【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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戦闘シーンだけになると味気ないかなーと思い、本郷総監の仮面ライダー語りシーンをこっちに回したんですが……結果はお察し。

仲間も増えてきて楽しくなってきたぶん戦闘シーンは難しくなってきました。戦隊もの書きまくってたので多対一は慣れてるはずなんですが、やっぱり仮面ライダーだと勝手が違いますね。


EPISODE 33. We`re 仮面ライダー! 4/4

――仮面ライダー。

 

 

 聞き覚えのないその名に戸惑う若者たちの前で、警視庁の主は明朗に笑った。

 

「ハッハッハッハ、まあその反応も無理はないね。"彼ら"については一世紀も昔、その存在をまことしやかに囁く声がごく一部であっただけだ。現在、一般市民で知る者はほとんどいないだろうし、いたとして実在を信じはしないだろう」

 

 暗に「我々のような立場の人間は知っている」とほのめかす警視総監。秘匿された存在?ならば自分たちが聞いてしまってよいものなのだろうかと、出久などは要らぬ心配をした。

 

「……なんなんすか、仮面ライダーって?」

 

 結局、痺れを切らした勝己がそう訊いた。

 

「きみたちの想像どおり、"原初のヒーロー"さ」

「!」

 

 個性黎明期、まだ個性をもつ人間がごく少数だった頃。その特別な力に溺れて暴走する者もいて、それはいまのヴィランとは比較にならない――それこそグロンギにも匹敵する脅威となっていた。

 社会秩序が崩壊する中で、やはり個性を駆使してそれらに立ち向かう者たちも現れた。彼らこそ、のちにヒーローと呼ばれることになる存在――

 

 だが"仮面ライダー"は、そうした者たちとも一線を画していた。

 

「彼らが立ち向かったのは、もっと強大で根深い巨悪だ。人間を怪物へと改造し、世界征服を企む……ちょうどかつての"敵連合"のようなね」

「そんな奴らが……」

 

 敵連合を率いていた"オール・フォー・ワン"……社会を震撼させるような巨悪は、彼以外にも存在していたのだ。あるいは彼も、どこかで他の組織と関わっていたのかもしれないが。

 

「仮面ライダーもまた、かの組織によって生み出された怪物のひとりだった」

「……!」

「だが彼は悪の手先と化す運命に抗い、ヒトでなくなった哀しみを異形の仮面に隠して戦い続けた。人類の自由と、平和を守るために」

 

 その戦いは永遠の孤独の中で続くものと、彼は覚悟を決めていた。――だが幸いなことに、彼は仲間を得ていった。心ある有志たち……そして望むと望まざると、彼と同じくヒトならざる身となった者たち。

 

 仮面ライダーは"彼"ではなく"彼ら"となった。長き戦いの末に彼らは自らを生み出した巨悪を討ち滅ぼし……そして、称賛されることもなく静かに去っていった――

 

「――と、言うわけだ」

「………」

 

 皆、語るべきことばをもたなかった。出久は言わずもがな、桜子と椿を除く面々はヒーローについて深く学んでいる。ヒーロー社会が形成される過程で歴史に埋もれた英雄たちがいることも頭ではわかっていた。

だがその中に、そんな悲壮な覚悟を背負い、戦い続けていた者たちがいたなんて。それも、守った世界に知られることすらなく。

 

「きみたちこそ、彼らの名と意志を継ぐにふさわしい」

 

 駄目押しのごとく言われて、出久はあわあわと首を振った。

 

「いっ、いやいやいや!みっ、みんなはともかく僕はそんな大したものじゃないですよ!ね、そうだよねかっちゃん!?」

「………」

 

 何も答えない勝己は、普段の射殺すようなそれとも異なる、ひどく冷めたものだった。たとえいつもしていることでも、出久の意図に乗せられるなら絶対にしない――そんな、尋常でない意地が垣間見える。

 

「ハッハッハッハ……きみが極端に自己評価の低い青年だとはリサーチ済みだがね。悪いがここは押し切らせてもらうよ」

「………」

 

