【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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あと一話でシガラキ登場篇を終わらせる予定ですが終わるだろうか…。原作ザザル篇はあと二話必要だったことを考えると微妙です。

ちなみに原作は全49話でしたが、拙作のほうは51話でまとまりそうです。
いよいよ終盤に差し掛かろうとしております…寂しい(気が早い)


EPISODE 35. 死柄木 弔 4/4

 手を、伸ばす。

 

『たすけて』

 

 そこにある背中に、手を伸ばす。

 

『ぼくを、たすけて』

 

 背中は……遠ざかっていく。

 

『なんで……?』

 

 なんでこの手は、届かない?

 

『なんで……!』

 

 なんで彼らは、振り向くこともしない?

 

――ヒーローは、救けてくれない。

 

 

『大ッ嫌いだ……!』

 

 

 ズ・ゴオマ・グによる暴行は、いつ終わるとも知れずに続いていた。いくら下位のズといえど、本気で攻撃すれば痩せぎすの青年など一瞬で原型をとどめぬ姿になってしまうから、かなり手心を加えている。それがまるで、死にかけのネズミを猫がいたぶる光景を想起させ、かえって残虐性を高めてしまっているのだが。

 

 しばしヘッドホンから流れるデスメタルに心身を任せていたゴ・ジャラジ・ダは、腹を蹴られた弔が血反吐を吐いたことに気づいて立ち上がった。ゆらりと一歩を踏み出したかと思えば――次の瞬間には、ゴオマと弔の間に割り込んでいて。

 

「!?」

「終わり。……そろそろ、死んじゃう」

 

 ちら、と這いつくばるその身体を見下ろすジャラジ。弔は咳をする度に血を吐き出している。その瞳からは光が消えかかっている――あと一撃入ろうものなら、致命傷になりかねない。

 

 万が一そんなことになれば、バルバからどんな折檻を受けるかわからない。いや、このリントを使った企謀を心待ちにしているらしい目の前の"ゴ"の小僧によって殺されるのが先か。己の命だけは守りたい、ゴオマのその気持ちは人一倍強かった。

 

「あとは、バルバが戻ってくれば……」

 

 すべてが終わり、すべてがはじまる――しかしそれより一歩先んじてこの地に踏み込んできたのは、招かれざる客であることを示す、バイクのエンジン音だった。

 

「……来ちゃった、か」

 

 

 狭い路地を抜けて進入してきたトライチェイサー――その騎手である緑谷出久は、工場内に異形の姿を認めてマシンを急停車させた。

 

「!、3号……――死柄木弔……!」

 

 血みどろになって倒れ伏した弔の姿を目の当たりにして、出久の頬が紅潮する。彼がまだ生きているとわかっても、その激情を収めるつもりはなかった。

 

「――変身ッ!!」

 

 構えをとり……叫ぶ。腹部より浮かび出たアークルが眩い赤の煌めきを放ち、出久の身体を戦士クウガへと作りかえてゆくのだ。

 

「クウガァ……!」

 

 初戦以来の因縁を忘れていないゴオマは、現れた宿敵に呼応してその牙を剥き出しにした。目の前の戦士が、仲間と協力してとはいえ"ゴ"のプレイヤーを次々に倒してきていることなど忘却の彼方だ。――勝つのはオレ、オレならこいつを殺せる。そう信じて疑わない。

 

「ボソグ――ッ!!」

 

 ファイティングポーズをとるクウガめがけ、翼を広げて飛びかからんとする……刹那、

 

 片翼をジャラジに掴まれ、地面に叩きつけられる。当然ながらまったく予期していなかったゴオマは、顔面をしたたかに打ってしまった。

 

「ギャアッ!?バ、バビゾ、グス!?」

「……ダバザ、ジョグ」盛大に溜息をつき、「いま、昼間だよ……」

 

 ズ・ゴオマ・グはコウモリの特性をもつグロンギである。ゆえに太陽光には極めて弱く、まともに浴びると皮膚が焼けただれてしまう。その苦痛たるや自分自身が一番よく知っているはずなのに――ジャラジが呆れるのも、無理はなかった。

 

「そいつ連れて……早く、行け」

「……チィッ!」

 

 自分が戦える環境にないことを思い出させられた以上、ゴオマは引き下がるほかなかった。弔の首根っこを掴み、奥の暗がりの中へと引きずっていく。

 

