【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
作曲者は同じ佐橋俊彦さんなのでクウガと親和性はある…はず。
沢渡桜子はこの日、珍しく考古学研究室にこもっていなかった。
無論彼女にだってオフはあるし、大学にいるときだって文献をたどりに図書館へ出向くこともある。しかし、考古学者の卵としての彼女がひたすら研究室にいるのもまた事実であって。
彼女がいたのは、研究室の入った棟の裏にひっそりと設置された、小さなプレハブ小屋だった。九郎ヶ岳遺跡からの出土品の数々が安置され、都会の真ん中にさながら小遺跡をつくり出しているのだ。
電灯もなく、足下に設置されたほのかな緑色の光のみに照らされた薄暗い室内で、桜子が目をこらして見つめるのは石碑に刻まれた碑文だった。ここにあるものはもうすべて電子化を行っているどころか、解読まで完了している。にもかかわらずこんな苦労を自ら買って出ているのは……電子化されていない、生の碑文をもう一度見たいと思ったからだ。
「"心清く身体健やかなる者 これを身につけよ さらば戦士クウガとならん"……」
そして、
「"聖なる泉枯れ果てしとき 凄まじき戦士雷のごとく出で 太陽は闇に葬られん"……」
この、ふたつの碑文。一見相反する……いや実際そうなのだろう内容のそれらは、ひとつだけ共通する古代文字を含んでいた。
「戦士……」
クウガの姿をデフォルメしたような、二本の角が突き出したそれ。……実を言うと少し前から、この文字には言い知れぬ違和感があった。まるで、これだけ別の人間がデザインしたような――
はじめは考えすぎだと思った。けれど、リントが本来平和を愛し、争いを好まない種族であったという事実を思い出した瞬間、それは確信へと変わった。
これは、リントの文字ではない。
そして、もうひとつ――
「これ……いままで、ただの汚れだと思ってたけど………」
角の内側あたりに浮かんだ、煤けたような黒い痕。前者の碑文にはないが、後者にはある。もしかしたら――
赤外線センサーを内蔵した暗視ゴーグルを装着し、解析を開始する。もし万が一汚れでなければ、それがはっきりわかる。文字を刻んだ痕が、鮮明に残されているはずだから。
「――やっぱり……」
そのつぶやきには、できればそうであってほしくなかったという切望、落胆にあふれていた。
凄まじき"戦士"――それを示す文字の角は、四本あったのだ。
*
燃ゆる太陽のもとで、鮮やかな超人の肉体が躍動する。
「うぉおおおおお――ッ!!」
標的めがけて飛びかかる超人アギト。対するドルドは、
この攻守一体の羽根は、以前の戦闘でも大いなる脅威となった。どうやら神経毒か何かが仕込まれているようで、常人は一枚突き刺さっただけでまったく身動きがとれなくなる。戦場となった病院では、自分と出久、そしてすんでのところで守った父・エンデヴァーを除く全員が被害に遭った。でありながら死者をひとりも出さなかったあたり、この男は審判員として、無用な殺戮に手を染めるつもりはないのだろう。――それが、かえって不気味だった。
とにかく、この羽根の群れを突破しなければ。
(俺の身体なら何枚かは耐えられる……が……)
「もう、喰らっちゃやらねえッ!!」
右から冷気、左から燃焼を発生させ、迫りくる羽根を凍らせ、燃やし尽くす。フルカウルによる人間離れした躍動は、当然のごとく保ったまま。
「フム……やるな。磨きがかかっている、敵にしておくには惜しい……」
「――その力、"究極の闇"にふさわしい」
「ッ、訳わかんねえことほざくなッ!!」
叫びながら、一気に距離をとる。羽根は無尽蔵に現れる。構っていたらキリがない。
(どっちにしろ時間がねえんだ……さっさとケリつけてやる!)