「友を、仲間を愛し……無辜の人々を守るためなら、己が異形と化してでも悪に立ち向かう。その志そのものが仮面ライダーなんだ。その志がある限り、人は誰でも仮面ライダーになれる」

 

 だから、出久だけではない。焦凍も心操も、桜子も椿も……勝己も、その資格をもっている。無論、ここにいない飯田たちだって。

 

 そのことばを聞いて、出久はそっと己の右手を見つめた。掌の側にまで傷が侵食し、歪んでしまったそれ。決して美しくはない英雄たる証、その果てにあるものが仮面ライダーの称号だとするなら、僕はそれを誇ってもいいのだろうか。僕ひとりじゃない、ここにいる仲間たちと共有できるのならば。

 

 

――不意に、勝己の携帯が鳴った。

 

「……俺だ」

『もしもし爆豪くん、飯田です。――第40号が犯行を再開した』

「!」

 

 勝己の目配せを受ければ、その視線の動きだけで状況がわかる。少なくとも出久はそこまで来ていた。

 

「すぐ行く」

『頼む!あ……緑谷くんたちは、大丈夫か?』

 

 怪我だけのことではなく。

 

「あぁ、大丈夫だ。デクも――心操も」

 

 だから勝己は、あえてふたりの名を連ねた。その言わんとするところを察して、飯田はスピーカー越しに安堵の溜息をこぼす。

 

『そうか、それならいい。ではまた!』

 

 通話が切れる頃には、勝己だけでなく出久も焦凍も既に臨戦態勢となっていた。

 

――そして、心操も。

 

「玉川主任、」

 

 上司のもとに歩み寄った彼は、深々と頭を下げた。

 

「先程の醜態、本当に申し訳ありませんでした」

「………」

「もう同じことは繰り返しません。俺、いや自分に、もう一度G3を任せてください」

 

 玉川は肩をすくめた。所属する組織の長がにやにやと横で見ている状況下、部下に謝罪されるというのはどうにも居心地が悪い。

 が、それをおくびにも出さず、彼は未確認生命体対策班を預かる者として厳しい声を発した。

 

「……今回の犯行で犠牲になっただろう被害者、それはきみたちの小競り合いがなければ生まれなかったかもしれない。それはわかるね?」

「!、………」

 

 顔色を青くしながらも、心操ははっきりとうなずいた。ずっと頭には引っ掛かっていたこと――それでも装着員を降りるより、命がけでグロンギを殲滅し、犠牲になった人の家族に詰られよう。それが自分にできる責任の取り方だと思った。

 

「……わかってます。それでも、やらせてください」

「ぼ、僕からもお願いします!」

 

 心操ばかりでなく、結局喧嘩を買ってしまった出久もまた頭を下げた。

 そして、

 

「……今度のヤツは特に強力だ。そいつがいるに越したことはねえ」

 

 爆心地。他人の力など必要ないと言って憚らなさそうな彼までもが、そう心操の参戦を求めている。

 

――わかっている。玉川とて、上司としての義務を果たしただけだ。

 

「なら……今度こそ信じさせてくれ。きみを選んだ我々の判断が正しかったと」

「……はい!」

 

 力強くうなずく心操。――それを合図として、彼らは戦士として動き出す。

 

「みんな!……頑張ってね!」

 

 それを見送るほかないからこそ、桜子がそう声をあげた。戦う力はなくとも、彼らの無事を祈ることはできる。ただ見送るべき背中がひとつでなくなったことは、やや複雑な気持ちではあったけれど。

 

「椿先生、沢渡さん」

「!」

 

 同じく見送り役に徹した警視総監が、その場に残ったふたりに微笑みかけた。

 

「彼らのような戦士たちにこそ、帰る場所が必要だ。見守ることしかできないのはもどかしいかもしれないが……どうか最後まで、彼らを支えてあげてください」

 

 

 背中を支えてくれる人たちが、どんなにかけがえのないものか。彼自身、それを身に沁みて感じたことがあるかのような口ぶりだった。

 

 

 

 

 

 走る、走る。

 

 勝己の運転する黒塗りのパトカーが先行し、出久のトライチェイサー、焦凍のマシンがすぐ後ろにつける。

 そして最後尾には、ひときわ巨大なポリスカラーのトレーラー。

 