「ッ、待て!」

 

 弔が……救うべき対象が目の前にいるのだ、逃がしてたまるか。粉塵舞う廃工場に飛び込んだクウガの前に、ジャラジが立ちはだかった。

 

「悪いけど……行かせない」

「……おまえもグロンギか!?」

「だったらどうする?……戦う?」

 

 挑発的な態度。比較的幼い容姿も相まって35号――ガルメを思い起こさせたが、出久はまだ冷静だった。

 

(こいつに構ってる暇はない……けど、すんなり通してくれるわけもない。相手が3号なら、かっちゃんひとりでも………)

 

 頭脳を目まぐるしく回転させたうえで……クウガは、咆哮した。

 

「……やってやる!」

 

 勢い込んで走り出す。拳を振りかぶる。相手が人間の姿をしていようが関係ない、そもそも怪人の姿だって、異形型の人間とそう変わらない。躊躇いは――ない。

 

「うぉおおおおおッ!!」

 

 吶喊するクウガに対し、ジャラジは身構えることすらしない。ぼうっとした表情のまま、ただその場に立ち尽くしている。

 一撃で吹っ飛ばす――それこそオールマイトの"デトロイト・スマッシュ"をイメージして突き出した拳は、

 

 

 虚しく、空を切った。

 

「な……!?」

「………」

 

 ジャラジはほとんど動いていない。ただ背中を、ほんのわずかに逸らせただけだ。それも、どこか酔っているような動作で。

 

 逸るクウガはなおもその顔面を殴りつけようとするが、このグロンギは掴みどころのない動きで、ことごとく攻撃をかわし続けていく。ふぁ、と欠伸すらこぼれるのを目の当たりにして、苛立ちが頂点に達した。

 

「こ、のぉッ!!」

 

 だがその一撃は、またしても結局空振りと終わった。それだけではない、少年の姿そのものが、目の前から忽然と消えてしまったのだ。

 

「な、どこに……!」

「遅い」

「!?、うわっ!」

 

 背中を軽く押されて、クウガは思わずつんのめりそうになった。――ジャラジが、背後に回り込んでいた。

 

「おまえ……!」

「フゥ……ゴソゴソ、ジャソグ、ババ……」

 

 振り向いた先で、ぼそっとつぶやいたジャラジの姿が変わっていく。細身のシルエットはそのままに、頭髪が白く染まり、鋭く逆立つ。漆黒に染まった身体に、宝石のような蒼い瞳だけが爛々と輝いている。

 

――ヤマアラシ種怪人 ゴ・ジャラジ・ダ。上位集団の一角としての正体を表した彼は、いよいよ攻勢に打って出た。酔ったような動きが激しく正確なものとなり、まるで踊るようにしながら敵に掌打を叩き込む。

 

「ぐっ!?」

 

 重い一撃ではない。怪人体でも小柄で細身なままのジャラジは、パワーにおいてはゴの中で最低クラスだ。ゆえにクウガ相手に大きな苦痛を与えることはできない――が、

 

(ッ、なんだこれ……!?めちゃくちゃ、響く……ッ)

 

 身体の中で、衝撃が渦を巻いている。こんなダメージの受け方は初めてだった。身体がぐらつきそうになるのを、なんとかこらえる。

 

「倒れないんだ……?」

「この、程度で……!」

 

 踏ん張る宿敵を目の前にして、ジャラジはどこまでも淡々としていた。「じゃあ、もう一回」――相変わらずのぼそぼそとした口調でそう宣言し……再び、距離を詰めてくる。

 

「ッ、超変身!!」

 

 出久が選んだのはドラゴンフォームだった。タイタンフォームで踏みとどまることも考えたが、あの衝撃の正体が掴めない以上、攻撃を受けること自体避けたほうがいいと結論づけた。

 

 結果、その身を青に変えたクウガは、ぎりぎりのところでジャラジの第二波をかわすことができた。地面を転がりつつ、落ちていた木の棒を拾いあげる。

 たちまちモーフィングパワーが作動し、ただの木の棒は専用武器であるドラゴンロッドへと変化を遂げる。

 

(あいつに懐まで踏み込ませない……それなら……!)