両腕で未だ唸りをあげている"半冷半燃"――その上から、ワン・フォー・オールを重ね合わせる。三つの力が、ひとつに、なる。
「KILAUEA McKINLEY――」
「――SMAAAAASH!!」
ふたつの拳が猛スピードで迫る。もはや迎撃では間に合わないと判断したドルドは羽根を自分の前に寄せ集め、さらに翼で身体を包み込むことで鉄壁の防御態勢をとる。
それでもなお、炸裂した一撃はかのグロンギを吹き飛ばすに余りあって。
「グゥゥゥ……ッ!」
一瞬宙をきりもみ状態で転がったドルドだったが、即座に翼をはためかせて姿勢を立て直した。完全には勢いを殺せずわずかに地面を滑走しながらも、己の足で着地することには成功したのだ。
「ッ、ガグガパ、アギトザ……」
「チッ……」
相手が一応の称賛のことばを吐いていることくらいはわかるが、嬉しくもなんともない。できれば、いまので倒したかった。
しかしまだ、手札を使い尽くしたわけではない。拳が駄目なら、足がある。
「今度こそ……!」
腰を落とし、構えをとるアギト。対して、ドルドもまた身構える。――纏う空気が、変わった。
「私もそろそろ、キミを殺すつもりでかからねばならんな……」唸るようにつぶやきつつ、「……が、それは次の機会か」
「!」
「3分経ってしまったようだな」と、さも残念そうな口調で続けるドルド。いや、幾分かは本音も含まれているのだろう――彼もまた、戦闘民族グロンギの一員である以上は。
「ではまた会おう、轟焦凍くん。せいぜい足掻いて、ザザルのゲゲルを止めてくれたまえ……できるならな」
「ッ、勝手に終わらせようとしてんじゃねえッ、テメェはここで倒す!!」
漆黒の羽根がドルドの身体を覆い尽くそうとしている中、アギトは勢いよく跳躍した。今度は両足に力を集束させ、跳び蹴りを放つ――
「はぁあああああ――ッ!!」
眩い閃光。次いで爆炎が、辺り一体を包み込んだ。
その光景は、既に付近まで到達していたクウガの目にも捉えられた。
「!、あれはもしかして、轟くん……!?」
あの爆発は、グロンギを倒したのだろうか?ふつうに考えればそうなのだろうが……なぜか、嫌な予感がする。気のせいだと思いたいが……。
「……ッ、」
とにかく、一刻も早く焦凍と合流しなければ。もし杞憂に終わって彼がすべてを終わらせていたなら、その労をねぎらえばいいのだから。
「……く、」
粉々にちぎれて燃え滓以外の何物でもなくなった羽根の残骸に囲まれて、アギトは悔しげな声を漏らしていた。己が必殺キック、捉えたのはおそらく羽根の群れだけ。本体にはみすみす逃げられてしまった……病院での初戦と同じように。これでは早晩、ゲームも再開されてしまうだろう――
アギトが立ち尽くしていると、背後から聞き親しんだトライチェイサーのエンジン音が接近してきた。
「轟くん!」
降り立ったクウガが駆け寄ってくる。その鮮烈な赤が、少しだけ目に痛いと思ってしまった。
「無事でよかった……!」
「?、あぁ……俺はなんともねえが……」
何か言い知れぬ不安があったのだろうか。現在進行形で同じものを抱えている焦凍には、その気持ちがよくわかった。
「それより……多分逃がしちまった、悪ィ」
「え、でも、結構派手な爆発だったけど……?」
その疑問に直接は答えず、
「6月に病院で戦った鳥の奴、覚えてるか?」
「あ、うん。確か羽根で攻撃してくる……――あいつと戦ったの?」
「ああ。奴が審判をしてるみたいだったから、倒せれば一時的にでもゲームを止められるかと思ったんだが」
やはり奴は、強い。「そろそろ本気を出さなければ」などとのたまっていたということは、逆に言えばまだ余裕たっぷりだったということ。出久と心操、勝己ら捜査本部の面々と緊密に協力して当たっても、勝てる保証はない――
「だとしても、きみの判断は正しかったと思うよ」
「……そうか?」
「うん。だって今回のプレイヤー……多分そうなるだろうから41号ってことにするけど、多分めちゃくちゃ強力な酸を使うんだ。ピンキー……芦戸さんの個性みたいに体内で生成したものを分泌していると考えられるし、あるいは外付けの武器に貯蔵してる可能性もなくはないけど、どっちにしろかなり危険な相手だ。対処法を考えずにぶつかるべきじゃないし……何より倒す際の爆発だな、身体と一緒に酸が広範囲に飛び散ったら大変なことになる……」
途中から"伝える"というよりいつもの独り言になってしまっているが、焦凍に理解させるぶんには特に問題なかった。
「……確かに、おまえの言うとおりかもな。身体溶かされるなんて流石にごめんだ」
「あ、うん……それもあるよね。ってわけだから、ひとまずここでかっちゃんたちが来るのを待とう」
「おう」
うなずきつつ――ふと、あらぬ方向を見遣る。どこか心ここにあらずな様子に、出久は「轟くん?」と呼びかけた。
「どうかした?」
「いや……なんでもねえ」
そう、なんでもないのだ。――ただ、
(……嫌な風だ)
殺人ゲームとは別に、何かよくないことが起ころうとしている――それがなんなのかまではわからず、それゆえにどうすることもできない。焦凍はいったん、その予感を頭の隅に追いやることにした。
――死柄木弔のことと結びつけるには、このときの彼の思考はやや混沌としていたのかもしれない。
*
戦線を離脱したドルドは、プレイヤーであるゴ・ザザル・バを捜して都内上空を飛行していた。