 そのすべてに、無線で連絡が入った。

 

『本部から全車。新宿区西新宿で第40号による事件発生』

「!」

『ただ、事前に被害予想地域の避難を行っていたため人的被害はゼロだ。また、凶器の発射地点も判明した。場所は――』

 

 

「G3ユニット、現場へ急行する。――オペレーション開始だ」

「……了解」

 

 心操は既にG3の鎧を纏っていた。ガメゴの攻撃で破損してからまだ半日も経っていないが、少なくとも外見には綺麗に元通りになっている。発目を中心としたサポートメンバーの尽力のおかげだ。

 ただ彼女らも、人間離れしていようと人間であることに変わりはないわけで。

 

「問題なく動くようにキッチリ修理はしましたけども、時間の制約上あくまで応急処置です。どんな不具合が出るかわかりません。接近戦は、絶ッ対避けてくださいね!」

「……わかってる。今回はスコーピオンでサポートに徹するよ」

 

 緑谷たちがいるしな――そのことばは、十分信頼に足るものだと思った。

 

 

「――緑谷、」

 

 疾走に専心していた出久は、隣の焦凍の呼びかけで我に返った。

 

「心操が出てきたぞ」

「!」

 

 ミラーを見遣れば、Gトレーラーの背後からガードチェイサーを駆るG3が現れたのが確認できた。

 

「よし……じゃあ、僕らも!」

 

 スピードを緩めることないまま、グリップから手を放し――構える。

 

 

「変――「変身ッ!!」――身!!」

 

 腹部に出現したベルト――アークル・オルタリング――が輝きを放ち、それぞれの主の肉体をヒトを超えたものへと変化させていく。

 

 クウガに、アギト。そこにGトレーラーを抜いて追いついてきたG3が並ぶ。仮面ライダーの名を受け継ぐ、三人の戦士たち。

 

 人類の自由と平和を守る……そんな大それたことは言えない。だが誰かの涙を見たくない、皆に笑顔でいてほしい――その決意は、過去にそう呼ばれた者たちにも決してひけをとらないのだった。

 

 

 

 

 

 ゴ・ガメゴ・レは、捜査本部の面々により包囲されていた。

 

 それでも彼は、まったく余裕を崩すことはない。そもそもリントなど歯牙にもかけていないから……というのも理由としてあるが、最大の要因は高層ビルの屋上という、ある意味隔絶された空間を確保していることだ。

 

「チッ、いつまで居直り決め込んでやがるんですかねえあの未確認」

 

 毒づく森塚。この距離では銃撃も届かないし、届いたとて効き目はないだろう。逆に相手も犯行時のような鉄球の雨あられとはいかないようだが、下手にこれ以上近づけないのは変わりない。

 

「くっ……いつまでそこにいるつもりだ!?降りてこい!!」

 

 堪りかねた飯田が得意の大声で叫ぶ。それは当然ガメゴの耳には届いたが、その意志に響くのとはまったく異なる話で。

 

「断る。俺と遊びたいならそちらからどうぞ。――徹底的に叩き潰させてもらうがな!」

 

 鈍重そうな風貌で、そんなことばを高らかに謳いあげるのだから腹立たしい。

 

「……ずいぶんな余裕ね。虚勢を張っているわけでもなさそうだわ」

「タイムリミット、まだ先なんですかね?」

 

 正解だ。設定は72時間で567人――そのうちまだ6時間程度しか経過していない状況で、目標人数の半分弱は既にクリアしている。ちょうどいまのようにリントの戦士たちの横槍が入ることを見越して慎重に、また長く楽しめるようにとこの時間・人数設定にしたのだが、それにしてもぬるすぎたとガメゴは考えていた。

 

 とはいえ、いつまでもここで粘っているつもりもない。この場で強引にゲゲルを続行したところで、骨折り損になることはもうわかっている。命中が一個もないということはその場に誰もいなかった――つまり眼下の連中の差し金だろうから。

 

(そろそろ"奴ら"が現れるだろう)

 