 

 ロッドを軽やかに振り回し、威嚇する。案の定というべきか、ジャラジはなんの反応も示さない。ただ、小さく息をついた。

 

「青か……。それなら………」

 

 ジャラジが胸元の飾りに手を遣ろうとしたそのとき、今度はパトカーのサイレン音が迫ってきた。

 現れたのは、黒塗りの覆面パトカー。運転席から、やはり漆黒のコスチュームを纏った爆破のヒーローが飛び出してくる。

 

「!、また別の奴か……!」

「……爆心地」

 

 勝己の姿に気をとられたジャラジに、クウガは咄嗟に組み付いた。その動きを封じ、叫ぶ。

 

「かっちゃんッ、3号と死柄木弔はこの奥だ!!」

「!」

「行って!!こいつは僕が……!」

 

 一瞬、判断に迷ったのは事実だった。それを看過されたようで少しむかついたが、俺のやりたいことを理解しているいまのこいつになら、一度くらい、背中を押されてやろうと思った。

 

「言われんでも行ったらぁクソナードォ!!」

 

 羽織っていたジャケットをその場に脱ぎ捨てた勝己は、思いきり跳躍すると同時に手を後ろに回し、爆破を起こした。前方へ向かう大きな力が身体にかかり、飛躍する。砂塵を巻き起こすクウガとジャラジの頭上をあっさりと飛び越え、数秒のうちに日の当たらない工場内へと姿を消した。

 

(これで………)

 

 かっちゃんの……いや、僕らの望み、その第一歩がなせる。死柄木弔を、"悪"から救いだす――

 

「ヒッ、ヒヒヒヒ……ッ」

「……!?」

 

 不意に、下卑た笑い声が響いた。気づけばジャラジが、クウガの下で喉を震わせている。

 

「何がおかしい……?」

「ヒヒヒッ……」

 

「――後悔するよ、キミ」

「な……ッ?」

 

 ことばの意味が、まったく理解できなかった。何を後悔すると言うんだ?状況からして、勝己をひとりで奥へ行かせたことか。そのせいで勝己の身によからざることが起こる、こいつはそう言っているのか?

 

「ワケのわからないことを言うなッ!!かっちゃんが、3号なんかに負けるわけないだろう!!」

「そうだね」

 

 返ってきたことばは、意外にも手放しの肯定だった。

 

「爆心地……彼は強いね、とても。もうゴオマなんかじゃ、敵わないね」

 

「ゴオマじゃぁ、ね」

「!、まさか……」

 

 "ゴオマ"が第3号を指しているのだろうことは、確認するまでもなくわかった。問題はそこではない。

 ゴオマでは――つまり、勝己の歯が立たないような圧倒的な力をもつグロンギが、奥にいる?

 

 出久は愕然とした。なんでそんな、いくらでも考えつきそうな可能性に思い至らなかったのか。

 

「ッ、くそ――」

「行かせない」

「ッ!」

 

 ジャラジがまた掌打をぶつけてくる。咄嗟にロッドで受け流すことで、どうにか直撃は免れた。

 

「はぁ……はぁ……ッ」

「………」

 

 肩で息をしつつ、ドラゴンロッドを構え直すクウガ。身体的疲労のためだけではない、焦燥が彼の呼吸を早めていた。

 

(早くなんとかしないと……!でも、こいつ……)

 

 厄介なのは――どうもこの敵、本気で戦うつもりがないらしいことであった。自分をここに縛りつけておければそれでいいのだろう。そもそも声にも所作にも覇気が感じられないのが、グロンギとしては異様に思えた。

 

(僕ひとりじゃ駄目なのか……。轟くん、心操くん……!)

 

 どちらでもいい……いや、どちらも早く来てくれ。そう願ってやまないのと同時に、彼らが来なければ勝己のもとへ行くこともできないことがつらかった。僕はきみを守りたいと、大啖呵を切ったのはどこのどいつだ。

 

 

 

 

 

 その頃勝己は、工場内の最奥にまでたどり着いていた。爆速ターボで進んできたのと打って変わって、着地したあとは姿勢を低くし、周囲を警戒する野生動物のように慎重に歩く。第3号――ゴオマ相手に自分の個性は極めて効果的だが、だからといって油断していい相手でないことはわかっている。相手は、グロンギなのだ。

 

 だが、それにしても――

 

(……デクの野郎、パチこきやがったんじゃねえだろうな)

 

