【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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ギノガ回観てたら番組内でEDが流れてたので紹介しますが、皆さん当時やっていたマシュランボーってアニメをご存知ですか?

最近観返したんですがなかなか面白かったです(2000年当時にしては作画も良いし)。途中までは西遊記をモデルにしたよくある冒険モノって感じだったんですが、放送短縮の影響か終盤物凄い鬱展開に……ウルトラマンネクサスの逆みたいな感じ。節目で流れる挿入歌「オアシス」が名曲なので皆さん是非聴いてみてください。


EPISODE 35. 死柄木 弔 2/4

 線路沿いの路上。その一区画はいま、規制線によって封鎖されていた。

 

 その内側には赤色灯を晒した覆面パトカーが何台も停車され、外側と隔絶した不穏な空間をつくり出している。――その中心点となっている車両は唯一、パトカーではなくタクシーだった。ただドライバーズシートが跡形もなく溶かされ、そこに座っていたはずの運転手もまた然り……であったが。

 

「41号はゲロヤベェ酸性の体液をお持ちのようですよ~」

 

 慌ただしい鑑識作業を横目で見つつ、森塚が感情のこもらない声で告げる。彼のことばはここまでの犯行の分析に基づいたもので、つまり捜査本部の公式見解でもあった。

 

「やっぱりそうか……。発見できたとしても、迂闊にその辺で倒せないな……」

「まあ、よくても周辺への被害は避けられんね。万が一逃げ遅れた人でもいようものなら……最ッ悪だしね」

 

 出久が難しい顔で悩んでいると、パトカーの中で本部と連絡をとっていた鷹野警部補が降りてきた。

 

「爆発をどうするかの件なら、管理官と話がついたわ。極力影響の少ない爆破ポイントを選定中だそうよ。問題は、どうやってそこに41号を誘導するかね……」

「39号のときみたいにはいかないですしねー」

 

 39号――ベミウは"プール"という特定の場所狙いだったからまだ誘い込みようもあったが、今度は標的が乗り物だからそう都合よくはいかない。

 

 悩む一同。そんな中で、口許に親指を当てるしぐさを見せていた出久がぽつりとつぶやいた。

 

「……一応、考えがないわけじゃないです」

「ん?」

 

 その"考え"とは一体なんなのか――刑事らが尋ねようとしたとき、新たなサイレンがこちらへ接近してきた。

 

「お、来たね我らの切り込み隊長ズ」

「……隊長なのに複数いるんですか?」

 

 大真面目に訊いて森塚を鼻白ませる焦凍……はともかくとして、覆面パトカーから降りてきたのは予想どおり爆豪勝己と飯田天哉だった。出久が「かっちゃん、飯田くん!」と彼らの名を呼ぶ。飯田は片手を挙げて応えたが、勝己はぶっきらぼうに鼻を鳴らしただけだった。

 

「遅くなって申し訳ありません!状況は?」

「芳しくはないねぇ。一応のタクシー無線で情報の共有は進んでるようだけど、まだ万全ではないし」

「それに、殺人の法則性も掴めていないわ。現状わかっている共通項はタクシーということ、そして41号が、比較的タクシーを捕まえやすい大きい乗り場を巡っているらしいってことだけ」

「……運転手の名前とか、ナンバープレートの数字とかは?」

 

 まずもって思い至ったことをそのまま訊く勝己だったが、その程度なら既に検討されている。――答えは、否だ。

 

「残念ながら」

「ならば、現状ではタクシー会社に運行の自粛を徹底してもらうほかありませんね……」

「ええ……それと、気が早いようだけど戦闘になった場合の対策も検討中よ。――そういえば緑谷くん、」

「!、はい」

「さっき、爆破ポイントへの誘導方法を考えていると言っていたわね」

 

 皆の視線が一挙に集中する。飯田などは視線では飽き足らず「本当か、緑谷くん!?」と質してきた。

 それにうなずきつつ、

 

「ゴウラムを使おうと思います」

「ゴウラムを?」

「うん。正確には……トライゴウラムの牙で41号を拘束して、爆破ポイントまで運ぶって感じなんだけど」

 

 なるほど確かに、出久……というかクウガならではの案ではある。ただ、

 

