【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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科警研襲撃が納まりきりませんでした……。削れるとこは削ったんですが元々4話だったものを3話にまとめるのは厳しいのだった。


ゲスト怪人は倒すけど本筋自体は途切れなく続くクウガ以外の平成1期方式で次話に持ち込みます。バダー編は元々3話使う予定だったのでまあいいかと。


EPISODE 36. 悪夢 4/4

 科警研でのゴウラム見学を何事もなく終えたジャン・ミッシェル・ソレルと夏目実加は、東京に戻ってとある喫茶店を訪れていた。

 扉を開き、からんころんとドアベルが鳴り響く。朗らかな笑顔を浮かべた中年のマスターが、歓迎してくれる――

 

「オー、ボンジュール!ジョン・ミッチェル・ポルナレフ=サン」

 

 微妙に間違えているマスター……通称おやっさん。それに対しジャンはというと、

 

「違いマスヨ、()()()()

「ム!」

 

 妖しい目つきで睨みあうふたり。呆れ顔のウェイトレスのヒーロー・ウラビティ、戸惑っている実加。一触即発?なのかと思いきや、

 

「でへへへへへ」

「エヘヘヘへへ」

 

 どうやらふたりの定番のやりとりらしかった。

 

「いやぁ待ってたよ~。おっ、その娘がさっき電話で言ってた、かわいいガールフレンド?」

「あっ、夏目実加です。よろしくお願いします!」

 

 やや緊張ぎみながら丁寧に頭を下げる姿が、かえって好感を買ったようだった。

 

「いいねぇ~初々しくて!例えるならそう、デビュー当時の都はるみのような……」

「通じないでしょ若い娘相手に!私もよーわからんし……」定番の懐古ネタを切り捨てつつ、「はじめまして!私、麗日お茶子って言います。本業はプロヒーローで、ウラビティって名前でやっとるんやけど……知ってる?」

「えっ、そうなんですか?……すみません、私、あまりヒーローのこと詳しくないもので……」

「そ、そっかぁ……」

 

 肩を落とすお茶子。しかし実加に罪悪感を与えるのも本意ではなかったため、すぐに笑顔を浮かべた。

 

「まあええよ、知名度不足は実感してるし……。なんにしても、これからよろしくね!」

「はい!……ところで、緑谷さんもこちらで働いてるんですよね?」

「えっ、デクくんと知り合い……ああそっか、研究室出入りしてれば会うこともあるよね」

「え、ええまあ。いらっしゃらないですよね、今日は……」

 

 少し落胆した様子を見せる実加。その様子を目の当たりにして、お茶子の心には言い知れぬ焦燥が芽生えた。

 

「ま、まさかと思うけどっ、あなたもデクくんにぞっこん……!?」

「えっ!?い、いやそんなまさか……」

 

 否定すると、露骨にほっとした様子を見せる。出久とは同年代、つまり自分よりはそれなりに年長であるはずなのだが……なんだかかわいい人だと、実加は思った。

 

「まあ、立ち話もナンだし……とりあえず座りなサイケデリック。あ、テレビでもつける?」

 

 女子中学生相手ということもあってか、気を遣ったおやっさん。その何気ない行動が、この穏やかな時間を粉々に打ち砕いてしまうとも知らずに――

 

 

 画面が色づくと同時に、激しい既視感のある建物を背景に緊迫したアナウンサーの顔が映し出された。

 

『先ほどからお伝えしていますように、現在科学警察研究所は複数の未確認生命体による襲撃を受けています!脱出してきた職員の方によりますと、未確認生命体は――』

「!?」

「え……?」

 

 それはどう見ても、つい数時間前まで自分たちがいた場所だった――

 

 

 

 

 

 普段は静寂に包まれている科警研内部は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 既に防衛のために付近の所轄の警察官およびプロヒーローの大隊が駆けつけ、一般職員らを逃がしてはいる。しかし彼らの力をもってしてもそれが限界だった。侵入者たちの能力もさることながら、彼らが人質をとっているために。

 

「……リントは大変だ、守るものが多い」

 