 そんなわけはないと理解しつつも、内心そう毒づかざるをえなかった。それほどまでに、気配がない。あの猪なコウモリ野郎――矛盾しているようだが――なら、不意打ちを狙って息を潜めていたとしても、殺気が漏れてきそうなものだが。

 

 死柄木弔はその3号に暴行を受けていたという。下手をしたら一刻を争う状態かもしれないと思うと、焦燥に駆られるのは無理もないことだった。

 

(……クソッ)

 

 あんな、奴に。

 散々苦しめられてきた。屈辱も絶望も、悔恨も……深い傷痕を、勝己の心身にいくつも植えつけてきた男だ。そんな奴を、俺は――

 

――かっちゃんは、救けたいんだろ?

 

 あの男以上に自分を散々引っ掻き回してくれた、童顔の幼なじみのことばがよぎる。

 

 ああ、そうだよクソ。だってオールマイトに、それを託されちまったんだ。俺が終わらせちまった……誰よりまぶしく輝いていたはずの、あの人に。

 

 本当なら勝己よりも先んじているべき焦凍は、まだ迷っているだろう。仕方がない。彼の時間はつい先ごろまで止まってしまっていた。――あの半分野郎に勝っていると思えば、少しだけ気も晴れる。

 

(なんだっていい。あいつは、渡さねえ)

 

 思考を打ちきり、完全に戦士としての表情(かお)になった勝己。その瞬間、ふわりと風が頬を撫ぜる。

 

 

 そして、むせかえるような濃い薔薇の香りが、鼻孔をくすぐった。

 

「……!?」

 

 どくりと、心臓が鳴る。冷たい汗が肌を伝うのを感じながら、勝己はゆっくりと振り向いた。

 

 

 視界に侵入り込む、純白のドレス。すえた匂いの漂う廃工場には極めて不釣り合いなそれをたなびかせながら、"彼女"は姿を現した。

 

 額に刻まれたバラのタトゥ。その気高い美貌。直接あいまみえるのは、これで三度目だ。

 

 視線が、交錯する。並の男ならその薔薇の色香に惑わされていたかもしれないが、勝己にはそんなもの、なんの意味ももたない。ただ目の前に、敵が現れたというだけだ。3号や他のグロンギと同じ。

 

 ただひとつ異なる点があるとするならば――この女が、他のグロンギとは一線を画す存在であるということ。

 

 だから勝己は、問答無用で襲いかかることはしなかった。いつでも攻撃に移れるよう腰を落とし両手を構えつつ、まず動かしたのは口だった。

 

「死柄木弔を拐わせたのは、テメェの差し金か?」

 

 女は、答えない。ただ、じっとこちらを見つめている。

 それでも勝己は、粘り強く問うた。そもそもいまのは、訊くまでもないことだったから。

 

「テメェ、一体何を企んでやがる?」

「………」

「テメェらグロンギのやってる人殺しと、なんの関係がある?……答えろや」

 

 グロンギの人々に殺人ゲームを続けさせる一方で、獲物であるはずのリントを使って、何かをさせようとしている――思えば、あかつき村襲撃もそうだった。こいつらはアギトへの覚醒途上にあった、焦凍のことも手に入れようとしていた……。

 

 だがバルバは、それらの問いにまったく答えようとはしなかった。冷笑を浮かべたかと思えば、そのままドレスの裾を翻して立ち去ろうとする。

 

 その反応も、勝己の予想の範疇ではあった。そしてこの場合に自分がどのような行動をとるかまで、彼は完璧にイメージできていたのだ。

 

「答えねえなら死ねやッ!!」

 

――BOOOOOM!!

 

 バルバが踵を返したところに勢いよく飛びかかり、至近距離から爆破を浴びせかける。威力はマキシマム、常人であれば消し炭にできる。

 

 実際、バルバの身体は爆風のままに吹っ飛ばされた。白煙を撒き散らしながら地面を転がる肢体。爆炎をもろに喰らった頭部は、原型をとどめぬほど黒焦げになっていた。

 

「………」

 

 颯爽と着地しつつも、勝己は構えを解かない。本気で殺すつもりの一撃には違いないが、自分も含め純粋な"個性"による攻撃がグロンギに致命傷を与えた例はない。まして、この女相手では――

 