 それを今度こそ完膚なきまでに撃滅すれば、リントどもも怖じ気づいて逃げていくに違いない。自分を止められるものなど、この世界に誰もいないのだ。

 

 

 摩天楼の頂、全能感に浸るガメゴの背後で、()()()の影が躍りあがった――

 

 

 それらは、地上の飯田たちにも捉えられていた。

 

「!、緑谷くん、轟くん……!」

 

 ついに来てくれたか。飯田は一瞬表情をほころばせたが、すぐに引き締め直した。彼らが来たとて、勝利が決まったわけではない。

 

 自分も上に行って参戦すべきか――そんなことを考えていたとき、一台の黒い覆面パトが入ってきた。運転手は、見なくてもわかる。

 

「爆豪くん!」

「チッ……あのクソボケども、とっとと先行きやがった」

 

 毒づきつつ、彼はいつものように積極的に割り込んでいこうとはしない。

 

「……珍しいな、きみがおとなしい」

「ことば選べやクソメガネ。屋上じゃわらわら群れててもお互い邪魔ンなるだけだわ。それに……」

 

「いっぺんくらい、あの洗脳野郎に花持たせてやってもいいだろ」

 

 

――既に、クウガたちとグロンギの決戦が始まっていた。

 

「ウラァッ!!」

 

 鉄球を勢いよく振り回すガメゴ。直撃すればタイタンフォームの鎧ですらダメージを殺しきれないその猛攻をかわしつつ、クウガとアギトは反撃のチャンスをうかがう。

 

「ッ、やっぱり隙がねぇな……」

「なければ作ればいいだけだよ。さっき決めたやり方でいこう」

「……言うじゃねえか!」

 

 

 クウガを庇うように、アギトが前面に出た。――それが、作戦開始の合図。

 

「ギベッ!」

 

 当然、ガメゴはアギトを狙って鉄球を振るう。しかし生まれながらに個性をもつ彼なら、身を翻してかわす以外の防御手段もある。

 

「ふ――ッ!」

 

 彼の右足から氷結が奔り、たちまち前面に分厚い氷山を形成する。鉄球を受け止めきれるほど頑丈ではなく、一瞬のうちに粉々に粉砕されてしまうが、ガメゴの虚を突くには十分だった。

 

「ムゥ……!」

 

 不愉快げな声をあげつつ、一旦鉄球を引くガメゴ。即座に次の攻撃に移るつもりだったが、アギトはただ防御のために氷山を生成したのではなかった。

 

「――はっ!」

 

 陽光を反射して煌めく氷の欠片の群れの中を、真紅のクウガが躍動する。アギトの背後で守られていたのが一転、急に飛び出してきたのだ。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に迎撃しようとするガメゴだったが、これまでの攻撃のように、鉄球に十分な勢いをつけられていない。狙いどおりだ、クウガ――出久はそう思った。

 

「お、りゃぁッ!!」

「グゥッ!?」

 

 クウガのキックが鉄球とぶつかりあい――競り勝った。ガメゴの手から離れて弾き飛ばされ、ガメゴ自身もよろけて後退する。

 

「ッ、フハハ……」

 

 それでもなお、彼は笑っていた。いまので意表を突いたつもりだろうが、鉄球ひとつ吹っ飛ばしただけ。本体には触れることすらできなかったし――鉄球は、まだまだ創れる。

 

 その事実を誇示するかのように、ゆっくりと指輪に手をつける――刹那、

 

 

 にわかに右手を凄まじい衝撃と熱い痛みが襲い、指輪が弾け飛んだ。

 

「ガァッ!?」

 

 倒れかかりそうになるのをこらえて、ガメゴはどうにかその場に踏みとどまった。クウガでもアギトでもない、別の場所から不意討ちを喰らった――その方向を見遣る。

 

 ビルに外付けされた非常階段。その踊り場に、攻撃の主の姿があった。

 青と銀を基調とした鋼鉄の鎧。唯一緋色に輝く複眼は、クウガのそれによく似ている……その姿をモデルとしているのだから当然だ。

 

