はミイラのように干からびていた」
「全身の血を吸われた、ってことっすか?」
「恐らくね。遺体の首筋には噛まれたような傷痕があった。歯型は人間より少し大きい程度。しかも、それがひと晩に五人だ!」
少なくとも、動物の仕業ではない。あるいは敵による個性犯罪の可能性も否定はできないが……そんな"日常茶飯事"であれば、わざわざヒーローを現場検証に付き合わせる刑事はいない。
「
「!」
やはりか。ヒーローふたりは揃って表情を硬くした。
森塚に責めるようなそぶりはまったくないが、あの怪物たちによる殺人だとしたら、奴らをみすみす逃がしてしまった責任は当然重い。
もっとも、
「いや……俺が見た限り、第1号は違うと思います」切島が断言する。「殺し方もそうですけど、口の形状が人間とは全然違いましたし……」
「ふむ……。――爆心地、きみは第2号とも遭遇したんだったね?そっちはどうかな?」
「……違います、絶対に」
「ほほう?」
断言する勝己の様子に不可解なものを覚えたのだろう、森塚のどんぐり眼が鋭く光る。――が、
「ま、きみらがそう言うならそうなんだろうね」
あえて、追及はしなかった。
「しかしねー……そうなると、やっぱり敵の犯行ということになるか――」
「――あるいは……"第3号"」
「………」
慄然とするヒーローたちの姿を、教会の窓からじっと見つめる男の姿があった。祭服を身に纏ってはいるものの、その瞳は冷たく、人のぬくもりというものを欠片も感じさせない。異様なまでの肌の白さ、全身から発せられる獣の覇気。明らかに、常人からはかけ離れている。
曇天から時折差し込む太陽光を露骨に嫌悪しながら、彼は、独りつぶやいた。
「ギジャバビゴギン、グスジャヅサザ……」
*
太陽が東から南の頂、そして西の地平線へと沈んでいく。世界が宵闇に包まれた頃、出久は動き出していた。といっても、ベルトのせいで夜行性になったわけではない。
夜から、九郎ヶ岳遺跡発掘調査団のリーダーであり、桜子の恩師でもある夏目幸吉教授の通夜が営まれることになっていた。出久は、その式場まで彼女を送ることにしたのだ。
一昨日同様に桜子を後ろに乗せ、オートバイを走らせていると、背後からサイレンが聞こえてきた。やがて、一台、二台、三台と、警視庁のパトカーが出久たちを追い抜いていく。最後に、唯一ランプもなく、サイレンを鳴らしていない黒い車両。ふとそちらに顔を向けた出久の目は、助手席に座る男を捉えた。
「かっちゃん……!?」
険しい表情で前方を睨みつける爆心地――爆豪勝己の姿。特徴的なコスチュームの覆面まで装着していたから間違いない。
「………」
「出久くん、どうしたの?」
背後から桜子が問いかけてくる。出久は俯き、ぶんぶんと頭を振ったあと――バイクを、路肩に停車させた。
「ごめん沢渡さん、ちょっとそこの喫茶店で待ってて」
「へっ?な、なんで?」
「すぐ戻るから!」
困惑する桜子をその場に置き去りにして、出久は再びオートバイを発進させた。パトカーの集団(+一台)を追って、アクセルを踏む。一瞬目の当たりにした勝己の様子には、戦場へ赴かんとする凄まじい気迫が感じられた。昨日の今日、ならば、あるいは――
そうではなく、自分の出る幕などないことを、出久は祈った。しかし、超古代の力が彼を突き動かす以上、その予感は的中してしまうのだった。
死体、死体、死体。
警官の制服を着た死体が、あちこちに倒れ伏している。それらはことごとく干からびてミイラのようになっており、首筋に穿たれた穴からわずかに残された体液を流出させていた。
もはや肉塊とすら呼びがたい干物の前で、蝙蝠の怪人が、鋭い牙を剥き出しにして嗤っていた。
「カカカカカッ……、ラズギヂザ」
つぶやきながら、体表を軽く手で払う。と、皮膚にめり込んだ銃弾がことごとくこぼれ落ちた。痛みなど、欠片も感じていないようであった。
コウモリ種怪人――ズ・ゴオマ・グ。確認されている限り三体目の未確認生命体。常人を遥かに超える力をもつ彼に立ち向かえるとすれば――彼ら、しかいない。
「ビダバ」
「……!」
駆けつけた、ふたりのヒーロー。――爆心地に、烈怒頼雄斗。
「バクゴー、アイツって……」
「……やっぱりな」
未確認生命体。ならば、自分たちがやるしかない。警官隊はもちろん、デクにも、手出しはさせない――
「とっとと片付けんぞ!!」
「おうっ!!」
まず切島が、敵めがけて走り出す。同時に、個性を発動――全身の皮膚が、岩石のごとく硬化していく。生半可な硬化では未確認生命体相手に通用しないことは既に学習している。ゆえに、
「最初っからクライマックスでいくぜ……、――"
全身からギシギシと軋むような音を発しながら、切島の肉体はさらに硬く、鋭く研ぎ澄まされていく。3分しか持続しない、彼の切り札だ。
「ウォオオオオオッ!!」
雄叫びをあげながら、最"硬"の状態と化した切島が、勢いよく拳を振り下ろす。ゴオマはそこでようやく、相手がふつうの人間ではないと気づいたようだが……もう、遅い。
――ドグシャアッ!!