 勝己のそんな、表層しか知らない者からすれば意外でしかない慎重な想定は、見事に的中してしまうのだ。倒れ伏していた身体がぴくりと動いたかと思えば、ゆっくりと起き上がっていく。同時に黒焦げになった皮膚の燃え滓がぼろぼろと剥がれ落ち、

 

 もとの、美しく整った顔立ちが現れた。ただ豊かな黒髪だけは、髪飾りが焼けてしまったのか自然のままに垂らされているが。

 

「チィ……ッ!」

 

 ギリ、と歯を食いしばりながら、第二撃に打って出ようとする勝己。野生の肉食獣のように烈しいその姿に、バルバは静かにことばをぶつけた。

 

「やはり、リントは変わったな。おまえのような存在は、かつてのリントにはいなかった」

「………」

 

 勝己は相手にしなかった。平和を愛し戦うことを知らなかったリント、そんな民族に自分のような人間がいないのは当然だ。自分に限らず、ヒーローもヴィランも。

 

 だが、

 

「――今度のクウガも、おまえと同じだ」

「!?、なに……?」

 

「クウガはやがて、"ダグバ"と等しくなるだろう」

「ダグ、バ……?」

 

 戸惑う勝己。そんな彼を微笑みとともに見つめていたバルバは……一転して、冷たい表情を浮かべて動き出した。彼女が"それ"を選択した時点で、勝己の運命は決まっていた。

 

 

 

 

 

 クウガは未だ、ジャラジに苦戦を強いられていた。

 

「ふっ!」

「……ッ!」

 

 ジャラジが投げつけてくるダーツのような武器に、紫の鎧で耐えるクウガ。胸にぶら下げた装飾品を変化させたそれは、青でもかわしきれないスピードで襲いかかってくる。かわせないのなら青でいるのは悪手と紫に超変身したのは合理的な判断だったが、これでもう攻勢に打って出るのは不可能になってしまった。

 

 そうこうしている間にも、工場の奥からは爆発音が響いてくる。勝己が戦闘に入ったのだろう。

 

(早く、なんとかしないと……!)

 

 もう援軍を待ってなどいられない、自分ひとりでなんとかするしかない。そう思った矢先、

 

 氷柱が地面を奔り、飛翔するダーツをも呑み込んだ。

 

「!?」

「待たせたな、俺が来た」

「轟くん……!」

 

 轟焦凍――アギトの操るマシントルネイダー。飛び込んできたかと思えば、その速度を緩めることなくジャラジに突撃を敢行する。

 すんでのところでそれをかわしたジャラジだったが、態勢を立て直そうとしたところに、今度は銃弾の嵐が降り注いだ。

 

「グアァッ!?」

 

 ついに直撃を受け、倒れ込むジャラジ。巻き起こる砂塵の中に、青と銀のシルエットが浮かぶ。

 

「遅くなってすまん、緑谷」

「心操くん……!」

 

 アギトに、G3――"仮面ライダー"の称号を与えられた三人が、ついに揃った。

 

「また新しい未確認か……」

「死柄木は?」

「3号が奥に連れて行った、かっちゃんが追ってる!多分いま、ひとりで戦ってる……だから……!」

「……わかった、皆まで言うな」

 

 三人いれば、どのようにでも動ける。――形勢が逆転したことを、ジャラジもまた素早く理解した。

 

「……もう、十分かな」

 

 さて、あとはいかに無傷で撤退するか。彼が思考を巡らせていると、工場の奥からこれまでで最大級の爆発音が響いた。

 

「!」

 

 三人の意識が一瞬そちらに逸れる。その隙を逃さず、ジャラジは跳躍し……付近のくさむらに紛れてしまった。

 

「!、……どうする?」

「いまはかっちゃんを!奥にいるの、3号だけじゃないかもしれない……!」

「そうだな……かなり、嫌な感じがする」

 

 ひとまずジャラジのことは意識の外に追いやり、勝己のもとへ走り出す三人。

 

――だがそのときにはもう、手遅れだった。

 

 

 工場の最奥へたどり着いた彼らが目の当たりにしたのは、

 

「な……!?」

「嘘、だろ……」

「――、」

 

「かっ……ちゃん……」

 

 頭から血を流して薄汚れた地面に横たわる、爆豪勝己の姿だった。

 

 

つづく

 

 







「さあ、」


EPISODE 36. 悪夢


「――ゲームスタートだ……!」

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