 人質となった女性を小脇に抱えながら、ニタニタと醜く嘲うヤマアラシに似た怪人――ゴ・ジャラジ・ダ。彼は空いた右手で武器であるダーツを投げつけるという牽制のような役割も果たしている。実質的には、一団のリーダーだった。

 とはいえ、彼は行動をともにするふたりを統率しようなどとは微塵も思っていない。ボクは参謀で、裏方で、露払い。

 

――真に王たるは、後ろから影のようについてくる白の青年。

 

「ダグバ。そろそろ、見せてあげて……」

 

 完全にジャラジを盾にして進んでいた彼は、ややあって小さくうなずいた。

 

 そして、その姿が消えた。

 

「――!」

 

 警戒を強める、迎え撃つ人々。しかしそれも一瞬のこと、

 

 

 気づけば半数近くが、首のない遺体となってその場に倒れ伏していた。

 築かれた屍の山。その中心に立ち尽くす白いシルエット。ただ真っ赤な瞳だけが、その一色の中にあってぎらぎらと輝いている。クウガに……それ以上にアギトに、似通った姿。

 それは死柄木弔が、"個性"をもつ現代人でありながら"ダグバ"と呼ばれるグロンギの力を得たことを体現していた。

 

「う、うわぁああああッ!!?」

「こ、この――ッ!!」

 

 迎え撃つ者たちは二種類に分かたれた。逃げ出す者、とにかく目の前の脅威を取り除こうと立ち向かう者。だがいずれも、死神の魔の手からは逃れられない。恐怖を感じなければならない時間が数秒延びたぶんだけ、前者のほうが哀れといえるかもしれない――

 

「やっぱり、すごい……。どう思う、ゴオマ?」

「………」

 

 相変わらず憎々しげながら、どこか畏怖をこめた目で弔――いや、ダグバを見つめるゴオマ。翼を崩壊させられる惨い仕打ちを受けながらも彼が付き従うことにしたのは、何も強制だけではない。

 

 この襲撃自体、戦力として大きく劣る彼にさらなる力を与えるためのものだからだ。

 

 

 進撃を続ける三体のグロンギ。――彼らを止められるだけの力をもつ者が、百にも及ぶ犠牲の果てにようやく現れた。

 

「――待て!!」

 

 臆することなく迫る影。鎧をまとうその姿は、ジャラジにはよく知るところだった。

 

「ほら……来た」

 

 

「未確認生命体ッ!!貴様ら何を企んでいる!?」駆けつけたヒーロー、インゲニウムこと飯田天哉が吠える。「ヴィランを拉致したと思えば、今度は科警研を襲撃するなど……!」

 

 まったく意図が読めず、不気味――それは当然感じているところだったが、ひたすら正義感の強い飯田はそれ以上に義憤を露にしていた。追いつくまでに多くの死体を見てきている、そのたびに降り積もる悔恨はもはや臨界点に達している。

 

「貴様らはッ、俺たちが止める!!」

「ふーん……」

 

 興味なさそうに鼻を鳴らすジャラジ。ただ彼は、このインゲニウムがクウガたちと肩を並べ、ゴの面々にも真っ向から立ち向かってきたヒーローであるという事実とともに、雄英高校のOBであることも知っていた。

 

「じゃあ……こいつから、殺す?」

「!」

 

 人質として確保した女の姿を見せつける。「貴様……!」と、さらに激怒する飯田だったが……女性のディテールを確認した途端、その顔から血の気が引いた。

 

「なッ……」

 

「八百万、くん……!?」

 

 気を失ったままの八百万。親しい友人のそんな姿を見せられて、飯田は一瞬、目に見えて動揺してしまった。既に常世へ追いやられた者たちと、同じように。

 

 はっと我に返ったときには、やはり白の死に神が目の前に迫っているのだ。そして彼もなすすべなく、その命を"崩壊"させられてしまう――

 

 

 唯一彼が他の死者たちと異なったのは、実力もさることながら……数知れぬピンチを間一髪の救援で脱してきた、その強運か。

 

「飯田ぁッ!!」

 