 彼――G3・心操人使は"GM-01 スコーピオン"による射撃で、ガメゴの手を正確に撃ち貫いたのだ。常人であれば手がちぎれていてもおかしくなかったところ、彼は右手にはめた指輪をすべて吹っ飛ばされるだけで済んだ。

 だが、思わぬ形で武器の約半数を失ったことは、彼を苛立たせるに十分だった。個性によるイカサマ以外は大したものではないと決めつけていたから、なおさらだ。

 

「よう。次は頭を吹っ飛ばしてやるよ」

「ビガラ……バレダブヂゾ!」

 

 まずはこいつを血祭りに挙げる。ガメゴはそう心に決めた。雑魚にうろちょろされるのも鬱陶しい、そう判断してのことでもある。

 しかし、G3のもとへ向かおうとすることはその仲間たちが許さない。

 

「!?、グ……!」

 

 足下が急に冷たくなったかと思えば、急に身動きがとれなくなる。――足が、床ごと完全に凍りついてしまっている。

 

「無理に動くと肉ごと剥がれるぞ」アギトが冷徹な声でつぶやく。

「!」

「それとも、どうせすぐ治るから構わねえか?」

 

 確かにすぐ治る――が、一瞬というわけではない。負傷した状態でもこの宿敵たちを下せると考えるほどには慢心してはいない。

 やはり、まずはあのG3を仕留めるないし戦線離脱させる。ガメゴは残った左手の指輪から鉄球を生成しようとした。

 

 そこに飛びかかり、羽交い締めにしたのがクウガだった。

 

「ガアァッ!!」

「ッ、心操くんは……やらせないっ!」

 

 守る――無論、それだけではない。自分のパワーでは押さえつけていられるのもせいぜい十数秒、だからその短い間に、友人の支援を全力で活かす。

 

「く、ッ……――心操くんッ!!」

 

 呼び掛けとともに、クウガの手がガメゴの左手を掴みあげる。――いまだ。

 

「ふ――ッ!!」

 

 一度、二度、三度――瞬きするほどの刹那に、幾度にもわたって引き金が引かれる。それらはすべて、正確に標的へと吸い込まれていった。

 

「がッ!?」

 

 突如、G3のアームプレートが火花をあげて弾け飛ぶのと引き換えに。

 衝撃で倒れ込む心操。右腕が焼けるように熱い。

 

「……発目、どうなってる?」

『……スミマセン、反動に耐えられなかったみたいです』

「マジかよ……」

 

 確かにこれでは、接近戦なんて危なっかしくてやってられない。直接攻撃を受けたりしようものなら、これより酷いことになっていただろう。

 

(でも……最低限の役割は果たせた)

 

 

――ガメゴは、すべての指輪を失っていた。

 

「ダババ……!?」

 

 これでは鉄球を創ることができない。焦りに我を忘れたガメゴに、ふたりの戦士が迫った。

 

 

「「――おまえも、吹っ飛べ!!」」

 

 彼らの拳が、ガメゴの顔面を鮮烈に捉えた。

 

「ガァ――ッ!?」

 

 そのことばどおりに、鈍重な身体は吹き飛び、宙に投げ出される。その真下にあった渡り廊下の天井と床をまとめて突き破り、彼は瓦礫ともども地面に叩きつけられた。勝己たちの目と鼻の先に。

 

「!、緑谷くんたち、やったか……!」

「………」

 

 前回は敗北を喫した第40号を――3人の連携がうまくいった証左だろう。

 しかしまだ、すべてが終わったわけではない。勝利を成すため、ドラゴンフォームに超変身したクウガがアギトとともに飛び降りてきた。

 

「悪りぃな未確認、こっちから肉剥がしちまった」

 

 いつもの淡々とした口調で言い放たれたとおり……氷結から強引に引き剥がされたせいで、ガメゴの足は血まみれになってしまっていた。肉体のほうのダメージも相俟って、これでは逃走などできようはずもない。

 

「ラザザ……!」

 

 だがガメゴは、己にはまだ勝機があると思っていた。自慢の甲羅で、こいつらの会心の一撃を防ぎきれば。

 