(よもや今日という日に再び奴と対峙することになるとは……今後とも、楽しませてくれそうだ)
ズ・ゴオマ・グを伴って行動を起こしているバルバの目論見は、十中八九成功するだろう。そうなれば――
と、彼はようやくザザルを発見した。駅前のタクシー乗り場で、ちょうど黄色い車体のタクシーを捕らえたところだった。扇子でぱたぱたと扇ぎながら、するりと後部座席に滑り込む。どうでもいいが、目的地はきちんと指定しているのだろうか。
「………」
彼女が自ら設定したルール、それが書かれた皮紙を見下ろす。――問題ない、
「フム……こちらも、楽しめるといいがな……」
*
独り遊びに疲れた死柄木弔は、ベッドの上で身体を丸めて眠りについていた。その手には、彼の唯一の遊び相手と言ってもいい平和の象徴――オールマイトのフィギュアが握られたままだ。一度これで遊びはじめるとなかなか手放そうとせず、職員らを困らせることもしばしばだ。ただ、眠りの浅いこの男がぐっすり眠っているのは、決まってこれをその胸に抱いているとき。そして、そのひび割れた唇をほのかに弛めている。
オールマイトを抱いて眠りにつくと、いつも夢を見るのだ。退行した心にあわせたかのように小さな子供の姿をした自分の手を、大人の男性が引いて歩く。大きな背丈、首から上はぼやけて見えないけれど、とても優しい表情を浮かべている……そんな、気がする。
どれだけ歩き続けただろう、道程の果てにふたつの人影が見えた。ひとつは筋骨隆々の、巨人のような男性。視界に入っただけですぐにわかる――憧れてやまない、オールマイトだ。
その姿に目を輝かせていると、今度は隣に立つ女性の姿に目がいく。やはりその顔は、ぼやけてしまっていてよく見えない。ただとても、なつかしいひとであるような気がする。会ったことなんて、ただの一度もないはずなのに。
三人の大人はみんな、自分を見ている。慈しむような視線に、心があたたかくなる。
そんな、幸せな夢だった。
――彼が夢から覚めたのは、頬に当たる風を感じてのことだった。
「ん……」
右手にオールマイト人形を握ったまま、空いた左手で眠い目を擦る。窓のない部屋から出ることのできない彼には時間の感覚がない。そもそもそうした概念すら頭の中から消えうせているから、睡眠や遊びはしたいときにするが常態化しつつある。食事と投薬の時間はコントロールされているが。
ただいずれにせよ、弔の前に現れたのはそうして生活を管理している職員の誰でもなかった。
「だれ……?」
真っ白なドレスに、ウェーブのかかった長髪を結い上げた女。真珠色のルージュに、額を彩るバラのタトゥがその美貌を魔性のものへと際立たせている。無論幼児並みの思考しかもたない弔の審美眼ではそこまでの感想をもてないが、とにかく"きれいなひと"であることはわかったようだった。――以前の彼でも同じことだったかもしれないが……。
聖母のような微笑を浮かべながら、女がゆっくりと歩み寄ってくる。その姿をぼんやりと見つめていた弔は、ふと、彼女の背後に目をやった。
――見知った看護師の女性の首筋に、コウモリに似た異形の怪人が喰らいついている。何かを吸い上げるような音とともに、びく、びくと痙攣する身体。その度に皮膚から瑞々しさが失われ、乾きに乾いていくように見えるのはなんなのだろう。
「!?、う゛、ア゛……ッ」
その姿を――命が不可逆的に失われていくさまを認識した途端、弔の頭を耐えがたい痛みが襲ってきた。記憶にない光景がフラッシュバックする。ひとが、しぬ。
これはなんだ?わけもわからず頭を押さえてうずくまる弔を、無数の薔薇の花びらが包み込んだ。
「ぁ……、………」
たちまち弔の身体が弛緩し、ベッドに沈み込む。力の抜けた右手からオールマイト人形がするりと滑り落ち、床に転がる。――その直後にはもう、彼の姿は部屋から消えうせていた。静寂の中で、花びらと干からびた遺骸だけが、一連のできごとが夢幻でないことを示しているのだった。
キャラクター紹介・リント編 バギングドググドズガギ
八百万 百/Momo Yaoyorozu
個性:創造
年齢:20歳
誕生日:9月23日
身長:173cm
好きなもの:読書(図鑑とか)
個性詳細:
脂肪と引き換えに体内でなんでも創れちゃうぞ!(生物除く)
創るためにはそのモノの質量に応じた脂肪分が必要になるほか、分子構造まで完璧に把握していなければならない!便利なようで常人にはハードルのクソ高い個性だが、頭がよく勉強家な彼女はバッチリ使いこなしているぞ!
備考:
ヒーローネーム"クリエティ"。例によって雄英OGで、学生時代の体力テストや学力テストでは一位をキープするなど文武両道を地でいくスーパーお嬢様だ!
失踪していた轟焦凍をとりわけ気にかけていたひとりであり、再会に際しては涙ぐんでいた。その後は出久たちとも親しくなり、八百万家所有のプライベートビーチ(!)へ招待するなど出久に遅れて来た青春をこれでもかってくらい楽しませてくれたぞ!(湿っぽい話もあったうえ途中でグロンギが出ちゃったけどね!)
作者所感:
こういう陽性のお嬢様キャラは好物です。しっかりしてるんだけどちょっと抜けてるというか……ほわほわ系?見た目は割と高飛車系っぽいから余計にね……。
レギュラー陣以外の雄英メンメンでは切島上鳴に次いで出番がありますが、肝心の轟百要素は中途半端になっている……一応帰結は考えてるんですけどね。
ちなみに本エピソードでは出番がある予定です。