 友を想う叫びとともに、高速で飛翔する異形の影。それは間一髪でダグバの顔面を殴り飛ばした。

 

「ッ!」

 

 オールマイト並みのパワーによる衝撃を受け、たまらず後退するダグバ。その頬からは、だらだらと真っ赤な血が流れていた。

 

「飯田ッ、無事か!?」

「轟くん……ああ、俺は……だが……!」

 

 飯田の視線をたどって、初めてその態度の意味がわかった。

 

「なっ……八百万……!?」

 

 気を失ったままの彼女は、力なくジャラジに抱えられている。――人質。いままでのグロンギにはおよそありえなかった戦法の被害者が、よりにもよって自分たちの友人とは。

 

「この人、"タイセツ"でしょ?……だったら、このまま行かせて」

 

 "タイセツ"の部分を蛇が這うようにねっとりと強調するジャラジ。こいつは、他のグロンギ――これまでのゲゲルのプレイヤーたちとは根本的に異なる思想をもっている。けれどもその腐敗具合は、彼ら以上のようだった。

 

「くそっ、八百万くんを救けなければ……!」

「……ああ」

 

 それはまったく同意見だ、渋る要素など微塵もない。焦凍の心とて、父のヘルフレイムよろしく燃え滾っている。

 

 だが同時に、言い知れぬ違和感があったのだ。この純白のグロンギの、どこかアギトに似た姿。それ以上に、殴ったときの感触――

 

(こいつは、一体……)

 

 科警研襲撃の報を聞いた際に感じた嫌な予感が、現実のものになろうとしている……否、既になってしまった。そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 ゴ・ザザル・バの苛立ちは頂点に達していた。目の前には微塵も原型をとどめぬ、液状化して白煙をあげる人間"だった"ものたち。つい数分前まで、自分を取り囲もうなどと馬鹿なことをやってくれた。その報いは十二分に受けさせたが。

 

 もっともそれらの事態は火に油を注いだというだけで、彼女の憤懣の主原因はそれではなかった。

 

「――定めの色の箱が、見つからないな……」

 

 ドルドのことばがすべてだった。傍らを走る線路に、彼女が標的としていた列車は一本も走っていない。鈍色の曇天と相まって、まるで廃墟のような有り様だ。

 

「ッ、オレンジの箱ならまだあんだよ!黙って見てろ!!」

 

 啖呵を切ってずかずかと歩きだすザザル。なるほどオレンジ色をした動く箱など探せばいくらでもあるだろう、まだ"詰み"というには早い。

 

 問題は、リントたちが探す猶予を与えはしないことだ。

 

 

 苛立ちながら歩き続けるザザル。そんな折、彼女はふと歩みを止めた。遥か彼方に、小さな点のようなものが浮かんでいる。それが徐々に大きく……いや、接近してくる。目をこらしてディテールを観察してみれば、それは甲虫のようだった。

 

 まっすぐに迫る、甲虫――それが人間より巨大なものであることがほどなくわかり、ザザルは目を剥いた。

 

「ううおぉぉッ!!?」

 

 野太い悲鳴をあげてその場を転がるザザル。巨大甲虫は彼女の頭上すれすれを通りすぎていった。

 

「な、なんだってんだよ……!?」

「――見つけたッ、41号……!」

「!」

 

 勇ましい声と、エンジン音が唸る。それはひとつではなく。

 

 現れたのはトライチェイサーを駆るクウガ、そしてガードチェイサーを乗りこなすG3だった。

 

「テメェら……!」

「もう逃げられないぞ!」

「観念するんだな」

 

 銃を向けられ、拳を向けられ……ザザルの中で、何かがブチリと切れた。

 

「ア゛ァァァァウゼェェェェェッ!!クソ童貞どもが、アタシを舐めんじゃねえよ!!」

 

 癇癪を落とし、右耳からブチリとイヤリングを引きちぎる。乱暴ながら的確な罵詈雑言は男ふたりの精神にクリティカルヒットしたが、それどころではなかった。

 