「しかし緑谷くん、ゴウラムとの融合はTRCSに少なくない負担を強いることになるんだろう。寿命を縮めることになるんじゃないか?」

「わかってる。だけど、できれば僕が責任をもって奴を追い込みたいんだ。そのためにはこれが一番いいと思う」

 

 穏やかながら、出久は決然と言い放った。よほど良い代替案が上がってこない限り、それを引っ込めることもない――ここにいる面々はもう、そんな彼の頑固さをよく知っていた。

 

「あまりひとりで背負いこみすぎるなよ、緑谷。……まあ俺が言えた義理じゃねえが」

「ハハ……そうかもね。なんにしても皆との協力は必要不可欠だから。ちゃんと頼るから安心して」

「……おう」

 

 淀みなくそう言えるなら、自分が心配する必要もあるまい――安堵とともに、焦凍は口をつぐんだ。

 代わって、飯田が話を進める。

 

「運搬方法はそれを採用するにせよ、実行までに41号の力をできるだけ弱めておく必要があるな。運転中に至近距離で酸を受けたら、緑谷くんも対応できまい」

「確かにねぇ。フツーに戦って痛めつけただけじゃ、運んでる途中で復活されそうだし」

「奴の能力自体を封じるわけね……」

 

 その方法も早急に検討しなければ。流石に今回は用意しなければならないことが多すぎると、鷹野は表向き冷静さを保ちながらも内心ため息をつきたい気分になった。が、

 

「それならアテがある」

「!」

 

 早速思わぬことばを吐いたのは、戦闘要員としてはエース格のヒーロー――爆心地こと爆豪勝己だった。性格からして戦闘向き……というよりそれ専門と見せておいて、彼は戦闘以外のところで活躍することが実に多いのである。森塚が冗談半分で刑事への転職を勧めたこともあるくらいだ――当然返事はつれないものだったが――。

 

 閑話休題。

 

「酸だっつーなら、中和すりゃいいだけの話だろ」

「!、もしかして"アレ"か?」

「ああ……"アレ"か」

 

 雄英OB組は、勝己の言う"アテ"が"アレ"だと即座に理解したようだった。こういうとき、ほんの少しだけ疎外感を覚えてしまう出久である。まあ森塚や鷹野の所感に毛が生えた程度の、後には引きずらない感情ではあるが。

 

「何じゃいアレアレって、どこぞの宇宙忍群じゃないんだから」

「失礼しました!実は――」

 

 飯田が説明する横で、勝己はどこかへ電話をかけはじめた。

 

「……よぉ」

 

 

「――電話をくださるのは初めてですわね、爆豪さん」

 

 勝己からの電話を受けたのは、ヒーロー・クリエティ――こと、八百万百。既に出久とも友人関係にある、雄英出身の女性プロヒーローである。

 

『フン、別にしたくてしてるわけじゃねえわ』

 

 才色兼備と名高く、男女問わず人気の高い彼女に対してあまりの言いぐさ。しかし彼らの間にはヒーローの有精卵として過ごした三年間の積み重ねがある。辛辣なことばの裏に隠された勝己の意図を、彼女は容易く読み取ることができるのだった。

 

「未確認生命体が出現していることはこちらも把握していますわ。――私が何か、お力になれることがありますの?」

『……あァ、そうだ。いま出てる野郎は、芦戸の奴よりも強ぇ酸を使って人間を溶かしてる。おまえ確か高校ンとき、あいつの酸を中和する薬作ってたよな?』

 

 その便利な個性と人の役に立ちたいという欲求ゆえ、クラスメイトの頼みごとを引き受けることが多かった八百万。芦戸三奈の酸が必要以上に効果を発揮してしまった場合や訓練後の後始末のために、彼女は頻繁に強アルカリ性の中和剤を"創造"することが頻繁にあったのだ。タカビーだと思ったら案外お人好しな奴、くらいにしか当時は思っていなかったが。

 

「つまり、その中和剤をお作りすれば?」

『ただ同じもん作っても駄目だ。科警研でも対策練るから、そっちに参加しろ』

「ちょうどオフなので、喜んでご協力いたしますわ。ただ、事務所の許可を得ないことには……」

『わーっとる。そっちには捜査本部から連絡入れて、おまえが科警研着くまでには話まとまるようにさせる』

「そういうことでしたら、早速科警研のほうへ向かいますわ。――それでは、またあとで」

 

 通話を終えた八百万は、思わずグッと拳を握っていた。こちらの都合を顧みない、勝己の傍若無人に怒りを覚えた……わけではなさそうで。

 

(私もようやく、未確認生命体との戦いにお力添えできますわ……!)