「――なんて、奴は考えてやがるんだろうな」

「だろうね……僕らでブチ破ってやろう!」

 

 そのためには。

 

「かっちゃん!いつものお願い!」

 

 いつもの?なんのことかわからず首を傾げるアギトの背後で、勝己が舌打ちしながら掌から爆破を起こす。

 その時点でいやな予感はしていたのだが……「行こう、轟くん!」のひと声を受ければ、動かざるをえない。

 

「ワン・フォー・オール……フルカウル……!」

 

 個性の煌めきを全身に纏わせ、構えをとる。

 

 同時に、クウガも。――赤い鎧に電光が奔り、その肉体の一部を黄金へと変えていく。必殺キックを放つ右脚の脛には、古代文字の刻まれたアンクレットが装着される。

 

 赤の金――ライジングマイティ。クウガの基本形態であり、緑谷出久の燃えたぎるような意志を示すマイティフォーム。それがいよいよ、黄金の力を得た。

 

 

 光とともに、ふたりの英雄は力強く跳躍する。

 彼らだけではない――勝己も。

 

 

「まとめて……死ねぇえッ!!」

 

 不穏当極まりない台詞とともに、背中目掛けて爆破を放つ。

 

 背中に感じる強烈な灼熱とともに、放たれる必殺キックの勢いがにわかに増す。アギトは両足、クウガは右足。迫りくるそれらに、ガメゴは背を向け、身体を丸めた。甲羅で防ぎきる――その意志は変わらない。

 

「うぉオオオオオ――ッ!!」

「おりゃぁあああああッ!!」

 

 

――閃光が、辺り一面を覆い尽くした。

 

 

「ッ、な、何が……」

 

 何が、どうなった?

 飯田たちのそんな疑問は、視界が戻ったことで一瞬にして氷解した。

 

 十数メートルも先に着地した、クウガとアギト。彼らと自分たちの間には、かのグロンギがいた。その巨体はうつぶせに倒れ伏している。――甲羅は、粉々に割れていた。

 

「グ、ア、アァ……ッ」

 

 弱々しいうめき声をあげながら、なおも立ち上がろうとするガメゴ。しかしもう、彼に待っているのは死しかない。その証拠に、ひび割れた背中にくっきり刻まれた封印の紋から光る亀裂が奔り、背中を、腹を……そしてバックルを、侵していく。

 

 

――そしてついに、"その瞬間"が訪れた。

 

 バックルが爆ぜ、炎とともにガメゴの身体が四散する。轟音と熱風とが、周囲に伝播してゆく。

 

「………」

 

 振り向き、その様を見つめる二対の複眼。……いや、もう一対。アンタレスを使って屋上からするりと降りてきた、G3だ。

 

「あ、――心操くん!」

 

 その姿を認めたクウガは、緑谷出久に戻って歩み寄っていった。

 

「倒せたよ、きみのおかげで」

「……だと、いいけどな」

「本当だよ!あの鉄球が厄介だったところ、きみが全部吹っ飛ばしてくれたんだ!それにしてもやっぱりすごいよ心操くん、あの距離からサブマシンガンで正確に指輪を吹っ飛ばすなんて!装着員になってからまだ一ヶ月も経ってないよね、それであんな精密射撃ができるなんて、どれだけ特訓したの……いや、むしろ量より質の問題なのか――」

「お、おい……」

 

 ゴホンと咳払いをすると、出久ははっと我に返ったようだった。頬を赤らめている。

 

「ご、ごめん……つい」

「いや……。――今度見に来いよ」

「!、いいの?」

「うん。まあ、そんな面白いもんじゃないと思うけど」

「行くよ、絶対行く!」

 

 嬉しそうに目をきらきら輝かせる出久。こういう表情を見せられるたびに思う――ああ、こいつと友だちになってよかったと。

 ただ、

 

「……とりあえず、あっちも構ってやれ」

「えっ?――あっ」

 

 振り向いた出久は、思わず肩を強張らせた。悪鬼羅刹のごとき様相で迫ってくる幼なじみの姿があったからだ。

 