凄まじい轟音とともに、拳を脳天に叩きつけられたゴオマの全身がコンクリートにめり込む。相手が人間なら、ほぼ間違いなく即死しているような一撃だ。相手が十人以上もの人間を殺戮している怪物だと思えば、それを叩き込むことに躊躇いはなかった。
そして、未確認生命体が、それだけで倒せるとも思っていなかった。なにせ、銃弾を通さない高い防御力に加え、爆破で黒焦げにしてもすぐ全快してしまう異様な回復力の持ち主だ。ダメージを与えたところで油断せず、回復される前にとどめを刺さなければ。
ゆえに、勝己は既に飛んでいた。
「"
「――"
上空に向かって爆破を起こし、一気に急降下――その勢いのまま、最大威力を浴びせかける!
次の瞬間、あたり一面に轟音と、爆発の副産物たる熱風がまき散らされる。ちょうど駆けつけた出久も、それらをもろに体感する羽目になった。
「……ッ、すご……っ」
フルフェイスのヘルメットを被っているおかげで、顔は保護されているが……そのために出久は、ふたりのヒーローの戦いざまをはっきり認識する羽目になった。
怪物を相手に、一歩も退くことなく。一分の隙もない猛攻を成し遂げた。まだデビューして数年のルーキーでありながら、そこには躊躇いも未熟さもない。
これが、"本物"だ。
(やっぱり、僕なんかの出る幕は……)
超古代の"力"を受け継いだところで、自分などではしょせん付け焼き刃、宝の持ち腐れなのだ。変身した自分より、彼らヒーローのほうが――強い。
しかし、無力感に浸るのはまだ早かった。
煙が晴れたとき、そこには確かに、見るも無残な状態になったゴオマが倒れ伏していた。粉々に砕けたコンクリートにめり込み、ぴくりとも動かない。傍目には完全に息絶えたように見えた、が、
「ウグゥ……グェアッ!!」
「!?」
奇怪なうめき声とともに、ゴオマは一気呵成に復活を遂げた。不意打ちの拳が近くにいた切島に迫る。彼は咄嗟に硬化させた腕で胴体を庇うが、トンを超える威力のためにあっさりと吹き飛ばされた。
「ぐぁっ!?」
「切島っ!」
「ボソグ、ボソギデジャス……!」
「!」
破壊された部位を急速に回復しながら、怒りに燃えるゴオマは次の標的を勝己に定めた。血に染まった牙を剥き出しにしながら、ゆっくりと迫っていく。
「っ、ン、の――ッ!!」
切羽詰まった勝己が掌を突き出すが、本気になったゴオマの攻撃はそれより速かった。
「ガアァッ!」
腕を掴み、捻りあげ、爆破を封じる。単純な力比べとなれば、ゴオマに圧倒的に分があった。
「ぐっ、クソ、がぁ……!」
「――!」
このままじゃ、かっちゃんが殺される――そう直感した瞬間、出久の身体は勝手に動いていた。
「やめろぉおおおおっ!」
「!」
声に反応して、ゴオマがこちらを向く。その顔面を、出久は思いきり殴りつけていた。
「グッ!?」
小さなうめき声とともに、怯んだゴオマが勝己から離れる。その隙を逃さず、出久は勢いよく飛びかかった。
「デク――!?」
驚愕とともに発せられた声は、最後まで絞り出されることなく凍りついた。
拳が、腕が、脚が、胴体が、緑谷出久のそれから急激に変化していく。漆黒の皮膚と、純白の鎧。
そして最後に、首から上――頭部までもが変わる。二本の短い角と、白銀の牙、もとの彼とは対照的な、朱色の瞳。
「変わっ、た……」
出久が、未確認生命体第2号へ。――わかっていたことだ。本人だって、認めていたのだから。
しかし、直接変化するところを目撃して、驚愕せずにはいられなかったのだ。ひょろこい無個性の幼なじみと、甲虫に似た異形の戦士。勝己の脳内で、そのふたつが、いまになってようやく完全に結びついたのだった。
出久の変化した異形の戦士は、ゴオマの顔や胴体を殴り、蹴り、後退させていく。ゴオマは反撃もできない。やがて鳩尾のあたりに拳がめり込み、怪物はうめき声をあげながらその場に片膝をついた。
「やっ、やった……!」
拳を構えたまま、異形が出久の声で歓喜の声をあげる。自分の力が通用した――そう確信したのだろう。
だが、傍観者と化していたために、状況を冷静に観察できた勝己にはすぐわかった。ゴオマは、ダメージを受けてなどいない。ただ、自分たちと同じ異形がどれほどの力をもつか、試していただけだ。
その証拠に、
「マンヂデデンパ――」
「……!?」
何事かをつぶやきながら、ゴオマがゆらりと立ち上がる。その不穏な様子に、出久が態勢を固めようとしたときには……遅かった。
「ボググスンザジョッ!!」