 

 同級生である勝己や飯田が日々その脅威と戦っている中で、自分もずっと何かしたいとは思っていた。しかし協力を要請されたわけでもない自分が、管轄の業務を放り出してまで突っ走るわけにはいかない――峰田が以前話していたことは、まったくそのとおりだと思った。

 

 だが、思いもかけないところでその願いを叶えることができた。自分を見出だしてくれた勝己と、中和剤を作らせてくれた芦戸には感謝しなければなるまい。

 

――そして、轟焦凍。

 

(轟さん……あなたの期待にも、応えてみせますわ……!)

 

 かつて自信を失いかけていた自分を、飄々としながらも励ましてくれた焦凍。ずっと極秘任務に就いているという彼は、帰ってきたいまも表舞台には復帰していない。――ただ彼なりに平和のために戦っていることは、信じて疑わない。

 

 まさか電話相手のすぐ目の前で会話を聞いているとは、流石に想像できなかった。

 

 

「これでこっちはなんとかなんだろ」

 

 こともなげに言い放つ勝己。また管理官の仕事が増えた……と森塚は思ったが、口には出さなかった。自分たちよりは安全な庁舎であれこれ命令を下してくる中間管理職、必要なことはなんだってやってもらわねば困る。

 

「じゃあ、その件も私から管理官に――」

 

 鷹野が言いかけたそのとき、辺りのパトカーや出久たちのバイクに装備された警察無線が一斉に鳴り響いた。場に緊張が走る。

 

 発信者は――ちょうど名の挙がっていた、塚内管理官。

 

『本部から全車、豊島区池袋の路上で41号の犯行によると思われる被害者が出た。またタクシードライバーだ』

「!、……ッ」

 

 歯噛みするほかなかった。せめて運転自粛が完了し、これが最後になることを祈る――

 

「管理官、鷹野です。池袋署の対応は?」

『既に署員が現着して鑑識作業を行っている。周辺に41号らしき姿は認められないとも報告を受けている。きみたちにはプランどおり、捜索のほうに移ってもらいたい』

「了解しました。それと――」

 

 クリエティへの協力依頼の件について鷹野が話そうとしたとき、にわかに相手方が騒がしくなった。何か突発的な事態が発生したらしい。

 

 しかしそれは、一同にとって寝耳に水ともいえるものだった。

 

『……いま通報が入った。警察病院が襲われたそうだ』

「警察病院……!?41号ですか?」

 

 もしそうだとしたら、タクシーを標的としているという前提から崩れかねない。捜査も振り出しかと血の気が引く思いを聞く者は皆抱いた。

 

――が、そうではなかった。幸いに、とはまったく言えないが。

 

「いや、防犯カメラの映像を照合したところ――犯人は、第3号……そして、」

 

「――B、1号だ」

「……!」

 

 そのふたつの名称は、皆、とりわけ爆豪勝己にことばを失わせるものだった。怪人の姿すら見せることもなく、芳しい薔薇の花弁とともに現れては姿を消す、謎の女。二度の遭遇を経て、勝己は彼女にただならぬものを感じていた。奴をどうにかしなければ、すべては終わらない――

 

「けど……どうしていきなり3号たちが?ゲームと別のところで奴らが動くなんて、まるで――」

 

 あかつき村のときみたいじゃないか。そう口にしかけた出久は、その一件を契機として出会った焦凍を見遣った。――そして、その表情が青ざめていることに気づく。

 

(轟くん……?)

