【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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最近お仕事でお疲れぎみです。
癒しがほちぃ……。


EPISODE 36. 悪夢 1/4

 午後のテレビメディアを競うように占める情報番組の数々。主婦層をターゲットとしていることからどちらかというとカジュアルな……有り体に言ってしまえば下世話な話題を多く取り扱っているこれらも、いまはさながら緊急報道番組の様相を呈していた。

 

『――タクシー運転手18名を殺害した未確認生命体第41号は、都内のタクシーが営業を停止したあとは、その行方をくらましています。警視庁では、タクシーに対する犯行を断念したものとみており、恐怖に包まれていた都内は一応の落ち着きを取り戻しています』

「………」

『一方、本日正午頃発生した警察病院内での大量失血死事件について、警視庁は第3号およびB1号が関与していると断定し、拉致されたとみられる入院患者1名の捜索および救出を――』

 

「……なんか、ヤな感じや」

 

 喫茶ポレポレのカウンター内で、それらのニュースに見入っていた麗日お茶子がぽつりとつぶやいた。隣でコーヒーを沸かしている中年のマスターもまた、それに同調する。

 

「確かにねえ……。大勢の人殺してるってのもだけど、その中からひとりだけ拉致してるってのも……何か企んでるみたいで、不気味だよね」

 

 「警察病院の患者ってことは、犯罪者かもしれないし」とおやっさん。ヴィランやテロリストなどのグループが、特別な技能をもつ犯罪者を脱獄させて仲間にする――映画などでは使い古されたシチュエーションだが、それゆえに想起するのも無理はない。

 

 そしてお茶子は、よりリアルな感触を伴ってそれを聞いていた。あの病院の精神病棟、その厳重に封鎖された最深部には、かつて敵連合を率いた死柄木弔がいる。世間一般には秘密とされているが、かつて幾度となく激戦を繰り広げてきた元雄英生たちにだけは、その事実が知らされている。ゆえにこのことを心配しているのは、自分だけではないと思う。

 

(爆豪くんか飯田くんに聞けば、わかるだろうけど……)

 

 まさしくこの同時出現に対処しているであろう彼らに連絡するのは、いくら気安い友人関係といっても憚られる。事件が落ち着くまで、自分は悶々としているほかないのだろう、是非もない。

 

「しかし、出久もなぁ……」

「!」

 

 おやっさんの口から不意に飛び出した想い人の名に、お茶子は思わず肩を跳ねさせた。

 

「色々忙しいのはしょうがないとしても、何もこんな危ないときにほっつき歩かなくてもいいのになぁ~と、こうおじさんは思うわけですよ。お茶子ちゃん、どう?」

「あ……はい、そうやね………」

 

 半分、上の空で応じた。"こんな危ないときに"――思えばいつも、出久が急用と言っていなくなるときはそうだった。

 一度疑ってしまえば、こんなにも証拠は揃っていく。なんでいままで気づかなかったのか……なんで未だにこのマスターは気づかないのか、摩訶不思議なほどに。

 

(デクくん……)

 

 だが自分には、いまは何もできない。ただひとりのルーキーヒーローとして、戦うべきときに戦い、見守るべきときに見守ることしかできないのだ。

 

「……お茶子ちゃん?」

 

 お茶子の沈んだ様子には気づいたおやっさんだったが……あいにくそのタイミングで電話が鳴った。そうなるともう、ふたりともマスターとウェイトレスに徹さざるをえない。

 

「はいはーい、こちらオリエンタルな味と香りの……オー、ボンジュール!ジョーン・ミッチェル!」

 

 急に似非フランス語でしゃべりはじめたおやっさんを目の当たりにして、お茶子は彼が昔各国を旅する冒険家だったと自称していることを思い出した。どうやら実体も伴っているらしい。どちらかというとボディーランゲージでがんばっていたようでもあるが。

 

 

 

 

 

「かっちゃんッ!!」

 

 冷たい廃工場の空気を切り裂くような、緑谷出久の叫び声が響き渡った。

 

 彼の瞳に映るのは、血を流して地面に倒れ伏す幼なじみの姿。うめき声もあげず、指の一本すら動かさず、ただ静かに横たわっていて。

 

 焦燥のままに、出久は走り出した。行動をともにしていた轟焦凍、そしてG3を装着した心操人使があとを追っていく。

 

「かっちゃん、かっちゃん!しっかりして、かっちゃんッ!!」

 