 ザザルがいよいよ、怪人体へと姿を変えたのだ。人間体の上着と同じ赤紫色のボディに、サソリの尻尾のような形をした弁髪。瞳のなくなった白目は、その激しい本性を体現するかのごとく鋭くつり上がっていた。

 

「ガダギバッ、ゴ・ザザル・バ!バレスドドバググッ!!」

 

 グロンギ語で啖呵を切りつつ、イヤリングを握りこむ。途端にそれは巨大化し……三本の鋭い突起が飛び出してきた。

 右手に装着する。皮膚の下の血管と接続されたそれは、突起――爪を介して、彼女の体液を滴らせるのだ。

 

 地面にこぼれた毒々しい赤い液体が、コンクリートをどろどろに溶かしていく。

 

「あれで被害者の身体も……!」

「心操くんは遠距離でサポートして、僕が引きつける!」

「ッ、無理はするなよ!」

 

 「わかってる!」と返しつつ、それでも突進していくクウガ。ザザルは早速爪を振り上げ、毒液を撒き散らそうとしている。がら空きになった胴体にG3はすかさずスコーピオンの弾丸を撃ち込むが、わずかに態勢を崩すだけに終わった。

 

(チッ、これでも威力不足ってのかよ……!)

 

 常人だったら一瞬で粉砕できるだけの威力はあるのだが。

 ともあれ、援護の目的は果たせた。毒液はあらぬ方向へ飛んでいき、付近の標識にかかった。やはり、どろどろに溶けていく。

 

 とにかく、わずかな飛沫も浴びるわけにはいかない――クウガは跳躍しながらドラゴンフォームに"超変身"した。ザザルと距離をとりつつ、武器にできそうなオブジェクトを物色する。ポールなどはいくらでもあったのだが、近づこうとすると、

 

「ギベェェッ!!」

 

 ザザルの毒液が飛んでくる。慌ててかわす。毒液がポールにかかり、溶かしていく――

 

(ッ、やっぱり、牽制だけじゃ駄目か……!)

 

 一計を案じたクウガは、G3に対して目配せをした。うなずきが返ってくる。

 彼は最初の銃撃以外ただ戦闘を見守っているだけだったが、効かなかったから拗ねて職務放棄をしていたわけでないことは……言うまでもあるまい。

 グロンギたちにとって、やはり最大の敵はクウガだ。攻撃もしてこないとなれば、G3のことは容易く意識から外れる。そこに、チャンスが生まれる。

 

 心操はガードチェイサーのウェポンタンクを開き、スコーピオンに代わる新たな装備を取り出した。"GA-04 アンタレス"――アンカーと硬質のワイヤーで製された非破壊武装である。

 

 破壊力はないが、敵を拘束することはできる。あの溶解液を繰り出す爪を、振り回せないようにすればいいのだ。

 

(任せろ緑谷、確実に……成功させるっ!!)

 

 そのために。G3は走りだし、無謀にもザザルとの距離を詰める。ぎょっとするクウガ。ザザルもこちらを振り向く。大丈夫、爪は使わせない――

 

「ふ――ッ!」

 

 すかさずワイヤーを繰り出す。ザザルの身体に鋼鉄の糸がぐるぐると巻き付いていく。当然、腕もろとも。

 

「グゥッ……て、テメェ……!」

「……悪かったな、童貞で」

 

 ぼそりとつぶやく心操。地味に根にもっているらしい。それはともかくとして、

 

「けど……多分そう長くはもたないぞ、緑谷……!」

 

 ゴのグロンギたちのパワーには、ワイヤーもいずれ競り負ける。だからそれまでに、決着をつけなければ。

 

「大丈夫だよ」

 

 クウガは確信をもって断言した。

 

「だって、みんなが来た!」

 

 

 刹那、ザザルの全身で何かが爆ぜた。

 

 振り向くクウガとG3。そこには大型ライフルを構えた黒づくめの男たちと、彼らを率いるスーツ姿の女性の姿があった。――鷹野警部補が指揮する、狙撃部隊だ。

 