 

 彼は何かを、傍から見れば尋常でないほどに気にかけているようだった。しかしながら、その整った唇は一文字に引き結ばれたまま、問いをぶつけようとすることはない。予想したままの答が返ってくるのを恐れるかのように。

 

 しかし彼が口を開かずとも、塚内は言うのだ。焦凍の気持ちに気づかないわけではない、ワン・フォー・オールの――"平和の象徴"たろうとする者が抱えねばならぬものを共有する、数少ない人間同士。そこに絆は確かに存在する。

 けれども……だからこそ、彼は告げるのだ。現実を。

 

『職員や患者に大勢死傷者が出ている。……そして、拉致されたとおぼしき者が1名』

「拉致?」

 

 

『――死柄木弔、と言えばわかるだろう』

 

 

 いよいよ焦凍が息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 "戦うリント"たちが目まぐるしい変転に翻弄される中、そんな状況をつくり出している数名を除くグロンギたちは実にのどかな時を過ごしていた。己の出番が来るのを、静かに待つ。聞こえはいいが、出久たちが知れば許しがたいであろう光景。大勢の人を殺せる日を、待ちわびている姿など。

 

 バダーはいい加減飽きたのかツーリングに出かけ、ジャラジも気づけばどこかへ行ってしまった。それでもガドルはひとり、静寂の中で座禅を続けている。

 

 

「あなたしかいないのね」

 

 澄んだ女性の声が、背後から響いた。ガドルは振り返ることもなく、

 

「皆、出払っている。……落ち着かない連中だ、貴様らも含めてな」

「くくっ、そう言うな」今度は男の声。

 

「………」

 

 ようやくガドルは立ち上がり、突如として現れたひと組の男女に目を向けた。

 

 一方は深海のような紺碧のパンツスーツを纏い、眼鏡をかけた知性的な女性。その容貌に違わず、野蛮さなど微塵も読み取れない穏やかな笑みを浮かべている。

 その隣に立つのは長身の、体格の良い男だった。ヘアバンドを巻き、レザージャケットに銀のアクセサリーをじゃらじゃらと身につけた、女とは対照的な服装。表情には獰猛さも滲み出てはいるが、所作はゆったりとしていて落ち着きを感じさせる。

 

「ジョグジャ、ブビダバ。――ジャーザ、バベル」

 

 親しげな声をかけるガドル、それは極めて珍しい光景だった。少なくともバダーやジャラジ相手にそんなことはしない。――認めている、同格と。

 

「ググルダ、レビベ――ザギバス・ゲゲル」

「ザグガド、ジュンヂグドドボデ、デギバギ」

「バルバダヂググゴ、ギデスゴグザグ?」

 

 バルバが一体何をするつもりなのか、おまえは知らないのか――バベルは言外にそう訊いている。

 

「我らには関係あるまい」

 

 だから、躊躇うこともなくそう答えた。実際何も聞かされてはいないし、興味もない。ゲリザギバス・ゲゲルの進捗に伴い段階的に進められる"整理"を、"あの男"が頑なに拒んでいることが関係しているのであろうことは容易に想像がつく。

 

 そういえば以前、彼女らはアギトを手に入れようと動いていたことがあった。バルバはズやメの連中のゲゲルを監督していたから、ドルドがその裏で暗躍し、見つけ出したのだったと思う。一体何が、彼女らにそこまでさせるのか。自らが頂点に立つ、そのために鍛練を積むことこそ生き甲斐のガドルからすれば、およそ理解しがたい連中だ。

 

 そもそも理解できると考えるほうが間違っているのかもしれない。――かつて"ゲリザギバス・ゲゲル"を成功させておきながら"ザギバス・ゲゲル"へ進む権利を放棄し、審判……あるいは観測者の立場に甘んじている者たちのことなど。

 

「とても大きなことをしようとしているのかもね、あの人たちは」

「……思考を読むな、ジャーザ」

 

 ふふ、と反省の欠片もみられない笑みを浮かべる女――ジャーザ。その点、彼女らはわかりやすい。己とまったく同じところを目指している、同志と言っても差し支えないかもしれない。だからといって情など湧くはずもない、それがグロンギとしてあるべき姿なのだ。

 

(過ちを犯している……奴らも、奴も、奴も)

 

 "グロンギであること"を逸脱しようとしている者が次々に現れる。しょせん獲物であるリントの変化に絆されているようで、とても許容できるものではなかった。

 

 


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