 必死に呼びかける出久。しかし勝己の反応はなく、ますます冷静さを欠いていく。まだ怪我人を揺さぶらないくらいの分別はあるようだったが、それが失われるのも時間の問題だった。

 

「心操、」

「わかってる。――心操からGトレーラーへ、至急救急車の手配を……はい、お願いします」

 

 心操がGトレーラーを介して搬送の用意を進める一方で、焦凍が出久のすぐ隣にしゃがみこんだ。その肩に手を置く。

 

「落ち着け緑谷。大丈夫だ、爆豪は生きてる。こんなことで死ぬ奴じゃない」

「だ、けど………」

 

 「僕が、ひとりで行かせたんだ」――か細い声で、出久はそうつぶやいた。「後悔するよ」、ジャラジの言うとおりになってしまった……。

 

 と、そのときだった。

 

「……うぬぼれ、てんじゃ……ねーぞ……この、クソデク……ッ」

「!、かっちゃん……!」

 

 完全に意識を失っていたと思われた勝己が、ことばを発した。わずかに開いた瞳からは、ほとんど光が消えたままだったが。

 

「爆豪……無理にしゃべらなくていい」

「るせー……それは……死ぬ奴に言う、台詞だ、ボケカス……」

 

 その返答を聞いて、内心やはり不安を抱いていた焦凍はほっと胸を撫でおろした。ただうわごとをしゃべっているわけではない、きちんとこちらの言ったことを理解したうえでことばを返しているようだから、脳は働いているらしい。

 

 そうなると、今度は周囲のことが気にかかった。

 

「心操」また小声で呼びかける。「周囲の熱源は?」

「……無いな。ここにある生体反応は、俺たちのものだけだ」

 

 つまりはまた、逃げられてしまったということ。――その事実を駄目押しするかのように、辺りには無数の、薔薇の花弁が散らばっていた。

 

 

 

 

 

――同時刻 警視庁

 

 

「――諸君」

 

 合同捜査本部の置かれた会議室に、面構本部長と塚内管理官が入室してきた。集められた捜査員・プロヒーローらの表情が、一様に引き締まる。

 

「第41号の、追い込みポイントが決定した」

 

 吠えるように宣言する犬頭の本部長。それに続いて、管理官が具体的な説明をはじめた。

 

「41号の体液は、白金をも溶かすほどの強酸だとわかった。爆発して飛び散った際の影響等を考慮し、念のためここ……」プロジェクターにマップを表示する。「地下鉄大江戸線のいまは使われていない地下資材基地、ここに奴を追い込んで始末する」

「管理官、中和弾はどうなっている?」

 

 厳しい表情で尋ねたのは、御意見番となっているエンデヴァーだ。常人であればすくみあがるような威圧感を前にして、塚内は淀みなく答える。

 

「先ほど科警研に確認したところ、"クリエティ"の協力で材料となる中和剤が揃ったところだそうです。完成までは最短であと一時間を見込んでいるとのこと」

「ふむ……彼女を呼んだ意義はあったようだな」

 

 実際にクリエティ――八百万百に声をかけたのは勝己だが、この男は彼女の所属する事務所に一も二もなく要請を快諾させた。半ば隠居の身と言っても流石は元No.1ヒーローである、その影響力は計り知れない。

 

「これで準備は整ったワン。あとは総員、全力を挙げて第41号を――」

 

 面構が締めようとしている途中、室内に着信音が流れた。その発信源が管理官の胸ポケットだとほどなくわかり、気まずい空気が流れる。

 

「……失礼、ショートからです」

「ム……」

 

 エンデヴァーの片眉がぴくりと動く中、本部長に促された塚内は、電話をとった。

 

「塚内だ、何かあったのか?――何!?」

「!」

 

「……そうか、わかった。では緑谷くんには鷹野のところに合流するよう伝えてくれ。ああ、頼んだ」

 

 通話はたったそれだけの短いものだったが、塚内の示した驚愕は捜査本部の空気を逸らせるに十分だった。

 

「管理官、焦凍からはなんと?」

「……爆豪く――爆心地が、重傷を負って搬送されたそうだ」

 

 にわかにざわめきが巻き起こる。本来それを静めるべき立場の管理職ふたりも、自身の動揺を押し隠すのが精一杯だった。

 