 撃ち込んだのはただの弾丸ではない。強アルカリ性の薬品から精製した、中和弾だ。

 成分がザザルの体内に浸透し、その体液を中和していく。化学反応によって身体中から白煙があがり、彼女はひたすらにもがき苦しむ。が、

 

「グゥ、ア゛、ア゛ァ……ッ!ボン、バ、ロボォ――ッ!!」

 

 細身に見合わぬパワーで、ザザルはついにアンタレスのワイヤーを引き裂いた。

 

「もう、遅いんだよ!!」

 

 それを予期していたG3が、すかさずサラマンダーを構えていて。

 

 次の瞬間には特大のグレネードが、ザザルの体表を灼いていた。

 

「ギャアァッ!?」

 

 悲鳴をあげるザザル。しかしまだ終わらない。間髪入れず、クウガが跳躍する。空中で青から赤に戻り、エネルギーを込めたキックを……ぶつける!

 

 ついに耐えきれなくなったザザルは、その場を転がった。それでも起き上がろうとする彼女の胸部には、焼け痕のうえから封印の紋が浮かび上がっている。並みのグロンギ相手なら、もはやオーバーキルというべきダメージだろう。

 

 だがザザルは、女だてらにゴの一員だった。野太いうめき声とともに全身に力を込めれば、瞬く間に紋が消えうせていく。

 

「ッ、やっぱりか……!」

 

 ここで倒してしまえば、溶解液が飛散して大変なことになる。だからこれでよかったのだけれど、その頑丈さには唸らざるをえない。その罵倒や体液を武器とする共通点も併せて、彼の脳裏には某幼なじみの顔が浮かんだ。奇しくも対峙はなかったが。

 とはいえ、かなり弱らせたのは事実。あとは回復されないうちに、終わらせる――

 

 すかさずトライチェイサーに跨がるクウガ。同時にゴウラムが戻ってきて、その車体を変形させながら融合を遂げた。カウルに堂々たる戦士の紋が刻まれた、トライゴウラムが発進する。ザザルに対して突撃し――その牙で挟み込む。

 

「ガッ!?」

 

 ワイヤーの次は牙で拘束され、今度こそザザルは振りほどくこともできない。カウルに彼女を押しつけたまま、クウガは追い込みポイントへの移動を開始する――その際に鷹野から投げ渡された拳銃を手に。

 

 それを見送ったところで、G3が彼女のもとへ駆け寄っていった。

 

「警部補、自分はGトレーラーにいったん戻ったあと、科警研に向かいます」

「そうね……。私は41号のほうを見届けなければならないから遅くなるけど、必ず行くわ」

「わかりました」

 

 「気をつけて」――互いを気遣うことばをかけあうと、彼らもまた次の戦場を目指して動き出した。

 

 

 

 

 

 同時刻。爆豪勝己は科警研付近へたどり着いていた。

 

(チッ、野次馬どもがクソほどいやがる……)

 

 ヴィランの出没時もそうだが、こいつらは身の危険というものを感じないのかと常々思う。いくらハザードエリアには規制線が張り巡らされ警察官が警備しているといえども、もしヴィランや未確認生命体に襲われればひとたまりもないのに。

 

 まあいい、とにかく自分も突入して――そう考えて実行に移そうとしていると、「爆心地!」と呼び掛ける者があった。野次馬たちのような、上ずったミーハーな者ではない。

 案の定、それは見知った白衣の男性だった。発目とともに、G-PROJECTを担当していた研究員だ。

 

「きみも来てくれたのか!む、怪我をしているようだが……」

「大したことねぇわこんなモン。それより、状況は?」

「ショートとインゲニウムが残って未確認生命体と対峙してくれてはいる……が、クリエティを人質にとられているせいで膠着しているようだ」

「八百万……チィッ」

 

 勝己は渋い表情を浮かべた。もとはと言えば彼女は、自分が呼んだからここに来たのだ。そして、巻き込まれてしまった……。

 

「それと、なんとか研究データを持ち出したんだが……G2のガワそのものは、倉庫にしまってあったから置いていくしかなかった」

「……わーりました、取ってきます」

 