「か、かっちゃん……」

「デェェクゥゥ……。テメェ、ひとを利用しといてありがとうのひと言もなしか、舐め腐ってやがんなァ!!」

「ヒィッ……」

「ありがとな爆豪」するりと割り込む焦凍。「けど、"まとめて死ね"はあんまりだと思うぞ」

「出てくんな半分野郎!!」

 

 焦凍に向かって怒鳴ると、勝己は不意に表情を鎮めた。今度はすべてを見透かすような視線を出久に向けてきて。

 

「……とりあえずデク、テメェはまた病院送りだ」

「へぁッ!?ど、どうして?」

「右足、微妙に動きがぎこちねえ。痛てぇんだろ」

「……!」

 

 図星、だった。いや、痛みといっても大したものではない。ちょっと筋肉を痛めたかな、という程度のものなのだが。

 

「武器を集中的に強化してる他の金色と違って、赤は右足に負担が集中してンだ。そのせいだろ」

「……そう、かも」

「そういうことならちゃんと診てもらっといたほうがいい。……さすがだな爆豪、俺はそこまで気づけなかった」

「テメェの目が節穴なんだよボケボケ野郎。おら、とっとと行くぞ」

「あ、待ってよかっちゃん!もうちょっと心操くんと――」

 

 ずんずんと歩き出す勝己。「ごめんね、またあとで!」とこちらに手を振って、あとを追いかけていく出久。「緑谷くん、大事をとってバイクを使うのはやめたまえ!パトカーまでは俺がおぶろう!」と駆け寄っていく過保護な飯田……はこの際ご愛嬌として。

 

「……ヘンなの、あいつら」

「俺もそう思う。でも、悪くねぇだろ?」

「あんたと意見が合うのは珍しい……ってか、初めてかもな。――轟」

「そうだったか?」

「そうだろ」

 

 そもそも学生時代は、個人的な会話をしたことなど皆無に等しかったのだが、ふたりともそんなことは忘れていた。

 

 

――こいつらと"仮面ライダー"の名でひと括りにされるのも悪くない。改めてそう思う心操なのだった。

 

 

 

 

 

 庁内の執務室に戻った本郷猛は、差し込む夕陽を眺めながらひとりコーヒーブレークを楽しんでいた。自分で豆から選んでいるその味は、今日は特にほのかな甘味が強く、舌触りがよい気がする。あるいは気分の問題かもしれないが。

 

(やはりやってくれたな、彼らは)

 

 自分のことばが大きな影響を与えたとは思わない。高すぎる地位を得たことと引き換えに、彼らをそばで見守り、導いてやるなどということはできなくなってしまった。それも自分の選択だ。

 

 本郷は少し考えたあと、引き出しの奥にしまっていた一枚の写真を取り出した。画質からして明らかに古ぼけたそれには、ふたりの男が写っている。一方は大型のバイクに寄りかかった、二十代半ばくらいの青年――それが若かりし頃の本郷であることは、顔立ちや変わらぬくっきりと力強い眉毛が示している。

 そしてもう一方は、白髪混じりの初老の男性。浮かべた微笑は優しげだが、その瞳は、決して信念を崩さぬ意志の強さをたたえている。

 

(おやっさん、)

 

 緑谷出久がそう呼ぶ男と、写真の中の男は奇しくも職業において一致していた。本郷はその事実を知っていて、だから余計にかの青年にシンパシーを感じる部分もある。

 

(俺はあなたのようにはできないけれど、彼らは多くの仲間を得て前に進んでいるよ)

 

 だから自分は、もっと大いなる秩序を守るため、いまはこの身を捧げよう――本郷は改めてそう決意した。

 

 

――写真の右下に記された日付。それが一世紀以上も昔のものであることは、彼自身と彼の同志であるごく少数の者しか知らないし、また知る必要もないことであった。

 

 

つづく

 





轟「俺には、決着をつけなきゃならない奴がいる」

轟「けどそいつは、無邪気な世界にひとりで閉じこもっちまった。……それでいいと、思ってた」

EPISODE 34. イノセンス

轟「俺はいつだって過去に縛られる。轟焦凍として……そして、"平和の象徴"を継ぐ者として」


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