「状況からして、B1号にやられた可能性が高い」

「そのB1号は?」

「第3号および新たに出現した未確認生命体とともに姿を消したと……死柄木弔を連れて」

「………」

 

 重苦しい沈黙が下りる。爆心地という、あらゆる面でこの捜査本部を象徴するような青年が戦線離脱を強いられたこと。死柄木弔を奴らの手から取り戻せなかったこと。――いずれも、大きい。

 

「……なんにせよ、我々にできることは変わらないワン。状況は厳しいが、皆、がんばってくれ」

 

 

――その一方、状況報告を終えたところで、焦凍たちもまた動きだそうとしていた。遠ざかっていく救急車のサイレン音を聴きながら。

 

「緑谷、おまえは鷹野警部補のチームに合流しろと指示があった」

「……わかった。轟くんは……死柄木を捜すの?」

「ああ……悪ぃな」

 

 行動をともにしないことへの罪悪感は大いにあるのだろう、焦凍の声には張りがない。勝己がひとまず命に別状はない様子だったことで少しだけ冷静さを取り戻した出久は、「大丈夫だよ」と微笑んでみせた。

 

「きみが動いててくれるほうが気がかりがなくなる。僕も……かっちゃんも」

「そうか……。じゃあ、また」

 

 己のマシンを駆り、走り去っていく焦凍。しばしのお別れだ。

 

「緑谷、悪いが俺もいったんGトレーラーに戻る」

「あ、そっか……稼働時間があるもんね」

「それもあるし、そろそろトイレにも行きたい」

「あ……はは、なるほど……」

 

 冗談めかして心操は言ったが、装着型のG3には切実な問題なのだ。トイレに限らず、痒いところがあっても掻くことすらできない。そういう意味でも、装着員には強靭な精神力が求められる――

 

 ともかく"仮面ライダー"のうち、41号を追えるのは自分だけ。落ち込んでなんていられない、かっちゃんのぶんまで僕が頑張るんだ。

 己にそう言い聞かせ、出久もまたトライチェイサーを唸らせたのだった。

 

 

 

 

 

 洋館には、再びバラのタトゥの女――バルバの姿があった。長い黒髪を惜しげもなく垂らし、憂いを秘めたような表情で窓辺に佇むその姿は、絵画に描かれるべき光景と言っても過言ではなかった。

 

 しかしその姿は絵画などではなく現実のものであり、終焉のときはほどなくして訪れる。いまこのときは、"彼ら"の到来によって。

 

 彼女の背後から歩み寄ってきたのは、上位集団の"ゴ"の中でも一線を画す実力の持ち主たち……"ジャーザ""バベル"、そして"ガドル"の三人。

 まず口を開いたのは、眼鏡をかけた知的な美貌をもつ女、ジャーザだった。

 

「どういうつもりなの、バルバ?リントに"あれ"を与えてしまうなんて」

 

 物腰は柔らかいながら鋭く切り込むような問いかけ。しかしバルバは意味深な笑みとともに「"整理"のためだ」としか答えない。それで納得できるわけがなかった。

 

「整理なら"奴"の仕事だ。奴がやらぬというなら俺たちが代わってもいい、わざわざリントを使う必要などないはずだ!」

 

 バベルが吠えても、バルバは顔色ひとつ変えない。

 

「ゲリザギバス・ゲゲルのムセギジャジャであるおまえたちにそれをさせることは、掟のうえで認められない。だが、リントに我らの祝福を与えることは、禁忌ではない」

「……ゲゲルの審判を務める誉れ高き"ラ"が、なんという詭弁を。――ゴヂダ、ロボザバ……」

「なんとでも言え」

 

 おまえたちにはわからないのだ、と、バルバはせせら笑った。グロンギとは根本的に相容れない存在だったはずのリントの中に、グロンギをも凌ぐ闇を抱えた者がいる。グロンギではなく、リントが生み出すことになるかもしれない――"究極の闇"。

 

(その役目を果たすのは他の誰でもない……)

 

 

(おまえだ、――"ダグバ")

 

 

「うぅ……ぐ、あぁ、あぁぁぁぁぁ……ッ」

 

 窓のない暗く狭い部屋の中心で、上半身裸の青年が苦悶していた。痣だらけの身体をかきむしるようにしながら、床を這いずり回る。

 とりわけ異様だったのが、彼の腹部だ。何かが体内を侵しているかのように、音をたてて激しく胎動している。肋が浮き出るほど痩せているために、その様はより顕著に現れてしまう。