 嫌な予感がした。いまの奴らが、ただ殺人の快楽のために科警研を襲撃するとは思えない。焦凍のように超能力があるわけでないから、そうした根拠に裏打ちされた、純然たる勝己の勘だ。

 

(クソがっ)

 

 軋む身体を叱咤して、勝己は走り出した。野次馬たちが爆心地を呼ぶ声など、爆速ターボの爆炎によってかき消して。

 

 

 

 

 

『塚内さん!』

 

 追い込みポイントの準備を万端整え終わった塚内直正の耳に、無線越しでの呼び声が飛び込んできた。

 

「緑谷くんか?」

『はい、もう着きます!』

「了解、いつでもオーライだ!」

 

 久しぶりに気持ちが滾る。管理官の仕事も誇りに思ってはいるが、やはりこうして、英雄たちと肩を並べて活躍できるのはうれしい。かつてオールマイトと……友人とともに駆け抜けた日々を思い出す。

 

 ほどなくして、バイクのエンジン音が迫ってくる。かと思えば、推定時速400キロにも及ぶスピードで疾風が駆け抜けていく。わずかに視認できた車体には、牙にがっちりと拘束されたグロンギの姿があった。

 

(見てるか、俊典)

 

 ふと、そんなことばが心中でつぶやかれた。焦凍ならともかく、出久とオールマイトはほとんどなんの関係もない――ただ出久が、彼の熱狂的なファンであったというだけなのに。

 

 

 と、また「塚内さん!」と呼び声が飛び込んできて、彼は我に返った。

 

『最深部に着きました!シャッターを一枚目から閉めてください』

「いや、だが……大丈夫か?」

 

 万一脱出が遅れようものなら、彼は爆炎の熱によって気化した溶解液にその身を晒すことになる。中和弾の効果もそろそろ弱まりつつある頃なのだ。

 

『大丈夫です!』

 

 それを理解しつつ、それでもクウガはそう断言した。退避することなくぎりぎりのところで待機してくれている塚内たちに害が及ぶことなどあってはならないし、自分の命を軽んじるつもりもない。――やれる。そう確信していた。

 

「――超変身!」

 

 マイティフォームの赤い鎧が、ペガサスフォームの緑へと変わる。同時に、鷹野から預かった拳銃もまた、専用武器であるペガサスボウガンへと変化を遂げた。

 すぐ背後にあるシャッターが動きだす。と同時に、再びトライゴウラムも走り出した。目の前には先ほど停車とともに吹っ飛ばした、ゴ・ザザル・バの姿がある。

 

「……ッ、」

 

 早くも回復の途上にあるとはいえ、ザザルは未だ迎撃ができる状態ではなかった。幸いだ、まっすぐ突撃している状態で酸を飛ばされたらひとたまりもない。

 

(――決める!!)

 

 クウガの全身が電撃を帯びる。緑一色だった鎧の端々に、黄金の彩りが施されていく。――ライジングペガサス。ボウガンもまた、黄金のブレードを装着して大幅に強化された。

 

 その銃口をザザルへ向け――容赦なく、トリガーを引く!

 

 

 放たれた複数の空気弾は、一発も外すことなくザザルのボディを貫いた。うめき声とともに、その身が後退する。

 それを見届けるや否や、クウガはマイティフォームに戻ったうえで車体を反転させた。半ば閉じたシャッターの下を駆け抜け、走り去っていく。

 

「バレンジャ、ベゲ……!」

 

 身体に亀裂が走っていく苦痛にまみれながらも、唸るように啖呵を切るザザル。しかし封印のエネルギーは、着実に彼女を蝕んでいく。

 

「ドバ、ドバギデ、ジャス……!」

 

 彼女がもう視界から消えた敵を罵っている間に、一枚目のシャッターは完全に降りてしまった。クウガとトライゴウラムは、既に二枚目のシャッターを超えるところにまで到達している。

 

「バレ……ドバギ……――ギブ、ロンバァッ!!グァアアアアアッ!!」

 