「がッ!?」
顔面や胴体、殴った箇所をことごとく殴り返され、出久は吹っ飛ばされた。そのまま頭から地面に叩きつけられ、出久の視界に星が散った。
その戦意喪失を感知したのだろう、ベルトの中心部から光が失われ、出久の全身がもとの人間のものへと戻っていく。
「ぐ、ぁ……っ」
意識が朦朧としているのだろう、出久は仰向けに倒れたまま身動きできずにいる。その姿を見下ろしながら、ゴオマは、ゆっくり腕を振り上げる。――昨日の光景が、フラッシュバックする。
気づいたときには、勝己はゴオマに体当たりを仕掛けていた。
「ッ、ジャラザ!!」
当然ゴオマは吹き飛ぶこともなく、その拳が勝己の胴体を捉える。ヒーローコスチュームを纏っていても、その衝撃は殺しきれるものではなく。
「ぐ……ッ!」
激痛に意識を刈り取られそうになるも、勝己は踏ん張った。歯を食いしばりながら、腕を突き出す。
「
宵闇を、閃光が吹き飛ばした。その場に居合わせた者の視界が完全に光に覆い尽くされ、一寸先すらもわからくなる。
それを浴びせかけられたゴオマも、怪物といえどそれは同じだった。――いや、彼の場合、視覚を奪われる以上の深刻なダメージを受けていた。
「ギャアァァァァッ!!?」
蝙蝠の能力を引き継いでいるゆえ、その弱点までもより色濃いかたちで抱えてしまった。――ゴオマは、光に弱いのだ。
恐慌をきたしたゴオマは、翼を広げてその場から逃走を開始した。勝己は当然逃がすまいと羽音の方向に爆破を仕掛けるが、ダメージのせいで最大威力は出ない。
結局、光がおさまり、辺りに闇が戻ったときには、ゴオマの姿はもうどこにもなかった。
「……ッ、く、そ、が………」
危難が去ったことで気が抜け、脳がはっきりと肉体の損傷を認識する。勝己は堪らずその場に座り込んだ。激痛のために、五感がぼやける。そのまま何も起こらなければ、きっと彼は気を失っていただろう。
しかし、
「かっ、ちゃん……大、丈夫……!?」
「……!」
わずかに回復した出久が、気遣うことばとともににじり寄ってくる。その瞬間、勝己の脳裏にまた、幼い日の幻像が現れた。
――大丈夫?たてる?
吊り橋から川に転落してしまった勝己に手を差し伸べる、幼き日の出久。何もできないムコセーのデクが、なんでもできる自分を、救けようとする。
そんなのが、許されるわけがなかった。だって、
「――ざけんなッ!!」
「!?」
気がつけば勝己は、痛みも忘れて出久の胸ぐらを掴んでいた。出久の喉から、ひゅ、と空しい音が漏れる。
「俺ぁ言ったよなデク……あの程度の力で調子こくな、ってよォ……!」
「ご、ごめ……ちがうんだかっちゃん、聞いて……っ」
「違くなんかねえ!!テメェは昔っからそうだ、何もできねークセに、無個性のクセに、自分の身の程をわきまえねえ!!テメェみたいな奴が一番害悪なんだよ!!」
「……ッ」
"害悪"とまで言われても、出久は反論してこない。――その余地はあるはずなのだ。実際、出久が救けに入らなければ、勝己は命を落としていたかもしれないのだから。
だが、出久はそれを主張しない。理不尽にも俯いて耐えるだけ。そうさせた原因の殆どが少年時代の自分の言行にあるとわかっていても、勝己には許すことができなかった。
「いいか、俺らは命がけでヒーローやってんだ、ガキみてぇな夢物語で成り立つ世界じゃねえんだよ。テメェみたいに力も覚悟もねぇ奴は、大人しく守られてりゃいいんだ!!」
そこまで言いきって、勝己は手を放した。身体が主張する痛みを押し殺しながら、歩き出す。
その瞬間――吐き捨てるように、言い放った。
「中途半端に関わんな……――一般市民」
「――っ!」
そのまま、自分同様に傷ついた切島を救け起こして、足を引きずりながら去っていく。その背中を見送りながら、出久は立ち尽くすことしかできなかった。
デクくん、三度目(四度目?)の挫折……
かっちゃん&切島くんペアの全力でゴオマすら倒せないのはどうかという声もあると思います。ただ、原作からしてグロンギのみなさんは殺傷能力以上に防御力と回復力がとんでもない印象がありまして、そこをクローズアップさせた結果こうなりました。一応ふたりは防御にまでは破れているわけですが、即死にまでは至らなかったため回復されてしまったという……それゆえクウガの力が必要になってくるわけですな
次回、いよいよ赤のクウガ登場です!前書きのとおりもう書き上げてはいますので、近々投稿できると思います。お楽しみに!