 

 だがそんな光景から目を背けるどころか、嬉々として見入っている者がいた。――ゴ・ジャラジ・ダだ。

 

「ヒヒヒヒ……。もう、ちょっと………」

 

 あと少し。あと少しで、この男は初めて、リントでありながらグロンギと化した者となる。ゲゲルでは味わえない歪んだ愉悦が己のものとなる――そのはじまりの瞬間が、いよいよ訪れようとしている。

 

 その一方で青年……死柄木弔は、身体だけでなく脳までぐちゃぐちゃにかき乱されていた。まっさらになっていた心の奥底で、徐々にひびが広がっていく。そこが崩壊すればもう無邪気な自分ではいられないと本能的に察知して、弔は必死に抵抗する。涙と鼻水と涎で顔をぐちゃぐちゃにしながら、泣き叫ぶ。

 

(いやだいやだいやだいやだいやだ!!)

 

「たず、けぇ、ッ、たずげでえぇぇぇぇぇッ!!」

「……救けてほしいの?」

 

 必死に首を縦に振る弔。すがりつくように、目の前の少年に手を伸ばす。

 

 その手にす、と長い指を触れさせたジャラジは、

 

 

――思いきり、振り払った。

 

「あ……!?」

「誰も救けないよ、おまえのことなんか」

 

 

「おまえは、見捨てられたんだ」

「――」

 

 ひびが隅々に達し……どす黒いものが、決壊する。

 

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 絶叫とともに、禍々しい閃光が周囲を覆い尽くした――

 

 

 

 

 

 新たなる災厄が人々の与り知らぬところで生まれようとしていたそのとき、"彼女"もまた行動を再開しようとしていた。

 

「………」

 

 カラフルに塗りつぶした指の爪を見つめながら、とあるビルの廊下で何かを待っている。やがて軽快な音とともに目の前の扉が開き、中に詰め込まれた人々が露になる。――エレベーターだ。

 

 するりと入り込んでくる派手な服装の女を、人々はなんの抵抗もなく受け入れた。彼女がいままさしく街を震撼させている未確認生命体第41号――ゴ・ザザル・バであり、自分たちを次なる標的と見定めているなどと、彼らは知るよしもなかったのだ。

 

 

 




キャラクター紹介・アナザーライダー編 グシギ

仮面ライダーG3

身長:192cm
体重:150kg
パンチ力:1t
キック力:3t
ジャンプ力:ひと飛び10m
走力:100mを10秒
※数値は装着者によって変動あり
武装:
GM-01 スコーピオン
GG-02 サラマンダー
GS-03 デストロイヤー
GA-04 アンタレス
能力詳細:
警察の開発したヴィラン鎮圧用パワードスーツ"Gシリーズ"の第三世代型。未確認生命体第4号(クウガ)に瓜二つだったG2と比較して、青と銀のポリスカラーを基調としたより機械的なデザインに生まれ変わっており、警察の戦力として違和感のない姿となったぞ!
G2の弱点だった装着者への過負荷が軽減された代わりに、スペックは大きく低下してしまっている。クウガのグローイングフォーム程度の能力を補うため上述した四種類の武装と、専用マシンであるガードチェイサーが配備されているぞ!一般ヴィラン相手には過剰ともいえる戦力だがそれでもグロンギ相手には心もとなく、単独戦闘は推奨されていない。
物語においては、当初Gシリーズのテスト装着員であった飯田天哉がシミュレーションのため科警研内で装着したのち、公募選考を経て城南大学の学生である心操人使が正規装着員として選ばれた。緑谷出久との個人的な蟠りから第40号との初戦闘は敗退に終わったものの、リベンジ戦においてはスコーピオンによる正確無比な射撃によってクウガとアギトを的確にサポートしたぞ!心操自身の個性も相まって、今後も彼らとの連携による活躍が期待できそうだ!

作者所感:
今となってはアナザーライダー表記がまったく別の物になってしまう……。世に出したのはこっちが先だもんね!
アギトと異なり概ね原作どおりの設定です。実は心操くんのために出した仮面ライダー。最初から出す予定があればアギトより先に出してた……という大人の事情。登場が遅かったこともあるのでG3-Xは出ないと思いますが、武器の追加はあるかもしれません。それでもダグバどころか閣下にも通用しない気がするのはなんなんだろう……。

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