 ついにエネルギーが、バックルへと到達した。もがき苦しみながら、ザザルはついに死を迎える。――爆発。

 彼女の全身の体液は、出久たちの予想どおり気化し、まずは周辺のオブジェクトすべてに襲いかかった。資材基地であるから、置き去りにされたままのものが大量にある。それらがことごとく跡形もなく溶かされていく。

 そして、シャッター。これもまた爆炎や溶解液を完全に防ぐには無力だった。あっさり溶かされ、侵食を許す。無論一枚目がそうなるのは想定の範囲内である。シャッターは三枚あるのだから。

 

 爆発を距離にして十数メートルの背後に感じながら、クウガはひた走る。ついに最後のシャッター、ここを超えれば――

 

(ッ、間に合わない……!)

 

 シャッターの閉まる速度が想定よりわずかに速い。いや、自分たちのスピードがわずかに足りなかったというべきか。だが、シャッターを停めてもらうわけにはいかない。

 

「だったら……!――頼むよトライゴウラムッ!」

 

 ふつうに走っていたら頭が突っかかる程度、これならいけると判断して――クウガは、車体を斜めに傾けた。

 マシンのボディが火花をたてながら滑る。しかしそのおかげで、クウガは首なしライダーとなることなくシャッターを突破することができたのだった。

 

「緑谷く――」

 

 塚内があからさまにほっとしたような表情を浮かべて迫ってきたとき、不意に揺れが襲ってきた。咄嗟に彼を車体の陰に退避させる。

 と、轟音とともに……シャッターが思いきりゆがんだ。目の前の、つまり三枚目のシャッターが、である。

 

「マジか……」

 

 唖然としている管理官殿は、ぽかんと口を半開きにしているとなお若く……というか、幼く見えた。ふた回り近く年下で常々童顔と言われる出久にだけは言われたくないだろうが。

 

「まったく、ヒヤヒヤしたぞ……」

「ハハ……すみません。――あ、そうだこれ」

 

 鷹野から借りた拳銃を差し出す。本来なら直接本人に渡すべきだろうが、いまは時間がない。

 

「――ゴウラム」マシンに合体している相棒に声をかける。「おまえの家がグロンギに襲われてるんだ。先に行って、轟くんたちを助けてあげて」

 

 ややあって、

 

『ソーサディー・ター』

 

 主のことばを聞き届けて、ゴウラムはトライチェイサーから分離。先んじて飛翔していった。必殺技さえ使わなければ、破片に戻ってしまうこともないらしい。

 

「よし……。じゃあ僕も、いってきます!」

「ああ、頼む。……くれぐれも、無理はしないようにな」

 

 気遣わしげな塚内にサムズアップを返すと、クウガはトライチェイサーを駆った。

 

(みんな……かっちゃん……!)

 

 未だ膠着状態の続く科警研。その真っ只中に飛び込もうとしている勝己。クウガは……出久は、果たしてこの戦いに間に合うのだろうか。

 

 この異形の姿ではかかないはずの汗が、じわりとてのひらに滲んだような気がした。

 

 

つづく

 

 





荼毘「次回予告?なんで俺らが……」
トガ「いいじゃないですかぁ、弔くん大活躍ですよ」
荼毘「科警研襲撃……周りの奴らがグロンギに変わっただけでやることは変わんねえな」
トガ「バケモノになっちゃった弔くん、カッコいいねぇ♪出久くんはやっぱりかぁいいけど!」
荼毘「(かわいいか……?)……八百万百を人質にした敵ならぬグロンギ連合、焦凍やヒーローどもの邪魔をかいくぐって目的を果たすことができるのか、楽しみだな」
トガ「目的ってなんなんでしょうね?」
荼毘「さぁな、目当てのモンでもあるんだろ。……一方で、早くも次のプレイヤーが動きだす。脅威のライダーを、ヒーローどもは止めることができるかな?」

EPISODE 37. 終わりのはじまり、そして

荼毘「死柄木とヤマアラシ・コウモリが仲良く旅に出る」
トガ「それを追いかけてなんと"あのふたり"も!?」

荼毘「サラニムコウヘ~(棒読み)」
トガ「プルスウルトラ~!!」
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